目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第61話 さよならマイホーム


〇城二の住むマンションにて


俺と道代さんはリビングでテーブルを挟んで沈黙していた


「では...城二様は明日には...」


「はい...この部屋から出ていきます、道代さんには大変お世話になりました」


テーブルに額が付くほど深く道代さんに頭を下げる


「や、やめて下さい!頭を、頭を上げて下さい!」


道代さんは慌てて俺の肩を掴んで、上体を起こすと悲痛な表情で俺の事を見つめている


「で、でも...ここを出ていかれて一体どうされるおつもりですか?」


道代さんに心配をかけたく無い...ここは高級ホテルにでも泊まると言っておくか...


『わ、私はもう必要ないですか!?』『譲二君...私ってもう必要ない?』


目の前の道代さんと、前世の美千代の姿が重なり頭の中で二人の声が重なる


(俺はまた間違う所だった...嘘をつく事が気遣う事な訳ないのにな...すまない美千代)


フゥ――


「正直言って、行くところの目途は有りません取り合えずお金が続く限りネットカフェかビジネスホテルに夏休み中は泊まろうと考えてます、そして出来るだけ早いうちに学校の寮に入れる様に担任の先生を通じお願いしてみるつもりです、丁度、魔刑部大会も近いですし、その時にでも相談してみるつもりです」


「そう...ですか...」


道代さんは何か考えているのか、俯いてしまって表情が見て取れない


「本当に困ったら、バイトでも何でもするつもりですので」


「バイト...!?」


道代さんは何かを思いついたのか何処かに電話を始めた


「...えぇ...そう、短期のバイトなんだけど...うん、お願い...出来たら日払いで、うん」


電話を終えた道代さんは、スッと自分のスマホの画面を俺に見せた


「城二様、以前にいらっしゃった、私の大学のゼミ仲間の薫と紗枝の店で短期バイトを募集してます、城二様さえ宜しかったら、明日からでも如何ですか?条件は此方に...」


道代さんの指が指す時給は1600円と高校生のバイトとしては破格だ


「何から何まで、有難う御座います...早速明日にでもマタタビに行ってみます」


「...それで、僕から聞くの変ですが、道代さんは今後如何されるのですか?」


!?...


俺の言葉に少し驚いた表情を見せた道代さんは、少し俯き...


「祖父からは、立花の家の為にはそのまま尊様の身の回りのお世話をするのが望ましいと言われました...」


「そう...ですか...」


立花家は分家としてはそれ程大きい方では無いが、代々北野家の執事として、仕えて来た経緯はある


「でも、最終的には私が判断したら良いと...今回のお家騒動には祖父も少し思う所が有るのかも知れません」


確かに、あの男の豹変ぶりは俺も驚いた...今までの厳格で家族や周りの人に殆ど興味を示さなかった態度も、その仮面の下に隠した下衆な顔を隠す為だったとしたらかなりの役者だ


そんな姿から、身近な者が不信感を抱いてもおかしくは無い


「もし、この家を出るとして道代さんに宛ては有るんですか?」


自分の事を棚に上げ、何を心配してるんだと思われるだろうか?


「一人だけ宛ては有るには有るんですが...先ほど城二様にご紹介した猫カフェの経営ですが、薫や紗枝と一緒に私も少しだけ出資してるんです」


何と、あの猫カフェに道代さんも一枚噛んでたらしい


「ただ、筆頭のオーナーは別に居まして...私達より1つ下で同じ星城大に通う2年の子なんですが...」


「へぇー道代さんの一つ下って事は21歳で...それは大した才女ですね?その方が大口の出資を?クラウドファンディングか何かで?」


「いえ、その子高校在学の頃から、株式投資をしてて大学に進むと同時に一人暮らしする為の資金を、高校在学中に稼いだって言ってました、都内にマンションも持ってて学費も生活費も全部自分で稼いだって...」


「なるほど、その方の所に身を寄せるって事ですか...」


「そう...ですね...」


何だか道代さんはバツが悪そうに俺の方をチラチラと見ては、目線を合わそうとすると視線を避ける


「何か僕に言いにくい事ですか?北野家の関係者だとか?」


「いえ...その子の名前...「愛理」って言うんです...」


愛理?覚えが無い...ただ、何処かで聞いた事は有るが...




「彼女...宮下 愛理って言うんです...城二様の前の婚約者、藍瑠様の姉です」



〇―――――翌日の朝


俺は前日の遅くまで、自分の部屋で荷造に追われ眠りについたのは、空がぼんやり明るくなりかけの頃だった...


道代さんは結局、俺と同じくこの部屋を出る決意をした様だ


ただ俺が婚約破棄された相手の姉だという事をしっており、俺が落ち込んで居るのに更に、不快な気持ちになるのでは?と懸念していたらしい


しかし、俺の情報だと藍瑠の姉、愛理は両親と折り合いが悪く早々と家を出て独立したという設定は見た事が有る、本編では名前と藍瑠に対する恋愛アドバイス的な事で会話に出てくるのみで、どんな姿をしてるのかさえ知らない


しかし、昨晩道代さんが、「急な話で申し訳無いんだけど、愛理の部屋で少しの間、シェアハウスさせてくれない?」


と、お願いしたところ、二つ返事で了承してもらい俺と一緒に昨晩遅くまで荷造りしていた


「この部屋ともお別れですね...すこし寂しいな」


「フフフ、確かにこの部屋では城二様との沢山の思い出が有りますしね...」


俺も道代さんも自分の荷物はさほど無い、家具家電や食器類はそのまま置いて行くし衣類も城二の元々もっていた悪趣味な服は処分しておいた


二人ともトランク2つを転がし部屋の外へと出る...ガチャと鍵をかけ


「では、これは城二様にお返ししておきます...管理事務所へお返し下さい」


「ええ、分かってます...道代さん本当に今までお世話になりました...」


「やめて下さい!今生の別れみたいな事を言うのは!悲しくて泣いちゃいます...」


道代さんは俯き、目元を指で拭う


「城二様のお世話に任が無くなったので、私も薫や紗枝と一緒に猫カフェで働こうと考えてます、ですのでまた後で会えますよ?」


「え?そうなんですか!?...それは、なんと言うか...今のセリフが恥ずかしいです...アハハ」


「えぇ本当に、フフフフ」


どうやら道代さんとは又直ぐに出会える様だ、その事にホッと安心してしまう...


「それより、城二様おひとりで洗濯や掃除、ご飯の用意等できますか?ご連絡頂ければ何時でも駆けつけますので...」


これはもう何度目かのやり取りだ...道代さんは俺の事はよほど心配と見える


「まぁ暫くはネカフェで寝泊まりしますので、掃除は要らないですが、洗濯はコインランドリーですね、あ、ご飯はちゃんとした物を食べる様に気を付けます!」


そんな事を喋りながら1Fのエントランスに着いた...俺は管理人室に居る管理人さんに鍵を渡すと、既にあの男から連絡が来ていたみたいで、すんなりと鍵を受け取って不愛想に受付の扉を閉めた


(普段はあんな愛想振りまいていたのに...住人じゃ無くなったらこんな扱いか...まぁしょうがない)


エントランスから外に出ると、外車の大型SUVが停車しており俺たちの姿を見つけた運転手がゆっくりと降りてくる...


「お待ちしてました、道代先輩...それと...貴方が城二君...だよね?」


「...貴方が...」



「初めまして、私が宮下 愛理よ」
























この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?