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第10話 勝利の価値は?



〇———————————東光高校 修練場



真白は、そのまま下校してしまった様だ心配になりメッセージを送ると


『心配ない、少し過信していた自分に腹が立っただけ』


お笑い好きのアニメ好きである真白は、意外と頑固で負けず嫌いでもある


ただ人と比べての勝ち負けでは無く、自らの理想の姿に対してのギャップに執着しているのだ


ストイックと言ってしまうとそうなのかもしれないが、其れだけでは片づけられない彼女の強さの根幹がそこにある


「すまない、取り乱したな教師として顧問として恥ずべき所だ」


皆川先生は少しだけ悔しそうに俯いてそう語る


「でもトラ、真白を応援していた俺が言うのもオカシイが傍からみてると九鬼先輩の方が優勢に思えたがな」


俺の言葉に横に控えている天音さんもコクコクと頷いている


『成程な...』


「フフフ、城二それは私が説明しよう」


そう言いながら子猫となったトラを抱きかかえたのは、武道着から制服へと着替えを済まして戻って来た九鬼先輩だ...その後ろには天草先輩も控えている


「先輩...お疲れ様です」


「うむ、城二お前は相克と言うのを聞いた事あるか?」


「相克...属性による有利不利ですねよ」


「その通りだ、相克とは風→水→火→木→風の順に強弱が定まっている森羅万象の理の様な物だ、まぁ中には光=闇の様にお互い同士で相克している属性も有るが今は置いておこう」


「つまり、火属性の九鬼先輩は水属性の真白に対し不利であったという訳ですね」


「その通りだ、相克の不利を覆し拮抗するには相手との力の差を1.2倍にする必要がある」


つまり、先の試合で実力が拮抗している様に見えた九鬼先輩は今の真白より約2割増しで強いという事か...


「では猶更、九鬼先輩の方が有利に思えるのですが...」


「ふむ...私と雨宮の実力差は確かに1.2倍以上の差が有ったかもしれない、だがヒノカグツチとワダツミに至ってはその神格に差など存在しないつまり、ワダツミの方が有利である事になる」


「し、しかし...試合終了間際まで明らかに九鬼先輩が真白を押し込んでましたよね?時間経過と共に九鬼先輩が不利になったとしてもあの段階では...」


俺の言葉に軽く微笑んだ九鬼先輩は隣で話を聞いていた天草先輩の手からお茶のペットボトルを奪うと


「あっちょっ可憐!それ、ボクがまだ飲みかけ...」


九鬼先輩は右手の人差し指を立ててその指先に真っ赤な炎を灯す...周囲に若干の熱を感じさせる燃え盛る指先に天草先輩から奪ったお茶をかける...


ジュ――――


九鬼先輩の指先の炎は消え水蒸気が立ち上る...


「なぁ城二この水蒸気の元素は何だ?」


九鬼先輩から急に理系の質問が来て驚くが...


「いや、そんなの中学生でも知ってます水蒸気とは言え水は水、だからH2Оでしょ?」


「そうだなつまり水だ...あの時 私と雨宮の周りにはこれ以上の水蒸気が充満していたな」


「!?つ、つまり真白がその気だったら水蒸気を使って九鬼先輩に攻撃出来ていたと?!」


九鬼先輩は目を閉じて軽く首を振る


「水蒸気を使った水の技は非常に危険だ、水蒸気を酸にして相手の身体を薬品火傷させたり毒素を纏った霧にしたり...つまり相手に致命傷を与えか兼ねない技だと聞く」


「真白が手加減したと...そう言う事ですか?」


「手加減されたとは思いたくない、実際に大会などの正式試合で有れば水蒸気を使った技は禁止技の中に含まれている...だが雨宮は競技者でも無ければランカーでもない大会のルールを細かく知らないはずだ、もし知っていても正式試合で無ければ使用制限も無い...でも使わなかった」


『つまり、武者娘は無意識かもしれないが真白に手加減をされておった訳じゃ』


あの真剣勝負に真白が手心を?...俄かには信じれないが当事者である九鬼先輩は納得の表情見せている


『何れにしても、あの武舞台の上で武者娘が真白のテリトーリーの中におって無防備な状態であった事を加味して真白を勝ちと判定したのだが...まぁ等の本人が納得いってない様で勝を辞退したので儂の判定も意味をなさないがな』


「ふふ、つまり貰い物とはいえ私の勝だ約束通り城二、貴様には魔刑部へ入部してもらうぞ」


「...まさかとは思いますが、真白の性格を読んだ上での出来レースだった...なんて事ないですよね」


そう疑う俺の方を九鬼先輩はニヤリと笑いながら


「まさかな、私の事を買いかぶり過ぎだ駆け引きは嫌いじゃ無いが真剣勝負を穢す様な真似は私の武道に反する...まぁ私自身は雨宮に負けたとは思って無いがな...」


そう囁くように語りながら再び右手人差し指に炎を灯すと


「私とあそこ迄、競える相手がこんな身近にいた事が嬉しくてな...これからも雨宮とは共に高みを目指したい...そう言う意味では昼間屋上で言った言葉は訂正しなくてはならないな、城二お前を侮った事も含め改めて謝罪の場を設けさせて貰おう」


パン!


九鬼先輩の言葉を遮る様に皆川先生が手を叩いて


「それでは、話は纏まったな...北野は明日から魔刑部への活動に参加する様に...池上は...まぁ家の事もあるだろう仮入部としておこう両立できる様で有れば正式に入部してくれ」


「にゃははは...お祖母ちゃんに何て言おうか悩んでたから助かった~サンキュー綾瀬っち♪」


皆川先生の言葉を聞いて、少し残念そうな微妙な表情を見せた天音さん...


(天音さんは家が華道の家元だって言うのは設定せ有ったけど、細かい描写までは初期リリース版では記載は無かった...後で追加パッケージでリリース予定だった池上 天音サブヒロイン版で細かく描写される予定だったからな...)


俺はその内容をある程度は知っている...


だが正直言うと、天音のイベント進行は最初からハチャメチャに破綻してしまっている


そもそも、この時点で藤堂との関係性は友達以上恋人未満の様な距離感だったのに、秘境テスト終盤で俺に対し行った暴力沙汰が元で既に天音からは幼馴染以上の関係にはなれないと告げられている...


本来であれば追加シナリオ中に家業の事で悩んでいた天音の事を尊が助け急速に距離が近くなって行き、それを見ていた藤堂が執拗に尊に突っかかり出すという展開から発展し藤堂からの天音に対する告白イベントを経て、藤堂との関係を清算し、幼馴染以上の関係にはなれないと言う答えに至るのだ


その後気になり惹かれていた尊との恋愛ルートへと発展する展開に至る...のだが今は既に藤堂との関係値は決定的となってしまっている...


(今の時点で俺が天音さんの悩みを知っていて行動するのはどう考えてもおかしい...暫くは様子を見守るしか無い...)


それに追加シナリオのロードマップは知ってはいるが最終完成のシナリオのテストプレイもしてないしチェックも出来てない...迂闊に手出しをして物語からフェードアウトなんて事になっては確実にマイナスだ


それよりも今は俺が覚悟を...


「分かりました...確かに勝負は勝負です真白には俺の方から伝えます...明日から宜しくお願いします」


俺は皆川先生と九鬼、天草両先輩に頭を下げ明日から部活に参加する事を約束し家路に着いた











「結局、こういう流れに収まるのか...やはり目障りだな...」













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