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第33話 天音の覚悟


〇アメノウズメの神域



天音さんは自身の全てを賭け渾身の活け花を作り上げた...


「これが...」


【......】


赤い花を土台に白い花を織り交ぜ蕾のままの水仙を所る何処に配置し中央には黄色い野菊を荘厳に盛り付けた見る者を圧倒する造形だ...


天音さんの活け花を見た瞬間体の芯から震える様な感動を覚え無意識に涙が零れる...


「感性、自由、愛情、熱意...そして激流の様な渇望...」


「うん、これがアタシの今の全て...今の想いを全て込めた活け花「神の楽園」だよ」


はにかんだ、何処かやり切った充実感を見て取れる満面の笑顔でそう答える天音さん


そして気になるアメノウズメは...


【...此れは...神の楽園と言ったか...確かに神が楽しむ園...神楽...華で出来た神楽、華神楽だ】


俺の目から見てもアメノウズメは、先ほど迄の俺への憤怒の荒魂の側面が消え、和魂の温和な優しい...いや楽しい?嬉しい?そんな感情が神域全体に広がる


「アメノウズメ様...如何ですか?天音の心の美は」


【神である妾の心を此処までかき乱し、暖かくし、幸せにし、楽しくさせる...これは間違いなく神美しんびであるな..】


アメノウズメは天音の活けた花たちの傍に近寄り、そっと花々に触れ


【草木に意志など有ろうはずがないと...そう思っていたが、この花々達は自分たちの美しさを最高の形で表現出来ている事に喜んでいる】


「そうですね、生命線である土から切り離され後は枯れるのを待つだけの花たち...だけど花はその美しさを見る者に印象付ける事こそが存在の全て...それは虫であり鳥であり動物であり人で有り...そして神でも...」


【人間の男...確かに貴様の言う通りであろう...これは妾の負けだ...小娘...いや天音の美、確かに妾の想像を超えた華神楽であった】


「アメノウズメ様?じゃアタシの事を認めて...」


アメノウズメは天音の目の前へと飛ぶように舞い降りると、手にした笹の枝でそっと天音の額を撫でる...


【天音、そなたの目は物事の有りのままを見通す眼...その新たな流星眼の見る美の世界...妾も見てみたい】


「え?アタイの眼?流星眼?」


【妾に其方の見る世界、見せてくれまいか?】


「フフフ、良いんじゃない?アメノウズメ...うんん、ウズメン見てて私の見る世界を...きっと後悔させないから♪」


【ウズメン?フフフ、中々に愛嬌のある愛称じゃ気に入った、池上 天音よ我、歌と舞と美の神たる天宇受売命と契約せよ】


「にゃははは、かしこまり♪」


天音さんはウインクしながら自分の額にピースし朗らかに笑った


【フフフ、愉快なり...わが契約者...天音...これからよしなに...】


そう告げならアメノウズメの姿が薄くなって消えて行く


【そうそう...そこな不敬な人間の男...貴様に一つ忠告じゃ...メメント・モリ、貴様に憑いた...神々しくも禍々しき存在に気を付けよ...世話になった貴様への妾からの忠告じゃ...】


アメノウズメが完全に神域から姿を消したと同時に周囲の空間も、俺の目の前も真っ白になり...


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・


〇池上家  天音の部屋


「...戻って来たか」


眼を開けるとそこは、天音さんの部屋だった...ピンクのカーテンから覗く窓から外を見ると、すっかり日が暮れ月が輝いている


「!?北野さん!?娘は!?天音は!?」


手にお茶を乗せたお盆を持って部屋に入って来たのは、目を覚ました俺を見て驚く音羽さんだ


「はい、天音さんは無事に...「ん、ん...なぁにぃ~ウルサイよぉ~って!?城二っち!?何でアタシの部屋に!?ってさっきのって夢じゃ無かったん?」」


「あ、天音...良かった...本当に...良かった」


音羽さんはその場に膝から崩れ泣き出した...俺はお盆を空中で受け何とか零れるのを防ぐ...ふぅ――


その後、音羽さんに神域で起きた事を要点だけ伝え天音さんがアメノウズメの課した、試練を乗り越え契約に至った事を話すと、目を剥いて驚いていた


「お母さん...アタシね今まで活け花って池上の家に生まれたから仕方ない...って感じで続けて来たの」


「天音それは、...」


天音さんの言葉に少なからずショックを受けてる様子の音羽さんは、何かを言いかけたが飲み込んで黙って天音さんの話に耳を傾けている


「でもね、ウズメンの前で活けた花...ただただ花に向き合ってると花の声が聞こえて来た様な気がして...私も楽しくなって...」


「......」


天音さんはベッドの上で両手を固く握っりジッとその両手を見つめ


「アタシね、活け花が楽しくて、嬉しくて...ウズメンや城二っちが誉めてくれて...それが又嬉しくて、あぁ活け花習ってて良かったって...」


「池上の家に生まれて...お母さんの娘に生まれて...おばあ様の孫に生まれて...良かったって思ったよ」


「天音...」


「だからね...」


天音さんは音羽さんの方へ向き直ると、ピンクの瞳の中に煌めく星が輝く流星眼で真っ直ぐ見つめ...


「私の全力でお母さんやおばあ様に勝つよ...そして今の私の事を見て欲しい、私の「活け花」を」


「そう...いい眼ねそれに綺麗...さっき北野さんの言っていた流星眼?だっけ?フフフでも、私だって負けるつもりは無いわ、勿論家元も...ですよね?」


ガチャ


その時部屋のドアが開き、そこには黒い花柄の着物を身に纏った白髪の老婦人が立っていた


「お、おばあ様!?」


「天音さん...いい出会いが合ったようだね...貴方のそのチャラチャラした恰好には未だに全く理解は出来ないけど、その眼は...とても美しいと思えるわ」


「...だから証明して見せなさい、今の貴方の活け花で、貴方の生き方を」


「はい、負けません」


天音さんのお婆さんは、少しだけ嬉しそうに微笑むと部屋に入って来る事無く去っていった


俺はそっと立ち上がり...


「それじゃ僕はこれでお暇させて頂きます...あまり遅くなると心配かけてしまいますので」


音羽さんは晩御飯でもと声をかけてくれたが、俺は丁寧に断りを入れ


「それじゃ天音さん又、月曜に学校で」


「うん♪城二っちも今日はありがとね、月曜からアタシも魔刑部に参加するから、お母さんにもおばあ様にも許可貰うし」


天音さんは笑顔で俺の両手を握りブンブンと上下に揺らし嬉しそうにそう言った


「うんうん、お互いに頑張ろう」


俺は家の前で天音さんに手を振りその場を離れようと...


「きゃっ!?」!?


天音さんが不意に膝が崩れ倒れそうになったのを抱きとめる


「あははは、お腹が空いちゃって...力が入らないや...」


「フフフ、4日も何も食べてないからね...早く何かお腹に入れた方が良いよ」


「だねぇ――――!?」


天音さんが立ち上がろうとして何かに気付いた様に俺の背後を見つめる...



俺は天音さんの視線の先を確認する為、背後を振り返ると




「と、藤堂・・・・」
















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