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第72話

 リュシアからの報告を受けた僕は、レオがどんな属性魔法を手に入れたのか、確かめることにした。 


 午後の授業は、実技である魔法合戦だった。


 丁度いい。


 数日前まで、三色の属性を同時展開が限界だったレオがどれだけの力を使えるのか? それとも手に入れておらず、使うことはないのか? 


 そして、雰囲気も優しそうに話している姿を見かけると、エリスやフレミアから連絡を受けている。


 その性根は変わっていないのか?


 広々とした演習場に生徒たちが並び立ち、それぞれが自らの魔力を制御しながら、模擬戦を行う。


 この授業は、ただの力比べではない。


 属性の応用、魔法の回転、制御力、発動速度。


 すべてが評価対象になる。


 僕は観察者として、教員の側に立ちながら、静かにその場を見つめていた。


 そして、レオ・シュバイツが現れた。


 他の生徒たちに愛想を振り撒くように、前は怒り散らしていた態度とは打って変わっている。


 光を浴びて髪がきらめきと輝く中で、笑顔を浮かべながら場の中心に歩み出る。


「本日は、皆さんにちょっとした驚きを見せたいと思います」


 口調は穏やかだが、その声に含まれた自信と優越感に満ちた響きが耳に刺さる。


 何人かの生徒がざわついている。


 レオの態度は確かに優しく柔らかく感じるが、言葉の端々に見える自信に満ちた態度が、レオ自身の性格が変わっていないことを伝えてくる。


 僕が知っているレオは常に自信に満ち溢れ、他者に対して序列をつけたがるような人間だった。


 そして、今も新たに力を手いれたことで、それを自慢したくて仕方ないという態度だ。


 そんなレオを、僕は無言で見つめていた。


「さぁ、誰が私の相手をしてくれるのだろうか?」


 一人の生徒がレオに挑みたいと前に出る。


「ありがとう。私の対戦相手になってくれて」


 レオは一見すると相手に敬意を払っているが、その口元にはいやらしい笑みが浮かんでいる。


 次の瞬間レオの足元に、七つの魔法陣が展開された。


 それは、あり得ない光景だった。


「炎、氷、雷、土、光、音、そして……聖」


 レオの背後に、七色の光が舞う。


 それは一つ一つが明確に属性を持ち、それぞれが高密度の魔力核として成り立っていた。


 当然だが、人が持つ属性は生まれつき一つ、多くて二つ。


 僕の知る限り、三つ以上を自在に扱える者は、エリスとレオ、それにマーベなど限られた人間だけだった。


 だが今、目の前の男は七つを同時に展開していた。


 それは未来では、レオだけが使えるものであり、エリスやマーベにも到達できなかった領域である。


「すげぇ……」

「レオ様って、天才じゃ……?」

「レオ様はやっぱり素敵だわ」


 男女関係なく、レオに対する感嘆の声を上げる。


 だが、僕の胸の奥に広がるのは別の感情。


 それはとても冷たい確信だった。


 七属性、しかもそれは音属性や聖属性。


 本来、レオが発現できない属性まで持っている。


 これら三つは、失踪者たちの魔力属性と一致している。


 偶然ではない。繋がってしまった。


「……そうか、やはりお前だったんだな」


 心の中で呟く。


 魔力は、鍛えて得るものではない。


 才能がすべてだ。


 それを複数扱えるなど、常識では不可能。


 いや、一つだけ可能性があることを僕は知っている。


 他者の属性を奪う魔族がいるかもしれないということだ。


 僕もリュシアも魔族の存在を見てはいない。


 だが、リュシアという魔族や、アリシアに寄生していた妖精。エリスに取り憑いた夢魔など、魔族には多種多様な存在がいる。


 つまり、他者の属性魔法を奪うことができる魔族がいてもおかしくはない。


「……リュシア」


 すぐ隣に立っていたメイドが、僕の目配せに静かに頷いた。


「アハっ! 私も確信しちゃった。あれは自然な属性の発動じゃないね。強制的に接続した別の人のものだよ。継ぎ接ぎのような魔力、人間の術では無理だね」


 レオは、演舞のように魔法を披露していた。


 相手を圧倒する姿に、愉悦を含む顔。


 七色の閃光が空を舞い、見る者すべてを魅了する。


「どうでしょうか? 僕は、全属性を操る賢者として、この学園を……いえ、この国を導く存在になるかもしれませんね」


 笑顔。偽りの、嘲るような、他者を見下すためだけに存在する笑み。


 それでも、生徒たちはそれを「カリスマ」と受け取り、拍手すらしようとしていた。


 ……だがもう、僕の中では答えは出ている。


 レオ・シュバイツ。お前は人から力を奪っている。


 その力を手にするために、無辜の生徒たちを喰らった。


 そして、笑っている。僕はレオが行ったことを悪だと断罪するつもりはない。


 だが、どうして僕を断罪して裏切ったのか? それがわからない。


 力を手に入れて自信がついたなら、僕を裏切らなくてもいいはずだ。


「リュシア。調査を続けろ。奴の屋敷、地下、すべて暴く。そして、真実を突き止める。レオはまだ何かを求めているように思う」

「アハっ、やっと狩りが始まるのね。了解よ、ご主人様」


 リュシアの瞳が赤く煌いた。


 僕は見るべきものを見て、魔法の教室を後にした。


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