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◇那覇市内 天草極限流 道場
「ルールを説明する、打撃、寝技、関節技全て適用のフルコンタクト総合格闘技ルールで行う、使用するのはオープンフィンガー及び各自着用の道着」
樹さんが主審を務める...他にも樹さんの知り合いという格闘技団体の人が2名判定審を受けてくれた様だ
「勝負は時間無制限の完全ノックアウト方式、ギブアップ若しくはテンカウント以内に立ち上がれない場合は負けとする、また反則として金的への攻撃、目潰しについては発覚した時点で反則負けとする」
俺は用意して貰った天草極限流の真っ白な道着を身に着け赤いオープンフィンガーグローブを着用している、一方目の前に居る紅島は漆黒の生地に真っ赤な字で「紅島ジム」と刺繍された道着を着用し青いオープンフィンガーグローブを着用している
目の前で不敵に笑いながら小刻みにジャンプして首をクルクル回しながら体をほぐしている紅島...その表情からも完全に俺を舐めて勝利を確信している様だ
俺も屈伸やアキレス腱を伸ばしてストレッチには余念が無い...怪我したくないもんな
「では、両者前に」
『やったれー顕揚先生ぇぇぇ!』『ぶっ殺せぇー!』
ギャラリーの中には紅島と同じ道着を着た紅島ジムの生徒が数名応援に来ていた...紅島はそいつらの下品な応援に手を上げて答えると馬鹿共は大声で歓声を上げ答える
「ヤレヤレ、南の島の金髪モンキーは騒ぐ事しか脳が無い仲間を沢山お持ちで羨ましい限りだぁ――」
「なま言ってろ...その悪人面グチャグチャにして真っ当な善人面に変えてやんよ!」
お前にだけは言われたくねぇけどな
「両者私語は慎め...ルールを再度説明する...」
俺達の間で樹さんが身振り手振りでルールを説明しているが、俺と紅島は額がくっ付きそうな程近くで睨み合い全く耳に入って来てない...
「両者位置に...では始め!!」
先ずは俺が紅島の懐に一気に飛び込み勢い良く右のアッパーを撃ち込む
しかし、紅島は顔を少し上にあげ首を後ろにそらすと視線を俺から外す事無く不意打ちのアッパーを紙一重で躱し切る
上体を反らした勢いのまま紅島は左のヒザを俺の鳩尾目掛けて打ち込んで来た!
「くっ!」
左手を紅島の膝に添え紅島のヒザ打ちの反動を利用し後方へと飛びのく...
(やはり、格闘技の実力では圧倒的に向こうが上だ...ここは)
俺は腰を落とし右拳を引いて左手を右拳に添える...
「あれは、紅拳の構え!?」
見守っていた天草先輩が以前戦った時の記憶を元にそう叫ぶ
「へぇ―――紅拳?聞いた事無い大層な名前だけど見せて見ろよクズボンボン~」
「笑ってられんのも今の内だぁぁ!くらぇぇぇ!」
溜めていた力を一気に右拳にのせて2歩、いや3歩分飛び込み紅島の鳩尾へと紅拳を叩き込む
ドスッ!
鈍い音と共に俺の淡く赤く輝く右拳が紅島の鳩尾にめり込ん...
で、無い!?
「ばぁ――――か―――」
バギッ!!
「がぁぁぁぁぁ!!」
紅島は伸び切った俺の右腕を左の膝と左の肘で挟み打つ...ダメージを受けた俺の右腕が力なく垂れ下がる
「あ、ワリィワリィこんな所に今朝買っておいた今週号のシャンプが入ってたぜぇぇ」
紅島は道着の懐から、週間ジャンプを取り出し仲間の所へと放り投げる
「汚いぞ!!そんなの違反だぁぁぁ」
天草先輩は主審である樹さんの反則負けのコールを待つが樹さんの表情は険しいまま首を横に振り一向にコールする事は無い
「ヤダなぁ~小百合ちゃん、俺の何処が反則なんだよ?反則負けになるのは故意の金的と目潰しそれだけだよ?偶々偶然懐に仕舞って忘れてた雑誌を反則とか言われちゃ困っちゃうよぉ~な――――北野———君」
両手を広げ舌を出しながら俺を馬鹿にした様な表情で煽る紅島...
『そろそろ頃合いか...トラ、アイツの方はどうだ?』
『あぁ奴はとっくに神憑依してる...さっきの分厚い本も奴の降ろした神の力で隠してたモノだろう...』
『あぁ流石、悪戯好きな邪神キジムナーだ...やる事がセコイな...次が勝負だトラ行くぞ!』
『はぁヤレヤレ、最初から儂を纏えば良い物を...』
「あっれ――どうしちゃったの?北野君?」
右腕を押え俯き立ち尽くす俺の方を揶揄う様にユラユラ揺れながら覗き込んだ紅島
「来い!白虎ぉぉぉ!!!」
「なっ!?」
俺は不意に近寄って来た紅島の頬目掛けて左の拳を叩き込む!
「ブヘッッ!!」
紅島は顔面を歪ませて、そのまま床に頭から倒れ込む
「はぁ?どうしたか?って?こうしたかったんだ...よっ!」
俺は倒れ込んだ紅島の横腹を何度も思いっきり蹴り上げる
「ゲハッ!」
紅島は蹴られたお腹を庇う様に抱え悶絶している
「顕揚先生!?テメェきたねぇぞ!!倒れてる相手に攻撃するとかぁぁ!!」
「反則だぁぁぁ!!審判反則を取れぇぇ!!」
しかし当然こんな事では反則にはならないので試合を止められるような事にはならない...ダウンは取りに来ても良いと思うけどな...
(そろそろだな...)
その瞬間今まで足元で蹲っていた紅島が忽然とその場から姿を消した
「なっアイツは何処へ!?」
俺も含め見ていた全員が武道場をキョロキョロと消えた紅島を探している
!?
刹那、俺は勢いよく武道場の床へとうつ伏せる
パシュ
乾いた破裂音が消えた紅島を探してザワザワする喧騒の中で鳴り響き...
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴と共に打つ伏せた俺の横で今まさに右足でハイキックしようとしていた紅島が徐々にその姿を現す、そして自分の股間を押えながら前のめりに倒れ込み、白目を剥き口から泡を吹き出しながら痙攣しいる...
「そいつを逃がすなァァ!!!」
俺は武闘場の上から観客席に隠れた人影に向かって指をさした