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第38話 自分の為、前に進む為


〇九鬼家個人保有 秘境 管理ランク[B]




〇第二階層...火山地帯


第二階層は、一面がゴツゴツした溶岩石で出来た空間になっていた...そして


「はぁはぁ...くっ...倒しても倒してもすぐ沸いて出てくる...」


俺は膝に手をつき、肩で息をしながら、煤で黒くなった顔に滝の様に汗をかいていた


目の前には深紅の大きなトカゲ...全長は1.5m位だろうかファンタジーRPGに有りがちな「サラマンダー」という口から炎や灼熱のブレスを吐く...


ような、高尚なモノでは無く、九鬼先輩曰く火トカゲという安易な名の、初級魔物だそうだ...聞いた事ない魔物だが、その姿は異様だ


目は退化してるのか見当たらない、その分聴覚と嗅覚が発達していて物音と対象の匂いを嗅ぎ分け攻撃してくるらしい、知性は皆無だが仲間意識は有るらしく集団で獲物を襲う事もあるとか...


「うぉぉぉぉりゃぁぁぁ!」


今日何度目かわからない紅拳で火トカゲを仕留めると...奥の溶岩石の影からまた新たに2体が現れる...そっきからこれの繰り返しでキリが無い


それに、この火トカゲは口から何か吐く事は無いけど体液がやたら熱くて、倒した際に飛び散った体液で何か所も腕を火傷していた


「九鬼先輩...こいつ等なんなです?後から後から...」


そう言いながらも、蹴りや刺突を交えながら火トカゲを討伐して行く...


「まぁもう暫くがんばれ...おそらくそろそろだ」


相変わらず九鬼先輩は涼しい顔で腕を組み俺の様子を傍観している...


ゴゴゴゴゴ...


その時、足下の溶岩石が震え出し俺はその場に立ってられず地面に四つん這いになり必死に耐える...


「なっ!?なんだ...」


「油断するな、来るぞ」


九鬼先輩は震える足場でも、ビクともせず俺に向かってそう告げた


ゴゴゴゴゴ...


目の前の溶岩石が隆起し火トカゲたちが隆起した岩の隙間へと入っていく...


そして隆起した溶岩石は...


「ゴ、ゴーレム...」


「ここからが、第二階層の試練だ...ここからは、神憑依も必要になって来るぞ」


九鬼先輩の漆黒の瞳は輝きを放ち、俺の動き一瞬も見逃さないとジッと見つめていた


「くっ...致し方...無しか...白虎!!」


『ヤレヤレ...だから他の神の秘境に儂を呼ぶなと前も言うたじゃろうが...』


俺の背後に巨体を揺らしながら白虎が顕現する


「神憑依だ...スキルギフトを」


『...まぁ良いか...少しだけ時間を稼げよ城二・・・・・・』


仮契約ゆえ仕方の無いギフトの為のスキル準備を始める白虎


「早く頼むぞぉぉぉぉぉ!紅拳————!」


俺は左右の紅拳を繰り出し、ゴーレムの溶岩石の硬い身体に打撃を加えて行く...


「あちっ!!」硬さは偽神程では無いが砕けた岩の隙間から、火トカゲの体液が飛び散りジュ―と音を上げながら俺に火傷を負わして行く


『待たせたな、何時でも良いぞ城二』


「しゃぁぁぁ!『風の型 悠久ゆうきゅう鋭風えいふう』」


両手に風の刃の回転ノコギリを纏いゴーレムの身体を粉々に粉砕して行く


「うぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」


体液が撒き散り、彼方此方に火傷を負ったが、偽神の時の様に時間切れはもうコリゴリだ、今は一刻も早くゴーレムのコアを破壊しなくては...


「!?見えた、あれがコアだ!」


ゴーレムの右側の胸元を削りながら進んで行くと、赤い大きなルビーの様な宝石が見えた...魔道生物の生体コアだ


「これでぇぇぇ倒れろぉぉぉ」


風の刃のノコギリを纏った両拳でゴーレムのコアを削り...ピシッと亀裂の後、生体コアは音も無くボロボロに砕け散る...


「やったぁ!?うぐっ!!」


コアを砕いた瞬間にゴーレムの右拳が俺の左側面にクリーンヒットし俺は大きく吹き飛び、溶岩石の床に叩き落とされる...


尖った岩場で切り傷擦り傷にまみれた身体を起こしながら、ゴーレムの方を見るとその場から動く事無く身体がボロボロと崩れ落ち、火トカゲと一緒に溶岩の中へと消えて行く


振り返ると、白虎は何時の間にか消えて居なくなっていた...どうやら時間切れの様で、次に呼び出せるのは約10分後


「や、やりました...九鬼先輩...」


「あぁ・・・次の階層への扉がでたみたいだ、行くぞ」


九鬼先輩の視線の先に有るゴーレムの残骸の隙間に、次の階層への扉が出現していた



〇第三階層...迷宮


ここは学校のテストで入った土童子の秘境にも有った石のタイルで加工された、ザ・ダンジョンという作りの階層だ


あの時はトラップやラビットボルトが出てきたリしたが、この階層では特に何も起こらない...だが何が起こるか分からない何と言っても管理ランクBの秘境だ


「九鬼先輩...ここは...」


「あそこに見えるのが四階層への扉だ」


後ろから腕を組みながら俺に付いてきている九鬼先輩は視線を前方の空間に向けた


「こんなアッサリ...チャージ時間も稼げたし...ここは安息の空間レストルームだったのかな?」


俺たちは大きな鉄の扉の前にたどり着くと、扉の取っ手に手を掛ける


『炎の刻印を提示せよ』


手を掛けた瞬間、鉄の扉にそんな文字が浮かび上がる


「炎の刻印?そんなアイテムこの一本道の三階層に無かったけどな?」


俺が頭を悩ました結果、見落としが無いか確認する為、来た道を戻ろうとしていたその時


「これだ」


九鬼先輩は自分の左腕の袖を捲り白磁の様な細腕を扉の前に掲げる...


ガチャ


扉の閂が外れる音がして扉が少しだけ開く


「それは...」


九鬼先輩の左腕には僅かながら火傷の痕が薄っすら残っていた...俺は自分の両腕を見てみる


「と、言う事は...九鬼先輩も...」


「貴様は私を何だと思ってる...私は真白の様に生まれながらの強さを持ち合わせた訳じゃない」


初耳だ、九鬼可憐といえば、火力最強のパーティキャラだ...俺は勝手に戦いの天才だと思っていたが、この強さは努力の結果だと...

あれほどの強さを手に入れる為には、どれだけの修練を積み重ねて来たのだろう...想像を絶する


「この秘境に私が挑んだ回数が判るか?」


「え?」


振り返った九鬼先輩の表情には、僅かながら悲しみの感情が覗く


「73回だ」


「73回!?」


「あぁ、ちなみに、二階層に辿りつけたのは20回以上この秘境に挑んだ後だ...私が小学生の頃だ」


「え?そんな...子供をこんな危険な場所に...」


九鬼先輩は目を閉じ軽く首を振る


「自分で望んで自分で選んだ事だ...私は強さを純粋に求めていた、今のお前の様に誰かを守るとか生き延びる等という大義名分も無い純粋な自分の渇望だ」


「前にもそんな話を言ってましたね...だけど俺は...」


九鬼先輩は俺の目の前までやって来て息が掛かりそうな距離で真っ直ぐ俺の方を見つめる


「城二、自分の為に強くなりたいと思う事はそんなに悪い事か?お前は弟に強くなって欲しいと言った、だが等の義弟の方はお前が考える様な大層な理由を掲げ強くなったのか?」


「それは...」


尊は北野家において、城二のスペアとして連れて来られた、その中で自分の存在価値を誇示するために強くなった


だがそれは、九鬼先輩の言う自分の為の強さへの渇望と何が違う?


いや、俺はどうだ?この世界に転生して死ぬ定めを変革し自分が生き延びる為に真白を取り込み強くなった、そして生きる為の権利を勝ち取った


だが本当にそれだけか?俺は強くなる事に理由が欲しかっただけじゃないのか?この世界の誰よりも強くなるための知識を持つ俺がそれを、突き詰めないのは怠惰では無いだろうか?尊に花を持たす?尊が世界を救ってくれる?本当にそうか?


仮に尊が救った世界に城二の居場所はあるのか?


俺は静かに首を振る


「悩むが良いさ、お前がこの先何を目指すのか...それを探す手がかりを私が与えよう...だから今は前に進が良い...お前の思うがままに」


俺は九鬼先輩がやったのと同じ様に火傷だらけで、真っ赤に腫れあがった腕を鉄の扉に掲げる


『2名とも刻印を確認、通行を許可する』


そう文字が変わり鉄の扉が完全に開く


「では行きましょう、九鬼先輩」


俺は、扉の中に足を踏み入れる...ただ自分の為、前に進む為に...






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