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第70話 試衛学園 魔刑部部長 土方 翼

〇東京ドーム内 全国魔刑部決勝大会 選手控室前


「あら、久しぶりやね、小百合さん」


「試衛学園選手控え室」と掲げられた部屋に入ろうとしていた一団に声をかけられた様だ


「...翼」


天草先輩の視線の先には、ハーフアップの黒髪に藤の花をあしらった髪留めを付けた、色白の美女が不敵な笑みを浮かべていた...


(彼女が土方 翼...試衛学園魔刑部部長にして九鬼先輩と同じAランカー...そして、天衣無縫の所有者か...)



天衣無縫とは、古の時代より土方家に受けえ継がれて来た陣羽織である


天の川伝説で有名な織姫より下賜されたと言われる、星屑を織り込んだ生地に幾人もの純潔の乙女の髪を編み込で作られた、この世に二つと無い宝具である


魔都東京1999では、物語の最終局面で手にする事となる、コス=タータルトの防御結界を相殺するアイテムだ


物語の終盤では各地の秘境より溢れ出た儀神の襲撃を受けた、東京国立博物館の地下に極秘で作られた政府の研究施設...東京湾に落下した隕石の中で自身の肉片である儀神から送られてくる、八百万の神の力を吸収し実体を生成していたラスボス、コス=タータルトはついに復活


この国とこの国の守護神たる八百万に戦いを仕掛ける


コス=タータルトの力は強大で、人間の武器は勿論、神の力も通じない...まさに神の天敵とも言うべき存在


コス=タータルトを神の天敵する所以、「神威反転(メビウス)」と呼ばれる異次元断層の時空結界の存在だ


このメビウスは、神の力を次元反転させコス=タータルトのエネルギーとして吸収する性質を持つ、この力の一部を埋め込まれたのが各地の秘境内に出現した儀神だ


そのため儀神は、たとえ倒されたとしても攻撃された神憑依や神衣の力を、メビウスで変換しコス=タータルトへとエネルギー供給していたのだ・・・


そのメビウスの時空結界を無効化する為に使用されたのが「天衣無縫」


天衣無縫に宿る純潔乙女の力と星屑の力にて、メビウスの無限循環の輪に亀裂を作り僅かな時間無力化できる


この力で実体を引きずり出した尊達は、コス=タータルトの本体に総攻撃を仕掛け、ついに異郷神コス=タータルトを打倒すことが出来た・・・・




というのが、魔都東京1999の表エンディングだ...真エンディングは...


「...久しぶりだね翼、紹介するよ此方が新しい魔刑部のメンバー 北野君と雨宮さん、池上さんだよ」


考え事をしていて急に天草先輩に名前を呼ばれ慌てて、土方先輩に向かって頭を下げる


「は、初めてお目にかかります、北野城二と申します、土方先輩の名前はお伺いしております、どうぞ宜しくお願い致します」


「ん、真白だ、よろしく」


「にゃははは~天音でぇ~す、よろしくねぇ~土方パイセン♪」


俺たちの様子を目を細めながら、見つめる土方先輩...


「なるほど...確かに、これは逸材ぞろいやな...さっきウチを煽ってきた生意気な可憐の自信が、よう解ったわ」


パチン


土方は手にしていた扇子を閉じ、真白に向かって突き出す


「時にあんたな...雨宮の最高傑作、現人神、名前だけが先行して実が付いて来ない連中とは訳が違うなぁ...アンタみたいなのがDランク戦とか、ランク式の評価方、大会運営も見直した方がええと思うわ」


「ん、私には関係ない、お前の評価も気にしない」


真白は相変わらず、素っ気ない...が、真白の態度が気に入らない人物が2名


「翼様...この無礼者を潰す許可を」


「部長!、今大会のDランク戦で、華々しくデビューするのは、この西の超新星「島津 豊一(しまず とよかず)」です、こんな顔が良いだけの女に負けるはず有りません!」


土方先輩の前に立ちはだかるのは、黒髪をポニーテールに纏め、小さな身体と、まだ幼さを残した童顔を持つ美少女と、茶髪を綺麗に七三分けした、いかにも嫌味そうな目付きの悪い島津と名乗った男子生徒


「...やめとき、雨宮の娘はアンタ等じゃ相手にもならんわ...後ろの池上流の破天荒娘もかなりの使い手やけど...雨宮の娘は別格ね、東光高校で可憐に次ぐ...いや可憐以上の実力ね」


「!?はぁぁ?」「...翼様...それは...」


ポニーテールの女の子は、不安そうに土方の方に振り返ると


「そうやねぇ~実力的にもAランククラスなのは間違い無いわ、ウチといい勝負...か、ウチの方が少し分が悪いかもやね...まぁ司(つかさ)アンタは、今年からBランクやさかい、雨宮と当たるのは...アンさんや島津」


名前を呼ばれた島津と言う男は、ワザとらしく真白に向かって会釈してみせ不敵に笑う


「雨宮家のご令嬢は、不可侵の現人神だとお聞きしていたので、どの様な方かと身構えておりました...」


「それが、この様なお美しい女性だとは...現人神というより私の眼には女神の様に見えます」


歯が翼を生やして飛んで行きそうな程、軽く浮くようなセリフを一回も噛まずにスラスラと口にする


(こんな会話テクあれば、前世でもっと営業車、業者を上手く交渉出来たんだろうな...)


「?...なんだ?君は...雨宮さんの付き人か使用人かな?」


島津という男の事をじっと見つめていた俺に、島津は不機嫌そうな表情を浮かべ食ってかかる


「にゃはははぁ~ごめんねぇ城二っち少し目付き悪いからぁ~(ちょっ!城二っち喧嘩売っちゃだめじゃん!メッ!)」


険悪な雰囲気を察し天音さんが、俺と島津の間に割り込み代わりに謝罪してくれる


「あ、あぁぁすまない...悪気は無いんだ、目付きが悪くてね、良く勘違いされるんだよ、気分を悪くしたなら許して欲しい」


「ふっ...北野のクズ兄が勘違いとかぬかすか...」


その言葉に真白の眉がピクリと動き...


「ちょーと!まって―――、確かに城二っちは見た目は怖いし、たまに怖い事言うし、女にダラしないし、隠しごとは多いし...あれ?何言おうと...」


イヤイヤ、フォローするのかダメ出しするのか、はっきりしてくれよ天音さん...


「で、でも、私にとっても皆にとっても大事な仲間で友達なんだよ、だから城二っちの事良く知りもしないで悪く言うの、やめてもらえないかな!」


真白は自分の出番を天音さんに取られた形になり、少し不満気では有るが天音の言葉に軽く頷く


しかし...


「いやぁ~池上流の若き才女は、実に仲間想いの人格者でいらっしゃる、その上お美しい!」


「先日の博覧会授賞式のお写真は拝見させて頂きましたが、こうして実際に自分の眼で拝見させて頂くと、その美しさは写真という枠に収まりませんね、この島津 豊一感無量で御座います」


コイツの語彙力は無尽蔵か?俺ならカンペが無いとそんなスラスラ言えないぞ?


天音さんの横顔を見ると、笑顔が引き攣って口元がピクピクしている...


「いい加減、うっとおしいわ島津、アンタはその軽薄な所を直さんと一生女にモテへんで...」


土方先輩に肩を掴まれ、強引に後ろへ下がらさせられた島津は悔しそうに顔を歪ましながら、他の部員の後ろへと下がって行った


「かんにんな、小百合...あ、アンタと同じBランクで、今年から参戦するウチの後輩や、ほら挨拶し」


さっきから土方先輩の事を何時でも、守れる立ち位置で黙って俺達の成り行きを見守っていた、ポニーテールの小柄な女の子は、土方先輩の横に立つと綺麗なお辞儀を見せ


「沖田 司(つかさ)と申します、2年生で、魔刑部では翼様に師事し日々研鑽を積んでる若輩者です、どうぞお見知りおき願います」


超が付くほどのド丁寧な挨拶に、逆に引いてしまう俺達...


「まぁ、この子真面目やし、堅苦しいかもやけど、仲良くしたってや」


「沖田さん、ご丁寧に有難う御座います、こちらこそ宜しくお願いします」


真面目な挨拶に、真面目に返しておいた...まぁ社会人の常識だ


「ほう...アンタが北野...!?アンさん、不思議な感じやな...白と黒、陰と陽、表と裏」


「本来、表裏で合わさる事の無い二つが混同してはるな...しかも、凄く綺麗な...フフフ、アンさん、メッチャええわ」


土方先輩は沖田さんを押しのけ、ずいっと俺の顔に近づき...


「あんさんとなら、色々と退屈しなくて済みそうやし...決めたわ」


そう言うと...!?


「「「「!?」」」」


俺の顔を両手で挟み、唇に柔らかい感触と共に目の前に長い睫毛を閉じた土方先輩の顔が...


「おぉぉぉい!!、翼!何してくれてんだよぉ!!」


天草先輩によって強引に引き離されるまで、何か起ったのか頭の中が真っ白になっていった


「ちょっ!?何すんねん小百合!」


「何すんねん、はこっちのセリフだよ!ボク達が居る目の前でよくも!!」


呆然と立ち尽くす俺の前に立ち、土方先輩と対峙する天草先輩


「何するも何も、ウチ、城二の事がメッチャ好きになったんよねぇ~一目惚れって奴や」


脈略も何も無く急に大勢の前で、俺の事を好きだと言い出した土方先輩


そんな中...。


「一体何の騒ぎなんだ?これは...ここは選手が試合に向けて集中する場所だぞ!」


「...翼か、いったい何を...」


混乱する場に現れた、皆川先生と九鬼先輩...2人は救いの救世主か?それとも...





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