〇雨宮家 正門「水門」前
俺は前日の晩に真白にネズミ―ランドへ誘われた「朝7時に家に来て」と言われ、朝早くに電車を乗り継ぎ約束の10分前に真白の家に到着した
真白の家は想像の何倍も大きく、小高い山の山頂一帯が塀で囲まれている
雨宮の家の塀は五角形の形をしており、北側にある正面を「水門」右回りに「
本来は土門が正門となりそうな物だが、雨宮は元来「水」を司る家柄で有り古来より続く陰陽道の名家である、都内にある名家には「宮」の文字が冠される
雨宮は文字通り、水に纏わる催事を取り仕切って来たのだ...
ちなみに宮下家も「宮」のつく名家では有るが、格式で言えば雨宮家の方が上となる...「宮」の家の下という事で、宮下家は「宮」の家に使えていた、高位の役人の出自と言うのが
この世界での家柄割りとなっている
そんな、格式の高い「雨宮家」の正門の前で何時になく緊張してると...ギィィィと木が軋む音と共にゆっくりと扉が開く
「お待ちしておりました、北野様...皆様がお待ちですのでご案内します」
現れたのは、薄い水色のシンプルな着物を着た若い女性だった...
「あ、はい...お邪魔します...」
俺は青い着物の女性について門をくぐると...ギィィィと再び門が閉まる、振り返ると同じ様な水色の着物を着た女性2人が門を手で押して閉めているのが見えた
「北野様?こちらで御座います」
振り返って閉まる門を眺めていた俺に、前を歩く女性が立ち止まり声を掛けた
「あ、す、すいません...五行門に少し興味がありまして...お待たせして申し訳ございません」
女性の後に続いて案内される中庭の道には、至る所に五芒星の刻印やお札が散見される...
陰陽道においては先の木・火・土・金・水、の五行を司ると言われる、前世でも設定資料を作る際に少しかじった程度の知識しかないのでこうして実物を目の当たりにすると、何処か平安時代に紛れ込んだかの様な不思議な感覚を覚える
「こちらが、来客用の別邸で御座います...こちらで皆様がお待ちで御座います」
案内されたのは、日本庭園の先に有る別邸と呼ばれるゲストハウスの様な場所だった、、、案内してくれた女性が別邸の引き戸を開けると
「やぁ、君が城二君だね」
「ようこそ、城二さんお待ちしてました」
「ん、城二よく来た上がるがいい」
玄関で俺を待って居たのは、真白と真白を大人にした様な美しい女性と、長い髪を後ろで束ねた中年の男性だった
「は、初めまして!真白さんと仲良くさせて頂いてます、北野 城二と申します!!本日はお招きいただき誠に有難う御座います!!」
地面に頭が付くかと思うくらい頭をさげ、真白の両親と思われる二人に挨拶をする
「あははは、そんな畏まらないでくれ」
「そうよ、城二さんに私達が会いたいから真白に頼んでこうして来てもらったんだから...ささ、上がって下さいな、朝食はまだでしょ?」
そう、昨日時間を指定された後で、「朝食は食うな」と言われ、道代さんに朝食を断り早朝から此処へやって来たのだ
「あ、は、はい...では失礼します」
玄関で靴を脱ぎ、3人が進んで行く先の部屋へと俺も続く
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案内された部屋は、建屋の外観とは打って変わって洋風な内装をしており、椅子にテーブルと洋風ダイニングになっていた
テーブルの上には、野菜スープとデニッシュのパン、半熟の目玉焼きとレタスとマッシュポテトのサラダ、それと厚めのベーコンソテーが4人分用意されていた...
「ふふ、前から真白には城二君を家にご招待してってお願いしておいたの、遠慮なく座ってね~」
真白のお母さんは俺にそう言うと、キッチンの方へと向かって行った
「ん、城二はここ」
真白が手前の椅子を引いて俺に座る様に促す
「あ、有難う...」「ん」
真白の引いてくれた席に腰を下ろすと、目の前には真白のお父さんらしき男性が...
「さぁこれで揃ったわ、それじゃ私らの自己紹介しなくちゃね?お父さん」
「ん?あ、あぁそうだった、真白のは初めての友人に見とれて忘れていたよ」
さっきから俺の事をジッと見つめる、真白のお父さんの視線はそういう事だったのか...
「改めて自己紹介しなくちゃね、僕の名前は雨宮
真白のお父さん...金吾さんは、いっけんすると何処にでも居そうな優しそうな良いお父さんって印象の人だ、だが俺の目から見ても分かる...この人は只者では無い自然体の中に嵐の様な強さを感じる
「次は、私ね、私は、雨宮
「いえ!?とんでも無いです!」
「フフフ、そう言ってもらえて良かったわ」
??微笑んだ玄芭さんの瞳は一瞬だが、真白と同じ流星眼に見えた...
〇雨宮 金吾 年齢40台中頃、細い垂れ目で温厚そうな印象を受ける、年齢も40台中頃だと思うが見た目から20代後半と言われても分からない、長い黒髪を後ろで束ねており紅白の紐で括っている
身長は170cm位で、体つきは普通よりやや細め、服装は雨宮家の家長なので、神主の様な服装をイメージしていたが至って普通に亜麻色のスラックスに白いワイシャツというシンプルな服装だ
第一印象で感じた通り、見た目に反しかなりの力の持ち主だと肌で感じる...ちなみにゲームでは未登場である
〇雨宮 玄芭 年齢(ないしょ?恐らく30台後半)、真白と同じ水色の髪の毛を肩口で切揃え前髪をカチューシャで上げている、真白と双子と言われても可笑しくない程、若々しい身長も真白と同じで150cm位とそんな高く無いがそのスタイルは破壊的だ...真白の容姿やスタイルは玄芭さん譲りなのだろう
それにあの眼...
二人の事を交互に見つめながら俺が何か言いにくそうにしていると...
「ハハハ、城二君はもう少しワンパクだと思っていたが、ずいぶんと思慮深いんだね、良いよ遠慮せずに聞きたい事は口にしたら良いさ」
金吾さんは、俺の小心を軽く笑い飛ばしてくれた
「そ、それじゃ...玄芭さんのその眼...それは真白と同じ流星眼なんですか?」
玄芭さんは、最初に自分へ質問が来るとは思っていなかったのか、自分の事を指差し少し驚いている
「あら、良く見ているのね、でも残念ねぇ私のこの眼は流星眼では無いの、流星眼の手前...そうね昔の人は水晶眼と呼んでたみたい」
「水晶眼ですか?初めて聞きますね?」
玄芭さんは口元に手を添えコロコロと嬉しそうに微笑んだ
「そうでしょうね、この眼は時折だけど神気にあてられて輝く事があるけど、真白の流星眼の様に神視を可視化したり、相手の心域を認識したりは出来ない普通の目なのよ」
「神気に反応?...」
俺の反応を面白そうに見ている玄芭さん、流星眼じゃ無かったとしてもこの人の眼にはすべてを見透かされてる様な感覚になってしまう...
「ハハハ、さぁほかには?」
金吾さんは、嬉しそうに俺に次の質問は無いのかと促す
「...はい、これは僕の感覚だけの話なので、間違っていたら申し訳ございません...金吾さんも真白に負けない位の上位神と契約してますよね?」
金吾さんは一瞬だけ目を見開くと、すぐに細い垂れ目へと戻し嬉しそうにウンウンと頷いている
「なるほど...流石聖獣白虎を従えるだけの事はあるね...感心しちゃったよ」
「ご存じでしたか...」
俺が白虎を契約してる事は、既に真白から聞いているか...
「勘違いしてるね?城二君、僕達は真白から君が白虎と契約してると聞いた訳じゃないよ?先ほどから見えてるんだ、君の背後に...ね」
!?...今度は俺の方が驚き金吾さんと玄芭さんに交互に目をやると...
『やれやれ...こんな所に未だ残っていたのか...晴明の技を受け継ぎし者共が...』
呼ばれもしないのに俺の足下からテーブルの上に飛び乗って来たトラ
「と、トラおま!?何勝手に「白虎様、ご尊顔を拝す事が出来、先祖達も喜んでおりましょう」...へ?」
トラに対し、金吾さんと玄芭さんは席から降り、傅き膝を曲げ頭を下げた
『みたか城二、これが儂に対する正式な挨拶の方法じゃ...ちゃんとみて...まぁ良い、真白の父母よ儂らの中では畏まった形式は不要となっておる、普通に接すがよい』
「「はっ!」」
トラからの言葉にもう一度頭を下げて、席に座りなおす金吾さんと玄芭さん
「話が逸れたね、白虎様が姿をお見せ下さったのに何時までも隠す事では無いよね...御出でませ、 思金神(おもいかね)」
すると、金吾さんの周りに風が集まり背後で人の姿となって俺の眼にも、はっきりとした形で姿を現す...
その姿は、仙人の様な老人の姿をしてした
〇 思金神
天照を岩戸から救出する際の作戦を考えたとされる知恵の神、出雲の国譲りでも派遣する神々の選定を行ったり、瓊瓊杵尊の天孫降臨において、その補助役を担ったりするなど
重要な節目に登場する重要な神、その相談役的な立場と英才ぶりから知恵を司る神と考えられ、学業成就や合格祈願の際に崇められる事が多い
「上位神とは思っていましたが、思金神とは...では、以前に秘境の事について人類へ思金神が天啓を与えたと言うのは...」
目の前の金吾さんは、優しく微笑み静かに頷いた
目の前に居る真白の父親である金吾さんは、宮内省の催事に関わる仕事と軽く言っていたが、恐らく重要なポジションに要る大物なのは間違い無さそうだ
「僕の方も驚いてるよ、先祖の文献で四聖獣についての記載を見たけど、白虎と言うと身の丈は20尺(約6メートル)を超えると書かれていたが...」
「フフフ、こんな愛らしいお姿とは...玄芭も驚きました」
『...これはコヤツを揶揄おうとして調子に乗ったツケじゃ...まぁお陰で自由に顕現できるのだがな...』
玄芭さんは、「あ、そうだ!」と席を立ち奥のキッチンへと消えて行った
「でも、我が娘に、こうして休日に一緒に遊びに出かける友人が出来て僕は本当に嬉しいよ...」
「フフフ、本当にねぇ~あ、これ白虎様のお口に合うか分かりませんが、地方から取り寄せた生ハムです」
『ふむ...大きい真白の母よ、中々に殊勝であるぞ...遠慮なく供えるが良い』
トラは出された生ハムに行儀悪く食らいつく...
「ふふ、じゃ僕等もいただくとしよう」「「「頂きます!」」」
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真白の両親との食事は凄く楽しく、金吾さんも玄芭さんも俺と真白のこれまでのエピソードを驚きや笑顔を交え楽しそうに聞いてくれた...
北野家では決して体験する事の出来ない家族の暖かな団欒...俺は何時しか時間を忘れ。このゆっくりとした空間に心地よさを感じていた