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第63話 家族の有難さ

『ん?城二今何処にいる?』


駅の近くのネカフェは何処も満室で、格安のホテルも未成年者だと言う理由で宿泊を断られた


近くの公園で、他の算段を考えてる時に真白からメッセージが届き折り返し電話をすると、居場所を尋ねられた


「あぁ今、駅近くの公園にいるけど?」


『ん、そこで待ってろ迎えに行く」


「迎え?」


『10分で着く』ツゥーツゥーツゥー...電話は切られてしまった


スマホの時計を確認すると、約束のバイト面接の時間まで未だ4時間近くある...


「まぁ駅近くじゃ無くてもネカフェは有るから、そこで妥協するか」


再びスマホで検索範囲を広げネカフェを探していると...


「ん、見つけた」


「ん?あぁ真白、どうしたんだ?」


振り向くと隣には白いワンピース姿の真白が立っていた


「ん、行こう」


真白が手を差し出したので、条件反射でその手を握る


「行く?どこへ?」


「家」


「家?真白の?」


「ん」


「?」


「良いから行く」


真白に手を引かれ言われるがまま、公園の外に出ると昨日ネズミ―ランドへ送ってもらった時に乗ったワンボックスが泊まっていた


真白に続き俺も乗り込むと、運転席の女性はチラッと俺の方に視線を向けると何も言わず静かに発進した


「真白の家に行くのか?あっ!もしかして泊めてくれるのか?」


「ん、泊める?いや、暫く住んでも良いってパパもママも言ってた」


「え?い、いやいやずっとはお世話になれないよ!?」


俺がそう言うと真白は少し不機嫌になり


「親友のピンチを助けるのが、相棒だ城二遠慮は無用だ」


「い、いやしかしだな...金吾さんも玄芭さん共、昨日初めて会ったばかりでそんな図々しい事はだなぁ...」


「二人の許可を取った、さっき言った」


こうなると真白は頑として譲らない...取り合えず今日の所は厄介になろう


そんなやり取りをしてる内に雨宮低へと到着した...水門を通り中庭で停車した車から降りると


「やぁ城二君、昨日ぶりだねぇ」


「まぁ城二さんようこそわが家へ、遠慮せず寛いでくださいな」


玄関先に金吾さんと玄芭さんが揃って出迎えてくれた


「私の部屋はダメと言われた、城二には客間を使ってもらう」


いや、そりゃそうだろ...少し残念では有るが


「まぁ真白ってば、何時からそんな積極的になったのかしら?ママビックリ」


「これ、真白、城二君は信頼できるけど未婚の男女が同じ部屋はダメって言ったろ?我儘言わないの」


未だ納得してないのか、真白は少し不満顔だ


「この度は図々しくもご厚意に甘えさせて頂きます、他に泊まる所が見つかる迄の少しの間、皆様にご厄介になります...どうぞ宜しくお願い致します」


俺は金吾さんと玄芭さんに丁寧に頭を下げる


「良いんだよ城二君...真白を孤独という檻から救ってくれた親友のピンチだ私達が手を差し伸べない理由は無いよ、これは親としうの君への恩返しだと思ってくれ」


金吾さんは優しく微笑むと頭を下げてる俺の肩へと手を置いた


「そうよ、遠慮なんかしなくて良いの気が済むまで居てちょうだい」


これが...家族、久しく忘れていた田舎の両親の事を思い出した、俺を東京の大学に行かせると農業の傍らで他の仕事も掛け持ちし必死で働いてくれた両親...本当なら東京でビッグになって返しきれない恩を返したかったのに...


俺の両親は無理が祟ったのか、65歳の誕生日を前に二人とも世界的な流行り病に掛かり、闘病の甲斐なくこの世を去った...


もう少し早く特効薬が出来てれば...テレビで両親と同じ流行り病で亡くなった大物お笑い芸人の追悼番組を見ながらそんな事を思ったものだ


ただあの時は、そばで支えてくれた美千代が居たので自暴自棄にならずに済んだ...彼女の存在がどれほど心強かったか


しかし、そんな幸せを俺自身の行動で失ってしまった...


「今度は間違え無いよ...」


俺の泊まる部屋へと案内してくれる、雨宮一家の背を見ながら俺はそう心に決める


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・


「本当に、バイトに行くの?」


用意してもらった部屋で、服を着替え皆に今日からバイトを始める事を告げる


「えぇ、甘えてばかりでは成長しないと...少し前に言われたんで」


俺は微笑みながら真白に視線をむけると、真白は軽くうなずく...流石俺の推しだ何も言わなくても分かってくれる...


「家から出されて、自分の力で生活出来ないなんて、北野家に啖呵を切った手前、恰好つかないですしね」


そこまで言うと金吾さんも玄芭さんも俺の真意を理解してくれ、「それじゃ気を付けてね」「晩御飯は皆で食べるから遅くならない様に帰ってくるんだよ」「ん、城二いってら」


雨宮家の長い庭を抜け、水門から出ると最寄りの駅まで早足で歩く


(結構距離あるな...真白はいつもこの距離を歩いてるのか?)


駅まで徒歩30分と言った所か、そんな時間もかけてられないので電車の時刻を確認しながら早足は、いつの間にか駆け足となっていた


軽く息を切らしながら、なんと予定の電車へ乗り込む...星城女子大前の駅までは3駅程直ぐだ


『星城女子大前、星城女子大前、お出口は右側です』


駅から真っすぐ猫カフェ「METATIBI」へと向かう...約束の時間迄15分、何とか...


赤信号の横断歩道で青に変わるのを、待っている小学生位の女の子たちがスマホを手に何やら楽しそうにおしゃべりしていた...


(今時は小学生でもスマホを持つ時代か・・・・)


そんな事を考えながら横断歩道に並ぼうとしたその瞬間!?


信号を無視し、女の子達の方へと突っ込んでくる白い自動車...


【イレイズ】


とっさに頭に浮かんだワードを口にし、女の子2人と車の間に割って入ると右手を白い自動車の方へ翳す


フッ...


次の瞬間、白い自動車は急に右に大きく傾き金属とアスファルトが擦れる耳障りな音と共に俺たちの直ぐ横で停止した...


「運転手は!?」


背中に女の子を庇いながら、恐る恐る運転席を確認するとハンドルの中央から飛び出したエアーバッグの中に顔を埋めている、中年の男性の姿が...


「!?お、お嬢ちゃん達、無事かい!?」


背後の女の子2人は、怖かったのだろう抱き合ってガタガタと震えていて俺の問いに答えない...無理も無い


俺は運転席のドアに手をかけ思いっきり引っ張るが、衝撃で歪んでいるのか、ロックされてるのかビクともしない...


「クソッ!」ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、パリッン!


肘で何度かドアガラスを殴り割り、腕を突っ込みドアのロックを外すと、バゴッと音を立てドアが外れる


「大丈夫ですか!?」


男性は意識は無いが、息はしてる...


「何方か救急車を!」通行人に向かって叫び俺は男性を救出する為シートベルトを外すと腕を自分の肩に回しゆっくりと車から降ろし地面にゆっくりと横に寝かせる


幸い目の前で俺たちの様子を見ていた買い物帰りの主婦の方が親切に警察も併せて呼んでくれたみたいだ


「お嬢ちゃん達、お父さんかお母さんに連絡とれるかな?」


先程スマホを手にしていた女の子の前に屈んで目線を併せながら、そう話すと、コクコクと放心しながらも頷き震える指でスマホの電話帳から母親であろう電話番号をフリックし通話ボタンを押す


トゥルルル♪トゥルルル♪ガチャ


「もしもし?小春ちゃん?どうしたの、学校で先生の許し無く携帯で電話しちゃダメって...」


「あ、ぁあ、マ、ママ、あ、あ、」


ダメだ女の子はパニックになっていて上手く自分の状況が伝えれない、受話器の向こうで母親らしき女性が「何?全然聞こえないよ?電波悪いの?ねぇ小春ちゃん?」と声が聞こえてくるので


俺は女の子が耳に宛ててるスマホをそっと触り、女の子に軽く頷いて合図すると、女の子は理解したのかゆっくりとスマホを耳から外し俺の方へと差し出した


『小春ちゃん?ちょっと?何かあったの?ねぇ黙ってちゃ...』


「お電話代わりました、僕は東光高校2年の北野城二と申します、小春ちゃん?に変わって事情を説明します」


『どういう事ですか?!小春に何か!?』


俺はかいつまんで、小春ちゃんのお母さんに事情を説明すると、すぐに此方に駆けつけるとの事で電話を切られた、その際にお友達のお母さんにも連絡を付け、出来たら一緒に来るそうだ


そうしてる間にも、警察と救急車が到着し男性の応急処置が行われ、交差点は一時的に交通規制が入り渋滞しはじめた、俺も女の子も警察から事情を聴かれ、その時の様子を正確に伝える


その間に、小春ちゃんたちのお母さんが、慌てた様子で駆けつけて来た


「小春!」「洋ちゃん!」


「ママァー!」「マーマー!」


女の子2人はそれぞれの母親の胸に泣きながら飛び込んだ...


運転手の男性は、いまだ意識が戻らないのか応急手当を受けたまま救急車に乗せられ運ばれて行った


「えっと...北野城二さんでしたよね?お怪我とか御座いますか?」


「いえ、僕は特に...あっ!?」聴取書を書いていた警官の男性の腕時計を目にした


「バ、バイトの面接に遅刻だ!、あ、僕急ぎますので!失礼します!」


急に荷物を手に慌てて走り出した俺を唖然とした表情で見つめる警察官の男性...


「いや...この状況の説明をして欲しかったんだけど...」


そう呟く警官の視線の先には、車体の左側前方が不自然なほど綺麗に削り取られ大破した自動車の残骸が有った...







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