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第19話 黒幕の正体



◇那覇市内 天草極限流 道場 



不審者の正体は...ジムで紅島達に襲われていた女性だった...


「貴方が真の黒幕...紅島の背後で今回の事を仕組んだ真犯人...そうですよね?紅島 奈美恵さん」


「「「!?」」」


俺の言葉に一同が驚き、不審者...いや奈美恵は自らそのフードを下ろし全員にその素顔を見せた


そして周囲の人々はその表情に戦慄する


そこには、昨晩ジム内で襲われていた、か弱き女性の面影は無く醜悪な笑みと憎悪の籠った目を隠す事なく俺達に向けて来る


「貴様は一体...」


樹さんは未だに状況が理解出来てないのか混乱してる様だ、それは小百合さんも同様


真白はというと、その流星眼にて奈美恵さんをジッと見つめ恐らく深層まで探っている所だろう...


俺は、周りに居た方にお願いし警察に連絡してもらい、現場を保存すると共に関係者だけ残し他の人達はそれぞれ現場から離れて貰った...


「さて、警察が此処に来るまであまり時間が有りません今回の件、僕が推測した内容を皆さんに説明します」


本当なら事実をと言いたい所だが、紅島が流血沙汰になる様な怪我を負うなんて話...本編には無かった事だ


だから此処は慎重に話を進める必要が有るため推測だという事にする...


「まず、紅島 奈美恵さん貴方は紅島 顕揚の義理の妹...で間違いないですね?」


!?


当然一同は驚愕する...


「まぁこれは北野家の力を使って事前に調べておいた事ですので」


それとなく家の財力で調べた事にして俺のこの知識への疑念を逸らし話に信憑性を担保する


「一連の事件は貴方が天草家...いえ、小百合さんに対し個人的な恨みを抱いていてこの一連の騒動を引き起こした...違いますか?」


「いや~全くアンタ何者なの?そら恐ろしいんだけど~」


奈美恵さんは初めてこの場で言葉を発したが、その端々には毒を含んだトゲトゲしさが有った


「ま、待ってくれ...ボクはなんで彼女に恨まれてるんだい?!ボクには彼女との面識も...」


「フ、フフフフ...アハハハハハ、そう、そうだよね、お前にとっては私なんて記憶するに値しない、その程度の価値しかない女...だがな、私はそうじゃない、私はお前に全てを台無しにされたんだぁ!」


奈美恵さんは物凄い剣幕で小百合さんに向かい怒声を浴びせる...その様子に小百合さんの表情は引きつっていた


「彼女の説明では埒が明かないので僕から説明します」


そう告げ、北野家の調査で分かった事としながらも紅島 奈美恵及び顕揚についのて説明を始めた



二人の両親が再婚したのは、奈美恵が小学生、顕揚が中学生の頃だ


しかしこれは二人にとっては不幸の始まりだった、顕揚は子供の頃から性格が粗暴で残虐、同居をはじめて直ぐに義妹の奈美恵に対し日常的に暴力を振るう様になる


更に狡猾なのは両親に、この事を話せば更なる暴力を振るううと奈美恵を脅して逆らえない様にしていた


奈美恵は来る日も来る日も義兄に謂れの無い暴力を振るわれる日々に絶望し、自ら幼い命を絶とうと邪霊の森と呼ばれる地元民が決して近づかない禁忌の場所へと足を踏み入れる...


だが、この場所で奈美恵の運命が再び大きく変わる、奈美恵はこの邪霊の森にて死に場所も求め彷徨う中で偶然、秘境に迷い込み何もわからない内に神域へと到達し神との契約にこぎつけてしまう...それが邪神キジムナー


キジムナーの力を得た奈美恵と義兄である顕揚の立場は、その瞬間から逆転した


その日夜、遅く帰って来た奈美恵に対し生意気だと殴りかかる顕揚...しかし奈美恵の姿は一瞬で顕揚の前から消え去り顕揚の背中に激しい痛みが...姿を現した奈美恵は不敵に笑いながら玄関に立て掛けてあった金属バット握り何度も顕揚へと叩き付ける


痛みと恐怖で涙と鼻水、それに失禁と脱糞しながら体を丸めて奈美恵に対し許しを請う顕揚...


その日から180度、奈美恵と顕揚の立場が入れ変わり顕揚は奈美恵に対し絶対服従のしもべと化した...



そんな歪な関係が暫く続き、奈美恵が中学3年になった頃、奈美恵に3度目の転機が訪れる


奈美恵の通う中学の新1年生に今まで見た事の無い様な美少年が入学してくる...いや、美少年とは言えない...なぜなら彼は男では無く女性だったから...


イケメンで王子様の様にキラキラしたその女子生徒の名は天草 小百合、ボーイッシュな雰囲気と男性的な喋り方で男子生徒のみならず女子生徒達を瞬く間に虜にしていく


当然ながら奈美恵も虜になったその一人...今まで男と言えば身近な義兄である顕揚の様に、憎悪し蹂躙する対象でしか無かった奈美恵にとって同性で有りながら男性的な雰囲気を持つ小百合の存在は初めて感じる恋心を募らせるには十分であった...


日々、小百合の姿を目で追いその恋心を募らせていく奈美恵はある日、勇気をふり絞り小百合を校舎裏に呼び出すと自分の胸の内の熱い愛情を全て吐き出し告白...


だが残念ながら奈美恵の想いは成就しなかった、小百合は振舞こそ男性気質だがその実は少女趣味で王子様と少女漫画の様な甘酸っぱい恋愛がしたいのだと照れながら告げられ、奈美恵も小百合の気持ちに納得し奈美恵の初恋はほろ苦くも幕を下ろすのだった


そして奈美恵の初恋から2年が経過し、奈美恵は高校2年、


奈美恵は自分の男性不信を払拭してくれた運命の年上男性と出会い順調に交際を進めていた、この頃になると義兄である顕揚とはプライベートでも疎遠になっており、向こうからも敢えて干渉してこなかったのも有り奈美恵はすっかり毒が抜けたかの様に運命の恋人と幸せに過ごしていた


しかし、ある時を境に彼氏の様子に変化が...大学生だった彼は急に思い立った様に空手を習い始め奈美恵との時間がどんどん減って行く...偶にデートする時もホテルで過ごす時もどことなく余所余所しい彼に疑念を抱いた奈美恵は、キジムナーの力を使って姿を隠しながら彼氏を尾行し始める...


そしてその理由は直ぐに判明する...彼氏の通う空手道場天草極限流...その師範の娘小百合に入れあげていたのだ、中学時代にそっと胸の奥に置いて来た淡い初恋の相手...その初恋の相手はボーイッシュな雰囲気はそのままに女性らしい魅力的な体型に変化していた、そんな初恋の相手に今の自分が全てを捧げ愛する彼氏が想いを寄せている


その事実を目の当たりにした奈美恵の心は壊れ始める...ひび割れ砕け始める音と共に


奈美恵の彼氏は小百合と交際出来る様に、必死に空手で強くなる為に練習に励む恋する男子と化していた...しかし小百合との実力の差は埋めようも無い、いっこうに彼氏の努力は報われない...想いを寄せても小百合は振り向いてくれない...かつての自分がそうだった様に...だから彼氏も誰が本当に大切な存在なのか、その内きっと気付いてくれるはず...奈美恵の心は砕けそうなギリギリで留まらせる為に彼氏の自分への想い信じ、ひたすら耐えた...


しかし現実は非情であった...


中学生で既に成熟した女の身体になっていた、小百合と練習にて手合わせを重ねる度に、その身体を蹂躙したいと言う欲望が膨れ上がる

そして、とうとう男としての欲情を我慢できなくなっていた彼氏は、中学生である小百合の下校中を待ち伏せし自分の気持ちを告白する


しかし、いや...当然の様に撃沈...しかし夢にまで見る様になった小百合の純真で豊満な身体に我慢出来なくなっていた彼氏、申し訳無さそうに俯く小百合を見下ろす目は完全に理性を失っていた


告白を断り頭を下げ立ち去る小百合を周囲に誰も居ない事を確認し、一気に背後から襲い掛かり道路脇の叢に押し倒す


空手の実力では彼より数段上のはずの小百合も背後から大の男に急に抱き付かれては身動きが出来ない...


奈美恵は唖然としながらその様子を見てた、小百合に覆いかぶさり豊満なその体を欲望のまま貪ろうとする彼氏の狂気じみた表情に、過去の義兄の姿を重ねてしまって...気が付くとキジムナーの力を使い姿を消し、道端にあった岩を彼氏の後頭部目掛け振り下ろしていた


鈍い音と共に小百合に覆いかぶさるように倒れ込む彼氏...彼氏の状況を確認する事なくその場から逃走した奈美恵は、一心不乱に自宅に走って戻り、自室で布団にもぐり激しく慟哭した...


そしてこの瞬間、奈美恵は完全に壊れた...いや元の奈美恵に戻ったと言う方が正しいのかもしれない


奈美恵は自分を壊した元凶である義兄、彼氏、そして小百合に復讐を誓う...


まず義兄を呼び出し、入院している彼氏を襲撃させ男性として再起不能になる肉体的ダメージと精神的ショックを与えさせた


その際に病院の監視カメラや受付を突破する為に、奈美恵のキジムナーの力を使い義兄の姿を消し犯行をバレない様にする事も思いつき実行に移す


次に小百合に対する復讐を計画する、まず小百合の婚約者に義兄を据える事を思いつき顕揚に天草極限流の道場を襲わせる計画を練る、しかし顕揚は沖縄の荒熊と恐れられる樹や荒鷲と呼ばれる師範の一葉の実力を良く知っており、自分の実力では絶対に勝てないと奈美恵の立てた作戦に尻ごむ...そこで奈美恵が義兄に提案した策...


キジムナーで姿を消した奈美恵が樹もしくは一葉との試合中に相手に麻酔銃を撃ち込み弱った所を顕揚にトドメを刺させるという作戦だった...


奈美恵の力を知っている顕揚は奈美恵の案に乗っかり、奈美恵の作戦通りに事を進め、相対した一葉を破り小百合との婚約を勝ち取る事に成功する


しかし、それだけで奈美恵の復讐は終わらない、顕揚に入れ知恵し婚約を解除して欲しかったらと幾つか条件を付ける


その中でも小百合の連れて来た恋人...という条件


そう、奈美恵は昔自分に小百合が語った甘酸っぱい恋愛の最中、その幸せ最高潮の時に、好きでも無いクズな男に女性としての純潔を奪われ絶望し涙する...そんなドン底に小百合を叩き落としたかったのだ

自身がかつて焦がれる程に愛したキラキラ眩しい王子様が、汚れ落ちぶれる姿に奈美恵は固執していた...そう、今の惨めな自分の様に...


そう、たったそれだけの為に...




「と、北野家が調査した内容に僕の推理を混ぜて辿り着いた結論です」


「そ、そんな...ボクは...」


自分の両手で体を抱きしめ顔を真っ青にして震える天草先輩...


「小百合さんには何の責任も有りません、これは彼女の逆恨み...そう醜い女性の歪んだ嫉妬が生んだ陳腐な復讐劇だったんです...」


「フフフフ...ア――――ハッハハハァ―――ヒィ――――」


俺の話しを黙って聴いていた奈美恵さんは突然笑い出す


「そう、アンタは何も悪くない私の勝手な愛憎の復讐...だけどね私はアンタを本気で愛していた...人生で初めて自分自身より好きになれる人に出会った...でも想いは砕け、それでも自力で立ち直り共に歩んで行きたいと思える人に巡り合った」


「でも、それも最初だけ...アンタに出会った彼の目にはもはやアンタしか映らなくなっていた...」


「わかる?私を抱きながら私の見えない位置にアンタの写真を待ち受けにしたスマホを置かれアンタの代わりに体を使われる惨めな気持ち...」


「わかる?果てる寸前に小声で小百合って呼ばれる時の絶望...私は天草小百合に人生をメチャクチャにされた!顕揚が悪い?元彼が悪い?そんなの判ってる!だから皆纏めて地獄に送ってやるのよ!アハハハハハ」


「「.........」」


既に正気を失っているであろう奈美恵さんは狂人の様に笑みを浮かべながらそう叫び狂った様に笑う...するとサイレンとパトランプの光と共に数名の警官が駆けつけた


「貴方が紅島 奈美恵さんですね、紅島 顕揚さん殺害の容疑で現行犯逮捕します」


そう告げる警官が奈美恵さんの両手に手錠をかける...


ガチャッと金属音と共に茫然とする奈美恵さんは自分の腕にはめられた手錠に視線を移すと


「死んだ...?顕揚が?...何で...?」


「被害者、紅島 顕揚さんは10時23分、局部に撃ち込まれた銃弾による過血性ショックにより市内の警察病院にてお亡くなりになりました、よって本件を殺人事件と認定し容疑者である紅島 奈美恵さんを重要参考人として身柄を拘束させて頂きます」


「こちらが逮捕状です、貴方には弁護士を雇う権利と黙秘権が有ります」


事態が呑み込めない奈美恵さん...当然俺もこの状況に動揺が隠せない...死亡?そんな話ゲームでは起こらなかった...一体...


「待って!?私が撃ったのはただの麻酔弾なの、実弾なんかじゃない!こんなの何かの間違いよ!」


必死に弁明する奈美恵さんの表情は嘘を言ってる様には見えなかった...


「!?あいつ...アイツよ私に拳銃を渡して来たあの不気味な仮面をつけた男!!そいつが犯人なの!ねぇ聞いてぇ!!」


「話は署でお伺いします、パトカーにてご同行を」


喚き散らす奈美恵さんの背を見送り俺達は状況の整理が出来ずただただ茫然と立ち尽くした...








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