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第77話

 七つの光が渦巻くように舞い、天を突くような柱となって立ち上がった。


 だが、それで終わりではない。


 その中心に黒が混ざった。八属性。


 蠢く影。全てを呑み込むような、否定の色。


 八つ目の門、闇。


 それが、レオ・シュバイツの身体に宿った瞬間だった。


「……来るか」


 剣の柄を強く握る。視界の端でリュシアが軽く舌打ちするのが聞こえた。


 エリスを庇うように、距離を取る。


 よくわかっている。


 魔族として、死なぬだろうが、初見であれば、エリスに対処はできない。


「アハっ?! これはヤバいかもよ。ご主人様、あれは本格的に……」

「分かってる。お前たちは距離をとっていろ」


 爆音と共に、黒い稲妻が空間を引き裂く。


 レオの身体からあふれる闇の魔力は、既に精神を蝕み始めていた。


「悪魔よ! 力を貸せ!」


 レオが悪魔に呼びかけるが、反応はない。


「どうした?! くっ、もういい! うおおおお!!!!」


 闇魔法を自身の体に取り込み、さらに七色の属性が全て黒い闇魔法の属性に染まっていく。


 目は見開かれ、黒く染まり、口元は笑っているのか歪んでいるのか分からない。


「これが……私の力だ。私だけの……力の存在証明……!」


 その一言の後、レオの身体が霧のように消え、目の前に現れた。


「くっ?!」


 避けられない。


 剣を盾のように構え、衝撃に備える。


 衝撃、ではない。圧殺だった。


 剣が折れそうになるほどの重力魔法と、骨を砕く音のような衝撃波が重なる。


 魔力や呪術のような力は無効化できるが、衝撃波や直接的な負荷には、無効化の力は働かない。


 同時に、背後から風と氷の刃が迫る。


 そちらは魔力を感知して無効化できたが、それでも……強い。


 これが、八つの属性を纏ったレオが僕を倒すために編み出した最終形態。


 僕が無効化が中途半端なのと同じく。


 今のレオでは、最終形態は、完成していない。


 これは僕らが王国を打倒する。


 今から十年弱先の未来で完成する。


「レオ……お前の怒りも、嫉妬も、全部、受け止めてやる!」

「黙れえええええええええっ!!」


 レオの咆哮とともに、全方位に爆発的な魔力が放たれる。


 すでに爆発した衝撃は無効化できない。


「お前の無効化が魔力を感知しているのはわかってるんだ!!! なら、魔力を使い終わった攻撃ならどうする?!」


 レオは、俺の体に傷が増えるたびに勝ち誇るような声を出す。


 だが、そこに剣を突き込んだ。


 対抗手段は一つ。僕自身が無効化に頼らなければいい。


「もしも、今の状態で、最終形態のお前だったなら勝てなかったよ」


 漆黒の闘気が剣から放たれ、七色の魔力と激突する。


 爆風が地を裂き、天を裂いた。


《冥哭》が魔力を吸収する。


 土煙の中で、息を切らしながら、ようやくレオの姿を捉えた。


 膝をつき、肩で息をしていた。


 それでも、立ち上がろうとする。


「……まだだ……まだ私は負けていない……!」

「そうか、なら終わらせてやるよ」


 レオの叫びに対して、僕は静かに終わりを告げる。


 すでにレオの目は正気ではなかった。


 何かに導かれるように背を向け、闇に飛び込もうとする。


「私を核として、全てを吸い込め。ブラックホール!」

「自ら自爆を選ぶか?!」


 足を踏み出した、その時。


「ご主人様!」


 リュシアが腕を伸ばし、僕の前に展開された防壁が呪のような魔力に焼かれた。


「……結界が……!? レオじゃない、これ……別の力が介入してる!」

「くっ……!」


 レオの背後から、空間が裂ける。


 黒い円環。魔界へのゲート。


 我が使徒よ、今は退け……あの悪魔、ソド=メグル!


「リュシア?!」

「うん。確かに現世に留まったあいつを消滅させたわ! だけど、悪魔はまた生まれる」

「やっと来たか、悪魔!」


 レオと悪魔が手を取り合う。闇が開いて全てを吸い込もうとする


「逃げるわ!」

「黙れ、リュシア。僕を誰だと思っている? ここで終わらせる!」

「……っ……私は、まだ、負けていない……私の存在を、証明するまでは……!」


 光が収束する。


 視界が暗転する直前、レオが振り返った。


 その顔は、哀しみと怒りと悔しさと……ほんの一滴の涙で濡れていたように見えた。


「《冥哭》よ。全ての魔力を飲み込め」


 レオの発生させたブラックホールも、悪魔の存在も、魔力の塊にすぎない。


 なら、僕がすることは一つだ。


「『影滅の剣閃』、喰らえ!」


 吸収する互いの力がぶつかり合い、互いを消滅させようとする。


 次の瞬間には、互いに力がぶつかり合って爆発が起きる。


 残されたのは、砕けた地面と、沈黙。


 リュシアが肩を叩く。


「……あいつ、もう後戻りできないところまで行っちゃったわね」


 最後の瞬間、僕とレオの体に激しい衝撃を受けた。


 レオの半身が吹き飛んでいるのが見えた。


 あれが生きていると言えるのか僕にはわからない。


 どれほど深く堕ちようとも、闇に飲まれようとも。


 僕はレオの心と触れ合った。


 それでわかったことがある。


「レオは最初から僕を友人だとは思っていなかった。悪魔と契約をして、数多くの者たちを犠牲にして、未来の力を手に入れていた。それが真実なのだろう」

「……ご主人様」

「あのっ?!」


 リュシアは、僕を呼ぶだけだった


 だが、エリスが声を発する。


「どうして、ヴィクター様があの男を気にしているのか分かりませんが。あんな人のことをヴィクター様が気にかける必要なんてないと思います!」

「……」

「気にかけるだけ時間の無駄です! 執着する必要なんてないほどに最低な人間です。今回のことを公にして、レオ・シュバルツの罪を知らせ、被害にあった方々のご家族やそして、罪を犯した者を育てた家に問うべきです!」


 断罪された僕が知りたい真実をエリスは知らない。


 だからこそ、今を見ている。


 僕にとっては興味はないが……。


「時間をかける価値のない存在か……くくく、そうだな」

「アハっ?! ご主人様が笑ったわ。エリス、ナイスよ」

「ふぇっ! ヴィクター様の笑顔!!! 尊い!!!」


 確かに、レオがどうなろうと僕には関係ないことだ。


 断罪された真実はわかった。


 ならば、すでにレオへの興味はもうない。


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