〇放課後 魔刑部 修練場
「もう一度、裏マントラお願いします!!」
俺は天草先輩へ頭を下げ、併せの修練をお願いする...
「え、う、うん、ボクも沢山修練して、一日も早く神衣出来る様になりたいから良いんだけど...」
天草先輩は心配そうに九鬼先輩の方へ視線を向ける
「はぁ――――城二、強くなれとは言ったが、自分の身体を壊せとは言ってないぞ?今日だけで3回目の裏マントラだろ?少し休憩しろ...私の眼から見てもかなり疲弊してるぞ?」
天草先輩から困った様な視線を向けられた九鬼先輩は呆れた様に首を振る
「いえ、全然いけます!天草先輩が無理なら、九鬼先輩お願いします!」
それでも俺は諦めない...こんあ所で立ち止まって居られない、疲れたなんて言ってられない
「いや...しかしな...」
俺の様子がよほど疲れた様に見えるのか、以前にあれほど俺に発破を掛けていた九鬼先輩も躊躇する
「いい、私が一緒にやる城二やろう」
必死な俺の事を見かね、先ほどまで他の女子部員と併せ刑の修練していた真白が名乗りでてくれた
「真白...頼む」
よほど俺の姿が悲壮に見えたのか、真白の表情が少しだけ曇る...が、武舞台へと移動し俺と向き合う
「・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「はぁはぁはぁ...クソッ...こんなもんなのか俺は!!こんなのじゃ...」
4回目の裏マントラでは、全然真白と呼吸もタイミングも併せる事が出来ず全く効果を感じる事が出来なかった
『ヤレヤレ...此処まで単細胞だと周りが苦労するのぉ...真白すこしだけ、この馬鹿を借りるぞ』
俺の様子を端から見ていたトラが、見かねた様子で溜息交じりで俺と真白の間にやって来る
「トラ...俺はまだ...」
『良いから儂と来い...儂から有難い言葉をくれてやる...』
トラからの圧が、今の俺には痛すぎる...断れる様な雰囲気でも無さそうだ
「ちっ...判ったよ...皆少しだけ外します...」
皆に断りを入れ、トラの後に付いて修練場の裏にある木陰に向った
「...で、お前の有難い言葉というのは何だ?俺を強くする方法か?アイツに一撃くれてやれる新しい技か?」
木陰の元に付く前に、俺の前を歩いてるトラに辛抱出来ず声を掛ける
『...はぁーーーーお前は、儂が心域で言った言葉をすっかり忘れておるのか?』
「心域?...何を言ってる?」
心域?トラの行ってる意味が解らない...なんの事だ?
『やはり、記憶が混濁しておるな...お前の使う紅拳の力の根源は何だ?』
トラは以前に紅拳を習得する時に俺に説明してくれた内容を、何故か俺に尋ねて来た
「?今更なんだ?以前にお前から教わったじゃないか?第四チャクラで練られた力が元になるって言ってたじゃないか?」
そう、紅拳の根源は、第四チャクラ、対する蒼拳は第二チャクラ...おなじ血脈を使うのは変わらないが使う気脈が違うのだと、以前に説明してくれた
『そう、第四チャクラ...チャクラを強化するには何が必要と言った?』
「えぇ―――と第四チャクラは「人との絆、無性の愛」の根源だと...」
初めて聞いた時は、トラの奴何を真面目な雰囲気でクサイ事を言うのか、とコッチが恥ずかしくなったのを覚えている
『覚えていたなら何よりだ』
俺は、話の意図が見えない子猫にイライラが募る
「いや、意味がわかんねぇよ!だったら何だっていうんだ!?新しい技でも教えてくれるんじゃないのかよ!」
先程の併せで上手く行かなかった事や最近の気の焦りからか、訳の分からない事を言うトラに対し言葉が荒くなってしまう
『今の貴様に、新しい技等覚える訳なかろう...全く...貴様にはホトホト呆れてしまうわい』
コイツ...俺を馬鹿にしたいだけか?強くなれとか煽るだけ煽っておいて、足掻いてる俺をみて揶揄っているのか?目の前の子猫の不遜な態度にイライラが頂点に達する
「いい加減にしろよ!何が言いたいんだ!俺は一刻も早くつよ『お前が如何に修練しようが、力でアヤツには届かぬよ...』なっ!?」
コイツ!?尊に負けるなとか、尊に後れを取るなとか散々言っといて、「奴には届かぬよ」とか、ぬかしやがった...
『分かっているのだろ?前に言った通りだ、お前が強くなろうとアヤツの成長はお前のそれを超えて来る...アヤツには何か有る』
そんな事..そんな事は俺が誰より知ってんだよ!!何年、何回、このゲームと向き合って来たと思ってるんだ!!
「だから諦めろって言いたいのか!?このままアイツの事を見逃せって!?」
俺はトラに詰め寄る...
『解らぬか?アヤツに無くてお前に有る物...』
「尊に無くて俺に有る物?」
『...後ろを見てみろ...』
トラに言われ俺は背後を振り返ってみる...
「!?皆!?何でここに!?」
振り返った視線の先には真白に天音さん、天草先輩に九鬼先輩が修練場の建物の影から此方の様子を伺っていた
『これがお前の力だ...城二いや...譲二お前がこの世界で紡いだ絆だ、奴に抗うにはこの力が絶対に必要になる...それを努々忘れるな』
其れだけ言うとトラは木陰の影にその身を沈めて行った...
「絆の力...第四のチャクラの根源となる力...今の俺に...」
「城二話は終わったか?」
真白が俺の元へトテトテと駆けて来る
「ん、あぁ...」
「城二っち、今日はなんだか何時もの城二っちと違って余裕が無いって言うか...少し怖かったかも...壊れそうで」
「うん、ボクは城二君と一緒に併せ出来て嬉しかったけど...無茶はして欲しくないよ」
「と、言う訳だ...白虎様から何をアドバイスされたかは聞かないが、此処に居る皆がお前の事を頼りにしてるし、心配もしてる...其れだけは解っていて欲しいな」
そらはすっかり日が陰り...赤く染まっりつつあった...4人の影が俺の足元へと延びてきて俺の影と重なり合う...
「フフフ...俺らしく無い...確かにそうだよな...俺は俺のやり方で強さを極めてやる」
「?城二っち?...きわめる?」
俺の言葉の意味が分からないのか天音さんが首を傾げて悩んでいる...
「アハハハハ、いやこっちの話だよ、あ、そうだ、皆に心配かけた御詫びに俺が帰りに皆に甘い物でも奢るよ」
「ん、メロンシェイク」「あんみつ」「たい焼き」「チョコバナナ生クリームチョコチップDXクレープ♪」
「おうおう、何でもドンと来い!」
4人の美女達は自分の選んだスイーツこそ至高だと、スイーツ談議に花を咲かせながら俺の前を歩いている...
俺はその後ろ姿を見て、先程のトラの言葉を思い出していた
『これがお前の力だ...城二いや...譲二お前がこの世界で紡いだ絆だ...』
...部活後に皆の要望に応える為、ミオンモールのフードコートにて4人にスイーツを奢ったが...
(まさか全部4人分頼むとか...この有様は北野家の御曹司の財布の中身では無いな...)
札の全く無くなった財布を拡げ、暗くなり始めた空を仰ぐ、そんな初夏の夕暮れだった...