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死を覚悟した...前世である南原譲二だった時は覚悟もクソも無く、突然目の前の世界がグラつき気づけばこの世界の北野城二に転生していた...あの時の俺は死んだのかすら定かでは無い
だが、今回は左手の焼ける様な痛みに右手の激痛、そして右脇腹から自分の皮膚に感覚が無くなる感触...心臓が激しく動く度に傷口から血液が噴き出す妙な感覚がやけに冷静に感じ取れた
(あぁ...俺このまま死ぬのかな...頑張ってこの世界で生きてみようと思ったけど、所詮こうなる定めのヤラレキャラに転生したのが運の尽き...だったのかな...)
薄れる意識の中で、ぼやける視界に偽神と組み合って膠着してる九鬼先輩に向けて、藤堂が必殺の一撃を打ち込もうとする姿が見えたた...
(俺はこんな所で...ヒロイン達を守る事も出来ず...何の為にこの世界にやって来たんだ)
そんな時、頭の中に謎の声が聞こえて来た...
【忌々しい...契約者よ余がお前の願いを叶えてくれよう】
魂が凍り付く...そんな印象を受ける声...いや声というよりも魂に直接語り掛けられた様な...
(誰でも良い、この声の主...彼女を助けてくれ)
【クククク...良かろう契約に従い契約者の願いを執行しよう】
その声の後、俺は急に体の痛みから解放された、というかフワフワとした感覚...しかし目の前は真っ暗で何も見えない...
『ジョウジ...聞こえるか』
「トラ!?トラか!?何処だ?何処に居る!!俺なにも見えなくて」
『時間が無い...今お前は城二の身体から切り離され、南原譲二として
「!?俺...俺は...今、南原譲二なのか?」
『そうだ、儂が北野城二と契約しなかったのは、それが出来なかったからだ...城二には既に契約した???が存在しておったからな』
「何だ?トラの声にノイズが入って肝心な名前が聞き取れないぞ!?」
『くっ...心域内でも鎖約が...いや、今はそんな事に時間をかけてる場合じゃない』
「...意味は解らないが、緊急事態だという事は判った、俺は何をすれば良い?どうすれば此処から出れる?」
『ここは北野城二の心域...その心域にお前の...南原譲二の心域を展開してぶつけるんだ』
「は?え?心域を展開?何を言ってる?そんな事...」
『お前は儂との修行でその方法を身に付けている...あの赤い拳はお前の心域から溢れた力を物理的に纏った物だ、だからそれを外部では無く自分の内面に向け使えば...城二の心域にお前の心域をぶつける事が出来る』
「し、しかし...城二の心域は既に強化され神視レベルも30に...」
『はぁ...お前は何もわかってないな...お前が刑で併せしていたのは儂が契約した魂だぞ?それに秘境で手に入れたあの薬、薬を飲んだ時...儂はあの場に顕現していた...つまり併せ刑も神秘の秘薬も全て譲二お前の心域で受けていたんだ...だから』
『「今の城二より、譲二の方が心域の領域も神視レベルも上!」じゃ』
「解った!やってやる!」
『あぁジョウジお前の...抗う力...儂が...』
身体は無いが意識は集中できる...トラとの特訓で身に付けた紅拳
神を降ろして無い状態で、神視の力を開放し物理攻撃として使う蒼拳は、感情を司る丹田にある第二チャクラ(血脈)を使用するが、紅拳は愛や人との絆を司る心臓にある第四チャクラを使用する
頭の中には今まで関わってくれた沢山の人達の顔が浮かび...
「城二、真白と城二は最高の親友!何時も一緒だ」
フフフ...有難う...真白
俺の中から暖かな光が広がるのを感じ..周囲の全てを包み込む...
◇
「...ここは...」
身体が左右に揺れる感覚に、後頭部には柔らかく暖かい感触が...
「目覚めたか?城二」
「うっ...九鬼...先輩?」
眼の前には可憐の顔が視界一面に見える...先輩の長い黒髪が俺の鼻先や頬を撫でる感覚がくすぐったい
「!?す、すいません!!」
どうやら可憐に膝枕をしてもらっていた様だ!俺は慌てて起き上がろうとしたが...
「そのままで居ろ...まだ起き上がって良い状態じゃないぞ?」
強引に肩を抑え込まれ可憐の膝の上に頭を押し付けられてしまった...
「!!そ、それより藤堂は!?」
「・・・・・・・・」
可憐は黙って車の進行方向を指差す...
助手席の隙間から赤いパトライトが規則的に光っているのが少し見えた
「今、九鬼家の病院に搬送中だ、城二お前も念のため診て貰った方がいい」
「藤堂の様子は..」
「外傷は無い...だが...」
可憐はそこで口をつぐんでしまった
「教えて下さい!藤堂はどうなったんですか!?」
「...藤堂は記憶が混濁してしまっていて...今日の事もその前の事も...覚えてない様子だ」
「?!それって...もしかし俺の...」
可憐は黙って首を横に振る
「あの時お前が奴を阻止してくれなかったら私はこの世に居なかっただろう、お前の言っていた誰かを守る為の力に私は救われた、そして恐らく藤堂も...」
「助けてくれて、有難う城二...この恩は一生かけて返す事を約束しよう」
「俺は...何も...」
九鬼先輩は少しだけ微笑みながら俺の額に手を置き
「お前が倒れる直前に、白虎の名を呼んだのを覚えているか?」
「...すいません、あまり覚えてなくて...」
「まぁそうだろう...あの後白虎から手ほどきを受けながら転送宝珠を3人転送出来るように書き換えを行う際に、お前が私を救う為に無茶をしてくれた事を聞いた」
「...先輩はトラから...」
可憐は微笑みながら首を振る
「白虎は詳細は何も言わない...いや言えないと言った方が正しいのかな?でも私も曲がりなりにも当事者だ現実を目の当たりにしてある程度は理解している、お前が何か大きな物を抱えている事も...」
「だから私なりのやり方でお前に報いようと思っている...そう言えば、秘境をクリアしたら藤堂について九鬼家が掴んだ情報を話す約束だったな...」
そういえば、秘境に入る前に可憐と約束していたな...俺の想像と全く違う藤堂の変貌ぶりに頭から飛んでいた
「藤堂は、とある人物と共謀して雨宮家保有の秘境に不正に侵入し神域へ至り、猿田毘古との契約に至ったというのが我々の見解だ」
「そ、その人物というのは...」
「すまぬ其処までは掴めて無い...だが何やら怪しい仮面を被った人物だったと...」
「仮面の男!?...沖縄で奈美恵さんと接触したという...不審者と同一人物...なのか?」
「紅島 奈美恵と言えば、すこし奇妙な事になっていてな...」
可憐は顎に手をかえ少し考えるそぶりを見せる
「拘留されてる留置所でな、「自分の神を喰われた...」と言って半狂乱になり、身柄を警察の監視する精神病院に移されたと...」
神を...喰われた?