如何ともしがたい、自分自身の短慮と無力さに怒りを覚えながら自宅に戻る
その日の晩に自室にて、トラに尊を観察してもらって気付いた事を尋ねた
『アレは途方も無いぞ...だがヤツから複数の神の存在は感じ取れんかった...ヤツの神視レベルは既にお前どころか、あの武者娘すら軽く凌駕しておるぞ...』
トラの尊に対する評価は俺の想像を軽く超えていた、俺よりは上とは思っていたが、真白や九鬼先輩より強くなってるとは思っても無かった
「はぁ?そんな事有り得ないだろ!?裏マントラも、自分より強い相手との併せも出来ない状況の尊が、俺を超えるのは仕方ないにしても九鬼先輩以上とは...」
だが、トラの言葉通り尊の奴から感じた不穏なオーラと、俺の渾身の一撃を余裕で受け止めたあの余裕...
『お前の放った一撃は、赤いオーラこそ纏って無かったが、間違いなく紅拳の元となる第四チャクラに第二チャクラの力を融合させた、今のお前が放てる最高の一撃だった...』
「それが、箸にも棒にも掛からない...其れほど迄、尊と俺の間に差が...」
何故そこまで...神視レベル底上げの隠しアイテムやイベントをこなしたのか?いや...そんな訳は...
『そうだな...お前の実家で拳を交えた時点では僅かに、向こうが上という程度の差だった...それから、お前もかなりの成長を遂げ強くなってるはずだが』
「尊の成長が、更に上を行ってる...」
『あぁ...お前の義弟の今の力は四聖獣の儂にも見定められぬ...もしかしたらこの儂以上の神と契約を果たしたのかもしれぬ...』
月読の事か?確かにそれは有り得る...だが、だとしたら何故奴はそんな回りくどい事をする?
幻惑のスキルを使用出来るなら、藤堂の代わりに俺が九鬼先輩や真白を襲う様に仕向ける事も可能なはず...何故藤堂だったんだ?
『今の時点では、主観と憶測と言われても仕方ない...だが儂もお前の義弟が何か関与してると思っておる..が、証拠が無い以上これ以上手出しは出来ぬ、奴がボロを出すか、金髪小僧が記憶を取り戻し真相を語る事を期待するより他はあるまい』
「...そうだな...」
〇早朝の教室にて
この日も早朝より教壇の前に立つ皆川先生から、1時限目の授業は中止し体育館で全校集会を設けると通達が有り、俺たち全生徒は体育館へと向かった
「...と、言う判断から2年1組の藤堂 時哉君は警察の調査及び司法の判断が出る迄の間、無期限の停学とします」
壇上でマイクの前で光宗学園長が昨日の打ち合わせの内容の一部を全校生徒に説明し学校としての処遇を告げた...
当然ながら生徒の中には動揺や不安...そして藤堂に対する誹謗めいた事を口にする者迄居た
「尚、この件につきましては、事件にて被害を被った生徒やご家族も居られます、その方々の為にも無責任な噂や誹謗は節に慎む様...ここに通達させて頂きます、それでも目に余る様な行動を取る生徒に対しては、学校側としても粛々と処罰させて頂きますのでご承知いただきます様」
光宗学園長の一言でシーンと静まり変える体育館
「では、これで解散します!」
学園長の声は何処か威厳が有り、普通であれば騒然とするはずの廊下においても教室に戻る生徒の中に無駄話をする者は見当たらなかった...
そんな生徒の列の中を翠さんに背中を支えられながら、肩を落とし前を歩いてる天音さんの背中に視線を向ける
(俺の後悔なんかよりも天音さんの受けたショックの方が数倍大きいはずだ...何時までも俺が引きずっていては天音さんに合わす顔が無い...俺は俺のやるべき事をする...)
・・・・・覚悟を以て・・・
〇昼休み...学校屋上ににて
「天音ちゃん...少しでも食べないと体がもたないよ?」
先ほどから膝の上に蓋を開けたまま一向に箸をつけない天音さんを心配して翠さんが声をかけている
「うん...分かってる...」
こんな時、男はダメだ...なんて声を掛けたら良いのすら解らない
気の利いた言葉一つも思いつかない様な男だから愛想もつかされるし、仕事でもノーと言えない社畜リーマンだったんだろう...
「ん、城二まで落ち込んだら私らの弁当が不味くなる」
「!?...マシロン...ごめん」
「天音は直接金髪猿と出くわして無い、だから悔やむのも納得」
真白は俺の眉間に指を差し
「城二は違う、ちゃんと金髪猿と対峙して決着したはず」
「そ、それは...そうだけど天音さんの家の前で見かけた時に、藤堂とキチンと話が出来ていればこんな事にならなかったんだ...」
パシッ!
真白は両手で俺の頬を思いっきり挟み込む様に叩く
「火トカゲ女に言われた訳じゃないけど、今は譲二のケツを叩く時」
「ぅやぁ...ベツふゃなぁひゃいひょ(いや、ケツじゃないよ~)」
「城二は、藤堂と向き合ったんでしょ?自分の選択に後悔したり悔やんだりしても結果が変わるわけじゃない、城二には何をするべきかもう見えてるんじゃないの?」
真白の青い流星眼がまっすぐ俺の事を射貫く..
「ごめんね城二っち...私がこんなだから...」
「天音ちゃん...」
天音さんに、こんな事を言わせるなんて友人失格だ...自分のやるべき事...
俺はその場を立ち上がり、皆の前に立ち向かい合うと
「俺、強くなるよ自分の為に皆の為に...自分の限界を考えて最善で最適な方法を考えてやって来たけど、もうやめだ!!やれる事は全部やる!」
「ん、城二はそれでいい」
真白も天音さんも翠さんも、それぞれの想いで俺の決意を認めてくれた
『ようやくか重い腰を上げたか...この愚図が』
「トラ...お前にも働いてもらうぞ、黒い縞が真っ白になるほどこき使うからな!」
『貴様ぁぁ白虎の誇りをぉぉ!不快、不敬、不遜...まぁよいヌシとのこのやり取りももう慣れた物だ...貴様が強くなるのは儂の目的とも合致する』
「目的?お前の目的は真白との召喚契約じゃ?」
『そう、そうだったな...まぁ良いでは無いか貴様にしては良い判断だ、儂も協力は惜しまぬ』
トラは煮え切らない返事だったが、その言葉に嘘は無さそうだった...俺は天音さんの目の前に腰を屈め
「なぁ天音さん、俺は藤堂が誰かに操られていたと考えてるんだ...」
「え!?」
俺の言葉に驚く天音さんと翠さん...真白は...いつもと変わらない、トラも黙っている
「誰が...とは、まだ証拠も無いしハッキリとは言えない...だけどもし、藤堂を操ったのが俺の考えてる奴なら、決して許すことは出来ない、俺の全てを賭けてそいつに償わせるつもりだ、だから...」
だから、俺を信じて藤堂を信じて待ってて欲しい...と言おうとしたが
「うん!分かったアタシも手伝うよ!「え?」」
天音さんが俺の両手を握り決意を宿した流星眼を光らせ静かに頷く...いやいや
「いや...危ない事になるかもだし...信じて待っててって言おうかと...」
「いやいや、逆に何で待ってられると思ったの?有り得ないんだけど?」
俺の言葉に驚く天音さんの手の上に重なるもう一人の手
「ん、天音の言う通り私も手伝う」
「真白...良いのか?お前、藤堂の事」
「ん、金髪猿は嫌いだけど城二も天音も親友だから助ける」
その真白の手にもう一つ手が重なる
「わ、私も!私は戦いでは戦力にならないけど...私なりに出来る事を手伝うよ!!」
「翠さん...有難う...」
俺の友人達は本当に頼りになる良い奴らだ...胸の奥の熱が、さらに熱量を上げた気がした