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第7話 死者の囁き

ガタン!


突然、地下の方から鈍く響く衝撃音が聞こえた。


成瀬と佐伯は息を呑み、互いに顔を見合わせる。


「……今の音、地下の倉庫の方か?」


成瀬が呟くと、佐伯は無言で頷き、腰に下げた拳銃をそっと確認した。





地下倉庫。


普段は厳重に鍵がかけられ、責任者以外は決して立ち入ることができない場所。

使われていないはずの空間。


だが、今夜は違った。


扉が、半開きになっていた。


まるで、誰かが彼らを招き入れようとしているかのように。


「本当に入るのか?」


佐伯が懐中電灯を掲げながら確認する。

成瀬は一度、深く息を吸い、覚悟を決めて扉に手をかける。


ギィ……


ゆっくりと押し開けると、中から冷たい空気が流れ出た。

それは地下特有の湿り気を含んだ冷気ではなく――まるで、生気を奪うような冷たさだった。



懐中電灯の光を頼りに、二人はゆっくりと倉庫の奥へと進む。


壁には埃をかぶった古い棚が並び、崩れかけた木箱が無造作に積み上げられている。


だが、それらの先――


懐中電灯の光が届いた瞬間、成瀬は息を呑んだ。


そこに広がっていたのは洞窟だった。



「……なんだ、これは……」


佐伯が震える声で呟く。


「……冗談だろ?」


火葬場の地下に、こんな空間があるはずがない。


奥深くへと続く暗闇。

その手前には、異様な光景が広がっていた。


巨石の柱。


まるで結界のように建てられた大きな石の柱が、洞窟の入り口を守るかのようにそびえ立っている。


その柱には、古びたしめ縄が巻かれていた。


「……これは?」


佐伯が懐中電灯をかざしながら呟く。


成瀬もまた、凍りついたように足を止めた。


「分からない……けど、ここはもう――」


ここは、人が踏み入れてはならない場所だ。


そう思ったその瞬間――



「お前も、入れ替わっている」



成瀬の背筋に、凍えるような寒気が走った。



「……お前は、もう人間じゃない」



その声は、暗闇の中から響いてきた。


だが、この声――どこかで聞いたことがある。


成瀬は呼吸を忘れそうになりながら、ゆっくりと顔を上げた。


洞窟の奥から、ゆらりと影が揺れながら何かがこちらを見つめていた。


いや、違う――それは“自分”だった。





成瀬の脳裏に、遠い記憶がよみがえった。


――20年前の失踪事件。

あの夜、消えた町の住人たち。

そして、自分が生き残ったという事実。


だが、本当にそうだったのか?


「……俺は、本当に、成瀬宗一郎なのか?」


疑念が、ゆっくりと頭の片隅にこびりついていく。




「……やめろ……っ!」


叫びながら、成瀬は佐伯の腕を掴む。


「佐伯、ここから出るぞ……!」


彼女も息を荒くしながら頷く。


今すぐこの場を離れなければならない。

本能がそう叫んでいた。


だが――


バタンッ!!


突如、背後の扉が激しい音を立てて閉まった。


「出るな……」


低く、冷たい囁き声。


それは、成瀬自身の声だった。

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