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第46話 呼び出し



学園長から告げられた藤堂に対する学校の対応には、誰も反論する事は出来なかった...


特に高虎さんと天音さんの落胆ぶりは大きく、天音さんは人目も憚らず大泣きしてしまって、真白と九鬼先輩に付き添われ会議室を足取りも重く退室して行った...


高虎さんも、沈んだ様子で力なく席を立ちフラフラと天音さん達の後に続く


俺は...


『少し話がしたい、学校の近くの公園に出て来てくれ』


皆川先生と学園長が、PTAに対する説明会や全校生徒集会を開き説明する等の打ち合わせをしているのを横目に、そっと席を立ちスマホで、ある人物にメッセージを送っていた


下駄箱に着いた頃に『了解した』とのメッセージが届き、スマホをポケットに仕舞鞄を担いで目的の公園へと向かう...


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


目的の人物は未だ来てない様だ...公園を見渡すが流石に夕方ともなると子供達も居ない...


俺は自動販売機でコーヒーを購入しベンチに腰掛け蓋を開ける...


頭の中で色々整理したいが、怒りと後悔の念に阻まれ顔と頭だけが熱くなる...


「ゴクッ...」


火照った頭と顔を冷やすために、冷たいコーヒーを口に流し込む..コーヒー独特の苦みが口の中に広がりいつもなら心落ち着くはずが、動悸が激しくなり心臓の音がうるさい...


「トラ...」


『なんじゃ...』


「ワリィ少しだけ様子を見ててくれ...だが油断するな隠形で隠れていても見つかるかもしれない..後ろの木の影に潜んだまま相手の様子を見ていてくれ...」


『...城二...あまり感情的になるな...この接触に儂は賛成出来んぞ?』


「分かってる...でも、このどうしようも無い怒り...俺自身に対しても許せない気持ち...藤堂はもしかしたら天音さんの家の前で俺に対し救って欲しいと手を差し出したいたんじゃ無いか?...って...そう思えてならない」


『気持ちは分かるが、お前が今回の事でその怒りを誰かにぶつけて、荒ぶった感情を晴らしたいだけじゃないのか?』


「......」『来たようだ...くれぐれも無茶をするな』


トラは音もなく背後の木陰に身を隠し姿を消した


「こんな時間に、僕を呼び出すなんて珍しい事も有るものだ」


ベンチに腰を掛けたまま顔だけ左を向き、呼び出した相手を見つめる


「あぁ...お前と少し話が有ってな...何か飲むか?」


俺は財布と飲みかけの缶コーヒーを見せそう尋ねると


「やめてくれ、後が怖いじゃないか?気持ちだけ貰っておくよ?それより話ってなんだい?」


「......なぁ...何で藤堂をけしかけた?」


・・・・・・・・一瞬の沈黙が公園に流れる


「意味が分からないな?藤堂君?それって1組の藤堂時哉君の事だよね?」


「そうか...しらを切るのか...じゃぁこう言えば良いのか?」


俺はベンチから立ち上がり飲みかけの缶コーヒーを空き缶入れに放り込み、目の前の男に詰め寄る...


「月読の力で藤堂を操って、俺にけしかけたのはお前だな?」






「尊」





俺に詰め寄られた尊の表情に変化は無い...しかし、その纏ってる雰囲気がドス黒く変化した様に感じた



「月読?あの3柱の至高神の事?行ってる意味が分からないよ兄貴...」


纏ってた黒い雰囲気は一気に霧散し、何時もの尊の雰囲気へと戻る



「なに?僕が月読命と契約して、その力で藤堂君を兄にけしかけた...

って事かい?」


「あぁ」


「ハハハ、馬鹿な事を言うなよ~僕は義父様から既に狛狗神様との契約を譲渡されていて、正式に契約してるんだよ?別の神様と契約なんか出来る訳ないじゃないか...こんな事小学生でも習う内容だよ?」


尊は俺の事を馬鹿にしたように嘲笑うと手を横にして首を左右に軽く振る


「あぁ普通はそうだよな...だがお前は違う...そうだろ?「大和」」


俺の言葉に尊の笑みは止まる...


「何だ?お前は...本当にあのクズ兄貴なのか?...」


「質問してるのは俺だ...答えろよ」


「ふっ...答えろも何も「大和?」そんなの聞いた事無いよ、いったい何なんだ?それ?」


「そうか...白を通すつもりだな...」


「しらを切るとか、意味わからない事言ってんの兄貴だろ?それに藤堂君とは秘境テストの時に少し一緒になったくらいで殆ど話した事もないんだけど?」


「じゃあの写真を藤堂に渡したのも?」


「写真?あぁ兄貴と池上さんが如何わしい場所で一緒に写ってた写真の事?そういえば藤堂君と池上さんは幼馴染だったんだっけ?」


「てめぇ―———何処まで俺たちを弄べば気が済むんだぁ?お前は何をしようとしてるんだ?いや、何がしたいんだ?」


「何が?...(お前がそれを聞くか?)」


尊はボソボソ何かつぶやいたが聞き取れない


「はぁ?何だって?聞こえねぇよ!」


ドンッ!


尊は俺の胸を軽く突き飛ばし、距離を開ける


「言いがかりは止めてくれ、僕が藤堂君に何かしたって言うなら彼に直接聞けばいいじゃないか?まぁ無駄だよ僕は本当に何もしてないからね」


「尊っぅ!!!!」


冷静にならなければならない、俺が感情的になって全てをぶちまける様な事を言ってはならない...そんな分かり切った自分自身への戒めも、頭の中だけの事で心がそれを許さなかった...そして気付けば俺は右拳を振りかぶり尊に対し殴りかかっていた...


パシュ...


しかし、俺の怒りの籠った渾身の右拳は、尊の左手で軽く受け止められた


「おいおい、いきなり殴りかかる事は無いだろ?酷いよ兄貴ぃ―———」


俺の拳を受け止めた尊は口元を歪ませながら...目線を背後に送る...


「城二...君...こんな所で...尊君に...」


尊の背後に見えたのは、ピンクのトレーナーを身に着け息を切らし立っていた藍瑠だった...


「...はっ!?藍瑠何故ここに!?...い、いや...これは...違うんだ...」


藍瑠の表情には、困惑を嫌悪が入り混じった複雑な感情が渦巻いていた


「尊君から連絡を貰って...「兄貴に公園に呼び出されたから行ってくる」って、心配になって...そしたら城二君が尊君に殴り掛かって...止めに入ろうと...」


混乱し動揺してるのか、言葉が上手く紡げない様だ...


「僕は平気さ...ほら兄貴も本気じゃ無かった様だし...ね」


尊の視線が鋭く俺の事を突き刺す...俺は、拳を引き一歩後ろに下がり尊と距離を取る


「兄貴が俺に対し何に腹を立ててるのか解らないが、前に俺に言った言葉そのままお返しするよ?他人の主観による見解などなんの証拠能力も無い...だっけ?」


「くっ...」


確かにこの時点で尊が藤堂をけしかけと言う証拠は何も無い...尊の言う通りだ


「で?兄貴は僕に何か言うことは無いの?」


勝ち誇った余裕の表情を見せる尊に対し...


「すまなかった...俺の軽率な行動と言動でお前に迷惑をかけた...許して欲しい」


深々と頭を下げる...


「僕も前に同じ事で兄貴に許してもらった訳だし、僕も許すよ...それじゃ話も此れ迄の様だし僕は寮に帰らせて貰うよ...藍瑠、夜も遅いし家まで送るよ」


「え、えぇ...」


尊は藍瑠の肩に手を回し俺の方を振り返る事無く公園を後にした...


「クソォォォがぁぁぁぁぁ!!」


誰も居ない静まり返った公園に、尊に対してだったのか、自分自身に対してだったのか、ただ俺の慟哭だけが響いた






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