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第36話 九鬼 可憐という傑物



〇—————————部活後の学校校門前



俺は九鬼先輩に稽古をつけて貰う事(はめ)になり、先に着替えを済ませ校門前にて先輩を待っている


(遅いな...真白も天音さんも天草先輩もお先ぃ――って帰って行くし...何に時間かけてんだ、ったく...)


「おい、城二、女性と言うのは準備に手間がかかる物だ、その位待て無くてどうする?」


「えっ!?九鬼先輩いつの間に...って、勝手に人の心を読まないで下さいよ!?」


少し慌ててる俺の様子が可笑しかったのか口元に指先を当てて、笑っている


(こういう無邪気な笑い方も出来るんだ..でも未だに信じられんな、こんな凛とした先輩が実はドМ気が有るとか...)


「おい、私に対し何か失礼な事を考えてるな...どうやら稽古で事故死したいらしいな...」


「あ、いや滅相も無いです!?」


九鬼先輩は腕組みして俺の事を白い眼で見つめ


「まぁ良い...そろそろ迎えが来る頃だ...」


そう九鬼先輩が呟くのと同時に学校の横にある交差点に、いかにも高級そうな黒塗りの外車リムジンが此方に向かって近づいて来る...


そして俺達の目の前でゆっくりと停車すると、助手席かスーツ姿の女性が降りて来て頭を下げる


「お嬢様、お待たせして申し訳ございません」


「あぁ、私は待って無いよ、待ったのは此処に居る北野君だ」


スーツ姿の女性は俺に向かって怪訝そうな表情を一瞬だけ見せたが、直ぐに表情を戻し深々と頭を下げる


「これは、北野家の御曹司とは存じ上げず誠に申し訳ございません、その上お待たせして...お許し下さい」


「いえいえ、そんな畏まらないで下さい」


スーツ姿の女性は後部座席のドアの開け中にと促す...俺が搭乗する際にチラッと見えた目線には冷たいモノを感じた


(この感じ貝塚さんと同じだ...歓迎はされてないんだろうな)


慣れてしまったと思いたく無いが、今必死に弁解するのもおかしな話だ...それより俺は何処に連れて行かれるのか...


「まぁ到着すれば解かるさ」


(この人、いちいち人の思考を読むな...元々思慮の深い知的な印象だったけど、これは想像以上だ)


目的地へ向かう途中の車内では、九鬼先輩に色々と俺の素性について尋ねられた


何故急に態度が変わったのか?真白との接点は?白虎と仮契約に至った経緯は?


『コヤツに聞いても無駄だ...秘密主義の権化の様な男だからな』


九鬼先輩の質問責めに耐え切れず、白虎に助け舟を頼んだら梯子を外されてしまった


『まぁコヤツとの契約は真白と召喚契約までの腰掛だ、深く考えるな』


トラの言葉に苦い顔をしてる俺にむかって、悪戯っぽく笑いながら視線を向ける九鬼先輩


「とか言われてるぞ?四聖獣はツンデレなのか?フフフフ」


『おい、武者娘なんだそのツンなんとかとは...貴様も儂に対し不敬な事を考えてはおらぬだろうな?』


「フフフ、滅相も御座いませんよ?」


九鬼先輩の底は知れない..俺を魔刑部へと引き込んだ手腕は、真白の性格や俺の性格を知った上で網の様に張り巡らせた策謀による物だ、いくらトラの入れ知恵が有ったとは言え、最後の判定で真白を勝ち名乗ったトラの結果を真白が不服を申し入れ覆す所迄、織り込んだと思うとそら恐ろしい...


「城二よ、もう一つだけ聞きたい、まぁ答えにくかったら答えなくても構わんが」


「はぁ...?」


「お前は何故、義弟に遠慮している?」


「遠慮...ですか?」


「あぁ、お前は義弟が何かを成す人物だと確信めいた思い込みを持っている様だが?」


九鬼先輩の視線に全てを見透かされそうな感覚を覚え、怖くなり視線を外す


「確信...ですか...確かにそうかも知れません」


『・・・・・・』


九鬼先輩は、リムジンの後部座席の窓ガラスの縁に肘をつき俺の方をジッ睨む様に見つめる...


「なぁ城二、私は今まで自分自身が強くなるために研鑽を詰んで来た、剣の道を志した切っ掛けは九鬼家に生まれた事だった...それは否定しない、だがその先へ進む為の努力を私は私自身の為にやった」


「私は、お前の中に私と同じ物を感じた、お前はこの世界で足掻く為...生き残る為に神視すらまともに出来ない状態から僅か1ヵ月という短期間で四聖獣と仮とは言え契約するに至り、秘境を踏破しあまつさえ偽神と渡り合い撃破した」


成程...流石九鬼家と言う訳だ、北野家にも優る情報収集能力恐れ入った


「先輩の見識には素直に驚きますが、そもそも偽神を撃破したのが俺と言う確証は有りませんよ?」


「確かに、その時白虎はチャージタイム中で表に顕現して無かった、だが状況と目撃者からの証言から、私はお前が偽神を倒した物と決定づけている」


「だけど...」


「だけど、どうやって倒したのか全く見当もつかない...だろ?」


俺は九鬼先輩の言葉に黙って頷く...


「城二、これは私の見立てだがな...お前の中には白虎以外にも何か潜んで居る」


「!?へ?イヤイヤ、それは無いですよ!神は一人につき1体迄しか契約出来ないんですよ?」


そう、一つの魂には一つの神との契約、これはこの世界の根幹であり原則だ...唯一の例外である尊を除いて


「だが、天音や青木の目撃情報から、お前の頭を丸呑みしたはずの偽神の頭部が一瞬にして消滅したと聞いた」


「それは、僕も聞きました...その後光の粒になって消えたと」


「そこだよ...」


「?そこ?」


「偽神は死滅しても、数日は残骸として残るんだ、しかも粒子になって消滅するのでは無く砂と化し崩れ消えるのだ」


「??たまたま、あの鳥頭の偽神がそういう消え方をしたとか?」


「まぁお前の言う事も一理あるが、秘境内及び秘境外に進出した偽神を討伐した時の状況は何れも後者だ」


偽神の消え方なんかに、意味なんか有んのか?


「私は全ての事情には何かの意味が有ると思ってる...偽神を破壊でも切断でも無く消滅させた...その力は白虎の力による物では無い...私はそう仮説を立てた」


「で...って!?まさか!!」


ギィィィ、車は、とある海岸沿いの、あぜ道横で停車し女性運転手が後部座席のドアを開け頭を下げる


「着いたぞ、ここが我が九鬼家が保有するBランク秘境の一つだ」


「Bランク!?」


◇秘境のランク


日本各地に点在する秘境は八百万の神の数だけ有るとされている、その格付けはDランクからSランクまで有り、基本的に殆どDランクである、ランクは繋がってる秘境の難易度にも影響し先の神域に棲む神の神格に影響される

Dランクは土着神や九十九神などの郷土神が多い、Cランクになると狛狗や烏天狗などの逸話神か管理している、そしてBランクになると、ヒノカグツチやアメノウズメ、白虎などの上位神が預かる秘境となる


そしてAランクともなると、3柱の神である天照大神や月読、須佐之男命の最上位神の神域が繋がっているとされる...これは踏破した者は極少数存在するが、最深部からも神域へと至った者が居ない為、憶測の域を出ない


そして、その存在自体が謎とされるSランクの秘境...しかし、上位神である思金神オモイカネよりその存在が語られたと公式の記録として残っている


そして18年前の政府の政策にてBランク以上の秘境を個人から買い上げる、公的秘境監視マニュアルが国会で承認され予算委員会を通過し、莫大な予算を計上し秘境を国が徴収して回った


ただ、各地の有力家は政府の要求を突っぱね、引き続きBランク以上の秘境を保有する選択をしていた


そして、その選択は功を奏する...10年経過した今となっては秘境の価値は数十倍に跳ね上がりBランクともなると数千億の市場価値となっている



「ああ、此処はヒノカグツチの神域と繋がる秘境だ、今からお前がこの秘境に挑むのだ...この私とな」

















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