吹雪の轟音が火葬場全体を包み込み、窓ガラスが微かに揺れている。
外は見渡す限りの白――だが、ここではそれとは別種の静寂が支配していた。
成瀬と佐伯は、監視カメラの映像を食い入るように見つめていた。
事務室の隅に設置された監視モニターには、火葬炉の映像が映し出されている。
佐伯が映像を巻き戻し、火葬が始まる直前の時間まで遡る。
――そこで、異変が起きていた。
火葬炉の扉が勝手に開いたのだ。
まるで、何かが自ら中へ入っていくように、扉がゆっくりと揺れ、開いていく。
次の瞬間、モニターが暗転した。
バチッ――バチッ――
一瞬のノイズの後、映像が復帰する。
だが、その瞬間にはすでに火葬炉の扉は閉まり、スイッチが作動していた。
誰もいないはずの火葬場で、一体何が、炉の中に入ったのか?
成瀬と佐伯は、言葉を失ったままモニターを凝視していた。
「……次の映像を確認しよう。」
彼女は安置室のカメラへ切り替える。
そこには、黒い糸で口を縫われた遺体が横たわっていた。
「……何もないな。」
静かな部屋、並ぶ安置台、規則的に明滅する蛍光灯の光。
何も起こらない――その瞬間までは。
ピクリ……
成瀬の指が、無意識に画面を指した。
「……今、動いた。」
遺体が、わずかに痙攣したように見えた。
「……いや、違う。」
成瀬は自分の目を疑う。
「糸が……ほどけている。」
ス……ス……ス……
まるで何かが内側から口をこじ開けようとしているかのように、
黒い糸がゆっくりと解けていく。
成瀬と佐伯は、モニターに釘付けになった。
映像の中で、遺体の口がゆっくりと開いていく――
そして、まるで言葉を紡ごうとするかのように、唇が微かに震えた。
次の瞬間――
カメラの映像が乱れた。
ノイズが走り、画面全体が真っ黒に染まる。
「……何だ、これは」
佐伯が機材を操作しようとした瞬間――
画面全体が暗転した。
何も映らない黒い画面の中で、ただ一つ――声が響く。
『……こっちへ来い。』
耳元で、低く、囁くような声が聞こえた。
「……ッ!」
成瀬は息を呑み、無意識に後ろを振り返った。
誰もいない。
それなのに、確かに聞こえた。
背後で、すぐそこに、何かが立っていたかのように。
「……今の、聞こえたか?」
声が震えないように努めながら、佐伯に問いかける。
だが、佐伯は怪訝そうに眉を寄せた。
「何のことだ?」
彼女には、聞こえていない。
“こっちへ来い”
確かに、成瀬の耳元で囁かれた。
だが、誰が?
「……安置室へ行く。」
成瀬はそう言った。
「本気なの?」
佐伯は明らかに戸惑っている。
「映像を見ただろう? 何かがここにいる。」
佐伯は少しの間、成瀬を見つめた後、小さくため息をついた。
「……わかった。行きましょう。」
二人は監視モニターから目を離し、
再び、不気味な静寂が支配する安置室へ向かった。
吹雪がさらに激しさを増す中、
彼らは“何か”が待つ場所へと足を踏み入れた。