ガタン!
突然、地下の方から鈍く響く衝撃音が聞こえた。
成瀬と佐伯は息を呑み、互いに顔を見合わせる。
「……今の音、地下の倉庫の方か?」
成瀬が呟くと、佐伯は無言で頷き、腰に下げた拳銃をそっと確認した。
地下倉庫。
普段は厳重に鍵がかけられ、責任者以外は決して立ち入ることができない場所。
使われていないはずの空間。
だが、今夜は違った。
扉が、半開きになっていた。
まるで、誰かが彼らを招き入れようとしているかのように。
「本当に入るのか?」
佐伯が懐中電灯を掲げながら確認する。
成瀬は一度、深く息を吸い、覚悟を決めて扉に手をかける。
ギィ……
ゆっくりと押し開けると、中から冷たい空気が流れ出た。
それは地下特有の湿り気を含んだ冷気ではなく――まるで、生気を奪うような冷たさだった。
懐中電灯の光を頼りに、二人はゆっくりと倉庫の奥へと進む。
壁には埃をかぶった古い棚が並び、崩れかけた木箱が無造作に積み上げられている。
だが、それらの先――
懐中電灯の光が届いた瞬間、成瀬は息を呑んだ。
そこに広がっていたのは洞窟だった。
「……なんだ、これは……」
佐伯が震える声で呟く。
「……冗談だろ?」
火葬場の地下に、こんな空間があるはずがない。
奥深くへと続く暗闇。
その手前には、異様な光景が広がっていた。
巨石の柱。
まるで結界のように建てられた大きな石の柱が、洞窟の入り口を守るかのようにそびえ立っている。
その柱には、古びたしめ縄が巻かれていた。
「……これは?」
佐伯が懐中電灯をかざしながら呟く。
成瀬もまた、凍りついたように足を止めた。
「分からない……けど、ここはもう――」
ここは、人が踏み入れてはならない場所だ。
そう思ったその瞬間――
「お前も、入れ替わっている」
成瀬の背筋に、凍えるような寒気が走った。
「……お前は、もう人間じゃない」
その声は、暗闇の中から響いてきた。
だが、この声――どこかで聞いたことがある。
成瀬は呼吸を忘れそうになりながら、ゆっくりと顔を上げた。
洞窟の奥から、ゆらりと影が揺れながら何かがこちらを見つめていた。
いや、違う――それは“自分”だった。
成瀬の脳裏に、遠い記憶がよみがえった。
――20年前の失踪事件。
あの夜、消えた町の住人たち。
そして、自分が生き残ったという事実。
だが、本当にそうだったのか?
「……俺は、本当に、成瀬宗一郎なのか?」
疑念が、ゆっくりと頭の片隅にこびりついていく。
「……やめろ……っ!」
叫びながら、成瀬は佐伯の腕を掴む。
「佐伯、ここから出るぞ……!」
彼女も息を荒くしながら頷く。
今すぐこの場を離れなければならない。
本能がそう叫んでいた。
だが――
バタンッ!!
突如、背後の扉が激しい音を立てて閉まった。
「出るな……」
低く、冷たい囁き声。
それは、成瀬自身の声だった。