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第14話 来ちゃったな

「暑っちぃ―――」


頭上には燦燦と照り付ける太陽...風に乗って僅かに香る磯の匂い、周囲の街路樹には広葉樹のデイゴが赤い花を咲かせている


そう此処は...



「来ちゃったな...沖縄」


そう俺は学校が休みの土曜に飛行機で飛んで沖縄へとやって来ている...ここは沖縄那覇空港前だ


何で俺が沖縄に来ているのかと言うと...


「城二ぃ――――私が案内するね♪―――💛」


そう言うと茶色いショートヘアーにエメラルドの瞳を持つ爆乳美女が俺の腕へと抱き着いて来た...


(スゲー迫力だぁぁ柔らかいィィ―――って何やってんだ...思春期の高校男子かよ)


あ、高校男子だった...いや、今はそんな事どうでもいい!


「あ、あの...天草先輩...少し離れてもらった方が...」


そう俺の腕に抱き付いてる、白いワンピースを着た我儘ボディーの美女は部活の先輩である天草副部長だ


(ちょっとぉ!ダメだよ...ボクここいらじゃ顔が知れてんだよ、飛行機降りたらボク達ラブラブカップルだって打ち合わせしたじゃんかぁぁ!!)


耳元で良い香りを漂わせながらボソボソ囁く天草先輩にゾクゾクしてしまう...


そんな俺達は周りの男性旅行客から仲良しカップル認定されてる様で羨望の眼差しを向けられてしまっている、中には連れの女性に怒られる男性も...


「城二と乳デカくっ付きすぎ...もっと離れろ」


そんな俺達を背後からジト目で見つめる女の子...水色の長い髪を纏めてキャップ入れ黄色い生地のアロハシャツに、青い麻生地の短パンという出で立ちの真白さんだ...


(ちょっと真白ちゃん!真白ちゃんがどうしても付いて来るって言うから、城二君の御世話係り役として連れて来たのに...)


「ん、そんなん知らん」


俺と天草先輩の荷物まで運ばされていて真白さんは、かなりご立腹だ...そこで真白攻略の為の秘策を天草先輩に耳打ちする


「!?な...なる程...あ、あぁぁ真白ちゃんそう言えば沖縄のご当地限定のネズミ子のキーホルダーが、そこの売店で売ってるから明日の帰りに、ボク...私がどれでも好きなの買ってあげるね♪」


「おおおお、畏まった!乳デカ...えぇぇ―――(小百合お嬢様だよ)あぁぁ小百合お嬢、宜しく任されろ!」


目の前で背が高い巨乳美女と背の低い巨乳美女がなにやら小声で、打ち合わせを始めた...真白すまない...て、いうかそもそも...


「はぁ...なんでこんな事に...俺の休日がぁぁぁぁぁ!」



〇—————遡る事、数日前の部活終わり



コンコン♪修練場の用具室で着替えているとドアがノックされる


(真白かな?)


「真白———もう少し待ってくれ――今片付け...」


ガチャ 俺の制止も聞かずドアを開けられる


「いや、もう少し待て...え?」


「やぁ君に、折り入ってお願いした事があってね、少し二人で話せないかな?」


そこに現れたのは天草先輩であった...


ガチャ...カチッ  天草先輩は背中越しにドアを閉めるとカギを掛けた


「な、なん何ですか...お願いって...」


「単刀直入に言おう、ボクと恋人になってくれ」




正直言うと、俺が着替えてる時に天草先輩が入ってきた時点でこの展開はある程度は予測済みだ...


何故ならこれは天草先輩の恋愛ルートへの起点イベントなのだから...そして本来であれば此処は2年3組の教室であり、天草先輩の視線の先に立って居るのは北野 尊であるはずなのだ...







◇――――魔都東京1999 6月中旬 ゲーム内イベント


尊と藍瑠が綾瀬が顧問を務める魔刑部に入部して、早1ヶ月が過ぎようとしていた


九鬼部長と併せ刑修練を始めて実践して秘境テスト以降で目まぐるしい成長を遂げていた尊は、武術修練においても副部長である小百合と良い勝負が出来る程迄成長していた


一緒に入部した藍瑠も女性ばかりの魔刑部の面々と交流を深める尊にヤキモキしながらも、元々のポテンシャルで尊に次ぐ成長を遂げ他の先輩部員を差し置いて魔刑部内で5本の指にはいいる実力者と目される様になる


しかし、その日は顧問の綾瀬も部長の九鬼も夏の大会の抽選と説明会に参加するため大会主催の抽選会に参加しており不在であった


「......」


「...あ、あの天草先輩?」


その日、小百合と併せ刑を行っていた尊は小百合の様子がおかしい事に気付き声を掛けるが小百合にいつもの明るい雰囲気は感じない...何処か悩んでいる様子が伺えて来る


「「「本日も有難う御座いました!!」」」


その日も部活を終え、尊と藍瑠は2年3組の教室で帰り支度をしていると


コンコン♪


教室のドアをノックする音がして振り返ると


「やぁ、尊..ボクと少し話をしないか?」


「え?天草先輩?尊君に何か御用ですか?」


いつもと違い何処か愁いを帯び悲しそうな表情で無理に微笑む小百合は夕日を背に藍瑠に対し申し訳無さそうに視線を反らし


「藍瑠が居る方が、後で説明する手間が省けて良いかも知れないね...」


「?天草先輩?僕に話と言うのは藍瑠にも関係有る話なんでしょうか?」


小百合は軽く頷き尊の質問に対し無言で答えると、ゆっくりと教室の中へと入って来て尊の目の前で立ち止まり


フゥ―――――


ゆっくりと息を吐き出すと、決意の籠った瞳で尊と真っ直ぐ見つめ...


「尊、ボクと恋人になってくれ」


「「!?」」


「ちょっ!?天草先輩!?尊君は私の婚約者なんです!!そんなのダメに決まってるじゃないですかぁぁ!」


驚く尊と小百合の間に割り込んで、般若の様に怒り小百合を睨み付ける藍瑠


「あ、あのぉ...藍瑠の言う通りで僕は...小百合先輩の気持ちには...」


「はっ!?あ、いやゴメン!!緊張してて話を端折っちゃって...正確に言うと恋人役をして欲しいって事なんだ」


「「へ?恋人役??」」


「あ、う、うん...実はボク高校を卒業したら故郷の沖縄で婚約者と無理やり結婚させられちゃうんだ...でもボクそいつの事大嫌いで...絶対結婚なんてしたくないんだ」


「そ、それで僕に恋人役をしてほしいと...」


「う、うん...ボクが見て来た男の子の中で尊が一番可能性が有るんだ...だから...」


小百合先輩は尊と藍瑠に向って深々頭を下げ


「無茶は承知でお願いします!!ボクの恋人役として一緒に沖縄の実家に来て欲しいんだ!!」



(はぁ―――物語イベントとは言え恋人役のポジションに俺が選ばれるとか...)


「城二のアドバイスで真白を言いくるめ...説得出来たよ♪」


今、言いくるめたとか言いかけたよな...小百合さんは駆け引きとか出来ない純粋乙女王子なはず何だがな...この先、なんか危険な香りがするな


沖縄の空は眩しい日差しが照り付け、初夏の様な清々しい青空だったが、俺はこの先の展開に暗雲がたちこめてる様に思えてならなかった...


〇―――――沖縄那覇市市街 天草極限流本館道場


そして俺たちは今、天草先輩の実家である天草極限流の道場に来ている...


「初めまして、北野 城二と申します、東光高校2年です」


「ん、雨宮 真白だ宜しく」


「うむ、儂が小百合の父でありこの天草極限流の総師範である、天草 いつきだ」


目の前にいるのは180㎝を超える俺ですら遥かにしのぐ巨漢で、短く切り揃えたツンツンの黒髪に無骨なヒゲを蓄えた大男だ...道着から見える二の腕は筋肉が隆起し城二の倍は有りそうだ


天草樹は武神と呼ばれ伝説となった天草流の開祖である父から道場を受け継ぎ、あらゆる武術大会で勇名を馳せ「沖縄の荒熊」と呼ばれ畏怖される武術の達人だ


武神の跡を継ぐ者として数多の挑戦者を退けて来た無頼漢も、イギリス人美女から猛烈にアタックされ結婚、2男1女を授かるが、最愛の妻と尊敬する祖父を病気で亡くし、自身は師範の座を長男である一葉に譲り武神と呼ばれた父と同じ様に第一線を退く


長男である一葉いちようは樹の若かりし頃そっくりで、恵まれた体躯を駆使しあらゆる武術大会で優勝を収め、周囲からも荒熊の後継者と一目おかれる存在となり何時しか「沖縄の荒鷲」と、父の異名と並び畏怖され武術の世界でも一目おかれる存在になる


一方次男の草次そうじは、母親に似たのか華奢な体系で、兄とは真逆にその空手スタイルは受け身を主としていて傍から見れば華やかさの欠ける空手であり、道場内で兄である一葉と常に比較され肩身の狭い思いをしていた、また元々自己主張の少ない性格も相まって、いつしか道場に顔を見せなくなる


そして長女の小百合は、幼い頃から隠居していた祖父に、その才能を買われ武神の武術を叩き込まれる、早くに母親を亡くし男系家庭で育った事もあり、小百合は男勝りな女の子へと育つ、そして男たちに交じって空手の練習に励んでいる中で成長し、男女混合の試合でも成果を出して確実に実力をつけて行く

しかし、成長すると体のつくりも女性らしくなって行き、本人の意志とは別に小百合は男性に性的な目で見られる様になる...そして当然ながら多くの男性から好意を寄せられるが...


「小百合と交際したいなら儂を倒してからにしろ!」


小百合と付き合う為には荒熊を超えなきゃならない...道場の門下生、外部の腕に覚えの有る者が悉く挑むが、樹や一葉が高い壁となり思いを遂げる者は現れない


しかし、その日は突然訪れる


樹が用事で不在の道場にその男は現れる...漆黒の道着を身に纏った男


そして何時もの様に樹の代理として一葉が漆黒の道着の男の前へ立ちはだかる...


流石は荒鷲と呼ばれる一葉が終始優勢に試合を運ぶ...しかし


「しょ、勝負あり!!」


最後に立っていたのは漆黒の道着を纏った男...男は不敵に笑い


「これでお宅の妹さんは俺の女だぁ...ゲハハハこれから宜しくな義兄さん、ゲハハハ」



〇―――――そして今現在


「北野君だったな...小百合から話は聞いてるな?」


「はい」


「小百合と付き合いたい...ゆくゆくは婚約したいと言うからには君には、アヤツと戦い勝つ事が条件となる...君にその覚悟は有るのか?」



そして俺の出した答えは...



「勿論です、小百合さんは俺が守ります!」









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