〇日本橋 老舗百貨店 高田屋 華道連盟主催 「全国区華道博覧会」会場 池上流展示ブース前
目の前には、3つの鮮やかな活け花の作品が荘厳に並ぶ...
「わぁ~どれも凄いねぇボク活け花の事分からないけど、なんか引き込まれちゃうよ」
天草先輩は目を輝かせながら胸の前で手を握り、活け花に釘付けになっている...流石こういう所は乙女趣味な彼女らしい所作だ...
「ん、天音の作品はどれだ?」
真白は流星眼を光らせながら、真剣に3つの活け花をジッと見つめている...俺もそんな真白の視線の先を追う様に3つの作品に目をやる
左の活け花は、古風な信楽焼の花瓶に赤い花が下地になっており赤い花が絨毯の様にボリューム感を出していて、その間に白い花がアクセントになっている、上部のメインは黄色い小さな花が空に向って手を伸ばす様に勢い良く活けられていた...
そして真ん中の活け花は、黒い古伊万里の平器に黄色い大きな花を中段に散りばめ左半分はピンクの花をあしらっている、上部には白い花と蕾が交じった状態のが滝が流れる様なイメージで活けられていた...
右の端に活けられた作品は、黒に金の模様の入った花瓶に黄色い小さな花と紫の花が混在して下地になっており中央左寄りに白い大きな水仙の花が一輪活けられている、上部には緑の観葉植物の葉が二枚羽の様に活けられており黄色い小さな花が付いた蔦が羽衣の様に飾られていた...
3人の美女は其々が自分の視点で3つの作品をじっくりと品定めする様に見比べている、展示してる活け花は流派名は表示してるが、それぞれ番号が割り振られてるだけだ、
作者の名前による先入観で評価されない様に配慮されているらしい、その為どれが天音さんの作品か分からない...だが
「あれじゃないかな?」
俺が指差したのは右端の活け花だった...
「城二には、活け花がわかるのか?」
会場の雰囲気にピッタリ似合い過ぎる豪華な和装の九鬼先輩が俺の横から顔を覗かし、自分も活け花を見極めようと顎に手をおいて鋭い眼線で作品を吟味している...
「ハッキリと分かる訳じゃないですが...なんとなく右端の活け花が天音さんが笑った時の笑顔に見えて...」
「へぇ~ボクには全く分かんないけど、城二君に言われると、だんだんそんな気がしてきたよ」
九鬼先輩と俺の間に割り込む様に顔を覗かせた天草先輩は、俺に笑いかけながらウンウンと頷いてそう話す
「ん、私の眼にもどれが天音のか分からない...でもどれも花が活き活きしてるのは解る」
隣の真白の流星眼にも、天音さん程では無いが花々の機敏が見えてる様だ...
「招待券を持っている私らには作品に一票入れる権利が有るから、皆、自分のこれだと思う作品に一票を入れてもらいたい」
九鬼先輩は招待券をヒラヒラと揺らしながらそう説明した
「解りました」「ん、了解」「解ったよ」
皆それぞれ分散し、各々が会場内の作品を見て回る事にした...午前中に投票が締め切られ昼から結果発表が高田屋内の別会場で行われるらしい
その発表の後から、作品に作者名と入賞した作品毎に並べ替えを行い、明日以降は一般客に展示場が解放されるとの事だ
俺は他の流派の腕に覚えのある作家の活け花を見て回ったが、やはり先ほど天音さんの面影を感じた作品に一票を入れる事にした...
〇昼時...博覧会 会場前
俺は投票を済ませ皆より一足先に会場から出てきて、時計を確認しながら入り口で皆を待っている...見回っている間に会場内で天音さんに会えるかもと思って、会場の係りの人に聞いたが作者達は発表会の行われる会場で交流会の最中との事だった
(まぁそうだよな、自分の作品に投票を促す様な事言う人がでちゃ元もこうも無いしな)
そんな事を考えながらスマホを確認してると...
「ん、城二おまたせ」「ボクなかなか決められなくて...最後まで悩んじゃったよ」「どの作品も素晴らしくて良い刺激を貰えたな」
3人の美女が会場の入り口から並んで出てきて、俺と合流する
「では、何か食べにいきましょうか」
「ん、いこう」「フフフ、ここは私が御馳走しよう」「やったぁぁ可憐の家のお店高いから、普通は手が出ないんだよねぇ~」
九鬼先輩は何処かに電話をして、その場ですぐお店を予約してくれた
俺たちは九鬼先輩の後に続き高田屋の近くにある、高級和食店へ向かった
「なんでも、頼んでくれ」
「ん、私は和牛ステーキのセット」
「んじゃボクはカツ丼にしようかな」
「私は、うな重の寿にしよう」
「...俺はざる蕎麦で...」
3人の美女はその容姿に似合わないガッツリ系を頼んだ...メニューの名前だけで胃もたれして来たので、俺はアッサリしたざる蕎麦にしたら九鬼先輩から少し呆れられた...
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「ん、なかなか良い...モグモグ」
「モグモグ、サクサクでジューシー、カツ丼美味しぃ」
「ふふ、私は山椒はかけない派だ...うなぎの風味を味わいたい」
「ズルズル...この蕎麦10割蕎麦だ...初めて食べたかも...凄い蕎麦の風味がする」
流石都内の一等地にある高級料理店の昼食は絶品だった、俺たちは腹を満たし、結果発表会に出席する為に高田屋へと戻って来た
〇日本橋 老舗百貨店 高田屋 華道連盟主催 「全国区華道博覧会」結果発表会 会場
会場には丸テーブルが設けられ、招待された各界の著名人100名近くが今か今かと結果発表を待っていた
「審査頂きましたご招待客の皆様、大変長らくお待たせしました、只今より全国区華道博覧会の表彰式を開始させて頂きます」
会場の正面にある壇上の端に立つ司会者が、表彰式の開始を宣言する
「では、この度この博覧会に向け素晴らしい作品をご提供頂きました華道家の皆様にご登場いただきましょう!」
会場内が暗転し、壇上にスポットライトが集中する
壇上には色とりどりの和装を身に纏った、著名な華道家たちが次々と名前を呼ばれ、客席に向って一礼し壇上へと並んで行く
「次にご登場されるのは、若くして過去最優秀作品賞を受賞いたしました、若き才女 池上流 池上 天音様」
垂れ幕の奥から現れた天音さんは、金髪を綺麗結い上げピンクの花柄の着物を身に纏い、慎ましく一礼すると他の作者と一緒に壇上へ並ぶ
「わぁ天音ちゃん凄く綺麗...ボクもあんな着物が似合う様になりたいよ―」
天草先輩は手を胸の前で組んで目を輝かせ、壇上の天音さんを羨ましそうに見つめる
「天草先輩も似合いますよ」
「え?本当城二君!?...じゃ、じゃぁ今度着てみようかな...」
天草先輩は、頬を赤く染め照れながらそう口にする...
「ちょっと小百合...静かになさい...まだ途中よ」
九鬼先輩に怒られ、はしゃぎ過ぎた事を反省してるのかシュンとしてしまう天草先輩...
「乳デカはいちいちはしゃぎ過ぎ」
そして、天音さんに続き音羽さんは呼ばれる
「池上流の師範 池上 音羽様です、音羽様も以前に最優秀作品賞を受賞された才女で御座います、今回も素晴らしい作品をご提供頂きました」
音羽さんは黒に白い花柄をあしらった着物で登場し、無駄の無い所作で一例すると、天音さんの隣へ並ぶ
「そして、数年ぶりにこの博覧会へ作品をご提供頂けました、人間国宝にして池上流 家元 池上 音枝様のご登場です!」
天音さんの部屋の前で見かけた老婦人が紫の紫陽花柄の着物で登場し、流れる様な所作で会場に頭を下げると音羽さんの横へ並ぶ
「流石、家元ね...他の参加者の緊張が此方にまで伝わるわね」
確かに参加者だけでなく審査員の人たちも、音枝さんの登場に何処か緊張してる様だった
「では皆さん、素晴らしい作品をご提供頂きました作者の皆様にもう一度盛大な拍手を!」
パチパチパチ!
会場からは割れんばかりの拍手が送られ、作者の皆が会場に向って一斉に頭を下げる
「では、これより受賞作品の発表を始めさせて頂きます!!」
...緊張の結果発表が始まる...