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第五話

第78話

《side:ヴィクター》


 エリスから、レオに時間をかけるのは無駄だと言われて、心の中がスッと軽くなった。


 レオは最初から僕を裏切るつもりだった。


 それが分かっただけでも、真実を知りたかった僕として目的を果たしたことになる。


 その後にレオがどうなろうと知ったことじゃない。


 そして、過去に戻った今。


 残り二人……マーベとジェイ。


 二人に関しては、アリシアやレオほどの疑いを持っていない。


 何よりも、エリスは僕を裏切っていなかった。


 あの時、僕の断罪を主導したアリシア。

 それに力を貸したレオ。


 そして、それらを計画したジェイ。


 ヴォルフガングは、完全に魔族に支配されていた。


 だからこそ、残された真実として、マーベだけがわからない。


 僕にとっては魔法の師であり、無属性で無効化能力を発見してくれた人物。


 レオが賢者の血脈でありながら、賢者になれなかったのは、マーベがいたからだ。


 確かめなくてはならない。


 書斎に、リュシアが現れる。


「アハっ! ご主人様の目的も残り二人ね」

「ああ、だが賢者マーベは一筋縄でいく人物じゃない」

「どんな人なの?」

「エリスよりも優れた魔法技術と、誰よりも頭が回る見識の広さ。そして、研究者として探究心の塊ような女性だ」


 僕にとっては様々な知識を教えてくれた。人生の師でもある。


「賢者マーべは、最後まで態度を崩さなかった。僕の無実を知っていながら、沈黙していたように思う」

「賢者って、シュバイツ家じゃないの?」


 リュシアは王国の情勢に詳しいわけじゃない。


 僕も今思い出すと当時は詳しくはなかった。


「ああ、今の賢者は一人だけだ。そして、シュバルツ家は初代賢者の家系というだけだ」


 未来では、賢者マーベは知恵に優れ、誰よりも情報の収集と解析に長けた存在だった。


 にも関わらず、僕の断罪が行われるまで、何も行動しなかった。


 知っていたのに、知らないふりをしていたのか? それとも……知る術を失っていたのか? 


 あの人が本気で動いていたなら、僕の断罪はなかったはずだ。


 逆にあの人が裏切っていれば、僕の無効化能力を打ち消す毒を作っていてもおかしくはない。


 もしも賢者マーベが本当に裏切っていないとするなら、今この時点で接触すれば、過去と違う結果が見えるかもしれない。


「賢者マーベは全てを見通す、気をつけて調べてくれ」

「アハっ、任されました。私を見つけられるとは思わないけど」

「甘くみるなよ」

「そんなになの?」

「ああ」


 リュシアはわかっていないように首を傾げて立ち去っていく。


 賢者マーベ。


 心の奥にざらつく感触が走った。


 未来で、あの日、僕の断罪に何もしなかった。


 何も言わなかった。


 魔法学の天才。属性演算の最前線に立つ者。常に一歩先を読み、物事の裏を観察する冷徹な知性。


「アハっ! ご主人様がどうしてすぐにいかないのか? それだけ警戒しているってことね。賢者マーベ、面白そうね」

「それともう一つ。僕が打倒した王家は本当に悪だったのか? それも疑問になってきた」


 これだけ仲間たちが、魔族や悪魔に関与していて、本当に王家だけが悪だったのか? 長兄グレイスの婚約者となった王女マリスティーナは、リュシアが感知する範囲では魔族の関与はない。


「アハっ! 本当にご主人様は真実を追い求めるのが好きね」

「これだけ多くの矛盾を見逃していた自分が情けないだけだ。いや、アリシアに言われるがまま、盲目だった自分はそれだけでよかった。だが、それでは真実を知ることはできない」


 残された賢者マーベ、軍師ジェイはどちらも頭脳に優れた者たちだ。


 これまでのような武技だけで、どうにか出来る人間じゃない。


 リュシアの魔力感知と潜入技能は、優れているのは知っている。


 それでも二人には通用しないと思えた。


「とりあえずは、賢者マーベね。彼女は学園の特別研究棟に籠もってることが多いみたいね。魔力適性は四属性、それも上級融合持ち。魔術計算式の変動演算っていう変態的な学問を実践できる唯一の人物ということは外を調べればわかるわ」


 リュシアが現在の知識を語るが、そんなことは僕も知っている。


「……あの人を追い詰めるしかないな」


 自分の拠点を持ち、そこに他人を入れず、必要最低限の会話しかしない。


 変人でありながら、全てを鋭く見通す。


 軍師ジェイが、合理的に答えを出すのとは違う。


 賢者マーベは全てをわかった上で、面白そうだという理由で動く異常者だ。


「そんなことできるのかしら?」

「あの人にも苦手なことはある」

「苦手なこと?」

「ああ」


 僕が未来から過去に戻ってきたからこそ、賢者マーベと対等だということを証明できる。


 もしも、前のままの僕なら絶対に彼女には勝てない。


 だが、今の僕なら彼女のことを知っている。


「その前に今の彼女の現状を詳しく調べてくれ。そして、王家についてもだ。リュシアなら魔族が誰か突き止められるのだろう?」

「アハっ! ご主人様が私を頼るなんて、またご褒美をもらわないとダメよ」

「ああ、いくらでもくれてやる」


 魂だって捧げてもいい。


 全ての真実を突き止められるなら。



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