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第5話 怖いと言う感覚



昨日、魔刑部への勧誘を受け断った事が誰からともなく学校中に噂として広まり俺は登校と同時に皆から疑惑の籠った目を向けられる...そして


〇—————————————————2年1組教室


「なぁ城二、あの噂だけど本当か?」


席に着くなり、藤堂と葛西の坊主2人が俺の席へとやって来て噂の真相について確認して来た


「噂って俺が魔刑部に勧誘されて断ったって言うやつか?」


「そう、本当なのかい?北野君」


「そうだな、概ね事実だ」


「はぁ~なんでだぁ!?東光高校の魔刑部と言えば花形じゃないか!中々男子生徒が入れない部活で結構競争率高いって聞くぞ?」


「俺向きじゃ無いよ、誰かと競うとか自分のペースで努力するのが俺には向いてるんだ(それに、誰かの下でこき使われるのはもう懲り懲りだしな・・・・)」


「だけどよぉ...」




本来であれば、秘境テスト後に勧誘を受けるのは主人公である北野 尊である


一緒に加入する事になる藍瑠と共に、部活動を通じ課外活動で各地の秘境を巡り神域を次々と制覇して回る事で尊の特別な力...この世界で唯一の能力『複数の神と同時に契約する力』に目覚めその力を次々と取り込んで行く


そして終盤には須佐之男命を始め、3柱の神をもその身に宿しラスボスである異界神コス=タータルトを倒し、この世界の神と人類を救済するのだ


それに夏の大会ではもう一人の仲間も加入し、終盤には半神半人の隠しキャラも加入する


そのルートへと至る為に何が何でも尊には藍瑠と共に魔刑部へと入部してもらわねばならない



「なんにせよ、秘境テストの結果を見ての勧誘って事なら真白は置いておいても秘境テストの1位と2位を無視して4位の俺を勧誘するのはどう考えてもフェアじゃないよ」


俺がそう正論を言うと、流石に口ごもる藤堂と葛西


「いや、普通に尊のが相応しいだろ?アハハハ、そんな苦虫噛み潰した様な顔するなよ―――アハハハ」


周囲の噂に俺が当たり障りの無い対応をしてる頃




〇—————————————————2年3組教室


「なぁ尊、お前のクズ兄貴の噂聞いたかよ」


当然ながら尊と藍瑠のクラスでも俺が魔刑部へ勧誘され断った噂は広まっており、今も尊の周りにクラスメートが集まり質問責めにしていた


「一応、その噂は僕も耳にも入って来たよ」


机の上に鞄をおいてチャックを開けて中の教科書やノートを取り出しながらも答える


「でもムカつくじゃねーか!何で秘境テスト1位の尊じゃなくて、まぐれ4位の北のクズからが誘われるとか...」


確かに魔刑部といえば部活動における花形であり、知名度を上げる一番の近道かもしれない


しかし今の尊は順風満帆である、嫡男の不手際で破談になった宮下家の娘を尻ぬぐいする形とは言え婚約者として迎える事になった、これは尊にとっては北野家に大きな恩を売った事になりその存在価値を大きく高めた事になった


魔刑部で活躍し、それこそ最上位のAランクまで上り詰めれば尊の存在価値は愚兄など比較にすらならなくなり、何れが北野家の跡継ぎに相応しいか明白になるはず


(Aランカー北野 尊か・・・悪くない響きだ・・・)


「更にムカつくのは、北のクズからの奴が自分より弟の尊の方が相応しいからって辞退したって話だ!!」


「!?」


「何様だって話だ、そう思わね――か!!だいたいよ、部長の九鬼...」


クラスメートは自分の事の様に怒りながら熱弁を叫んでいるが尊の耳には入って来なかった...


(はぁ?義兄に譲られた?この僕が?...フフフ、あり得ないんだけど...あんなドクズの雑魚が自分より弟の方が相応しいから弟を勧誘してくれって?馬鹿にしてんの?)


ギリギリギリ...


尊は気付けば鞄の取っ手を強く握りすぎて握りの皮の部分が嫌な音を上げ握った形に変形している...


「なぁもしマジで魔刑部がお前を勧誘しに来たらさ...って、藍瑠ちゃん――――ちょっと聞いてよぉ―――」


お喋りなクラスメートは登校してきた藍瑠を見つけると 嬉しそうに先ほど迄尊にしていた噂話を藍瑠にも話し出した...藍瑠は話を愛想笑いで聞きながらも時折尊の方へと視線を向けて来たが尊は黙って首を振り無言の返事をしておいた...


そして昼休み...


「お~い尊、先輩がお前に話が有るってよ~」


藍瑠と一緒の食事中に呼ばれ、視線だけ向けると教室のドアの前には魔刑部のエースで部長の九鬼先輩が立っていた...


尊は藍瑠に少し席を外すと伝えると、藍瑠は自分も一緒に行くと言い食べかけの弁当の蓋を閉じると尊の後について行く


九鬼先輩からの話の内容は、朝にお節介なクラスメートから聞いた噂からだいたい想像はしている...その回答も


「悪いな北野、昼休み中に手間は取らせない...単刀直入に言う我が校の魔刑部に君を勧誘したい」


やはり尊の想像通りの話であった...藍瑠は何を考えているのか分からないが尊の回答を待っている様だ


「先輩一つだけ聞いて良いですか?」


九鬼先輩の表情は一切変わらない...熱意どころか冷めた様な目をしており尊の事を見てはいるがその瞳には別の誰かが映ってる様にも見えた


「何だ?答えれる範囲で答えよう」


「僕を魔刑部へ勧誘したのは、兄である北野 城二に勧誘を断られたからですか?」


尊の歯に衣着せぬ直球の質問に藍瑠も含め周囲のクラスメートも固唾を飲んで聞き耳を立てる


「その通りだ」


淡々と答える九鬼先輩からは、動揺も躊躇いもない...本当に尊を勧誘する気があるのかすら怪しい程に...


「申し訳御座いませんが、お断りします」


尊も感情を押し殺し九鬼先輩を見据えてそう答える


「そうか、解った貴重な昼休みに邪魔をして悪かったな」


それだけ言うと直ぐに振り返り2年3組の教室を後にし3階への階段の方へと向かった...


「尊君...」


藍瑠が声を掛けようと手を伸ばした先...尊の両拳が固く握られ小刻みに震えているのが見えた...





怖い...





宮下 藍瑠はこの時はっきりと北野 尊に対し怖いという感覚を認識した...































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