〇—————————城二の自宅マンション自室
「...てな感じで、トラの撮影会で結局閉店前まで店に居たよ」
『へぇ――寅之助人気だな』
結局、トラの撮影会の行列が途切れる事が無く、俺が出張って行列の最後尾で「本日の撮影会終了」のプラカードを持って、並ぼうとしたお客さんに謝罪して帰ってもらうという嫌な役目を買って出る事になった
そしてお土産にと、店の目玉スイーツである山吹さん特製のシフォンケーキをホールで天音さんと其々にお土産に頂いた、天音さんを駅前まで送り夕飯の時間を少し過ぎた所で無事に帰宅したのだ
「俺は別に良かったんだけど、道代さんが音田さんと山吹さんに苦情の電話をしてたみたいで、お土産まで貰っといて何だか申し訳ないよ...」
『今度私と行く時は、寅之助にはお留守番してもらおう』
そして今は夕飯も風呂も済ませて、真白に電話で今日の出来事を話していた
「だな...トラの奴帰ってから一言も口利かなくてさ...本気で怒らしちゃったかな?」
『なら、ケーキを仲良く半分こにして仲直りだ』
「ま、真白...その下りかなり気に入ってるな...」
『で、天音と遊んで楽しかった?』
テレビ電話では無い為、真白の表情は読み取れないがなんとなくだが不機嫌そうだ...
しかし、いくら真白が親友だと言っても、本人じゃ無いのに勝手に家の悩み事を話すのは筋が違う
「あ、あぁ天音さんは本当にネコが好きだったらしくて、凄く楽しそうだったよ?」
『ん、私が聞きたかったのは...まぁ良い、今度私が時間出来た時に絶対に行くぞ』
「フフ、実は音田さんと山吹さんから無料招待券をまた貰ったんだ何時でも言ってくれ」
『ん、ヤレヤレだぜぇ』
「...今度はジョウジョウの奇跡の冒険ですか...」
『ウィリリリリ』
「いや、なんでも漫画のセリフを言えば良いって、訳じゃないからね!?」
その日は真白とジョウジョウ談議に熱が籠って、電話を切ったのは深夜1時を回っていたのだった
〇―――――――翌週月曜...2年1組の教室にて
「ヤッホ―!城二っち土曜は楽しかったねぇ――――」
席に座って荷物を机にしまっていると登校してきた天音さんが手を振りながら教室に入るなり俺に声を掛けて来た
『はぁ?北野の野郎、女神様と休日にお出かけしたのかぁ!?』
『最近まともになったと思ったが、俺たちの女神に手を出しやがってぇぇやっぱり気に食わねぇ!』
『我等がギャル女神様に向って不遜である、ギルティィ――』
男子生徒の9割が俺の方を呪い殺しそうな目で睨みつけて来る...
「ちょっ...天音ちゃん...そんな大声で...」
翠さんはクラスの空気を敏感に察し天音さんの振っている手を掴んで、周囲を心配そうにキョロキョロする
「にょぉ?どったん?みどりん?」
キョトンとする天音さんに翠さんは必死に小声で説明している様だ、天音さんはイマイチぴんと来てない様だ...そんな時に
「ぉ...ょ...ぉ」
天音さんと翠さんの後ろから藤堂が二人を避ける様に登校してきた
「あ、おはよ~時哉って?今日はどしたん?先に行ってくれって?そんな時間変わんないじゃん?その位待つのに?」
「ぁ...いや、今日はちょっと...」
そう言うと俺と一瞬だけ視線が合った、時哉の目は複雑な感情が籠ってる様に見えた
「?どうした?時哉...何かあったのか?」
「ぁ...ぃゃ...あっ、そ、そういや綾瀬ちゃんに呼ばれてたんだった、わ、わりぃちょと行ってくる」
そう言うと自分の荷物を机に無造作に置き、逃げる様に教室から出て行った
「なんなん?アイツ...ったく...世話の焼ける...」
溜息混じりに首を振りながら天音さんは、時哉の鞄から荷物を取り出し机の中に仕舞っていた...そんな時、時哉の鞄からヒラヒラと一枚の写真が天音さんの足元に落ちる
「ん?写真?って...何これ...」
「ん?天音ちゃんどしたの?」
写真を手にして固まっている天音の肩越しに、翠が写真を目にすると
「ちょっ!?これって天音ちゃん!?本当に城二君と!?」
「はへ?...!?イヤイヤイヤイヤ!?違うって、みどりん!!」
写真を手にしたまま振り返り、動揺して目を剥いて固まってる翠さんの肩を掴んで揺さぶっている天音さん...
(なんなんだ?一体...って!!?)
●―――――時間は遡り、日曜の昼頃...藤堂棍術道場近くのコンビニ
「はぁ―――ダリィ――――何で休みの日まで修行しねぇとイケねぇ―――んだよ、あのクソ親父め」
時哉は藤堂流と刺繍された武道着を着用したままコンビニで購入したスポーツドリンクを、一気に半分近く飲み干し駐車場の端で座りこんで居た
「根性を叩き直すとか言ってるけど、あれはどう見ても虐待だぞ?っテテテ」
よく見ると藤堂の道着は汗を吸い込み変色しており、まくりあげた袖から見える腕の至る所に赤い痣が出来ていた
自分の腕や顔に出来た傷を触りながらも指先に血が付いて無いかチラチラ確認していると...
「ん?」
急に足元が暗くなり...誰かの影が日差しを遮る
「藤堂時哉君、だよね?」
「あぁん?何だてめぇは...って、お前か...何か用か?」
「君と少し話がしたくてね?」
時哉は眉を顰め明らか嫌な表情をすると...その場で立ち上がり
「ワリィが俺の方はお前と話す事なんか何もない、俺はそろそろ道場に戻るから...それじゃな」
振り返る事無くその場を去ろうとした時哉に
「池上天音さんについて...と言ってもかい?」
時哉は立ち止まり、怒りに満ちた表情で振り返ると...
「テメェ...天音に何かしたらブチ殺すぞ!」
殺意の籠った目で目の前の男を睨み付ける...
「まぁそんな凄まないでくれよ...僕はただ君に池上さんについて、ちょっと知らせておく事があって、話をしたかっただけだよ」
「ちっ...勿体ぶりやがって...まぁ話くらい聞いてやる、でも手短に話せよ、こっちはテメェと仲良く立ち話する気はねぇんだ」
「フフ、随分な嫌われようだね...まぁ良いこれを見てくれ...」
時哉は男が差し出した一枚の写真を受け取ると...
「はぁ!?何だぁ!!これ...嘘だろ...」
「昨日に僕の友人が偶然撮った写真を、そこのコンビニで現像したんだ、ここに写ってるのは、池上さんと...」
時哉が震える手で見つめる写真には、天音と城二がカフェの前で仲良さげに手を繋ぎキスしてる写真だった...
「写ってるのは、池上さんと僕の義兄 北野 城二だよ」
そう告げる尊の口元は俄かに笑っていた...