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第5話 監視カメラ

吹雪の轟音が火葬場全体を包み込み、窓ガラスが微かに揺れている。

外は見渡す限りの白――だが、ここではそれとは別種の静寂が支配していた。


成瀬と佐伯は、監視カメラの映像を食い入るように見つめていた。


事務室の隅に設置された監視モニターには、火葬炉の映像が映し出されている。


佐伯が映像を巻き戻し、火葬が始まる直前の時間まで遡る。


――そこで、異変が起きていた。


火葬炉の扉が勝手に開いたのだ。


まるで、何かが自ら中へ入っていくように、扉がゆっくりと揺れ、開いていく。


次の瞬間、モニターが暗転した。


バチッ――バチッ――


一瞬のノイズの後、映像が復帰する。


だが、その瞬間にはすでに火葬炉の扉は閉まり、スイッチが作動していた。


誰もいないはずの火葬場で、一体何が、炉の中に入ったのか?


成瀬と佐伯は、言葉を失ったままモニターを凝視していた。



「……次の映像を確認しよう。」


彼女は安置室のカメラへ切り替える。


そこには、黒い糸で口を縫われた遺体が横たわっていた。


「……何もないな。」


静かな部屋、並ぶ安置台、規則的に明滅する蛍光灯の光。

何も起こらない――その瞬間までは。


ピクリ……


成瀬の指が、無意識に画面を指した。


「……今、動いた。」


遺体が、わずかに痙攣したように見えた。


「……いや、違う。」


成瀬は自分の目を疑う。


「糸が……ほどけている。」


ス……ス……ス……


まるで何かが内側から口をこじ開けようとしているかのように、

黒い糸がゆっくりと解けていく。


成瀬と佐伯は、モニターに釘付けになった。


映像の中で、遺体の口がゆっくりと開いていく――

そして、まるで言葉を紡ごうとするかのように、唇が微かに震えた。


次の瞬間――


カメラの映像が乱れた。


ノイズが走り、画面全体が真っ黒に染まる。


「……何だ、これは」


佐伯が機材を操作しようとした瞬間――


画面全体が暗転した。


何も映らない黒い画面の中で、ただ一つ――声が響く。


『……こっちへ来い。』


耳元で、低く、囁くような声が聞こえた。


「……ッ!」


成瀬は息を呑み、無意識に後ろを振り返った。


誰もいない。


それなのに、確かに聞こえた。


背後で、すぐそこに、何かが立っていたかのように。


「……今の、聞こえたか?」


声が震えないように努めながら、佐伯に問いかける。


だが、佐伯は怪訝そうに眉を寄せた。


「何のことだ?」


彼女には、聞こえていない。


“こっちへ来い”


確かに、成瀬の耳元で囁かれた。


だが、誰が?


「……安置室へ行く。」


成瀬はそう言った。


「本気なの?」


佐伯は明らかに戸惑っている。


「映像を見ただろう? 何かがここにいる。」


佐伯は少しの間、成瀬を見つめた後、小さくため息をついた。


「……わかった。行きましょう。」


二人は監視モニターから目を離し、

再び、不気味な静寂が支配する安置室へ向かった。


吹雪がさらに激しさを増す中、

彼らは“何か”が待つ場所へと足を踏み入れた。

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