〇東京ドーム内 グラウンド
流石はAランク戦...世間の注目度が違う
俺たちの視線の先に居る、九鬼先輩と皆川先生は、沢山のインタビュアやカメラに囲まれ取材の嵐だ
そんな中、ようやく第二試合が決着したみたいだ...控室の通路で取材を受けてる先輩を遠目に見てる俺たちの耳にも、アナウンサーの勝者コールがかすかに聞こえた
続く第三試合と第四試合がアナウンスされると、会場内の歓声がひと際大きくなる
第三試合 西 北九州国立大 2年 黒田 長友 対 社会人枠(T自動車所属)竹中 麻衣
第四試合 西 試衛学園 3年 土方 翼 対 東 社会人枠(ジョニーズ事務所所属)諸星 光輝
会場の歓声の殆どが、第四試合の諸星選手に向けての物だろうが...
いや...そうでも無い様だ、土方先輩の方の応援もかなり居る様だ...応援の比率で言えば4対6と言った所か?勿論、諸星選手が6なのだが圧倒的に女性の応援が諸星選手に集中しており、土方先輩の応援は女性男性半々くらいか
第三試合の出場選手がコールされ、第一武舞台の周りが歓声に包まれる
次いで、第四試合のコールがされる
『第二武舞台 東 社会人枠からの出場 華々しい芸能活動の中でも、その鋭き槍先は更に鋭さを増す、関東第二地区優勝者 諸星 光輝選手の入場です!』
ワァァァァ!、キャァァァ! 光輝様ぁぁぁ!
相変わらずの派手な、振る舞いは身に着けている道着にも表れている...紫の生地に金の刺繍で星をあしらったド派手でセンスの無...独創的だ
応援の歓声に笑顔で手を振り応える諸星選手は、片手を武舞台に添えると、ピョンと跳ね空中でキリもみしながら華麗に舞台へと着地した
「キャァァァカッコイイ諸星様ぁぁ!」黄色い歓声がさらに盛り上がり、諸星選手は両手を高く掲げ360度皆に見える様に笑顔を振りまく
『あ、えぇぇ...コホン!失礼いたしました、次に、西 試衛学園3年 12回大会Bランク優勝者 今大会よりAランクとして参戦、そしていきなり関西大会で優勝を果たし本決勝大会へコマを進めて来た西の女帝 土方 翼選手の入場です!』
西の応援席から土方コールが起こり、試衛学園の吹奏楽隊が演奏で盛り上げる中、ド派手な紫の道着を着た諸星選手に対し、薄い藤色の道着を身につけ白い袴姿の土方先輩が黒い艶やかな髪をハーフアップにして優雅に武舞台へ向かって歩く
お付きの沖田さんに肩を借り、日本舞踊の様な所作で舞台へと上がる...第一武舞台では既に試合が始めって要るようだ...
『では、お互いに礼!』
「よろしくお願いします」
「君...可愛いねぇ今日試合終わったら、僕と一緒にディナーとかどうだい?隣のドームホテルのスィートを取ってるんだ...僕と素敵な夜を過ごそうじゃないか」
「...冗談は顔だけにしてくれませんか?アンタはウチの好みと、ちゃいますよって」
翼は汚物でも見るかの様な目で、諸星を一瞥すると手で視線がうっとうしいと払い除ける
「はぁ?テメェ~ガキが調子に乗るなよ!?国民的アイドルの俺様が誘ってんだぞ?、女は皆喜んで股開きゃ良いんだよ!」
見立て通り、顔だけで中身は猿以下のゲスの様で翼は納得してる様に頷く
「お生憎様、ウチが初めてを捧げるのは、心に決めた男...城二だけやし...ウチ面食いやねん、堪忍やで...ブ・サ・イ・ク・君♪」
「...お前...今の言葉で死んだぞ?その綺麗な顔をズタボロにして、俺に「抱いて下さい」って泣いて懇願させてやる!」
「両者私語は慎みなさい!!、位置について!!」
審判にも聞こえていたのか、あまりの諸星の暴言に顔をしかめて注意する
「ちっ..」
いっぽう城二達は、別のチームなので先ほどの様な舞台袖での観戦は出来ないので、選手控室の通路から翼達の試合を観戦していた
両者共、開始線へ立つ...不敵な笑みを浮かべる土方先輩に対し、憎悪に顔を歪ます諸星選手...
「始め!!」
「神衣 木花之佐久夜毘売」
「神衣 事代主神(コトシロヌシ)」
〇神衣 木花之佐久夜毘売
土方先輩は、薄緑に輝く胸当てと肩当...そして藤の花と桃の花をあしらった黄金に輝く烏帽子に似た冠を身に着ける
神具 四季(しき)
広げると土方先輩の倍以上の大きさの、扇子...柄の部分は金銀の細かい細工が施され黄金に輝く扇子の表面は広げる度に、桜、紫陽花、秋桜、椿が、それぞれの季節を表す様に変化する
〇神衣 事代主神
諸星選手が契約していたのは、コトシロヌシと言い、恵比寿として知られる漁業の神だ
青い胸当てに、同じく青い肩当、そして大海原を思わせる青く輝く生地に白い波の模様が美しいいマントを纏う...(紫の道着と全くあって居ないと思うのは俺だけだろうか?)
神具 豊漁(ほうりょう)
細く長い槍の先は鋭くねじった様な刃先となっており、柄の部分には紐の様な物がついており諸星選手の右手首と繋がっているようだ...
「はじ・・・・」
「きゃははは、身ぐるみ剝ぎ取って観客にお前の全裸をお披露目してやるぜぇぇ!」
諸星選手は審判の開始の合図が終わる前に、手にした豊漁を槍投げの様に構え、上体をおもいっきり後ろに反らす
「神衣槍流術 水の宗 激流潮目(げきりゅうしうおめ)ぇぇぇぇ!」
諸星選手の手から放たれた豊漁は先端の螺旋形状の刃先を中心に激しく回転しながら水流を纏い、物凄い速さで土方先輩へ迫る
ばっ!土方先輩は扇子(四季)を広げ、冬の花である椿が描かれた面を、飛んでくる豊漁に向かって斜めに構える
カシュ!
乾いた音と共に、豊漁は四季の表面で滑る様に方向を変え、土方先輩の背後へと飛んで行く
「甘いですね...お覚悟を」
勝機と見た土方先輩は四季を閉じると腰の横に持ち、諸星選手目掛け居合の様な構えを見せる
「馬ぁぁ鹿ぁ~、甘いのはお前だぁぁ」
諸星選手が右手の紐を引っ張ると...ギュゥゥン
投擲された、豊漁が一瞬にして諸星の右手の中へと戻る
ファサァ
諸星が上に伸ばした手に豊漁が収まったと同時に、翼の肩当に守られて無い側の道着の一部が切れ落ち...
「おいおい~見かけによらず黒とか、もしかして結構好き者かぁ~ア八ッハハハ」
翼は、はだける肩口など気にして無いのか、冷たい目で諸星の顔を見つめる
「あぁ?何だぁ?その眼ぇ~前回まで、Bランクで燻っていた様な奴が、大学時代の3年間Aランクの一線で活躍してきた、俺に勝てる訳ねぇだろうがぁ!」
「さぁもいっちょ行くぞぉ!俺の神衣 奥義 激流潮目と巻取りの複合技は無敵だぜぇ」
そう言うと、諸星は再び豊漁を投擲する構えをとり、口元を醜く歪ませ
「さぁ、許しを請うなら今のうちだぞ?クク...どうせお前は全裸を俺に見られる訳だが、大勢の前でってのは勘弁しておいてやるぜぇ...ヒヒヒヒ」
下品な諸星の挑発的な言葉に、心揺れる事なく朝顔の柄に代わった四季を諸星に向かって広げた状態で、お互いの視線を遮る...
「ぐぬぬぬぬぬ...死ねよメス豚ぁぁ 神衣槍流術 水の宗 激流潮目ぇぇぇ!」
水流が渦を巻きながら、翼の広げた四季目掛けて飛んでくる
「紫陽花の、露と消えゆく、朝雨かな」
翼が四季に向かってそう、短歌を歌うと...
諸星の投げた豊漁が、四季の中に吸い込まれ、紫陽花の絵の中に現れた、
刃先から垂れる雫が紫陽花の花の表面を伝う様子が描かれていた
「なっ!?ばっばかな!?俺の豊漁が!!テメェェ返せェェ「巻取り」ぃ」
先程と同じ様に、豊漁を手元に呼び寄せる技を繰り出す諸星...しかし
翼は目にも止まらぬ速さで、諸星の右側面に移動すると、再び四季を広げ紫陽花柄を諸星に向ける...
ヒュッン...
風を切る鋭い音と共に豊漁は、諸星の手には収まらず、諸星の顔面近くを横切る様に飛んで行き武舞台の端に落下し刺さった
「ぎゃぁぁぁぁぁ!俺の、俺の美しい顔がぁぁぁ!!」