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第28話 踊る者達と静観する者達


〇翌朝、登校間もない2年1組教室 



朝から様子のおかしかった藤堂の荷物を溜息交じりに片付け始める天音さん...


その時、時哉の鞄からヒラヒラと一枚の写真が天音さんの足元に落ちてきて


「ん?写真?って...何これ...」


「ん?天音ちゃんどしたの?」


写真を手にして固まっている天音の肩越しに写真を確認する翠は目を剥いて驚く


「ちょっ!?これって天音ちゃん!?本当に城二君と!?」


「はへ?...!?イヤイヤイヤイヤ!?違うって、みどりん!!」


写真を手にしたまま翠の方へ振り返り、動揺している翠さんの肩を掴んで揺さぶって否定している天音さん...


(なんなんだ?一体...って!!?)


天音さんの手の中にある写真を見てみると...


「はぁ?なんだこれ!?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


「成程ね...確かにカメラの角度が絶妙でキスしてる様に見えるけど、言われてみると天音ちゃんが城二君の手を引いて店に入ろうとする瞬間の様にも見えるね...」


「いやいや!?見えるね...じゃなくて、本当にそうなんだって!?」


翠さんも半信半疑だが、一応俺達の説明にも頷ける所もあると一応は納得してくれた


「に、しても...こんな角度で写真を撮るなんて...そんな気配感じなかったけどな」


「うん、アタシも全然気づかなかったよぉ~」


「だが...不味いな...」


「???」


俺が何に対し不味いと思っているのか理解出来てないのか天音さんは首を傾げている...そこに


「お早う城二、翠も天音さんもお早う...って、そいや時哉なんかあったのか?さっきすれ違ったけどなんか凄く思い詰めた顔してたぞ?」


やっぱそうなるよな...早く誤解を解かないと、嫌な予感がする


・・・・・・・・・・・・


その後朝のホームルーム直前まで藤堂はクラスに顔を出さなかった...チャイムギリギリで戻って来た藤堂は此方を振り返る事無く自分の席に着く、授業中にも何度か藤堂の方へ視線を向けるが俺の方に視線を向ける気配は無い


(昼休みにでも何とか時間を作って誤解を解かなきゃ)


しかし...


「わ、ワリィちょっとツレと約束が...ま、またにしてくれ...」


そう言うと、また逃げる様に教室から出て行ってしまった...


「城二君、あれじゃ取り付く島も無いね...何とか話をする機会を...」


ピコン♪ピコン♪...


その時クラス中の生徒のスマホにメッセージ着信の音が鳴り響く...そして...


「ちょっ!?何これ...」


翠さんはスマホの画面を見つめながら青い顔をしていた...俺はクラスのグループチャットに入って無いので内容は分からないが...


「はぁ―――――城二っち...これよ」


そんな俺に向って天音さんが自分のスマホの画面を突き出し見せてくれた


【ギャルとクズのタダれた関係、援交の瞬間か?】


そんな見出しに、先ほど時哉の鞄から出て来た写真と同じ映像が写し出される...しかし...


「ちょっと待て!?何で背景が猫カフェじゃなくてラブホテルになってんだ!?」


驚く俺の様子に溜息とつきながら軽く首を振る天音さん


「誰かが背景を合成したんだろうねぇ~本当に下らない...」


「でもこれグループチャットだけど、元は学校の掲示板からの引用みたいだよ?」


翠さんの横に立って自分のスマホを操作しながら、情報の出何処を確認していた葛西君が画面を見ながら教えてくれた


「掲示板か...それだと学校の生徒なら誰でも書き込めるな」


というか、掲示板に書かれてると言う事は...


〇 2年5組教室にて...


「あ、あの...雨宮さん...これ見たかな?」


真白はいつも通り自分の机でスマホを弄って(最近は不滅の刀のスマホゲームにハマってるらしい)いた真白にクラスメートの女の子が自分のスマホ画面を見せて来た


「ん?城二と天音?二人の写真だ...これが何?」


真白の淡白な反応に少し驚く女子生徒


「え?いやこれ二人がその...ホテル前でキ、キスして...」


「ふぅ―――ん、で?」


「え?いや...北野君て雨宮さんと仲良くしてるのに...その...池上さんと、こんな関係持って不潔だなって...雨宮さんもそう思うでしょ?」


「ん?別に?天音も城二も友達、二人とも私に嘘つかない私は二人を信じてる」


「は?え?イヤイヤこんなハッキリした証拠が!」


女子生徒が指差すスマホ画面を青く輝く流星眼で見つめる真白は...


「下らない合成写真」


「は?え?ご、合成?」


「もう良い?私今忙しい」


そう言うと自分のスマホゲームに没頭しだした...当てが外れた女子生徒は、顔をしかめながら渋々他の女子グループの輪へ加わり今の話題を話し出した



〇 2年3組教室にて...


「藍瑠これ見た?」


机を並べてお昼を食べていた藍瑠と数名の女子グループの一人がお弁当を食べている藍瑠にスマホの画面を見せる


「え?...こ、これって...」


画面を見た藍瑠は目を剥いて驚いていた


「まぁこの援助交際ってワード妙にシックリくるよね―――北のクズ顕在って感じよね――」


自分にも見せてと他の女子生徒もそのスマホ画面をこぞって覗き込む...


(え?城二君と池上さんが?てっきり城二君は雨宮さんが好きなのとばかり...最近は真面目になった思っていたのに相変わらずって事...なの?)


「いや、最近雨宮さんだけじゃ無く池上さんや青木さんとかとも仲良くしてるって噂だし」


「え―――あの真面目そうな1組の委員長が!?てか青木さんて同じクラスの葛西君と付き合ってたんじゃないの!?」


「あぁ―――それなんか別れたらしいよ?それも北のクズが関わってるとか...」


「えええ!マジ?何それ聞きたい聞きたい!!」


どこの世界でも女子高生は人の恋路が上手く行ってる話よりも破局した話の方が好物らしく、言い出した女子生徒も「噂だからね」と、自分の言葉に責任を持たないお決まりのワードを前置きし、有る事無い事を尾ヒレを何個も付けながら悪意の籠った内容を話している...


しかし藍瑠には今その事を咎めるだけの心の余裕が無い...そんな時


(え?尊君?)


クラスの端で話込んでいる男子グループの中心に居る尊君が、一瞬だけ此方を見ていたが直ぐに男子グループの会話の輪に戻っていった


(...何?この背中に感じる悪寒は...)



〇 昼休み中の職員室にて


「皆川先生!!これはどういう事ですか!!」


教頭先生が顔を真っ赤にしてタブレットを手に、お昼のサンドイッチを食べていた綾瀬の元へとやって来る


「これとは?」


「これです!またあの北野がやってくれましたね!!」


綾瀬は教頭の見せて来たタブレットを目にし、少し黙り...


「これ...北野と池上の足下の影とホテルの横にある電柱の影の向きが90度違いますね」


綾瀬の指摘に対しタブレットを穴が空くかと思うほど見つめる教頭...


「つ、つまり...どういう事?」


「はぁ――――合成ですね...しかもかなり陳腐な程度の低い...恐らく素人でしょう」


「はぁぁ!?ご、合成ぃぃ!!」


綾瀬は教員になる前は退魔特殊魔刑部隊で隊長まで務めた傑物だ、写真の偽造についても鑑識の研修を積んでおり最低限の見識を持ち合わせていた


「し、しかし...これは不純異性交遊じゃないか!?」


「今時キス位で...でもこれは角度次第では、ただ手を引いてる様にも見えますよね?」


「なっ?!そ、そう言われると...」


「もう宜しいですか?教頭私は今昼休憩で食事中です」


「あ、あぁ手間を取らせたね...」


そう言うと教頭はタブレットを何度も見直しながら自分の席へと戻って行った...


(たく...アイツはトラブルに巻き込まれないと気が済まないのか?)


・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


〇 2年1組の教室...放課後


藤堂に声を掛け少し話がしたいと伝えたが


「あ、わ、ワリィ俺直ぐに帰って稽古しないと」


藤堂は慌てて荷物を手に教室を出て行ってしまった...


「藤堂・・・・」


「やぁ城二、部活に誘いにきたよ?って...どうしたんだい?」


「ん、城二部活いくぞ」


藤堂が出て行って直ぐに天草先輩と真白が俺たちの教室へとやって来た


「あ、マシロンと天草パイセン、チャァ―――す」


「天音ちゃーす」


「アハハ、ちゃーす」


俺と天音さんは翠さんと葛西君と挨拶して魔刑部へと向かった...


「今日は池上も参加か、歓迎するぞ」


「よろしくお願いしやぁ―――しゅ、九鬼パイセン―――」


天音さんは元気よく頭を下げる


「よし!それじゃ今日は池上と私で併せと行こうか」


「よっしゃぁぁ!」


この日初めて部活に参加した天音さんは、カフェで見た憂いを感じさせない何時もの向日葵の様な笑顔だった


その日の部活終わり...


「ねぇ城二っち、アタシねやっぱ城二っちやマシロンと一緒に部活したい!」


くるっと振り返り笑顔でそう答える天音さん


「そっか...それが天音さんの望む自由なんだね」


「フフフ、折角出来た大事な友達と一緒に、青春したじゃん?って、思ったのぉ~だからアタシ博覧会本気で挑んでみるよぉ!」


お道化た笑顔の中に確かな決意の意志を見せた天音さんのサムズアップに、改めて尊敬の眼差しを向ける


「天音さんなら、大丈夫さ俺や真白、それに翠さんや藤堂、葛西も付いてる!自信持って!」


「時哉か...そうだよね...昔から一緒に育った幼馴染だもん、あんな噂に騙されたりしないよね!うん!!アンガト~」


手を振りながら帰宅する天音さんの背を見送る俺...この後、天音さんの身にあんな事が起こるなんて思いもしてなかった...






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