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第21話 ハッピーエンカウントとバッドエンカウントⅡ


沖縄でのイベントが終了し、俺達は東京へと戻って来た


飛行機の中でも電車の中でも、真白はネズミ子のストラップを眺めダラしない笑みを浮かべている


天草先輩は終始何か考え事をしている様で、急に眼を見開き頭をふりながら顔を赤くしたりしていた...


俺も今の状況を頭の中で整理していた、まず主人公である尊が物語のストーリを進んで無い事、次にメインヒロインである藍瑠との好感度が微妙だと言う事、尊本人の気配が時折不穏な空気を放っている事...そして


俺、北野 城二がメインストーリーを進んでいるって事だな...


以前トラが言っていた俺を表舞台に立たせようという意図と、今回の事件の様に俺をこの世界から排除しようとする流れ...


(愛着と思い入れのあるこの世界で、平穏幸せに生きて行くって訳にはいかないのかな...)


そんな事を考えながら帰宅する


「ただいま帰りました―――」


玄関で靴を脱ぎトランクを隅に寄せていると、パタパタパタとスリッパの音と共に、心配そうな表情の道代さんがエプロンを着けたままで出迎えてくれた


「色々とご心配をお掛けしました」


「そ、その...急に沖縄県警から電話があって私びっくりしちゃって...そしたらその後直ぐ北野家の旦那様から城二様の件を聞かされて...私、私...」


「そ、その、本当に申し訳ありませんでした、今後はこの様な事が無い様にしますので」


「ほ、本当にお願いします...私心配で...」


真白以外にもこうして俺の事を必要としてくれる人が居る...


(おれはそんな人達の為にもこの世界を守りたい...出来る事は全て全力を尽くし努力する、それだけだ)



〇——————————翌日


俺は、道代さんの作ってくれた朝ごはんを3日ぶりに堪能しいつもの時間に登校した...


すると駅前に有る噴水に立たずむ天草先輩の後ろ姿が見える


「先輩お早う御座います、昨日はご苦労様でした...先輩は誰かを待ってるんですか?」


急に声をかけたからなのか天草先輩は明らかに動揺してる様子だった


「あ、い、いや...ちょっと考え事をしてて...あ、いや君さえ良かったら一緒に行かないか?」


(こんな所で考え事?...流石に嫌悪する相手だったとは言え顕揚さんの事はショックだったんだな、俺も当事者として後味が悪かったもんな...)


「小百合先輩が悩む事は無いと思いますよ、先輩は自分の気持ちに従ってそうなっただけです、誰にも遠慮する事は無いと思いますよ?」


それとなく、小百合の責任では無いとフォローする


「そ、そう?...そ、そうだよね...誰にも遠慮しなくて良いよね...私の気持ち...うんそうだね!!城二君にそう言われてすっきりした!!ボク良いお嫁さんになれる様に、これから頑張るよ!!」


「そうですね?...ん?」


何やらお嫁さんがどうとか...良く解らんがまぁ元気が出たならよしとするか


「そ、それじゃ行きましょうか、先輩」


「うん!行こうか城二君」


先輩は何やら先ほどの沈んだ雰囲気が嘘の様に笑顔を取り戻し、その足取りも軽やかだ


「でねぇ一葉兄さんが、かずはって呼んでって――――」


「アハハハそれは樹さんもビックリしますよねぇ―――」


学校への道すがら天草先輩は家族の事や、小さい頃の話を俺に楽しそうに話してくれた


何時もは一人、周囲の城二に対する罵詈雑言の雑音を拾いながらの登校だったが、誰かと楽しく会話しながらの通学は久しく忘れていた感覚であり、とても新鮮であった


「あ...もう学校に着いちゃったね...」


「あ、本当だ俺こんな誰かと話をしながら登校した事無かったんで、あっと言う間に時間が過ぎちゃいました」


残念そうな表情を見せる天草先輩に、お道化ながらそう伝えると...


「じゃ、じゃぁボクと明日からも...「やぁ、兄さん、今日から登校してるんだね、沖縄まで行って皆に迷惑をかけて来たらしいね」


またか...朝から一番出会いたくない奴にエンカウントするとか


「大きなお世話だ、お前には関係無いだろ...尊」


「あ、あの...城二君お早う...沖縄では大変な事に巻き込まれて...その...もう平気なの?」


尊の背後から藍瑠が顔を覗かせ余所余所しく俺に話しかける


「あぁ問題ないよ、心配してくれて有りがとう宮下さん」


俺が藍瑠に声をかけると、一瞬だが顔をしかめる尊...


「関係無いとは酷い言いぐさだね、義父さんにも義母さんにも迷惑を掛けておいて...良くそんな事言えるね」


声は落ち着いているが、その言葉には鋭いとげが含まれている...俺の隣で天草先輩が申し訳無さそうに俯いている


「なぁ、おまえは俺の親父か?親父に直接言われるなら未だしも、何でお前にそこ迄言われなきゃならない?それに言うべき場所とタイミングを良く考えてから喋れよ」


俺の言葉にハッとなって、天草先輩の方へと視線を向ける尊...解かってくれたなら早く何処かに...


「あぁそう言えば天草先輩の実家に行ってたんですよね?愚兄が先輩のご家族にもご迷惑をお掛けした様で...僕からも御詫びします、申し訳ございません...」


この一言に天草先輩の眉間がピクリと動く...前にも噂や風聞に流されるなと警告したのにな...


「ねぇ...君さっきから一体なんなの?」


「え?...いや...僕は至らぬ義兄に代わってお詫びを...」


天草先輩からの軽蔑する様な視線を向けられ、慌てて取り繕う尊...しかし...


「城二君が沖縄で何をしてたか何も知らない癖に、知った様な事を口にしないで欲しんだけど?君の話を聞いててボクもの凄く気分が悪いんだけど?」


「い、いや...愚兄は沖縄で殺人事件に関わってて...その天草先輩のご家族にも迷惑を掛けたと...」


「はぁ――――君さ、詳しく事情を知りもしない誰かの言葉を鵜呑みにして、こんな公衆の面前で有りもしない出まかせを大声で口にしてて恥ずかしくないのかい?」


天草先輩の言葉の通り周囲にはキャラリーが群がっていた...


「はっきり言っておくけど、城二君は天草家にとって大の恩人なんだ、事件に巻き込まれたのは確かだけど、それを解決したのは他でもない城二君なんだ、君はもっと物事の本質を見極めてから人と接するべきだよ、2年の中で実力も人望も厚いって聞くけど、ボクにはその方が疑問に映るね」


天草先輩からの冷たい視線と辛辣な一言に、顔を顰め焦りの表情を浮かべる尊は酷く動揺してる様だ


「ね、ねぇ尊君その辺にしときなよ...皆見てるし...」


藍瑠に促され諦めたのか肩を落とす尊は...


「先輩...嫌な思いをさせて、申し訳ありません...」


そう天草先輩に頭を下げると、藍瑠の後に付いて俺達の横を通り校舎へと入って行った


(調子に乗るなよ...)


すれ違い様にそんな言葉が聞こえて来た様な気がして振り返るが、二人は此方を振り向くと来なく正面玄関へと消えて行った


「なんだいアレは、アレが城二君が魔刑部へと推してた弟の尊君かい?ボク的には入部を断ってくれて清々してるよ!」


「ま、まぁ尊は僕に色々思うところが有って、当たりもキツくなるのも仕方ないんです...」


「まぁ、君が言うなら気にしない様にするけど...もし今回の事で他の人からも何か言われたら直ぐボクに相談するんだよ!そんな奴が居たらボクが解るまで説明してやるんだから!」


天草先輩はフンスとサムズアップすると大きすぎる胸がブルブルと揺れた...


「あ、あぁぁアハハハ、そ、それは心強いです...その時は遠慮なく...あ、それよりさっき何か言いかけてませんでした?なんか明日がどうとか?何だったんですか?」


俺がその事を尋ねると、急にモジモジしだして


「あ、あぁその朝なんだけど...もし城二君さえ良かったら毎朝ボクと...キーンコーンカーンコーン♪...」


先輩の声を遮る様に授業前の予鈴が鳴る


「不味い!先輩急ぎましょう、遅れちゃいます!!」


「あっちょっ...未だボクの話がぁ―――」



〇——————————




「北野...沖縄と東京には時差は無いぞ?早く席に着け」


「はぁはぁはぁ...わ、わかり...はぁはぁはぁ...ましたぁ...ゼェゼェゼェ」


俺は倒れ込む様に自分の席に座ると...息つく間もなく翠さんの号令で起立させられた


「ホームルームを始める前に、2年は焼却炉の清掃と裏山の草刈り、そして学校のガーデニングの手入れを新しく係りで決めるんだが、北野、昨日お前が居ない間に係りが決まってな」


これは初耳だ...ゲームではそんなイベントも設定も無かったはずだ、どう言う事だ?


「せ、先生?決まってな?って何が決まったんですか?」


「あぁ北野お前はガーデニングの係りに決まった」


「はぁ?嘘でしょ!?」


「嘘ではない、お前の後ろの表に書いて有るから後で、ちゃんと自分で確認しとけ」


ガーデニング係り?嘘だろ俺、花や植物の世話なんか生まれてこの方した事ないって...それにこの学校の中庭無駄に広いんだよな...最悪だぁ~


「にゃはは、城二っち仲良く頑張ろう♪」


「へ?...?」


俺がキョトンとしてると天音さんが俺の背後の表を両手の人差し指でチョンチョンと指さしウインクする...


「(金曜担当)2年1組ガーデニング係り: 正)池上 天音♡(なんかハートのシールが貼られてる)副)北野 城二☠(髑髏のシールが貼られてる...誰だ)」


藤堂ぉ――――俺は助けを求める様に藤堂の方を向くと...残念そうに俺に向かって草刈りのジェスチャーをしていた...




「北野、今現在で何の係りにもなって無い者全員で公平にくじ引きして決めたんだ異議も拒否も認めん」




...これってもしかしたら、お蔵入りになった池上 天音の恋愛ルートなんじゃないの?






















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