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第71話

《side:ヴィクター》


 すでに僕の中では、レオが犯人であると確信を持っていた。


 未来のレオと今のレオの違い。


 それを見ていれば、気づけることがたくさんある。


 そして、前の僕は本当に人を見ていなかったのだとつくづく実感させられる。


 剣に生きて、剣を信じてきた。


 アリシアの言う通りに剣を振るって、煽てられるままに王国を攻めて戦った。


 記憶が一つ一つ思い出されては、消えていく。


 蝋燭の炎がゆらめくたびに仲間たちの顔が浮かんでいく。


 書斎の机に腰を下ろしながら、私は暖炉の火を見つめていた。


 僕は、この屋敷となるのは二度目だ。


 昔はここで仲間たちと未来を語り合っていた。だが今、この屋敷に出入りする者は、信じられる者だけに限られている。


 月明かりに照らされる窓から、彼女が現れる。


「アハっ! ただいま、ご主人様」


 メイド姿のリュシアは優雅にスカートの裾を持ち上げて、俺に向かって礼をする。


「……リュシア。何か掴めたのか?」


 彼女は僕の命令に忠実な存在だ。だが、時折、自分の目的を優先することもある。魔族であることも忘れてはならない。


 雲が晴れて窓の外から月光が差し込む。


 美しい彼女の顔を浮かび上がらせた。


「アハっ、焦らないでご主人様。ちゃんと情報を掴んできたわよ」


 リュシアは、楽しそうに僕の前に置かれたテーブルに腰を下ろして、僕を見下ろすように足を組む。


 黒いタイツがチラリと見えて、いつものメイド服が、従者のものではなく。妖艶なコスプレに見えてしまう。


 見下ろす瞳は闇に真っ赤に浮かぶように煌いている。


「ご褒美はいただけるのかしら?」

「何を望む?」

「そうね。今日はご主人様を踏みつける権利が欲しいわ」

「踏みつける?」


 何を言っているのか理解できない。


 それが求められていることなのか?」


「ええ、ご主人様の力は現在王国でも指折りに数えられるほどに成長している。未来では剣神として最強に寝るのでしょ? そんなご主人様を踏みつけられる存在。アハっ! 最高だと思うの」


 瞳に怪しく光らせて、自分の口元に指を添える。


「好きにしろ」

「アハっ! 最高よ! じゃあ、報告よ。レオは地下通路から自分の屋敷に生徒を誘い込んでいたわ」

「……地下通路? そんなものがあるのか?」


 彼女は指先で口元を隠すように笑った。


「アハっ! シュバルツ家が作ったものじゃないかしら? シュバルツ家の屋敷の地下に繋がっているようだから」

「なるほどな、賢者の家系の秘密というわけだ」


 面白い。最近になって思うようになったことだが、仲間たちへの贖罪の気持ちも、自分がしてきたことにも後悔はない。


 だが、真実を知る。


 己の知らないことを知ることを面白いとは感じる。


「レオが犯人で間違いないようだな」

「ええ、ご主人様の読み通りね」


 リュシアは、報告を終えたとばかりに、椅子に座っている僕の胸に足の裏を当ててきた。


「なんのつもりだ?」

「アハっ! 踏みつけてもいいって、許可をもらったわ」

「ここでするのか?」

「ええ、いつもご主人様が執務を行う場所で、いつもとは違うことをするって背徳的で、罪深いって思わない?」

「好きにしろ」


 しばらくの間、リュシアの好きにさせてやる。


 リュシアの行動などどうでもいい。


「レオは地下から出てきて……何かを成し遂げた後のような満足した顔をしていたわ」

「満足した顔か……」


 リュシアの足の裏が、僕の腹部から、股間へと降ろされる次第に、ぐりぐりと攻めるように足を動かして踏みつけてきた。


「アハっ! ご主人様って立派ね」

「どうでもいい」

「レオの秘密は……あそこか。学園の地下」

「どうするの、ご主人様?」


 グッと強く踏みつけられた足が離れ、その足は今度は僕の顔に向けられる。


 頬に足の裏が来たところで払い除けた。


「鬱陶しい」

「ふふ、ご主人様の意地悪」


 スカートは捲れて、黒い下着が見えていた。視線を逸らすように僕は立ち上がって少し考え、リュシアの方を見た。


「明日。夜の間に確かめに行く。その前に授業中に、レオの魔法属性が増えていないのか確認もしたい。あの地下の先に何があるのか、あいつが何を隠しているのか、確認する必要がある」

「アハっ!……やっと、ご主人様らしくなってきたね」


 リュシアは楽しそうに立ち上がって、僕を後ろから抱きしめた。


「やめろ」

「でも……どこまでも深くどん底のような闇。暗く、どれだけのことをされても全く動じない。絶望に染まった光の写さない瞳が最高よ。レオが魔族から何かを手に入れているなら、彼はもう堕ちた側の人間ね」


 僕はリュシアの言葉に、蝋燭の火に視線を移した。


 炎の奥に、かつての仲間たちの顔が浮かぶ。僕を裏切り、死に追いやった彼ら。


 だが今度は真実を求めることで僕が見逃さない。


「レオ・シュバイツ……。お前も魔族に堕ちたのか? それとも元々が外道だったのか?」


 僕は静かに、闇へと歩を進めた。


 それがどんな結末をもたらそうとどうでもいい。


 ただ、求めるのは、レオ・シュバルツという人間の真実だ。


 僕が見ていた世界とは違う存在がそこにいる。


 それを確かめるだけだ。


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