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第25話 白黒天使の降臨


〇—————————星城女子大 近くの猫カフェMATATABI



茶色いレンガ作りのこじんまりしたお洒落な店作り、緑に塗られた木製のドアを開けると、猫の脱出防止の為の中扉が有りさらにそこを開けて店内に入る


「いらっしゃいませぇ~♪」


「いらっしゃ――――って、城二君じゃん~キャァァいらっしゃーい!」


「は?へ?何城二っちってこの店の人と知り合いなん?」


薄々そうでは無いかと思ってはいたが...予想通りここは音田さんと山吹さんのお店の様だ...


何故なら店内に入って直ぐ真正面に、馬鹿デカいパネルが掲示してり、その写真は身に覚えがある...俺が札幌護国神社で二人とトラの3ショットを撮った写真だった...


「城二君、来るなら前もって言ってよぉ~」


「フフ、招待券使ってくれてお姉さん嬉しい♪」


二人は黄色いエプロンを身に着けたファミレス店員の様な恰好だ...しかし


「わぁお姉さん達その猫耳のカチューシャ可愛いぃぃ―――」


「おっ?城二君の彼女ちゃん判ってるじゃん―――!」


「特別に猫耳カチューシャ付けちゃう?♪」


「えぇ~良いんですかぁ~ヤッピ― ...ねぇねぇ♪どうどう?城二っち!似合う?似合う?」


天音さんは音田さんから予備の猫耳カチューシャを借りて自分の付けてたカチューシャを俺に手渡すと、俺の方を向いて猫の手を作りアザとく上目使いで見つめてくる...


「え、あ、あぁぁとても似合ってるよ、天音さん」


「ニャハハハ~」


それから天音さんは、音田さんと山吹さんと3人で写真を撮りまくり、直ぐにSNSへと上げていた...俺もゲーム開発会社に勤めていたが、こういうSNSには疎く市場調査やゲームの評価調査なんかも部下の女性社員に任せきりだった


3人の撮影会に満足した所で、案内された外向けのカウンター席へと案内される...カフェ内は店の外周に向かってのカウンター席しか無く中央には猫達が放し飼いされていて、フカフカのマットや遊具が置いて有る、実際に十数匹のネコが追いかけっこしたり遊具の上で寝て居たりと自由気ままに過ごしている、中には客の手渡す猫用のお菓子目当てでお客とじゃれ合う姿もあった...


「意外と男性客も多いんだね」


店内はほぼ満席で、女性客の方が圧倒的に多いが予想に反し男性客も3,4人見かけた


「ん―――カップルぽいけど、あ、あの人はサラリーマンかな?スーツ着てるし」


天音さんの視線の先のサラリーマン風な男性は少し疲れた表情だが、2匹のネコのお腹を撫でながら細く笑みをこぼしていた...


(あぁ~俺も、前世の時に猫カフェの存在を知ってればな...あの人もギリギリの中でこうして癒されて又、月曜からの活力にするのだろう...)


「猫カフェ...尊し」


「ぷっっっちょっとヤダァ―――もう、城二っちてばオジサンぽい―――」


思わずつぶやいた一言に天音さんが反応し笑われてしまった...


「あ、いや...ほ、ほらトラの喋り方がなんかそんな感じだからさ、う、うつっちゃったかなぁ~アハハハ」


『儂の言葉と貴様の言葉では重みが違うわ、この痴れ者が』


「わあぁぁトラちゃん久しぶりぃ―――モフモフ――――」


『や、止めぬかぁ―――南蛮娘ぇ――――グフ、ゴロゴロ...』


「え!?城二君トラちゃん連れて来てくれたの!?」


「きゃぁぁぁトラちゃん―――――♪」


天音さんの声に音田さんと山吹さんが反応し、接客そっちのけで食いついて来た


「ねぇあれって!?」「うっそっ!?」「あの写真合成じゃなかったの!?」「ヤバ、マジ天使ぃぃ!?」


「ちょっ!?音田さんも山吹さんも!お客さん...って!?ええええええええ!!」


ふと周囲を見渡すと、音田さんと山吹さんの背後に店中のお客さんが一列に並んでいた


「なっ!?何!?」「ちょっマジなんなん?城二っち?!」


「なははは、城二君ちょ――――とトラちゃんを私らに預けて貰っても良いかな?」


「へ?は、はぁ...それは構わないですが何する気ですか?」


困惑する俺と天音さんにチチチッと人差し指を揺らし得意そうな顔で山吹さんが立ち上がり背後のお客さんに説明する


「はぁぁい、皆さん伝説の白黒天使、トラちゃんの降臨で――――す!おひとり様1回3分で触れあいタイム及び撮影タイムを設けま――――す、一列にお並び下さい――――」


「「「「きゃぁぁぁぁトラちゃん――――!!」」」」


「.........」


『まっまてぇぇおい城二何とかしろ!!儂は嫌じゃぁぁぁ』


トラの困った表情を白けた目で見つめながら...


「なんかアイツやたら女の人にモテるんだが...」


「プッ何な~にぃ~城二っちてばトラちゃんに嫉妬してんのぉ~?みっともなぁぁい」


横で天音さんに頬をつつかれながら「そんな訳ないだろ!」と否定しておく


そんな俺達に...


「ふふ、二人とも仲が良いのね、あ、これサービスね、ワンドリンクは無料だから山吹姉さん特性のシフォンケーキだよ」


見てみるとラテアートしたカフェと、シナモンの甘い香りの漂うシフォンケーキが俺達のカウンター席に置かれていた


「そ、そんな山吹さん悪いですよ」「そうですよ~ケーキまでぇ~」


お盆を胸元に抱えた山吹さんは店の外を指さし俺達に向かってウインクした


山吹さんの差す先を見てみると...


「はぁぁぁ!?なんじゃこの行列はぁぁぁ!?」


見ると店の周りを何週するのか分からない程の行列が出来上がっていた...しかもほぼ女性ときた...


「いやぁ―――お客さんがSNSでトラちゃんが店に降臨って拡散したら一瞬で1万リツイートされててね、アハハ」



〇—————————————


既に何度かのお代わりをしたカフェラテに口を付ける...目の前で音田さんが仕切りながらトラとの撮影会が滞り無く行われているが、外も日が傾いて尚行列が途切れる気配は無い...


トラも既に観念したのか、疲れ果てたのか撮影するお客にされるがまま状態だ


天音さんは、トラに主役の座を奪われた他数匹のネコと戯れている


「ねぇ―――トラちゃんみたいな才能のネコが出てきたら皆困っちゃうよねぇ―――」


一匹のネコを目線の高さに抱えながらそう話かける天音さんの背中しか見えないが、何処か寂しそうな雰囲気を感じる...そうあの学校のガーデンロードで感じたあの...


「天音さん...俺で良ければ話聞くよ?」


天音さんは暫く無言でネコとじゃれ合いながら...


「うん、じゃこのネコちゃんと城二っちに聞いて貰おうかな...」


俺の方を振り返る事無くそう答え語り出したのだった...





















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