〇日本橋 老舗百貨店 高田屋 華道連盟主催 「全国区華道博覧会」会場前
警察や退魔特殊部隊の聞き取り等、藤堂の起こした事件の調査へ協力しながら、魔刑部での修練に真面目に取り組む日々
気になってる尊については、あの日の夜の事など無かったかのように、俺に対し変わらず関わりを持たない無関心を貫く態度で、学校内の廊下ですれ違っても挨拶すら交わさない...しかし
藍瑠だけは明らかに俺の事を軽蔑した目で見る様になった...いや、これは前の状態に戻ったと言った方が良いのかもしれない...尊の背中に隠れ、俺に対し何かを言う訳でも無くただ冷たい目線だけ向け来る...
あの日の夜の事は今でも自身の短慮を反省する所だ、自分はこの世界に来てどこか傍観者の様な考えで過ごしていたのに、この世界の人と触れ合い関わりを持った事で、その絆を汚い方法で穢されたと感じ、感情の抑制が出来ず激情にかられ自分が抑えられなかった...
だが、俺の予想に反し相手も俺に干渉して来ないのはある意味助かった
ただ、干渉して来ない故、尊自身もボロも出さない...今後は何かしら手を打つ必要が有るだろう...
そんな不安をかき消したかったのも有り俺は魔刑部の活動へとのめり込んだ...俺につられ他の部員も活気づく中で、俺だけでなく魔刑部の他のメンバーもかなりレベルが上がった様で、中には下級の土着神だが神との契約に至ったという部員も出て来た
そして驚く事に...
◇
「神衣 天手力男神(あめのたじからお)」
神衣を身に付けた、小百合は緑の胸当てと肩当に咥え天衣と呼ばれる長い布のような物を肩に纏っている出で立ちをしており
両手には無骨な宝飾でゴツゴツした緑に淡く輝く籠手の様な手袋...
神具
そして、金剛から放たれる拳の威力は絶大な力を宿し、その一撃は大岩をも砕き、その怪力は天の岩戸を揺るがす程の理力を持つ
「やったぁぁ!やったよ城二君!!ボク神衣出来たよぉぉ!!」
「いでででで、天草先輩ぃぃ手が潰れるぅぅぅ!!」
喜びに我を忘れ俺の手を強く握る天草先輩の握力に俺の手はボロ雑巾の様に潰れそうになる...
そう、とうとう天草先輩は習得したスキルを全て50回以上使用し、神衣へ昇華する為のステップを進む事が出来た...
真白による神視診断によると、九鬼先輩の言う通り俺の知識範囲を超える成長を遂げた天草先輩...
(これなら俺にも...)
天草先輩の快挙に、俺も含め魔刑部のメンバーのモチベーションも更に増し...同時に...
「城二...これでお前の言っていた事が正しかったと証明されたな...これは世紀の大発見だぞ、お前の知識はこの国の至宝だ...(是非とも欲しいな)」
「へ?」
「いや、こっちの事だ...気にするな...それに小百合の事もだが、そろそろじゃ無いか?」
「えぇぇそうですね...天音さんならきっと...」
俺は何時も天音さんが休憩してる、誰も居ないスペースに目を向けそう呟く...
◇
「城二、ここか」
「ボクらが来ても良かったのかい?」
「大丈夫だ、九鬼家で招待状を4枚用意した...」
「そ、その...僕の恰好...」
俺は髪の毛をオールバックにセットし、黒を基調とした燕尾服を身に付け少し緊張している...
「なんだ?別に変じゃないぞ?私は似合ってると思うが?」
赤を基調とした着物に金の鳥が刺繍された豪華な和装に、赤い椿の簪を付け赤い紅を付け凛とした美しさに更に磨きが掛かった九鬼先輩が悪戯ぽく微笑む
「ボ、ボクは凄くカッコいいと思うよ!うん、とっても!!」
眼を輝かせながら俺の腕を掴む天草先輩は、ショートカットの茶髪を髪留で横に留め、淡い紫を基調としたスーツ姿で男装の様だが、大きすぎる胸のせいでネクタイが盛り上がっていて歌劇団の男方の様にも見えとてもカッコいい...道行く女性が頬を染めチラチラを見ている、完全に俺が引き立て役だ
「ん、城二、ロバにも衣装ケース」
「いや、色々違うからな!?」
辛辣な言い回しで俺をディスる真白は、水色のフリルのついたドレスを身に纏い白いシルク生地の上着を身に纏っており、良家のお嬢様と言った雰囲気だ
水色の長い髪の毛も綺麗に編み込まれ、ハーフアップの髪型は大人びていてチラリと見えるうなじに、ドキドキしてしまう
「おい、城二、真白の胸元を見過ぎだ...たく男はどうして...」
「!?ちょっ僕だって真白に負けて無いよ!」
「ん、乳デカのは大きいだけ、私は可愛い」
大勢の往来が有る中で、美女3人が胸の大きさで議論してる状況に通行人が鼻の下を伸ばし聞き耳を立てる...
「と、取り合えず中に入ろう!ここだと通行人に迷惑だ!」
俺は腕に抱き付いてる天草先輩と反対の手で真白の手を握り足早に高田屋へと向かった...
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「ここが博覧会の会場か...結構人が多いな...」
「あぁ年に数度しかない全国博覧会だしな...各流派の著名人が作品を出しているからな、メディアでも取り上げられてるらしいぞ?」
「あ、ボクも聞いたよ!何でも池上流の人間国宝の家元が数年ぶりに腕を振るうって言ってた!」
(あの時、天音さんの部屋の入り口で見かけたご婦人か...確かに威厳を感じさせる貴婦人だったな)
会場には数百点に上る活け花が展示されており、会場内は花々の香りが漂って来ていた
「流石、各流派の選りすぐりの華道家達の作品だ...どれも素晴らしい...」
俺たちは会場内に作られた通路の左右に展示された活け花に目を奪われ、一つ一つをゆっくりと見て回る...
すると、会場の中央に特別に設置されたブースに大勢の人だかりが出来ているのが目に入って来た...
「あそこ、多分天音たちの活け花が展示されてる」
真白がその人だかりを指差した
「流石に注目されてるな...人間国宝は伊達じゃないな...これは強敵だぞ」
「ん?強敵?何のことだい?」
天草先輩は事情を知らないので、この博覧会で天音さんが家元と母親であり師匠である音羽師範と活け花で勝負してる事は伏せている
真白は天音さんが自分で説明してる様で事情を把握してる様だ、そして九鬼先輩も何故か事情を察してる様子...真剣な様子で人だかりを見つめている
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「あ、見に行けそうだよ?」
人だかりが流れ展示ブースにスペースが出来たのを天草先輩が見つけ俺たちは、「池上流」と書かれた立て札の横にある3つの作品を目にした...