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第五話 心理的瑕疵密室(後編)

 〈第五話 心理的瑕疵かし密室(後編)〉


「返して…草ちゃんを返して…!」

 顔の右半分が焼け爛れた地縛霊の女が、焼け残った左目から涙を流した。

 天使のボクと鬼娘のジャッキーは顔を見合わせる。このアパートの二〇四号室に取り憑いていると思われる地縛霊だが、今は部屋の前の廊下で座り込んでいる。三日前にこので死体で発見された大学生─邑上むらかみ草介そうすけと彼女の間に何があったのか?

 ボク達は部屋の片付けの下見に来ていた特殊清掃業者が帰った後、地縛霊の話を聞く事にした──


「アタシがこの二〇四号室で死んだのは四年前。

 まだ十九歳だったんだよ?

 なのに古いガスコンロの不完全燃焼で一酸化炭素中毒になって、気を失って火の付いたコンロの上に顔から倒れて…そのまま焼け死んだ。それでこんな顔になっちゃって……

 悔しかった。許せなかった。

 ちゃんと設備点検してくれてなかった大家のオジさんも、すぐに通報してくれなかった隣りの人も、助けてくれなかった消防隊員も救急隊員も医者も、アタシを放ったらかして浮気して遊び歩いて離婚されたママも、世間体だけ気にして親権取ったくせに仕事だからってちっとも家に帰ってこなかったパパも、反発して高校卒業と同時に家を飛び出してアルバイトで生活できるなんて意気がって、こんなボロアパートに住んでたアタシ自身も──全部許せなくて、全部呪った。

 呪って呪って…気が付いたらずっとこの部屋にいたの。

 これ、地縛霊ってやつよね?」

「ああ。強い未練や憎悪を抱いたまま死んだ為に、死後もその無念で特定の場所や物にとどまり続けるのが地縛霊だ。自分自身の死を受け入れられてない状態だから、自分で自分を縛る縛霊とも呼ばれるな」

 ボクの言葉に地縛霊の女は自嘲気味に笑う。

「ハハ…自分で自分を縛る、か。確かにそうかもね。死んだ直後はまだアタシも、事故死なんだ、運が悪かっただけなんだって諦めようとしたんだ。

 でもアタシが死んですぐ、アパートは改装始めてさ。部屋もコンロも新しくして入居者募集して、そしたらまた普通に人が住み始めたの。何でアタシが住む時にそうしてくんなかったの?リフォームするならもっと早くしてくれてたら、アタシは一酸化炭素中毒なんかで死ななくても良かったのに!そう思ったら大家のジジイも新しい住人も憎くて恨めしくて、許せない…いや、と思った。その時にアタシは、自分からこの部屋に取り憑く道を選んだんだね。自業自得じゃん……」

 地縛霊は深い溜息をついた。

「恨みで頭がいっぱいになったアタシは、二〇四号室に引っ越してきた人に毎晩毎晩してやった。この顔を見せ付けてやってさ、アタシの目を返せ、鼻を、唇を返せって言い続けてやったんだ。それが出来ないんなら出てけって呪いながらね。その人いい年齢とししたサラリーマンだったけど恐れおののいてさ、すぐ出ていっちゃった。ザマアミロってちょっとスカッとしたよ。

 でも大家も懲りなくて、家賃安くしてまた広告出したんだ。そんでしばらくしたらオバさんが入居した。勿論すぐしたよ。そしたらアタシの顔見て『ギャアアッ』とか悲鳴上げてさ、失礼なババア!またすぐ出ていったから許してやるけど……それからも大家はどんどん家賃を安くして、何度も新しい住人入ったけど、全部追い出してやったんだ。

 そしたら何かその頃にはアタシ、ちょっと愉しくなっちゃっててさ。皆がアタシの事怖がってるのが気分良いっていうか…こういうの何て言うの?地縛霊ハイ?」

 言わないだろ。

 だが今語られた内容は霊体にとっては危険な兆候である。

 死者は天国うえに行くにせよ地獄したに堕ちるにせよ、まずは成仏しなくてはならない。成仏して現世を離れて初めて、三途の川から始まるを受けられる。その結果天国に行ければ勿論、地獄に堕ちたとしても期間の個人差はあれど苦行に耐え生前の罪を償えば、再び人間に生まれ変われたり魂が浄化されて救われる可能性があるのだ。

 しかしこの地縛霊の様に成仏できずに現世に留まっていては、いつまでもその裁判を受けられない。償う事も出来ず、ゆるされる事もない。指名手配犯が罪の意識に苛まれながらも逃げ続け、宙ぶらりんにただ生きているのと同じだ。それでも生身の犯人ホシならそんな無駄な人生でも、やがて死して終わらせる事が出来る。だが既に死んでいる地縛霊にはそのゴールは無い。だから地縛霊が自身の苦しみと虚無を終わらせる為にはまず、抱えている恨みや未練を晴らして成仏する必要がある訳だ。

 しかしそんな霊が人間に怖れられる事に快感を覚え始めると、それに夢中になっていく。畏怖の対象となる事で承認欲求が満たされて気持ち良くなってしまうのは、生者も死者も変わらない。SNS社会でイイねのクレクレモンスターが暴走していくのと同様に、自身の快楽の為だけに人を脅かし続ける地縛霊はどんどん目的を見失っていき、自分が誰だったのか、何を恨んでいたのかさえ忘れていってしまう。そうやって人格も記憶も失った霊は、やがて誰彼構わずり殺す悪霊になってしまうのだ。そうなるともう救いはない。永遠に現世で怨嗟に塗れた悪しき存在として忌み嫌われ続けるか、三途の川に辿り着けても裁判する価値すら無いとして、問答無用でこの世とあの世の境目の牢獄─煉獄れんごくに送られて永遠に苦しみ続けるか……

 そういう意味では目の前の地縛霊コイツが言う『地縛霊ハイ』は、悪霊一歩手前の末期症状だ。こうなると成仏する為には霊能力者に浄霊でもしてもらって、まず正気に戻さなくてはならない。しかしそんな悪霊になりかかっていた割には、今の目の前のコイツは理性的に見えるが…?

「そして今年の春、懲りずにまた誰か入居してきた。

 その引っ越しが済んだ最初の晩、アタシは住人が布団に入って消灯した瞬間に、いそいそと出てやったんだ。

 いつもの様に金縛りを仕掛けておいて、こっちは床にうずくまる様に顔を隠してね。それで呟くの。

『…カエシテ…カエシテ……』って。

 そしてゆっくり顔を上げていく。 

『カエシテ……

 アタシノメ…

 ハナ…

 クチビル……』

 それで相手が言葉の意味を掴み始めたタイミングで、この焼け爛れた顔を見せる訳。なかなかいい演出でしょ?皆ここで100パービビリまくって〜」

 ちょっと得意げなのが悪霊になりかけていた証拠だ。

 だがそこで地縛霊の表情カオは歪んだ──泣き笑いの様に。

「そうだよ…皆そこでビビったんだよ。アタシの…醜い顔を見て……なのに……


『ああっ、火傷してるじゃないですかっ…すぐ冷やさなきゃ!氷っ…あっ、冷蔵庫まだ買ってない!待ってて、タオル濡らしてくるからっ……うわっ!』


 その若い男の子は大慌てで洗面所に行こうとして、派手に転んだ。でもすぐ立ち上がって。

 アタシは四つん這いでポカンとしてた。だって怖がらないどころか、金縛りにさえなってないんだもん。

 それで濡らしたタオル持って戻ってきたんだけど、それ見てアタシ『キャッ』て叫んじゃった。血だらけなのよ、彼の顔。鼻血。転んで鼻を打ったのね。何でアタシの方がビビらされてんの?

 それで『これで冷やして』ってひざまずいてタオル渡そうとしてきてさ。思わず手を出して受け取ろうとしたけど、ホラ、アタシ霊だから。当然タオルもすり抜けて床に落ちた。さすがに彼も目を丸くして、でも顔は血だらけ。分かるでしょ?焼け爛れた顔の女と血だらけの男が部屋の真ん中で中腰になってさ、落ちたタオルをボケッと見てるのよ。もう…限界。アタシ、噴き出しちゃった。声出して笑っちゃって、相手がキョトンとしてるから言ってあげた。『ゴメン、アタシ幽霊だからさわれないや』って。そしたら…そしたらね──


『きっ、気付かなくてすみません!』だって!」


 地縛霊は涙を流して笑っている。

「彼はアタシが幽霊だと分かっても、怖がるよりも心配してた。自分の鼻血を拭きながら、ずっとアタシに今は痛くないのか、大丈夫なのかって……それで平気だって応えたらいったんホッとして、でもすぐオロオロと下を向いた。今更怖くなったのかと思ったけど、彼、急に『ゴメンなさい』とか謝ってきたの。

『火傷のとこ見られるの嫌ですよね』って……

 アタシそれまでこの顔他人ひとに見せて散々怖がらせてきたけどさ、何かそう言われたら途端に気になっちゃった。アタシが嫌って言うより、この悲惨な顔を見る彼の方が嫌なんじゃないか?だったら見せたくないってそう思って…素直にそう伝えたら彼、ガッと顔上げてさ。『僕は嫌だなんて思ってません!』だって。それでジッと見つめてきて…そんなの、普通に恥ずかしくなっちゃうじゃん。『あんまり見ないでよ』って髪で隠したら『あっ、やっぱり嫌でしたかっ…』てまた謝ろうとするから、『じゃなくて、あんたいつも女の子の顔そんなに見つめんの?』ってね。そしたら彼──真っ赤になっちゃったの。アタシも…赤くなってたかな?だからつい言っちゃった。


『…アタシ、碧島あおしま渚』

『む、邑上草介です!』」 


 地縛霊─渚は、目元をほんのり赤くして微笑んでいる。見ると傍らのジャッキーがキラキラしたで手を組んで、鬼乙女と化していた。その肩の上に留まっている殺意を感知する怪鳥ぬえがウトウト居眠りし出したのを見ると、今の渚は全く黒い感情を発していない。そのお見合いか少女漫画の冒頭シーンの様な草介との出遭いが、コイツの悪霊化を止めたのだ。確かに草介は大学一年生だが二浪して二十歳はたち、渚は享年十九歳で年頃の男女の出遭いではある。だからと言って怪談が途中からラブコメになって、ボクは正直呆れていたが……

 ただ、お陰で気になっていた謎が一つ解けた。

 草介が死体で発見された二〇四号室は特殊な状況だった。部屋の四隅に本を積み上げ、その上にそれぞれペーパーナイフと空のワイングラス、そして小皿に盛った塩を置いていた。草介はそのペーパーナイフの一本を両手で掴んで腹部に刺した状態で見付かったので、福島県警の捜査員は頭のおかしなヤツが変なオブジェを作り、更にとち狂って自殺したと判断した訳だ。

 しかし積み上げた本もナイフもワイングラスも、を張る儀式に使うモノだ。草介は自身の部屋が霊に取り憑かれた事故物件─心理的瑕疵物件だと悟り、その霊を追い払う為に結界を張っていたのである。

 だがボクは、そこで引っ掛かったのだ。

 何故結界を張る為の儀式をこうも様々やっておきながら、事故物件から霊を追い払いたい住人がまず試す定番の方法──『悪霊退散』の護符が部屋のどこにも貼られていないのか?

 それが今の胸キュン怪談で腑に落ちた。この渚という地縛霊は草介にとって悪しきモノではなかったのだ。人も霊も構わずにその傷を偏見無く心配できる人間が、迂闊に『悪霊』などとレッテルを貼るはずもない。草介は教師志望だったというが、きっと生徒を分け隔てしない良い先生になれただろう。

 ただそうなると、また新たな疑問が湧いてくるが……

「そっかあ…渚ちゃん、いいひとに出遭っちゃったのね……あれ?でもそんな草介クンが、何で渚ちゃんが部屋に入れない様に結界張ったの?」

 おっ、珍しく体力だけの鬼がボクと同じ疑問に気が付いたか。

 すると渚は、更に顔を赤くした。

「え、えっとね…アタシが自分の死因とそれで地縛霊になったって事を草ちゃんに話したら、こっちが引くくらい号泣してさ。で『渚さんは僕が助けるよ』って……」

 顔の右半分を隠す前髪をクリクリと弄りながら、地縛霊なぎさは大いに照れる。

 ニヤニヤするジャッキー。目がジトッと死ぬ天使ボク

「それで草ちゃん、霊について凄い調べてくれてね。地縛霊はその場所への未練を断ち切らないと成仏できないんだって。

 アタシの場合はこの二〇四号室に縛られてる。自分が理不尽に焼け死んだのに、その同じ部屋で誰かが幸せに暮らせるのが気に入らなくて、それでここに引っ越してきた住人を追い出して居座り続けてきた。草ちゃんを追い出そうって気は初対面で無くなっちゃったけど、アタシはこれまでの恨みの連鎖を断ち切って、この部屋から出ない限り成仏できない訳。でもその長年凝り固まった鎖は自分の気がちょっと変わったくらいでは切れないみたい。実際草ちゃんから言われて試しに部屋から出ようとしてみたら、ドアの前で金縛りに遭ったみたいに動けなくなっちゃった。もう自力じゃこの部屋から出られないのよ。

 かと言ってお坊さんや霊能者呼んできて除霊するとかは、無理やり追い出すみたいで草ちゃんの方が絶対嫌だって…」

「わ、優し〜♡」

「うん…♡」

 だから霊的ガールズトークやめろ。

「それで提案してくれたのが、少しずつ部屋から離れてみようって」

「えっ、でも金縛りみたいになるんでしょ?」

「うん、だからアタシ、出来るかなって不安だったけど…草ちゃん、僕も一緒に行くからって……」

「キャーッ♡」

「そ、それでアタシは昼間は意識無いから、夜、草ちゃんがバイトから帰ってきたら毎日少しずつ外出したの。最初は玄関も出られなかったけど、一歩ずつ進めるようになって、やがて通路に出られて、階段を下りて、アパートの庭を散歩して……」

「夜だけのデートね♡♡」

「いや〜んそう言うとえっちい♡♡♡」

 ハートを飛び散らかす女子二人。何がえっちいだ。

 幽霊が人の姿で出現できるのは、電気信号である人間の思考や感情が磁気を発生させ、立体映像ホログラム的に霊体を形成するからだ。しかし昼間は太陽の影響で地球自体の地磁気が強まり、微弱な霊の磁気は乱されて動けない。だから夜しか意識も姿も保てないだけで、アダルトな話ではない。

「それで春から夏になって、最近ではアタシ、アパートからだいぶ離れた所まで出歩けるようになったの。


 そしたら…草ちゃんが二〇四号室に結界を張るって言い出して……」


 渚が不意に俯き、ジャッキーもハッとする。

「でもそれはアタシを追い出すんじゃない、アタシを縛るこの部屋と縁を切らせる為だって。そうやって過去への執着を完全に断ち切ればもっと自由に動き回れる様になって、この街を…この世を出て、きっと成仏できるからって……」

 地縛霊にとって成仏できるのは幸いだが、それは草介との別れも意味するのだ。

「アタシ…草ちゃんと離れたくなくて、つい言っちゃった。成仏しても天国に行けるかどうか分かんないから、今のままでもいいかなって……そしたらさ、怒られちゃったよ。『渚さんが天国行けない訳ないだろう』って。自殺だと自分を殺した事になるから地獄に堕ちちゃうけど、君は何の罪も無い事故死なんだからって。ちゃんと天国行かなきゃ駄目だって。

『僕が必ず結界を成功させるから』って言われてアタシ…『ありがと…』って呟くしかなかった……」

 渚は俯いたまま続けた。

「草ちゃんは勉強熱心だからさ。また色々調べて頑張って、今月─八月の頭だったわ。前の晩から外に出てたアタシは、夕方になって意識を取り戻した瞬間に分かった。何だか空気の壁みたいなのが二〇四号室全体を覆ってて、ドアの前までも近付けない。今いるこの通路の端っこが限界。ああ、結界張るのに成功したんだな…これで草ちゃんとお別れなんだなって……」

「渚ちゃん…」

 ジャッキーが目を潤ませる。

 渚が顔を上げた。

「そしたらドアがガチャッと開いてね。


『今夜は頑張って公園まで行ってみる?』って、草ちゃんが顔出して笑った。


 アタシがホントに独り立ち出来るまで、あの人はとことん付き合ってくれるつもりだったの!『いいひとね♡』ってからかったら、照れるかと思ったのにニコッと笑ってさ、言ったんだよ。

『良い事してないと、天国で渚さんに逢えないから』って!

 アタシ嬉しくて…嬉しくて……ちゃんと別れる時には今度こそ元気良く『ありがとう!大好き!』って言うんだって、決めたんだ〜♡」

 ちっ。まだこのノリが続いてやがったのか。

 ジャッキーも笑顔を取り戻しかけるが、その表情は半端に固まる。

 渚の雰囲気が不意に変わったからだ。

 寒気が酷くなる。

「なのに………」


「けえ!」

 ぬえが飛び起きて、膨れて啼いた。

 を感知したのだ。

「誰が草ちゃんを殺したのっ?」

 渚は髪を逆立てて、凶暴なかおを晒した。


「あの日…八月十日の晩は草ちゃん、コンビニのバイトのシフトが深夜から朝までで、アタシ今夜のお出かけはめとこうかって言ったんだよ。コンビニから帰ってきたら仮眠して、午後は学習塾の講師やんなきゃだからハードスケジュールだもん。大体体力の無い草ちゃんは毎日毎日暑くってバテてるんだから、熱中症になったりしたら大変。今夜はバイトまで寝てた方がいいよって。でも彼は大丈夫、渚さんといると涼しいからってさ…」

 確かに幽霊のそばは気温が低くて寒気がする。熱帯夜のデートの相手には最適かもしれない。

「だからアタシ、深夜三時頃、草ちゃんを1キロくらい離れたコンビニまで送っていった。そのアパートの前の角曲がって真っすぐ行ったとこ。もうそこまで行ける様になったんだよね。でもあの人、独りで帰れる?夜道は危ないからとか心配してさ…もう、幽霊だってば。

 また明日って手を振って別れた後、アタシはのんびり散歩してアパートに戻り、この通路奥に座って二〇四号室のドアをずっと見てた。草ちゃんを『おかえりなさい』って出迎えてあげたかったけど、帰りは朝だからね。夜が明けて段々意識が薄れてきて、アタシはそのまま眠った。草ちゃんの…夢を視た気がする。

 そして夕方目覚めて、それで夜まで待ってたのに草ちゃん出てこなくて…あれ、まだ帰ってきてないのかな、急用でも出来たのかなって思ってた。

 そしたら部屋の中からスマホの着信音が聴こえてきたの。何度も何度も鳴り続けて、スマホ忘れて出かけちゃったのかなって思ったんだけど……そこにジジイ…大家さんがバタバタとやってきた。アタシ、あの人嫌いだからそっぽ向いてたら、二〇四号室をドンドンノックし始めたんだよね。何度も叩いて草ちゃんの名前呼んで、でも返事は無い。その頃にはアタシもザワザワして部屋に行こうとしたけど、結界があるからこれ以上近付けない。そして遂に大家さんはガチャガチャと合鍵で鍵を開けて、でもチェーンが掛かっててドアは少ししか開かない。大家さんはそこから中を覗いて──悲鳴を上げた。

 アタシは動けなかった。

 結界と恐怖で動けなかった。

 そして大家さんがスマホで通報する声が聴こえたの。

『アパートの住人が倒れてます!』って。

 アタシも悲鳴を上げた。

 それから救急車が来て、警察が来て、アパートの周りには野次馬が集まってきて、アタシはその騒ぎを呆然と見てた。そして部屋に入った誰かの『駄目だ、もう亡くなってる』って声が聴こえた途端に意識も記憶も無くなって……

 目覚めたらまた次の日の夕方だった。やっぱり部屋には入れなかったけど、草ちゃんも運び出されてていなかった。幽霊の草ちゃんも見当たらなくて、ああ、アタシみたいに地縛霊になってないんだ、成仏しちゃったんだって思って……でもその時は、草ちゃんが何で死んじゃったのか分かってなかった。アタシも急いで成仏しなきゃ、草ちゃんとこ行かなきゃってただ焦って──

 だけど現場検証の片付けしてる警察の人が『ナイフが刺さって』とか、『事故じゃない、自殺だよ』とか言ってるのが聴こえた。

 嘘。嘘嘘嘘っ…!

 草ちゃん、自殺したら地獄に行くって分かってたもん!

 そしたら、そしたら天国でアタシに逢えないじゃないっ……草ちゃんが自殺する訳ないんだってば!

 だから事故じゃないなら殺されたのっ…で殺されたの!


 返してっ…草ちゃんを返してよおっ……!」


 恋バナに浮かれていた渚がまた悪霊じみてきて、ジャッキーは慌てて背中をさすって慰める。草介の死の謎が未練となり、切れかけていたこの地縛霊と二〇四号室との結び付きをまた強くしてしまったのだろう。コイツの成仏の為にも、草介が自殺ではなく誰かに殺された事を証明するしかない様だ。

 人間も、そして結界によって幽霊も入れないでの殺人だと──

 ボクは重要な事を確認した。

「渚。お前は草介と別れた後、朝までずっとここから部屋を見てたんだな?」

「……うん」

 質問されて少し正気を取り戻す渚。

 草介の死亡推定時刻は八月十日の午前八時から十時の間だ。つまり渚が朝の光で意識を失くした後、コンビニのバイトから二〇四号室に戻ってきて死んだのだ。しかし草介の死体が発見された時はドアも窓も施錠されて、誰かが侵入した形跡も無かった。これがもし外から鍵やドアチェーンを開け犯行後また戻す、或いは密室のまま殺すなどのトリックが使われているなら、被害者が留守の間に準備しておく必要があるだろう。それも出来れば人目に付かない夜の間の方が好都合のはずだ。だが朝になるまでずっと渚がいたのだ。物理的トリックは難しい。

 ならばそんな密室で殺人を行なうのに最も簡単な方法は、室内に招き入れてもらう事だ。これならややこしい仕掛けを用意する必要は無い。そして殺害後はそのまま現場に留まり、どさくさ紛れに逃げる。勿論捕まる危険性は非常に高いが不可能ではない。例えば救急隊員や警察官の制服を着て隠れておいて、室内に入ってきた連中にしれっと混ざって逃げる心理的トリックもあるのだ。

「お前、次の日も夕方から草介が発見されるまで見てたんだよな?」

「うん…」

「その時、部屋に入るところを見ていないのに出てきた人物、或いは救急や警察にしては怪しい人物はいなかったか?」

「え……いや…アタシ、ショックでボーッとしてたし、途中で意識も失ったから分かんない…」

「そうか…」

 それじゃこの説は保留としよう。

 しかし物理的トリックも駄目、心理的トリックも微妙となると……

「誰なの?誰が草ちゃんを殺したのっ…アタシが、アタシがそいつを殺してやりたいっ……!」

 ぬえが羽毛を逆立てて怯えている。

 渚が再び殺意を発している証拠だ。

 ボクはその様子を見ながら、についても考えてみる。

 しかしどのトリックも決め手が無い。物証が足りないのだ。早々に自殺と判断された事で草介の遺体は司法解剖にも回されていないだろう。でなくては今地元でやっているという葬儀が、遺体が戻ってくるまで待機となっていたはずだ。現場の二〇四号室もさっき確認は出来たが、明日には室内の特殊清掃が始まる。これ以上の発見は望めない。

 そして何よりこの宙ぶらりんの事態を招いているのは、肝心の死んだ当人が何も覚えていないからだ。そもそもボク達にこのの謎解きを依頼してきたのは、さいの河原で働く元キャバクラ嬢の真澄ますみである。死者の衣服の重さで罪の重さを量る仕事をしている彼女が、自殺─すなわち自分への殺生せっしょうで地獄行きとされた草介のジャケットにその罰に見合う重さが無い事に気が付いたのだ。だから彼は本当は殺されたのではないかと考えたのだが、草介本人には自身が死んだ前後の記憶が無い。それで諦めた様に言っていたというのが──

『殺生したら地獄なんですよね?

 だったらいいです』

─ったく…こっちは地獄に堕とすのが仕事なんだ。本人がいいって言ってんならいいじゃねえか。真澄のヤツ、面倒くせえ仕事持ち込みやがって。

 あと何か手掛かりが残っているとしたら………あ。


 ボクはパーカーのポケットに手を入れた。


「テンちゃんっ、渚ちゃんが!」

 ジャッキーの焦る声に我に返ると、渚が立ち上がっている。

「殺シテヤル……」

 虚ろな表情で全身がほんのり赤く光っている。マズい。霊の赤い発光は凶暴性がいよいよ高まり、自我も失って悪霊一歩手前の危険信号だ。黒髪が触手の様にユラユラと広がり、パタパタ飛んで逃げようとしていたぬえを絡め取る。 

「けえけえ!」

「止めて渚ちゃんっ!」

「殺シテヤルゥッ!」

「けえええーっ!」


 パアン!

「よおし、分かった!」


 ボクが両手を打ち鳴らしてから右手を前に突き出すと、揉み合っていた地縛霊と鬼と鳥の動きが止まる。

「え?犯人が分かったの?」

「ああ」

 ボクがあっさり頷くと、目を丸くして質問してきたジャッキーをおしのけて渚が前に出た。こっちは目が三角だ。

「誰っ?誰なのっ?」

「決まってるだろ。

 物理的トリックも心理的トリックも当て嵌まらない密室で使えるのは──


 しかない」


「霊的…トリック……?」

「けっ…」

 渚がポカンと固まって、髪の毛に捕まっていたぬえがポトリと落ちる。そのまま通路の隅に転がってブルブル怯える怪鳥とり

「確かに霊体は現世のモノには直接さわれないが、念じる事でいわゆる〈ポルターガイスト現象〉を起こせるだろ?扉をバタンバタン開け閉めしたり、窓をバリンバリン割ったり、椅子や机をブンブン飛ばしたりする騒がしい幽霊ポルターガイスト……特に悪霊化しちまうとその念動力ちからも強力になるからな。

 今のお前みたいに」

 元々青白い渚の顔が更に青めて、ジャッキーが手で口元を覆う。

「二〇四号室に張った結界は所詮素人細工だ。偶々たまたま霊本人は入れなくなったとしても、室内のモノは念動力で動かせるかもしれない。

 ──」

「アタシっ?アタシがやったって言うのっ?」

 渚が髪を振り乱して喚く。

「アタシが草ちゃんを殺す訳っ……」

「我を忘れてやったかもしれないだろ?

 今暴れてたみたいに!」

 ボクが鋭く言い放つと、渚は言葉を失った。

 そのままガックリと膝を突く。

「嘘…嘘……」

「自殺の名所の崖や事故が多発する踏切では、こじらせた地縛霊が悪霊化してを増やしている──そんな例は調べればゴロゴロ出てくるさ」

「アタシが…あのひとを……ああっ……あああっ………」

「渚ちゃんっ…」

 嗚咽する渚を、ジャッキーが覆い被さる様に抱き締める。

 ボクは一拍置いて、静かに告げた。

「だから──


 その可能性に気付いた草介は、自分は自殺で地獄に堕ちてもいいって言ったんだ。

 もし渚が犯人ホシなら、その罪を自分が背負うつもりでな。

 よっぽどあんたを天国に行かせたいんだな」


 ボクを見上げた渚は潰れていない方の左目から涙を、潰れた右目から血を、とめどなく流していた。


「よく聞け。明日までに密室の謎は解いてやる。

 今言った様にお前が犯人の可能性も勿論あるが、確定じゃない。なのに自棄ヤケを起こして誰か殺したりしたら、草介と天国には行けないからな。

 一晩頭冷やして待ってろ」

 そう言い捨ててボクはさっさと背を向ける。

「ま、待ってっ…」

 慌てて立ち上がったジャッキーの声が掠れている。また地縛霊に同情して泣いてたな、このお人好しが……


「あり…がと……」

 更に小さな声が後ろから聴こえた。



「テ、テンちゃん、あのっ…」

 アパートの階段を下りた所でジャッキーがボクを呼び止めた。

 振り向くと目を潤ませたまま、頬を染めて見つめている。

 ボクが眉をひそめると、ニッコリと笑い返してきた。何だ…?

「良かった…明日までに謎、解けるんだね」

「さあ」

 イイ感じだったジャッキーの笑顔が固まる。手掛かりも無いのに密室の謎解きがはかどる訳ないだろ。ドタバタ騒ぎにウンザリして早く終わらせたかったから言ってみただけだ。

「とりあえず草介がバイトしてたってコンビニに行ってみるか」

「あっ、そっちに手掛かりがあるの?」

「コーヒー飲みたい。

 そこの角曲がって1キロくらいなんだろ?駅前に戻るより近そうだからな」

「もう…名探偵っぽくてカッコ良かったのに…」

 ジャッキーは笑顔をすっかり引っ込めて、溜息をついている。勝手に期待して勝手にガッカリするな。

 しかしコンビニを目指して歩き始めると、蒸し暑くてすぐに行く気が失せてきた。くそっ……角を曲がると、来る時にスポドリを買った自販機と民家前に設置された手作りのミストシステムが目に入る。やっぱり缶コーヒーで済ますか…?

「うーん、ホント熱帯夜ね。さっきまで渚ちゃんのお陰で随分涼しかったのに…」

 確かに渚のそばは霊的に涼しかったが、精神的に暑苦しくて疲れたんだ。やっぱり少しはマシなコーヒーが飲みたい。ボク達は自販機の前を通り過ぎた。

「草介クンもコンビニのバイト終わって歩いて帰ってきた時、暑かっただろうな」

「朝日が昇った途端にすぐ猛暑だからな。ヤダヤダ」

「朝から熱中症になってもおかしくないもんね。

 が動いてくれてたら天の助けだけど」

 ジャッキーはそう言って今は止まっているミストシステムの前に立ち止まり、シャワーヘッドを見上げる。

 チッ、天の助けなら今天使を助けろ。軽く支柱を蹴飛ばしてやる。

「あっ、テンちゃんお行儀悪っ…クシュン!」

「何だ風邪か?あんな冷え冷えの地縛霊にピタッとくっついてるからだ」

「渚ちゃんを冷えピタ呼ばわりしないで…クシュン、クシュン!」


 待て。

 熱中症……?


「フゥ……あれ?」

 鼻を押さえながら歩き始めたジャッキーが、ボクが付いていかないので振り返る。

「どうしたのテンちゃん?」

 それでもボクは立ち止まったままだったが、ふとパーカーのポケットに振動を感じた。マキから貰ったスマートフォンのバイブレーション通知だ。スマホを取り出して見るとそのマキからメールが届いており、文面は一言『特別ですわよ』。そして動画ファイルが添付されていた。

「マキからっ?」

 画面を覗き込んで尖った声を上げたジャッキーを無視しつつ、動画を再生する。


「えっ……ってっ?」

「こういう事だったのか…」

 愕然とする鬼。頷く天使。寝腐る鳥。

 今度こそ──よおし、分かった。



 ………真っ赤に染まった空に坂道が伸びていく。

 道の先がユラユラと揺らめいているのは…陽炎?夕暮れ時なのにそんなに暑いなんて、やっぱり世界はもうどうかしちゃったんだろう。

 いや…どうかしちゃってるのはアタシか。陽炎が立ち込める中を歩いているのに、汗をかくどころか寒気がしている。アタシ自身が冷たい。灼熱の昼と夜の境目を、凍える思いで歩いてる。永遠の黄昏時をずっと…ずっと独りで歩いている。いつから歩いてるんだっけ…?

 どこまで歩けばいいの?いつまで独りなの?

 誰か…誰か教えて──

 ザアッ…

 風が吹いた。

 爽やかな風がアタシの髪を撫で、道の両側の草原を揺らす。

 草原……

 ザアアアア………


 草…ちゃん……?


 ……ゆるゆると目を開けた。いつものアパートの通路に座り込んでいる。周りが赤い。まだぼーっとしながら肩越しに視線を送ると、鉄柵の向こうに夕焼け空が見える。さっきもそんな空を見てた気がするけど、気のせいかな……

「やっと起きたか地縛霊」

 ハッと見上げると、目の前に不機嫌な顔をしたマッシュルームカットの男の子が立っていた。隣にしゃがんでいるのは赤髪のカッコいいお姉さん。天使と鬼って言ってたけどさ…幽霊のアタシにフツーに接してるからホントなんだろうけど、やっぱりまだ信じきれない二人組だ。お姉さんの肩に留まってるのも真ん丸な変な鳥だし。

 …あれ、天使のテンちゃんは元々だけど、鬼のジャッキーさんも何か暗い表情カオしてる…?


「分かったぞ、の真相が」


 今、何て……

「地獄の裁判はな、善人、小悪党、外道に振り分けて三途の川の渡り方を決める秦広しんこう王から始まって、十人の─十王が担当する。有名な閻魔王はその五番目だ。役割としては地方裁判所の裁判長クラスだよ。

 でも大概の人間共…お前だって、天国行きか地獄行きかを閻魔王単独で決めてると思ってるだろ?何で一人だけそんなに有名なのかって言うと、閻魔王の裁判にはちゃんとしたが提出されるからだ」

「物的証拠…?」

さ。

 閻魔王の宮殿には死者の生前の善悪を映し出す〈浄玻璃じょうはり鏡〉ってモニターがあるからな。こんなに明白な証拠も無いだろう?だから客観的な事実関係は閻魔王が判断する。それを基に他の王達は、死者本人の供述や残された遺族による供養の態度等で情状酌量の余地も精査して、細かい罪状と負うべき罰を決めていくんだ。まあそれが最近じゃ善悪の判断が難しくなった分、浄玻璃鏡の映像も何度もチェックしなきゃいけなくて、地獄の審理が滞る一因になってるんだがな……


 その浄玻璃鏡のデータベースから、草介のを手に入れた」 


 嘘……

 テンちゃんはジャッキーさんを指差す。

「コイツの幼馴染のお陰でな。そのマキって鬼は地獄の獄卒の中でも特に有能で、閻魔王からも信頼されてるそうだ。それで草介の映像が手に入らないかって連絡したら、特別に浄玻璃鏡から動画をダウンロードさせてもらえたって、そのファイルをボクのスマホに送ってくれたんだよ。まだ未編集の素材だけどで充分だったぜ」

 そう言って天使は、アタシにスマホの画面を向けた。


 アパートの一室が映っている。

 天井から見下ろしたアングルだ。

 電燈は点いてないけど、六畳の部屋はカーテン越しに光が届いて薄明るい。朝なのだろう。

 部屋には家具の類は無いけど、四隅には柱みたいに本が積まれて、その上にそれぞれ四つのワイングラス、四皿の盛塩、そして四本のペーパーナイフが並んでいる。

 だ。

 草ちゃんの結界。

 アタシは中に入れなくなったから初めて見るけど、話には聞いた。間違いない──

 これは二〇四号室だ。

 かつてのアタシの部屋。

 草ちゃんの部屋。

 でも誰もいない。草ちゃんもいない。そのまま何も起きない部屋の映像が一分ほど続いた。


 不意にドアのノブが激しく動く。

 外から回してるらしいが音はしない。

「未編集なんで音声は無いぜ」

 天使の声は耳に入らない。

 乱暴にドアが開いて、人が飛び込んできたからだ。


 草ちゃんっ…!


 コンビニのバイトから帰ってきたのだろう。でもどうしたの?異常なほど汗だくで、激しく肩で呼吸いきをして…確かに毎日朝から暑いけど、それでもこんな……慌ててドアに鍵を掛けて…あっ、チェーンも掛けた。何?まるで何かに追われてる様な……

 えっ?床に倒れ込んだ!具合悪いの?体をくの字に折ってお腹を押さえてる。なっ、自分で自分のお腹を殴り出した?どうしたの?えっ、何、何か叫んでる。

 でて…え?『出てけ』?

 何なの?お腹に何かいるの?そんな…お腹に手は刺さんないよっ?やめて草ちゃんっ…草ちゃんっ……

 ああっ駄目!ナイフはっ…ナイフを捨ててっ!やめっ……


「いやあああああ━━━━っ!」


 草ちゃんが両手で持ったナイフを自分のお腹に突き立てた瞬間、アタシは絶叫して床に突っ伏した。

 すぐにジャッキーさんが抱き締めてくれる。ホントに優しいお姉さん…ホントに鬼?

 でも…でも……ああっ………

「そんな…自殺…だったんだ……」

「あたしも昨夜ゆうべ初めて観た時ショックだったの。渚ちゃんに何て伝えたらいいんだろうってっ…」

「自殺だと…地獄に行っちゃうんでしょ…?」

「あたし…あたしがマキに頼んであげるっ!地獄に堕ちても草介クンをなるべくいじめないでって……マキの事は嫌いだけど、何回だって頭下げるからっ……!」

 アタシもだけどそれ以上に涙声のジャッキーさん。ありがたいけど…でも………

「けえ!」

 殺意が分かるという丸い鳥が啼いた。

 アタシが誰かを殺して地獄に行こうと思ったのがバレちゃったみたい。

「駄目だよ渚ちゃんっ!」

「嫌っ…アタシも地獄に行く!草ちゃんと行く!

 アタシはあの人と、どこまでも一緒に堕ちていくのおおっ!」


 不意に夢の光景を思い出す。

 そっか。

 あの草原の一本道は、地獄に向かっていたんだね……… 


「お前らの目…節穴過ぎんだろ」

 テンちゃんが心底呆れた様に言った。


「今の動画で何で自殺だと思うんだよ。

 どう観てもだろうが」



 泣きながら抱き合っていた鬼と地縛霊が、涙と鼻水でグチャグチャの顔でボクを見上げた。

「事故死……?」

「ウソぉっ?」

「草介の様子観たろ?最初はに普通に追われてたんだろ。だから部屋に戻ってくるなり厳重に鍵を掛けた。だけどはそんな密室を物ともせず、草介の体内に入り込んできた。それで自分の腹を掻きむしり、中のナニカを引きずり出そうとして…ありゃあとんでもなく禍々しいモノだな。それがどうしても出ていかないからナイフで攻撃したのさ、自分で自分の腹を刺して。つまり──


 草介は腹の中のヤツを刺したけど、それはなんで無罪。

 ただで自分が死んじまった。

 ホラ、事故死だろ?」


 ジャッキーと渚は間抜け顔が加速して、目と口がパカーと開いた埴輪みたいになっている。

 しばらくしてようやくジャッキーが、動画の再生を終えたスマホを指差しながら言った。

「えっと…事故死?が?」

 ボクが重々しく頷くと、弾かれた様に渚が立ち上がる。

「何なの、その草ちゃんのお腹に入ったヤツって…事故死?そいつが草ちゃんをんじゃん!許せないっ…アタシが殺してやるっ!」

「けっ…」

 また渚が赤く光り出し、ぬえがビクリと慄えて飛び上がる。昨日襲われたのが相当怖かったらしい。そのままパタパタと大慌てでどこかに逃げていった。

 ジャッキーが半悪霊グレ化した渚を「どうどう」と宥めながら言う。

「でもホント何?お腹の中にいるとか…妖怪?

 とかは聞くけど…」

「そう!よく分かったなお前!」

 ボクが笑顔で拍手したので、ジャッキーは目を白黒させる。

「空腹だと『腹の虫が鳴く』し、怒りを抑えられない時は『腹の虫が治まらない』。あれはただの慣用句じゃないぞ。古来日本ではその『心身の不調は身中の虫のせい』という発想は迷信ではなく、医学に携わる人々にも広く信じられてきたんだ。

 江戸期の医学書は種々の虫がもたらす病の記載で溢れている。例えば〈応声虫〉は人が声を出すと、体内からそれに応えて言葉を発する。〈皮下走虫〉は皮膚の下を這い回るし、〈狐惑虫〉がいると喉や陰部に潰瘍が出来て、狐に憑かれた様に精神が不安定になる。そして下腹部に激痛を起こす〈寸白すばく虫〉は、近代医学で〈サナダムシ〉という実際の寄生虫として確認された。そんな虚々実々の虫達が胸にも腹にも皮下にも棲み付き、複雑な症状を引き起こして人々を苦しめ、死に至らしめる──『虫の居所が悪い』とか『虫の良い話』とか日常会話で出てくるのは、そんなかつての虫観が現代の日本人にも脈々と受け継がれてる証拠さ。

 そんなが草介の腹に入り込んだんだ。ボクが思うにそいつは放っておくと体の中で成長して、やがて皮膚を食い破って体外に飛び出す。それで周りの人間達を襲い始めるの虫じゃないかなあ」

「エイリ…アン…?」

 ボクがニコニコと語るのを見て、また埴輪になる渚。

 ジャッキーは…真面目な顔で見上げている。

「そもそも虫─昆虫は、外見や生態が他の動物とあまりにも違うんで進化論でも説明が付かないんだ。だから昆虫は人類を含めた海中の単細胞から発生した生命体ではなく、隕石に付着して宇宙空間からやってきた微生物が地球の環境に適応して進化した存在だという説がある。そんな危険な虫、早く退治しないとヤバいだろ?

 だから草介はよくやったよ。自分を犠牲にしてこの街の人達を守ったんだ。事故死というか、名誉の殉職だな。心配すんな渚──


 草介は天国に行ける。

 天使が言うんだから、間違いない!」


 必殺の天使のエンジェルズ微笑スマイルが効いたのだろう。渚を包む光は赤から、柔らかい白へと変化していく。霊の危険度が下がったしるしだ。

「…草ちゃん…良かった……」

 両手で顔を覆って嗚咽する渚。

 ジャッキーも優しい笑顔でその背中を擦っている。

「三途の川渋滞してるから、今行けばまだ草介クン、賽の河原にいるよ」

 渚は涙に濡れた顔を上げる。

 右半分の火傷の痕がだいぶ薄くなっている。

 霊の姿は本人の心的状態を反映する。だから怨念を抱えた悪霊の見た目は怖ろしいし、地縛霊となっていた渚もその心の痛みが実際に死んだ時の悲惨な傷痕として顕れていた。しかし成仏して現世を離れる時、服装は生前の最期のモノになりがちだが、他はその際の心の浄化度や精神的な安定度がビジュアル化されるのだ。地獄に直行する様な罪人は醜い姿になるが、渚の場合は──

「渚ちゃん、可愛い♡

 これは草介クン、きっとドギマギしちゃうな〜」

「エヘヘ…ありがと」

 ジャッキーの言葉に笑って涙を拭いた渚が立ち上がった。ジャッキーも立ち上がり、ボクの隣に並ぶ。

 渚はボク達に向かって深々と頭を下げた。

 その白いオーラが強くなり、体が透けていく。

「ホントにありがとう。

 テンちゃん、ジャッキーさん、あと鳥…はいないか。

 向こうで草ちゃんに逢えたら……」

 渚はそこまで言って、ハッと気付いた様に自分の体を見回した。


「あ、アタシ、パジャマのままじゃん!ちょっと恥ずかし──」


 だいぶ間抜けな言葉を最後に、二〇四号室の地縛霊は成仏していった。

 残照に赤く染まるアパートの通路で、ボク達は暫し黙り込む。今日もよく晴れていたので、やっぱりこの時間でもまだまだ暑い。また冷たいコーヒーでも飲もうかと考えていたら、先に冷たい視線を横から貰った。ジャッキーだ。

「ちょっとキミ…さっき随分ニコニコしてたよね。あたし知ってるもん。そういう時のテンちゃん、ろくでもない事しか考えてないって。

 虫の話、ね?」

 チッ。なまじ腐れ縁が続くとこれだからな。

 まあ腹から飛び出るエイリアンとか言ってる時点で、ふざけてんのはバレバレか。

「ホントは草介クン、何で死んだの?

 まさか…自殺を誤魔化して事故死って言ったんじゃないよね?そしたら地獄に堕ちちゃうよ?渚ちゃんと一緒に天国行けないじゃない!」

「興奮すんなよ」

「だって、さっきの動画はどう見ても自殺っ…」

「確かにあれは事故死じゃない」

「じゃあっ…」

 ジャッキーは掴み掛からんばかりの勢いだが、そんな馬鹿力でやられたらボクは怪我する。だからピシャリと言ってやった。


だ」


 固まるジャッキー。

「動画で観た通り草介が腹の痛みに耐えかねて、それを追い出そうと刺したのはホントだぞ。だからその腹にが虫を送り込んだとしたら、そいつが草介を殺した犯人だろ?コイツは立派なだよ」

「なっ…だったら何でさっきは事故死なんて…」

「いいのか?犯人がいるなんて言ったら、渚は悪霊化してそいつを殺しに行くぞ?それで地獄に堕としてもボクは構わないけど、お前また拗ねるだろ」

「あ……」

 ジャッキーはハッとした後、また何だか赤い顔でボクを見つめる。

「そっか…優しいね」

 何で嬉しそうなのかよく分からんが、ご機嫌取りにリゾートに連れていけって言われるのがもうゴメンなだけだ。天国からの必要経費も今月分は遣い切った。

 落ち着いた鬼がポツリと言う。

「でもお腹に虫を送り込むなんて…犯人は妖術使いか何かなの?陰陽師おんみょうじとか?」

「ああ…加藤とかいうヤツが『腹中虫』っての使ってたな。でも今回はそんなオカルトじゃない。

 と言うか…ヒントはお前がくれたんだが」

「は?」

昨夜ゆうべ言ってたろ?

 草介がコンビニのバイトから歩いて帰ってきた時もさぞ暑かったろう、朝から熱中症になってもおかしくないって」

「熱中症?…確かに動画の草介クンも部屋に帰ってきた時、汗だくでゼェゼェ言ってたけど……」

「人間は打たれ弱い生き物だからな。体調が悪くなるとすぐ、五感の至る所に誤作動を起こす。視覚、聴覚、触覚…どの感覚器もを勝手に生み出すんだ」

「幻……

 じゃあ草介クンは、お腹に虫がいる幻覚に囚われて、それから逃れる為に自分を刺したのっ?」

 ボクは黙って頷く。

 呆然と呟くジャッキー。

「そんな…熱中症でそんな幻覚を視ちゃうなんて……」

「それは無いだろ。熱中症の症状は初期は目眩めまいや頭痛、吐き気。酷くなると意識が混濁してくるが、錯乱とか幻覚を視るなんて聞いた事が無い。

 体内を虫が這う様な感覚に苦しめられる〈体感幻覚〉は、脳の病気や統合失調症とかで多く見られる症状だ。それ以外だとアルコールや薬物による中毒かな。薬物依存の治療をしている患者がその虫がゾワゾワ這い回る不快感に耐え兼ねて、自傷行為に及んでしまう例も珍しくないそうだ」

「は?熱中症のせいじゃないの?」

 だからそう言ったろ。ヒントにはなったが、熱中症はに過ぎない。 

「じゃあ草介クンは何でそんな幻をっ…?」

 それも今言った。

 さてと…それじゃ幻の虫を使って草介を殺した犯人ホシを捕まえに行くか。

 今回、二人も天国に行かせちゃったからな。

 地獄にも誰か堕としておかないとバランスが悪い。



 ……ミントグリーンの川面がゆらゆらと揺れる。

 僕は賽の河原に座り、三途の川の流れを黙って見つめていた。

 もう何日経ったのだろうか?あの接客の上手い真澄さんにお盆で地元に戻るから、帰ってくるまでここで待てって言われたんだけど…二日?三日?……いや、には普通の時間の概念なんて無いか。あの世だもんな。

 それにしても三途の川にこんなに綺麗な色の水が流れているとは思わなかった。暗く冷たい色だって何かで読んだけど…ここは浅瀬だからかな?深い所は物凄い急流だそうだから、黒く濁っているかもしれない。地獄に堕ちる死者ひとはそういう厳しい淵を渡らなきゃいけないらしいけど……僕に渡れるだろうか。自殺は殺生で地獄行きって言ってたからな。僕は自分が何で死んだか分かんないんだけど、万が一が関わってたら……それでが天国に行けなかったら……そっちの方が地獄より辛い。だから僕は自殺でいいんだ。

 でも…泳ぎは全然得意じゃないんだよな。教師になったら子供達を助けられるように、大学の間にスイミングスクール行こうなんて思ってて……ああ、もう死んだのか。教師にはなれないんだっけ。だったら別に、天国でも地獄でも同じだ。もうここ、渡っちゃおうかな。

 ミントグリーンの水面を覗き込む。

「泳げるかなあ、これ……」


「不安なら橋を渡れば?」


 聞き慣れた声がして振り向く。

 河原に来た時真澄さんが僕のジャケットを脱がして、後ろの樹の枝に掛けた。その樹に隠れて顔だけ出しているのは、髪の長い華奢な女性──

 思わず固まってずっと見つめていたら、その人は恥ずかしそうに俯いた。

「えっと、パジャマだからちょっと恥ずかしいんだけど……」

「えっ………あっ!

 気付かなくてすみませんっ…!」

「それ、最初に遭った時にも言ったやつじゃん!

 もしかして草ちゃん、今パジャマだって気付いたの?」


 そう言って、渚さんは楽しそうに笑った。


「このジャケット借りていい?」

「も、勿論っ…」

 慌てて飛んでいって、枝からジャケットを外す。

 それを肩に羽織らせてあげて気が付いた。

さわれる…」

「フフ…」

 渚さんは頬を染めて、上目遣いに僕を見上げた。

「天国に行く人は橋を渡っていいんだって」

「え…でも……」

「大丈夫…ちゃんと二人共行けるから」

「ホント…?」

「うん…」

 彼女は右てのひらを差し出した。


「一緒に行ってくれるよね?」

「ハ、ハイ、喜んで!」


 そして僕達は手を繋いで、その美しい橋をゆっくりと渡っていった………



 ホントによ…何なんだこの暑さは。梅雨なんかほとんど無くて六月から猛暑、八月まで二ヶ月ずっと同じ様な天気じゃねえか。今日はお盆の十四日だぞ?昔ならもう残暑見舞い出して秋になってく頃だろ?ふざけやがって……

 くそっ何だよ、何で俺が馘首クビにならなきゃいけねえんだ。このクソ暑い中、せせこましい住宅街回って送迎してやってたんじゃねえか。あの中古のスクールバス、微妙に小回り利かねえんだ。だから俺ぁ、ちょっと酒入れた方が運転にキレが出るからよ…なのにガキ共め、運転手が酔っ払ってるとか園や親にチクりやがって。教師共も善人ぶりやがってよ、生徒の生命いのちを預かってとか何とか…こっちだって生活懸かってるんだよ!くそっ……

 見てろよクソガキ共、夏休み終わったら酷い目に遭わせてやる。撒いてやるからな。お前ら好きだろ?あの冷たいミスト。いっつもスクールバスの乗り場の屋根から出てくるミストの下に群がって『冷た〜い、キモチいい〜』って、ビショ濡れになるまで浴びてるもんな。馬鹿ガキ共が。だから思い付いたんだよ、この霧に毒を混ぜてやったら、お前らまとめて懲らしめてやれるって。〈ハシリドコロ〉ってナス科の植物でな、春の新芽はちょっとフキノトウに似てるけど食べると食中毒を起こすんだ。でもホントに毒性が強いのは根っこでな。アルカロイド系の毒成分があって誤食すると、嘔吐、下痢、血便、異常興奮とか引き起こすが、何と言っても。それが数日間続いて走り回って苦しむから『ハシリドコロ』って言うんだぜ。このハシリドコロを煎じた汁の毒霧を吸い込んだガキ共は、暑い中ギャーギャー言って走り回るんだろうな。へへへ、楽しそう〜!

 それでこの俺んの前に造ったヤツで実験してたんだけど…この間の朝ゼェゼェ言って歩いてた近所の大学生に『涼んで帰りな』ってたっぷり浴びせてやったら、ちょっと効き過ぎたんだよな。急に眩しい眩しいって騒いだ後に、悲鳴上げて走り出して……何かあの後死んだっぽいからな。ヤベっ、俺の毒霧のせいだってバレたらどうしようって思って、それからしばらくミスト止めてたんだ。けどどうも自殺って事で済んだみたいで、いやあ助かった!

 しかしあんまり効き過ぎるのもマズいな…少しハシリドコロの液薄めるか。警察に捕まるのも嫌だけど、ガキ共に一人でも多く浴びせたいんだ。どうせ九月になったって猛暑なんだ、多少ならおかしくなっても熱中症だと思われてバレないだろ。バス乗り場に仕込んでやるからな。新学期早々その毒浴びて、ホントの馬鹿になっちまえ!

 ……はどうしようかな?実験は成功したんだし、証拠は残さない方がいいな。シャワーヘッドから普通の水撒いて、ハシリドコロは洗い流しておくか………



「そんな…あのミストシステムに毒が?」

 ボクがアパートの階段を下りながら説明した推理に、ジャッキーは顔をしかめた。

「言っただろ?病気以外で幻覚や錯乱を引き起こすのは、アルコールや薬物の中毒に起因する事が多いって。その毒霧にはそういう成分が入っていたんだと思う。

 体力が無くて暑さにも弱い草介は、バイト上がりのウォーキングに相当参ってたんだろうな。その毒霧を天の助けと思いたっぷり浴びて呑み込んで、幻の虫を視る羽目になったんだ。アイツ自身の死んだ記憶が曖昧なのは、錯乱症状も重なっていたからだと考えれば納得がいく」

「で、でもそれってまだテンちゃんの推測でしょ?現世の警察はともかく、地獄の十王様達に草介クンがって納得してもらうには、何か具体的な証拠がいるんじゃ……」

「だからそれを今から押さえに行くんだが…でも毒霧だって間接的な証明は、昨夜ゆうべがやってるぞ」

「は?」

 あんぐり口を開く察しの悪い鬼に、ボクは呆れながら吐き捨てる。

「あのミストシステムをボクが蹴飛ばした時、お前クシャミしてただろ。あれは残ってた微量な毒液が飛び散って、それに反応したんじゃねえか?前にも鬼の特性で毒物に対して、花粉症みたいな症状になってただろ。それでボクはほぼ確信したんだ」

「あ……」

 自分の事を忘れてたのがバツが悪いのか、ジャッキーは宙に視線を彷徨さまよわせる。

「よ、よ〜し、その犯人をとっ捕まえに行こうっ…」

 誤魔化しながらスタスタとアパートの敷地を出るジャッキー。ボクは溜息をつきながら、最初の角を曲がろうと進む彼女を追う。その向こうにあの手作りの毒霧噴霧システムがある。状況的に造ったのはその家の住人で、そいつが犯人だろう。何の為にそんなモノを造ったか知らないが、とりあえず──

 地獄に堕ちろ。


「けえ!」

 角の向こうでぬえが啼いた。

 誰かの殺意がそこにある。

「何っ…?」

 咄嗟にダッシュしたジャッキーに続き、ボクも角を曲がる。


 目に飛び込んできたのは自作のミストシステムの柱にじ登る様に絡み付き、頭上のシャワーヘッドを口いっぱいに頬張っている男の姿だった。

 おそらく五十代後半か六十代、短髪だが無精髭を伸ばし放題で、ヨレヨレのシャツと短パン姿もだらしない小柄な男──その男は大量の水を口から滝の様にゴボゴボと溢れさせ、顔も体もずぶ濡れになっているが、涼を取っているのではあるまい。


 その男は咥えたシャワーヘッドからの水で溺れ死んでいた。


「これは一体…?」

 ジャッキーが呆然と呟くが、ボクにも何が起きたのか分からない。

 ただ一つ言えるのは自殺だか何だかよく分からないが、コイツが今回の犯人ホシならこのまま地獄に堕ちるという事だ。

 天国と地獄のバランスは取れたが──納得はいかない。



『そんな風に殆ど絶望しかけていた時、夢の中で見たとおりの彼女が、すぐ近くにいるではありませんか!その姿はこの地の、いや天の与えうるあらゆる美しさで飾られ、実にいとしいものに見えました。』


 (第五話 了)

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