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第30話 潜入

〇池上家前


先程の藤堂家も和風建築の立派な作りだったが、池上家は更に荘厳な作りだった


正面の門とは別に勝手口が有りそこに呼び鈴がついていたので押すと


『はい、どちら様でしょうか?』


天音さんとよく似た女性の声が聞こえる


「あ、天音さんと同じクラスの北野と申します...天音さんの容体は如何でしょうか?」


『...北野さん...折角お尋ね頂いたのに大変申し訳御座いませんが、このままお帰りください』


(ここでもか...嫌われてる事に納得してるとは言え...少し堪えるな)


「あの、クラスの皆も...天音さんの他の友人も心配してますので、容体だけでも教えて頂く訳には...」


『お帰り下さい』


(ダメだ取り付く島も無い...だが此処で粘っても迷惑になるだけか...)


「分かりました、天音さんに宜しくお伝えください...」


そう言い、勝手口から離れる...だが...


「トラ出て来い」


『貴様、何度も言わせるなもっと儂を呼び出す際は敬意を以ってだな...』


「頼む、お前の力で天音さんの様子を見てきてくれないか?何か嫌な予感がする...この通りだ」


足下の影から姿を現したトラに頭を下げる


『ふん...まぁ良かろう金髪娘にはいつもみーとぼーるを捧げてもらっておるしな...』


そう言うと、ピョンと塀に飛び乗り屋敷の中へと入って行った


「頼んだぞ...」


〇―――――近所の公園内ベンチ


俺はベンチに腰を下ろし、トラからの報告を待っていた


天音さんの追加シナリオの内容は詳細を把握出来てないが、物語後半でパーティーに加わった時に強くなっていたサイドストーリー的な内容も盛り込んだと、部下のシナリオライターが言っていた


天音さんの体調不良が関係しているのかは不明だが、トラからの報告である程度は状況が判るはずだ


「待たせたな城二」


気が付くといつの間にか戻って来ていたトラが足下に座っていた


「ご苦労様...で、天音さんの様子は?」


「ふむ...貴様の悪い予感とやらは良く当たると見える」


「天音さんの身に何が...」


トラはピョンとベンチに飛び乗ると俺の方をジッと見つめ


「金髪娘は神域に囚われておる」


「!?」


「心当たりが有るな?」


天音さんは物語後半に参加した際に、とある神と契約していた...その神とは...


天宇受売命アメノウズメか...」


トラは静かに頷いた


つまり今の天音さんは、玄武の修練場で白虎であるトラの神域に閉じ込められた真白と、同じ状況って事か


「神域に囚われ続けると、どうなる?」


「...それは神域の神にしか分からぬが、金髪娘が未だに神域から脱する事が出来ぬと言う事は、アメノウズメとの契約に難航してると見るべきだな」


「難航か...神域で天音さんとアメノウズメの間で一体何が...」


「だが城二よ、急がねばなるまい神域に囚われているのは金髪娘の魂だけ、肉体は人域に有る...このままでは肉体が持たない」


!?


「な、なんとか出来ないのか!?」


トラは片目を開け俺の方を見つめ


「貴様なら出来るのでは無いか?玄武の修練場で真白を招いた神域に、儂の断りも無く勝手に外部から侵入してきた貴様なら...」


〇再び池上家前


俺は再び池上家を訪れ呼び鈴を鳴らす


「はい、どちら様でしょうか?」


イヤホン越しに先程の女性の声が聞こえて来た


「何度も申し訳御座いません、北野です」


「はぁ——...何度来られても答えは同じです、お帰りください」


そう言いインターフォンを切ろうとしていた女性に


「天音さんは、今神域に囚われてます」


「なっ!?...」


「このまま放置すれば身体が持ちません...点滴で凌いでも一時しのぎです、早めに手を打たなければ手遅れになります」


「...お入り下さい」


ガチャ


鍵の外れる音がしたので、勝手口を開け中に入る...長い中庭の石作りの道を進み本宅の玄関に到着するとガラガラと扉が開き...着物を身に着けた黒髪の女性が頭を下げて立っていた


「先ほどは大変失礼しました...私は天音の母の音羽おとはと申します...北野 城二さん」


「...僕の名前を...」


「はい、北野家の名は有名ですし...貴方の名前も...」


城二の悪名はこんな所でも通ってるのか...嫌になるね、ったく


「それは、お耳汚しを...北野 城二の悪名を知ってて何故、僕の言葉を信じて家に招いたんですか?」


「娘が...天音が今度の全国華道博覧会で私と家元を破り最優秀作品賞を取ると言いましてね...あれだけ渋っていた博覧会への参加に急に前向きになったので訳を訪ねてみた所...」


『城二っちと、もっとお茶したいから♪』


「そんな事を言い出しまして...親馬鹿と思われるかも知れませんが、天音は...娘は先入観なく物事を見る事の出来る感性の天才です、そんな娘が貴方に何かを感じたのでしょう」


「天音さんが...」


「貴方を信じる事は出来ませんが、娘を信じる事は出来ます...」


「解りました...天音さんを僕に診せて頂けますか?」


「此方に...」


そう言うと音羽さんは俺を屋敷の中に招いた...


〇天音の部屋


「此方に...」


部屋のドアを開け中に俺を通す...


天音の部屋は彼女らしく、コスメセットが机いっぱいに置かれており、大量の猫のヌイグルミが部屋のあちこちに置いてあった...


そして奥のベッドに点滴を付けられた天音さんが死んだように眠っている


「月曜に帰ってきて私と家元に全国博覧会の意気込みを語った次の日の朝、なかなか顔を見せないので部屋を覗いたらこの状況でして...」


確かに玄武の修練場の時の真白の状況と良く似ている...


だが今の天音さんの状況はより深刻な様子だ、あの時の真白はトランス状態だったが今の天音さんは完全に神域に引き込まれている


「これから天音さんと神視の同機をします」


二度目だが上手く行ってくれよ...














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