目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第64話 急に訪れるピンチ

〇東光高等学校 郊外施設 秘境 管理ランク[D]秘境最深部 祭壇横 転移宝珠





転移宝珠へ入る順番で意見が分かれ、揉めていた藤堂君と天音さんの間に入り何とか折衷案を提示して折り合いを付けた...


ここら辺は前世で開発チームのリーダーを任された経験が生きた


俺の提案した順番に従い負傷した葛西君に肩を貸しながら俺の方を睨む藤堂君


「北野ぉぉ、てめぇ判ってるだろうが天音に手を...」


藤堂くんは俺に向かって何かを言いかけたが、最後まで言う事無く転移の魔法陣の光に呑まて行った


「さぁ次は天音さんと真白の番だ...」


真白にクリアの証である水晶を預け、天音さんと一緒に宝珠の近くに集まってもらう


俺はぐったりと気を失っている青木さんを背負い二人が魔法陣で転移するのを待つ


「城二、転移宝珠の使い方」


「ああ、ちゃんと見て覚えるよ」


「城二っち、本当に平気?」


俺の方を不安そうに見つめる二人にニコリと微笑んで見せる


「まぁ何とかなるさ、いざとなれば...(トラにお出まし願おう)」


『(やれやれ...先ほど褒めてやったのにもう儂頼みとは...)』


足元の影から俺に向かって悪態をつくトラを無視して二人を送り出す...


「それじゃ先にいくね」


「城二、転移宝珠は2分後に使える慌てるな」


「ああ、わーったて」


二人の足元に魔法陣が生成され光が包んで行く...





その時





「危ない!!」


!?



青木さんを背負った状態の俺は後ろに思いっきり突き飛ばされた、背中の青木さんを下敷きには出来ないと空中で無理に体を捻り顔面から前のめりに地面へと滑る様に倒れ込んだ...


「イテテ...なんだ...!?」


右の頬を擦りむいてヒリヒリするので手で抑えながら、青木さんが倒れない様に体制を入れ替え振り返る様に起き上がると...


「あ、天音さん!?」


俺の目の前には天音さんの長い金髪とピンクのメッシュが入った髪の毛が靡いている後ろ姿が見えた...


「あ、城二っち!早くここから逃げなきゃ!!」


起き上がろうとした俺の方へ駆け寄りながら腕を取り無理に立たせようとしている天音さん...状況が理解出来ないでいると..天音さん居た方角に巨大な影がゆっくりと起き上がるのが見えた


「は、はぁぁ?あ、あれ...」


「偽神が急に動き出したの!!早くいんちょーを背負ってぇぇここから逃げてぇ」


頭の中がパニックだ見た事無い必死な天音さんの鬼気迫る迫力に圧され言われるがまま青木さんを背負い一路逆走しボス部屋だったドーム状の部屋に向かって逃げる...


天音さんは!?


背後を振り返ると、4本腕から繰り出される打撃をヒラヒラと風に揺れる花弁の様に華麗に躱す天音さん...



しかし今は見惚れてる場合では無い!青木さんは軽いとは言え人一人を背負ったままで上手く走れない...途中で何度も足がもつれながらも何とか先ほどの闘技場のドームへと到着する


中に入り暫くすると狭くなった入口付近で天音さんの掛け声と偽神が通路の壁や床を叩く音が近づいて来て


「城二っち!!入口のドアを閉めてぇぇ!!」


入口付近で此方に近づきながらも偽神の攻撃を凌いでいる天音さんが必死に叫んだ


俺は青木さんをその場にそっと降ろすと、ダッシュで入口のドアの横に行き


「今!!」


天音さんがドアから飛び込んで来た所で一気にドアを押し込む


ガシッ!!


しかしドアは全く閉まった感触が無く、なんなら物凄い力で押し返されそうになっている...


「こんのぉぉぉ!!」


天音さんがドアの間に差し込まれた偽神の太腕をパンチやキックの連撃でダメージを与え、偽神が怯んで腕の力を抜いた隙に腕を押し出し力いっぱい二人掛でドアを閉める...


ガゴッと鍵がロックされる音が響き天音さんと俺はドアを背にして地べたにへたり込む...



「ヤバいってぇ~マジ死にそう」


「ハァハァハァ...何で急に...偽神が...ハァハァハァ...現れたん...だ...ハァハァハァ」


二人とも疲れ果て思考が回らない...しかし背中越しに扉を叩き壊そうとする偽神の存在が徐々に頭の中をクリアにしていく...


確かにチュートリアルで偽神の石像が追いかけて来て秘境を逆走して脱出するミニゲームが有ったが...あれはどう見ても本物の偽神だ、いやそもそもだが葛西君が不正をしたなんて話、俺は知らない...現に葛西君と青木さんは後半の文化祭イベントでも仲良くダンスを踊るインテリカップルの描写が有った...ゲームの進行とズレて来てる‥‥【メメント・モリ】!?


いや、今は此処を脱出する事を優先に考えよう!


「皆川先生—————聞こえてますか!!緊急事態です今すぐ俺達を帰還させて下さい―――!」


闘技場全体に俺の声が木霊する...


「綾瀬っちぃ―――――マジヤバいってぇ――――Help me―――!!」


綾瀬さんも負け時と叫ぶ...


「「・・・・・・・・・」」


「ちょっ!何かあったら直ぐに帰還させるって言ってたじゃんね――――」


「もしかしたら、祭壇の横の転移宝珠に何かトラブルが有ったのかも......」


俺の言葉に絶望の表情を見せる天音さん...


「え?何?もしかしてあの偽神のお馬鹿さんが宝珠を壊しちゃったとか?」


「・・・・・・・・・」


俺が何も言わずに黙っていると天音さんは無言で俯き...


「城二っち...いんちょーを任せて良い?悪いけどいんちょー連れて来た道戻って出口目指して」


「はぁ?天音さんはどうするんだ?」


俺の問いかけに力なく笑顔を見せると...


「いやぁ――――まぁ出来る事は全力でやり切って見せるよ!」


そうサムズアップして見せる...


俺は目の前で気を失って倒れてる青木さんに目を向けると静かに立ち上がり...青木さんを抱きかかえ


4階層への入り口へと歩きだした...


「城二っち...頼んだね...」


石扉を背に座っていた天音さんもゆっくりと起き上がると扉から少し距離をおいて丁度闘技場の中央で身構える



「んもう!折角、昨日ネイルしてきたのにボロボロじゃん!気に入ってたのにぃぃ!!」


天音の目の前で先ほど背にしていた扉が真ん中から裂ける様に砕け




4本腕、4本脚、そして鳥の様な頭を持つ異形の化け物...偽神がゆっくりと狭いドアの隙間からその大きな巨体を引きずり出し闘技場へと姿を現した...

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?