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第51話 博覧会 結果発表後の打ち上げの一幕


「「「「「乾杯―――!」」」」」カ―ン♪


5つのジュースのグラスが合わさり、ガラスのぶつかる音が室内に反響する


「にゃははは、みんなアリガとねぇ~♪」


発表会の後で一度解散し自宅にて着替えを済ませた俺たちは、東光高校最寄り駅ちかくのカラオケ店「スモールエコー」に集合した


そして...


「今日は天音の慰労会だ、遠慮するな」


シックな赤を基調としたワンピースに着替えた九鬼先輩がソファーに腰を下ろす


「でも、本当にカラオケなんかで良かったのかい?せっかく可憐がイタリアンのお店予約してくれてたのに」


天草先輩は薄い緑のシャツに紺色のジーンズというラフな格好だ


「にゃははは、九鬼パイセンすんません♪でもアタシはこうして皆でワイワイ騒ぎたかったしぃ―」


天音さんは黄色の薄地のパーカーにカラフルなTシャツ、紺色のショートパンツという如何にも天音さんらしい恰好だ


「フフフ、構わないさ天音の祝賀会だ、ご希望通りにするさ...なぁ城二」


俺は、紺色のスラックスに白いTシャツにジャケットという地味な格好


「ん?あ、は、はははは、そ、そうですね」


「ん?城二どうした?」


真白は水色のブラウスに、白いフレアスカートというシンプルだが可愛らしい恰好だ


そして俺は今...変な汗をかいている


実は俺はこのカラオケという案件を常々避けて生きて来た...前に教室で元取り巻きが「カラオケ店予約するよ」と口にした時、正直寒気をもよおした


あの時は頭に来てたのも、その場の雰囲気も合わさり自然な形で無かった事に出来たが、今回は主役である天音さんの希望と言う事も有り断れる様な雰囲気では無かった


「な、な、なななんでも、無いよ~」


兎に角ジュースを飲みまくり、ドリンクバーに行く回数を増やすしかない...俺はアイスコーヒーを一気に喉に流し込む


「ん?何だ?城二そんなに喉が乾いていたのか?」


「え?あ、あはは、そ、そうなんです...いやーここのアイスコーヒー美味しいですねぇ―あ、俺お代わり行ってきまーす!」


「ちょっと待ってろ・・・・」


俺がグラスを手に席を立とうとした所、九鬼先輩がスマホで何処に電話を始める...そして...


「失礼致します...此方のお部屋にフリードリンクの機械毎お持ちする様に上から言われまして...」


店員さんが数名がかりで室内にフリードリンクの機械を設置しはじめる...


「さぁこれで心おきなくお代わり出来るな?遠慮するな」


「...はい」


仕方なく空になったアイスコーヒーのグラスを機械にセットし補充する


「じゃぁまずアタシから歌いまぁ―――す!」


「お、いいねぇ天音ちゃんいっけーー!」


天音さんは、鼻歌を交えながらデンモクを手に歌いたい歌を探してる...一緒に来た人がデンモクを触り出した瞬間が一番緊張する...


「有ったぁこれぇーーー」


どうやらお目当ての曲を見つけた様で、テーブルの上にあるマイクを手に取ると大きな画面の横に笑顔で立つ


画面に楽曲名が出てくると


「ん、この歌私も知ってる」「わぁ~いいなぁ~ボクもこの歌大好きぃ~」「すまない私は歌謡曲は全然わからない」


「よっしゃぁぁ、そんじゃマシロンと小百合パイセンも一緒に歌ぉ~」


天音さんは二人の手を取り一緒に前の舞台へと引っ張って連れて行く


「ふたりがぁ~♪初めて出逢ぁ~♪った~♪」


「あの日を思い出し~~てね♪」


「これからぁ~も♪どぉ~ぞ、よろしくねぇ~♪」


どうやら、女の子に人気の歌手の歌の様だ...全く分からない俺は、曲調に併せなんとか必死で合いの手を入れながら3人の歌を聴いている


天音さんは真白と天草先輩と肩を組んで楽しそうに歌っており、真白は両手でマイクを握り真剣な表情で歌詞を見ながら丁寧に歌っている、天草先輩は時折照れた様に頬を赤くしはにかみながらも一生懸命歌っている


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


「にゃぁぁ、マシロンも小百合パイセンも上手いねぇ~」


「天音ちゃんが一番上手だったよ」「ん、天音は声が高くて上手い」


3人は全力で歌って喉が渇いたのか、それぞれドリンクを一気に飲み干した


俺は3人の空いたグラスを手に部屋の中に設置されたフリードリンクの機械で補充する


「ありがとぉ~城二っち」「城二君ありがとね」「城二、つぎメロンソーダ」


「あぁ全然良いさ...はい...これは天音さん...紅茶だよね?」


俺は天音さんの目の前のテーブルへコップを置く...


「それにしても、惜しかったな天音...博覧会の結果」


「にゃははは、うんまぁでも自分の出来る事は頑張ったし悔いは、無いよぉ~」


・・・・・・・・・・・・・・・



「では、最優秀作品賞の発表です!!...最優秀作品賞は!!池上流!」


「池上 音枝様の作品、「親(しん)」です!!、皆さん池上先生へ盛大な拍手をぉぉ!!」


パチパチパチ!


会場の客は全員席を立ち上がりスタンディングオベーションで音枝さんへと拍手喝采を送る


壇上の音枝さんは表情を変える事無く、観客席に向い深々と頭を下げる...


「続きまして、優秀作品賞の発表になります...優秀作品賞は!これも池上流!」


「池上 天音様の作品「友愛(ゆうあい)」です!!皆様、再び壇上の若き華道の才女に盛大な拍手を!!」


パチパチパチ!


音枝さんへ送った拍手以上の拍手喝采が天音さんに向け送られる...壇上で音枝さんの横に並んだ天音さんは一瞬俺達の方へ視線を向け満面の笑顔で微笑むと、深々と客席へ頭を下げ顔を上げた時は真顔になりじっと次の発表を待っつ


「続きまして、審査員特別賞です、!?なんとこれも池上流!? 審査員特別賞は池上 音羽様!」


「作品「育み」です!、皆さま音羽様へ拍手をお願いします!」


パチパチパチ!


天音さんの横に並んだ音羽さんも俺の方へ視線を向け、そっと微笑み瞳を閉じ客席へと深々と頭を下げた



「それにしても、流石は池上流だな...3人全員が入賞するなど、華道界の快挙だな」


九鬼先輩は純粋に天音さん達を賞賛してる様だった...しかし俺は、目線の先に居る天音さんの様子が気になって仕方ない...


【私の全力でお母さんやおばあ様に勝つよ...そして今の私の事を見て欲しい、私の「活け花」を】


アメノウズメの神域から脱出した際に口にした天音さんの決意を思い出し、複雑な気持ちで見つめていると...


??


俺の視線に気づいた天音さんが、首を傾げ...?!何か気付いた様に立ち上がり


「城二っち、ちょっと来て!」


「え?え?ちょっ...」


俺の腕を取り、部屋の外へと連れ出した...店の外まで俺を連れ出し俺の方へ向き直ると


「城二っちが、心配してくれてる事に気付かなくてゴメンね、だけど心配無いよ」


「え?どういう事?天音さん、入賞したけど...その...御祖母さんに勝てなかった訳で...」


そこまで言いかけてたが、天音さんは俺の口の前に手をかざし言葉を遮ると


「うん、実はあの後ね...お母さんと御婆様と話をしてね...」


◇ 結果発表会終了後 池上流控室にて


「天音さん、貴方の作品は素晴らしくて私らも作品の出来栄えに本当に驚いているわ...だけど解ってるわね?」


音羽は冷静に声を抑え天音に言い聞かせる様にそう語り掛ける...


「...はい...」


天音はそう答えるより他に無かった...


「貴方の実力は認めるし、貴方のその感性は私も家元にも無い特別な才能だと思うわ...でも、約束は約束...解るわね」


そう話す音羽の口調からは僅かながら、苦しさが感じ取っれる


「解っております...お母さま、これからはお二人の仰る通り...くっ...」


音羽さんの言葉に終始俯き肯定するしかない天音...強く握ったその手は僅かに震えていた


そんな二人のやり取りを椅子に座ってみていた音枝...持っていた扇子をパタンと閉じ口を開きかけた音羽の言葉を遮る


「家元?」


音枝はゆっくりと椅子から立ち上がると、ゆっくりと俯き唇を噛みしめてる天音の元へと歩み寄る


「天音さん、貴方は何も言い返さないのですか?」


俯いた天音に音枝の表情は読み取れない...が


「え?」


顔を上げて音枝の眼を真っ直ぐと見つめる天音は、音枝の意図が解らず困惑してしまう


「貴方は何の為に、あの作品を作り上げたのですか?」


音枝の声は厳しくも、どこか温もりを感じる様な落ち着いた雰囲気を纏っており、天音は全身がザワツク様な感覚を覚える


「アタシの...」


「貴方の想い、貴方の夢、それは貴方の物でもあるけど、それには沢山の人の想いに支えられてるのではないのですか?」


城二とアメノウズメの神域でやり取りした情景が頭の中に浮かぶ


「アタシの想い、夢...支えられてる...」


「貴方が池上の家のしきたりに従い、次期家元としてその身を正し慎ましく生きていくのは、確かに池上家にとっては、益が有るでしょう...」


「だけど、貴方にとっては?貴方の友人達にとっては?」


「御婆様...アタシは...アタシもっと友達と一緒に青春したい!もっと色んな世界を見てみたい、アタシの作る活け花を美しいって誉めてくれたウズメンと、背中を押してくれた友達と私にしか見えない彩の世界を...もっと見てみたいの!!」


「天音さん...貴方...家元...」


「北野家の、なんて言ったかしら...あぁ確か城二さんでしたね?彼は私の見立てでは、かなり厄介な人生を歩んで来て、それはこれからも続くかも知れませんよ?藤堂家の悪戯子なんかとは比べ物にならない程の、厄介事に巻き込まれるかも知れませんよ?」


「そんなの、問題ないよ、そういうのも含め色々悩んで助け合うのが友達っしょ♪それも青春だよ、お祖母ちゃん」


何かを吹っ切った天音の表情は、晴れ晴れとしており、それこそ向日葵の様な笑顔で一切の曇りなくそう答える


「こ、これ...外では家元と呼びなさいとあれほど...」


天音さんの吹っ切れた雰囲気に家元の顔色を窺いアタフタする音羽...


「フフフフ、よいでは無いですか音羽、確かに私は天音のお祖母ちゃん...解りました、貴方の自由になさい...私達にも貴方の作り出すその自由奔放な新しい彩とやら、見せて貰えるかしら?」


「勿論!!まかせてぇ~♪☆」



「て感じで、万事まるっと解決って事♪ブイ」


天音さんの説明は、俺には理解しにくいギャル語で語られ半分も理解出来なかったが...


「そ、そうなんだ...まぁ天音さんの望む結果になって良かったよ、音枝さんも音羽さんも理解してくれたなら今回博覧会に参加出来て良かったのかな?」


「うんうん、だねぇ~でね?今度さ、池上流の華道教室に城二っちの事を呼びたいって言うんだよ~?」


!?急に俺へ流れ弾が...何でだぁ?


「い、いや...何で俺みたいな素人が?」


「う~ん...なんかウズメンが城二っちの審美眼をメチャメチャ誉めててさぁ...あと会場で私の活け花を一瞬で見分けたってスタッフからも聞いてたし、それをお祖母ちゃんとお母さんに言ったら、是非にって言われたの~何でだろうねぇ~?」


...審美眼とか...俺には無理ゲーすぎんぞ...


俺は数十名が参加している池上流の華道教室にポツンと場違いな俺が座って、作品の講評を尋ねられ冷や汗を流す映像が頭の中に流れ...気を失いそうになるのだった...





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