〇東京ドーム内 東光高校控室
「城二っち凄いじゃん!次はいよいよマシロンとの試合だね!!」
「ん、城二ばっち来い」
天音さんは真白との激闘もケロッとしており、いつもの元気印のギャル女神に戻っていた...が
「でも、天音さん...その眼...」
天音さんのピンクの流星眼は、その輝を失っていた
「にゃはははぁ~アタイには神衣は負担が大きすぎてぇ~流星眼で無理やり神視してウズメンを呼びださないと1分も持たないんだよぉ~まぁ流星眼使っても3分が限界なんだけどねぇ~」
「ん、天音は神衣に覚醒して間もない...慣れない内は連発出来ないし神憑依も出来ない」
どうやら、天音さんは次の試合の事等、最初から考えて無かったみたいだ...ただ、真白と全力でぶつかる事だけしか頭に無かったのだと、照れながらも軽く言う
流石は俺の尊敬する女性...優勝だとかランクアップだとか、そんな名前だけのモノより友人との真剣勝負の一瞬を選んだのだ、まさに自分の信じる道を進む天音さんらしい戦い方だ
「城二っちも、マシロンに胸を借りるつもりで、ドォォォォンとぶつかっちゃえぇ!」
「ん」ドォン!【ブルン】
真白が自分の胸を叩くと、結構分厚い素材の道着が激しく揺れた...
(揺れたね)(揺れた)(すごい揺れた)
他の部員もその様子を目撃しヒソヒソしがら自分達の胸を叩いて確認している
奥の方では、九鬼先輩と皆川先生も皆に背を向けコソコソと確認してるみたいだった
「あ、それじゃアタイ、城二っちの試合迄にお手洗い行ってくるぅ~」
天音さんは、そういうと化粧ポーチを手に控室を出て行った
「あ、次、真白の相手って試衛学園の島津君じゃない?」
控室のモニターに映る画面を確認すると、次の第一武舞台での試合で真白と例の島津君の対戦カードが組まれていた
「ん?誰?知らない...てか城二ずるい、シードで次私が勝ってからしか当たらない」
そう俺のトーナメント枠は次の第4回戦はシードとなっており、無条件で第5回戦まで進めるのだ
「でも、そこで真白と当たるんだろ?..」
「ん、バッチこい!」
心なしか真白が嬉しそうだ...思えば真白と対戦形式でするのは玄武の修練場以来かもしれない
あの時は神憑依してない真白に手も足も出なかった...真白の実力を知識として知っていたので負けても当たり前って思っていたけど、今とあの時では俺の強さも状況も考え方も違う
真白だから負けて当たり前、勝てる訳無い、負けの言い訳が楽
頭の中の俺がそう囁くが、先ほどの天音さんの言葉を思い出す...全ては全力を出し切って親友と向き合う、それが大事なのだと
「あぁ覚悟しろよ親友!」
「ん、そっちもな親友」
俺と真白は拳を合わせ笑顔で頷く...
『第一武舞台の試合は、試衛学園 島津豊一選手の勝利です!』
控室にアナウンスが流れ...真白の次の対戦相手が決まった
『...何じゃ?この気配...』
食い意地のはってる神様は運営が用意してくれたケータリングのお菓子を独りで貪っていたが、急に何を思ったか控室のドアの前に駆けだすと...
『消えた...気のせいか?』
なにやらブツブツとしゃべりながら、再びケータリングのテーブルを占拠する
そして...
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「いたか!?」
「いえ、そっちは?」「こっちにも居ないよ!」
「...このままだと、不戦勝となりますが?」
「少し待ってください!...プルルル...プルルル...くっ...出ない...」
次の対戦を控えた選手控室の前で、俺達は右往左往していた...
(いったい何処に行ったんだ...真白、天音さん...)
『ダメじゃ...確かにこの控室に真白の気配は残っているが、既にもぬけの殻じゃ会場の外へ出てった様だが...』
「なっ!?何で!?」
「時間です、申し訳無いですが規則は規則ですので、雨宮選手は不戦敗という事になります」
運営スタッフは腕の時計を確認すると、皆川先生と九鬼先輩にそう告げると胸元のマイクで何処かに連絡をしながら、控室の前から去って行った
『!?こ、これは...た、大変失礼致しました、只今運営事務局より連絡が有り、雨宮選手が時間までに出場選手控室に現れなかった為、棄権とみなし島津選手の不戦勝と致します!』
ブゥゥゥ、ブゥゥゥ
真白の不戦敗を告げるアナウンスに会場中がブーイングとなる...
「くっ...天音さんはトイレに行くって言って帰って来てないし...真白が消えた事に何か関係が...」
東光高校の魔刑部のメンバーは全員、肩を落としうなだれている
「二人の事は私が責任を持って探す、すまないが可憐は次に試合を控えてる城二の面倒を見てやってくれ、小百合と他のメンバーは私と一緒に周辺の人への聞き込みと捜索を頼む!」
「わかりました、二人の事を頼みます先生、それに小百合も頼んだわ」
「任せてよ、ボクが必ず二人を見つけて駆けつけるから」
「せ、先生...俺も一緒に...」
そう言いかけたが、皆川先生は黙って首を横に振る
「城二、気持ちは分かるがもしお前が真白や天音を探すのに試合を棄権したなんて二人が知ったら、どう思う?...心配なのは私も一緒だ...だが今は先生や小百合達を信じて試合に集中するべきだ」
「...」
「ちょっ、可憐これはどういう事やねん!」
控室の通路の奥から、土方先輩と沖田さんが血相を変えて、怒鳴り込んで来た
「翼、今はお前に構ってる余裕は無い、関係ない奴は引っ込んでもらおう」
九鬼先輩は、鋭い目を土方先輩へと向け睨みつけ牽制するが...
「関係ない訳無いやろ!こっちとら、勝を譲ってもらったとか、えらい言われようやねんで!」
何時もの穏やかな印象と打って変わって、感情的になり今にも九鬼先輩へ掴みかかりそうな勢いの土方先輩...
「先輩、落ち着いて下さい...俺達も今混乱していて何も説明出来ないんです」
「どういうことなん?城二」
俺は今の状況を掻い摘んで土方先輩たちに説明した
真白は、次の試合の準備についてのアナウンスが有り、東光高校の控室を出て出場選手控室へと向かった
その姿を見送り、俺たちは武舞台横にある応援席へと移動する...
暫くすると、大会運営のスタッフが慌てた様子で皆川先生の元へと駆けつけ...
「未だに雨宮選手が控室に現れません」
そう告げられ、俺から真白へ連絡を試みるが一向に繋がらない...そして
「なぁ、天音も姿が見えないよ?」
メンバーを見渡した天草先輩がそう呟く...二人で一緒に居るのかもと今度は天音さんへ連絡してみるが...真白同様に繋がらない
俺たちは手分けして、会場を探して回った...が...
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「つまり、雨宮が出場選手控室に入ったのは間違いないが、その後どこかへ消えた...白虎が言うには会場の外へ出た可能が有る...と、そのうえ、池上も行方知れず...」
何か考え事をし始めた土方先輩は...
「可憐、貴方の所の情報部員も総動員しぃ、ウチの家の隠密も使って、あたるわ...司」
「はっ!」
隣に控えてる沖田さんがスッと膝を折る
「ウチは部長として島津に付くさかい、アンタが隠密部に協力しぃ...ウチの顔に泥塗る様な真似してくれた事...絶対に後悔させたる...」
パチンと音を立て扇子を閉じると
「城二、城二の事は大好きやけど、勝負は勝負...ウチは島津を応援するさかい...堪忍やで」
「何を言ってるんですか、当然でしょう...ボクも全力で戦います!島津君にもそうお伝え下さい」
閉じた扇子を俺の肩にポンと軽く当てると...
「ほな、可憐、九鬼家の情報部への指示...頼んだで...それじゃ城二も、頑張りや」
そう言うと土方先輩は、試衛学園の控室がある通路へと消えて行った
「城二、お前は目の前の試合に集中しろ...」
「...解りました」
俺は、九鬼先輩と別れ出場選手控室へと入る...