〇城二の住でいたマンション前にて
エントランスから外に出ると、マンション前のロータリーに見慣れない真っ白な大型SUVの外車が停車しており中から運転手がゆっくりと降りてくる...
「お待ちしてました、道代先輩...それと...貴方が城二君...だよね?」
「...貴方が...」
「初めまして、私が宮下 愛理よ」
◇
宮下
ピンクの髪の毛のベリーショートで、少し釣り目気味の緋色の大きな瞳、赤縁の眼鏡をかけている、
流石は姉妹、その容姿は藍瑠と瓜二つだが、スタイルの方は藍瑠と違って細身でスレンダーだ
雰囲気に良く似合う赤紫色の上下のスーツ姿と真っ赤な宝石の付いたイヤリングがインパクトの有るインテリ系の知的美女
自己研鑽の意識が高かった愛理は、自分達の努力と知恵で家を盛り立てようとしない癖に家柄のプライドだけは高く先人達が苦労して残した遺産を、食いつぶす事しかしない両親と衝突する様になる
愛理は、高校在学中には早々と両親に見切りを付け、いち早く自立する為に学業の傍らで投資や株式、起業に関する勉強も始め、高校3年になるとバイトで貯めたお金を投資にあて、卒業する頃には大学の入学費用と、アパートの賃貸費を払える位の財を成す事に成功する
その後、大学に進学と同時に両親の猛反対を押し切り、家を出て独立...投資運用を続けながら学生起業家を目指しキャンパス内で信頼出来る仲間を募る
そんな折に知り合った、キャンパスでも有名な同じゼミに所属する3人の女性...それが音田さん、山吹さん、そして道代さんだった
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北野 城二として、愛理の妹である藍瑠にしてきた事を考えると、さぞかし恨まれているのだろうと覚悟はした...しかし
「そんなに構え無くて良いよ、私は君の事そんな恨んじゃ無いよ」
そう口にした愛理の眼は笑っては無いが、嫌悪感も無かった...だが何か見定められてる様な...
「へぇ――、そうなんだ...意外」
「へ??」
愛瑠が俺の事を見つめながら、ボソッとそう呟く
「いえ、こっちの話、気にしないで」
「は、はぁ...あ、それよりも道代さんの件快く受け入れて頂き有難う御座います」
愛理さんに軽く頭を下げる...
「へぇ――、そうなんだ...驚き」
「へ??」
再び愛理が俺の方を見つめ、ボソッと呟く
「あぁごめん、独り言だし気にしないで、あ、道代先輩の事もね、道代先輩には大学で出会ってから随分とお世話になってるし、私からしても大事な頼れる姉貴分だしね、いつも頼ってばかりの道代先輩に、こうして逆に頼られるなんて嬉しい限りよ」
「ちょっ...愛理やめてよ、城二様の前で...」
道代さんは大学での振る舞いを、あまり俺に聞かせたくないのか恥ずかしそうにしていた
「へぇ――、そうなんだ...面白い」
「へ?」
この人の口癖なのか?さっきから「へぇ――、そうなんだ...」ばかり呟いでいる
ただ道代さんと接する時の愛理さんの表情は、年相応の女子の無邪気な笑顔を見せていた
(確かに、道代さんに対する絶対的な信頼感を感じるな...これが本来の愛理さんなのだろうが...)
「あ、それと今日から、愛理さんのお店でバイトさせて頂く事になりました...その際もよろしくお願いします」
この場でバイト先のオーナーである愛理さんに今日からバイトに入る事を告げると...
「へぇ――、そうなんだ...興味深いわ」
「あ、有難う御座います」
「いえ、私が今まで見て来た家柄だけが取り柄のボンボン達は、今の貴方みたいに働く事に対し、感謝と誠意を持たない世間知らずばかり...「働いてやる」「言われた事をすれば良いんだろ」みたいな「仕事」を舐めてる様な連中ばかりだったけど、今の貴方からはそんな奢りも怠惰も感じない...」
「そう...まるで何年も社会経験を積んで、直向きに努力してきた苦労人の様な仕事への姿勢を感じた...」
!?
「なぁ~んてね、変な事言っちゃって御免なさい」
「い、いえ(何だ、この人...流石この歳で会社を興すだけの事は有る、人を見抜く眼が半端無い...経営眼とでも言うのか?)」
そんな事を話してる間に、後ろのドアを開け自分の荷物を積み込んだ道代さんに視線を向ける愛理さん
「では、道代先輩行きましょうか?今朝、薫先輩と紗枝先輩にも伝えたら夜は引っ越し祝いだって、フフフ楽しみですねぇ~」
「はぁ―――、愛理ぃ―――あの二人お酒入ると面倒なのよ?...知ってるでしょ?」
「まぁまぁ、良いから良いから早くいきましょ~」
道代さんの背中を押し、車へと向かう愛理さん...道代さんが、いったん立ち止まり俺の方を向くと愛理さんと俺の間に立ち
「城二様...長い間お世話になりました...城二様も落ち着いたら私にご連絡頂けると有難いです...それでは...」
「あ、は、はい...僕の方がお世話になりっぱなしで...こんな結果になって本当に申し訳御座いません...落ち着いたら必ずご連絡します...道代さんもお体に気を付けて」
「城二様...」
「うぉっほん!...あのぉ~いい雰囲気の所、水を差すようですがお二人今日の夕方から「マタタビ」で一緒に働くんですよね?」
「ア、アハハ...確かに...あ、それでは道代さん後ほどぉ~」
「は、はい...後ほど」
少し間の抜けた挨拶を交わし、道代さんは愛理さんの運転するSUVに乗りこみ行ってしまった...
「さぁ~て、ネカフェでも探しますかぁ~」
俺はトランク2つを転がしながら、駅に向かって歩きだす...途中、スマホでネットカフェを検索しながらコスパの良さげな場所を片っ端からあたって見る
「申し訳無いです、本日は満席となって居まして」
「御免なさい、既に予約が埋まってまして」
「うちは、未成年は21時以降は利用をお断りしてるんだ、当然宿泊は無理だよ?」
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〇駅近くの公園
「夏休みだからかな?目ぼしい所は既に満室か予約で埋まっているかぁ———ホテルも未成年だとなぁ———」
公園のベンチに腰を下ろし此れからの事を考えていると...ピコン♪
『城二、メッセージ見たら電話しろ』
真白からのメッセージ、俺は昨日の事を思い出した...真白との夢の様な楽しいひと時、それが一本の電話でぶち壊しになった
せっかくの真白とのデートだったのに変な終わり方をした事が残念で仕方なかったし、真白にも申し訳が無かった
(とりあえず近況は伝えるか...)
プルルル♪プルルル♪プルルル♪ガチャ
『ん、城二今何処に居る?』