◇那覇市内 天草実家 リビング
俺達は当日の飛行機をキャンセルして月曜まで沖縄に滞在する事になった...事情は警察の人が俺達の学校に説明してくれており今まさに事情聴取を終え天草先輩の実家まで戻って来た所だ
「そうですか...やはり警察の言ってた通り紅島は...」
事情聴取の際に担当した別の警察官に尋ねても、結果は変わらず紅島の死亡は間違いない様だった
「それにしても、我々が紅島ジムに行くことを見越して事前に準備していたとは...」
「うん、ボクも驚いたんだけど奈美恵さんが言っていた拳銃を渡して来た覆面の男...どうやらその男はあの日あの時間に、ボク達がジムに行く事を知ってたらしくて、それで自分が襲われてる演出をしたみたい...でも演技だって知ってたのは義兄の顕揚だけだったらしいけど」
覆面の男...そんなキャラゲーム内に登場してないはずだ
「で、でも奈美恵さんが咄嗟についた虚言って事も考えられますし...」
「私の目には嘘だとは映らなかった」
真白はいつも通りの表情で、俺の疑念に自分の流星眼で見た事を伝える
「実弾の入った拳銃か...あの場で咄嗟に城二君が伏せて無かったら今頃は...」
樹さんの言葉に背筋が寒くなる...俺も奈美恵さんが試合中に妨害工作をしてくるのは物語で知っては居たが、確かにゲーム内のイベントで使用されたのは麻酔銃だった...
物語では尊が気付かず麻酔弾を撃ち込まれ満身創痍の状態でも何とか顕揚からの攻撃を凌ぎきり、起死回生の神憑依による「風薙ぎ」(風の型による蹴り技)で顕揚を気絶させると、客席から逃走しようとしてる気配を感じ取った草次さんが奈美恵さんを拘束し今回の一連の流れが明らかになる...そう言うストーリーだ
当然、顕揚は気絶してるだけで死んだりなんかしない...ただ、その後で意識を取り戻した顕揚は何を思ったのか小百合さんに襲い掛かり...その後...
ピンポ―――ン♪
リビングにて皆で今回の事件の事を話していると玄関から呼び鈴が聞こえる
「一葉と草次だな...小百合悪いが玄関を開けてやってくれ」
了解と席を立ち玄関の方へと向かった小百合さん...つか、一葉さんってやっぱり...
「父さん...兄さんを、連れてきた「あらぁぁ~やだぁぁ草ちゃんてばぁ――――お兄さんじゃなくてぇ~お・ね・え・さ・んでしょ――――♡」…と、とにかく連れて来たから...それじゃ俺はこれで」
「まて草次...お前もそこへ座れ」
リビングに入る事も無くそのまま立ち去ろうとする草次さんを樹さんは呼び止めた...渋った様な表情を見せたが、俺達の方を向くと少し溜息をつきながらもリビングの席へと座る
「こほん、城二君、真白君改めて紹介する、長女の小百合に、次男の草次...それと長男の一葉だ」
「は、初めまして...北野 城二です...」
「やだぁ~ちょい悪イケメン―――私は~一葉、かずはってよ・ん・で♡」
「城二...なんだこの生き物は」
真白は眉間にしわを寄せ、必死に目の前の一葉さんを流星眼で見極め様としている...
◇
天草 一葉 24才 男性? 小百合ルートへの冒頭テロップと一枚絵で顕揚に負け床に倒れていた天草家の長男(?)だ
実は、その話には続きがあって、あの場で奈美恵さんの妨害工作にて体の自由を奪われた一葉さんは顕揚からの一撃を喰らったが、それでも根性を見せ立ち上がり捨身の右ハイキックを繰り出した
しかし麻酔弾で全身に力が入らず足を上げた所で力尽き、そのままの体制で倒れ込み、立ち上がろうとして立てた顕揚の膝が股間に命中...一葉の局部激しく損傷し再起不能になり...そして
◇
「やだぁ―――真白ちゃんてば、お人形さんの様な可愛い顔してるのに辛辣ねぇ~そんなツンケンじゃ城二ちゃんは、かずは姉さんが奪っちゃうぞっ♡」
城二の倍は有りそうな太い腕、はち切れそうな胸板、丸太の様な太首筋...しかし武骨なその顔は真っ白にファンデーションが塗られピンクのチークにラメのパフ、アイラインもしっかり引かれ睫毛はクルっとカール、金髪のおさげ髪と口元には真っ赤なルージュ...フリフリのピンクのワンピースが悲鳴を上げそうなほどピチピチなゴスロリファッション...
そう一葉さん...いや、かずはさんは、今や心は女性としての第二の人生を謳歌しているのだ...
「フフフ、顕揚ちゃんに負けちゃった時はショックだったけどさぁ~こうして女性としての喜びを教えてくれたと思えば、感謝しちゃいたい位よ~不幸な事故で亡くなっちゃったのは本当に残念~、今度ジム方へお礼がてら仲間達と差し入れに行こうかと思っていたのにぃ~ホント惜しい事しちゃったわぁ~ぴえん」
「あ、あははは...で、ですね?」
此れには苦笑いしか無い...ゲームの進行での話しで行くと、顕揚が倒れた所に駆け寄る弟子の一人が畳に足を取られ大の字に倒れた顕揚の股間に全体重をかけダイブ、顕揚の顕揚に思いっきりヘッドバットし破壊...かずはさん同様に再起不能に...そして、顕揚も晴れて一葉同様に仲良くオネエの道へ...というコメディテイストのストーリーになるはずだったのだ
コホン!!
樹さんが咳払いをして再び俺の方へ頭を下げる
「城二君、この度は本当に助かった...思わぬ結果になってしまったが小百合の恋人として立派に戦ってくれた...本当に感謝してもしきれない」
「え?い、いや...偽装ですし..そんな畏まらなくても...」
「いや!このまま偽装にしとくのは勿体ない、是非正式にうちの娘と結婚して天草極限流の跡継ぎとして、家を継いでほしい!!」
「「「はぁ――――!?」」俺と小百合さんと真白は、樹さんの言葉に目を剥いて驚く
「ちょ、ちょっとお父さん!?急に何言ってんの?!ボクそんの事一言も」
「何を言っとる小百合、お前の男を見る目、儂は感服したぞ!城二君は頭はキレ、武術の心得もあり、何よりお前を大事にしてくれる、日本中探してもこんないい男いないぞ!!」
(やばい...このセリフ、ゲームの中で何度も見たセリフだ...これ俺じゃ無くて尊に言うべき台詞なんだよ~樹さ~ん)
「ム――――城二は乳デカ女と結婚しない、結婚したら私と遊べないそれはダメ」
真白の口にした理由は如何ともしがたいが、一応フォローしてくれてる...藍瑠の時のセリフよりだいぶ...いやかなり弱いが...そう弱い
「城二は私の唯一無二の親友、つまり一心同体」
「なになに、心配はいらん真白ちゃんも遠慮なく家に遊びに来ればいい、真白ちゃんなら家族も同然だ何時でも大歓迎だよ」
「なぬ?家族...四六時中、城二とトランプが...まぁそれなら問題ないのか?」
「なっ!?負けるなよ真白!?」
その後、不機嫌になる真白さんと樹さんを何とか収め、その場は思いとどまらせる事に成功した俺...チラチラ視線を送って小百合さんに助けて欲しかったのに、小百合さんは終始俯いていて全然会話に参加してくれなかった
その後、昼過ぎには警察から電話があり、無事裏が取れたとの事で俺達の東京への帰宅が認められた
...そして
〇——————————那覇空港
「それじゃ、樹さん、草次さん...か、かずはさん...色々ご迷惑をおかけしました」
「いや、こっちらこそ城二君には大変迷惑をかけた東京に戻っても体に気を付けて、それと次帰ってくる時は孫の顔を期待してもいいのかな?ガハハハハ」
取り合えずこの人の話はスルーしておく...
「かずはさんも、御達者で...そ、その...コンセプトバー「ザビエル」でしたっけ...きっと流行ると思います、頑張って下さい」
「きゃは♡城二ちゃんのお墨付きもらっちゃった~城二ちゃんも、真白ちゃんも、今度沖縄に来たらアタシの店にも絶対顔をだして頂戴ぃ~沢山サービスしちゃう☆」
俺は引きつった笑顔でかずはさんと握手を交わし、草次さんと向き合う
「君には色々助けてもらったね...俺は俺なりに頑張ってみるよ...」
「はい、草次さんならきっと立派に道場を継いで行けます」
そう、俺は昼間に樹さんに草次さんの本当の実力について話ておいた...草次さんの空手は豪快さこそ無いがその流水の様にしなやかで自然な無駄の無い動きの空手こそ万人が求める空手の道だと説いた
樹さんや一葉さんの様に体格に恵まれない、女性やお年寄りでも健康的に健全に学べる空手を目指す事こそ地域に根付いた天草極限流の使命では無いかと...
最初は渋っていた樹さんも、実際に草次さんと本気の手合わせする事で俺の言った意味を理解してくれた、かすはさんも草次さんが樹さんに認められた事を本当に自分の事の様に喜んでいた
「では、皆さんお元気で必ずまた来ます」
見送りに来てくれた天草家の皆に手を振り空港の入場口へと向かう...
「ニヒヒヒヒ...」
真白はアロハシャツを着たネズミ子のキーホルダーを掲げて、だらしなく頬を緩ましていた...
「しかし、真白ちゃんがこんな物に興味が有るなんてボクには「わぁぁぁぁぁ!!!」って何だい城二君!?」
(しぃ――――ダメですよ先輩...真白は不滅の刀の事を悪く言われると人格が変わっちゃうんですからぁ―――)
「ちょっ!?城二くん近い!近い!!」
〇————————————
こうして、中盤の物語ルートを終え俺達は一日遅れで東京へと帰る事になった...
樹さんが用意してくれた座席はビジネスクラスで本当に広々してて快適だった...それにしても
「やはり気になるな...奈美恵さんの口にした覆面の男...その男の目的は顕揚さんだったなのか俺だったのか...どちらかに殺意を持っていた事には変わりない」
「それに本編にも登場しないキャラだ...顕揚さんの死亡という結末もだが、そもそもだが俺がこのルートを主役の様に進めてる事にも違和感を感じる...」
沖縄でのイベントは色々とイレギラーな事が盛りだくさんで、俺の中の不安をさらに掻き立てるのだった...