目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第21話 町 5

 広場から来た道を引き返してダンジョンに向かうと、また探索者ギルドが見えてきた。明日はここでどれだけ換金できるだろうか? 芋虫だけでは銀貨7枚は難しいだろう。


 その時、探索者ギルドの裏手から何やら揉めている声が聞こえてきた。


「痛ってーな! 何すんだ!」


 子供の甲高い声が聞こえたので、そちらの方を見ると1人の少年が頬を手でおさえて倒れている。


 周りには探索者風の男が4人少年を取り囲んでいるので、このうちの誰かが少年を殴ったのかもしれない。


「お前は黙っていう事聞いていれば良いんだ! 文句があるならもう来なくて良いぞ」


 一人の男がヘラヘラ笑いながら去っていくと他の男たちも後を付いていく。


 子供は倒れたままだ。


「大丈夫?」 ブタちゃんが少年に駆け寄った。


 ブタちゃんは子供に対してやけに優しいと思う。いや俺にも優しいかな。


「うるせー 触んな!」 子供はブタちゃんに対して厳しいと思う。何故だろうか?


「落ち着け少年、何やら揉めていたが、何があったんだ?」 少年はこちらをチラッとみると喋りだした。


「あいつらは探索者で、俺もあのパーティーについて行ってるんだ。今日は結構稼げたのにあいつら俺に銀貨1枚しかよこさない。道案内もして雑用は全部俺に押し付けるくせに1日銀貨1枚以上は絶対渡さないんだぜ」


 そうか子供だから足元を見られているのだな。


 確かに雑用を全部やってくれる小間使いが1日銀貨1枚で雇えるならお得かもしれない。


 残念ながらうちのパーティーはそんな余裕ないから、雑用も自分でやらねばならない。


「そんなパーティーは辞めてしまえば良いだろう? ダンジョンに詳しいなら他のパーティーに入れて貰えよ」


「それができたら苦労しないぜ。子供だからと相手にされないか、パーティーに入れてくれても雑用してお駄賃くれる程度だ。俺だって何年もダンジョンで生き抜いてきたのに他の奴は皆死んじまったが、俺は生き残ってるんだぜ」


「そんなに無理してダンジョン入らなくても良いだろう? 大人になってからでも遅くないぞ」


「俺は孤児だから金が必要なんだ! 特に今は妹が体調崩しているから栄養のある物食べさせないといけないのに銀貨1枚じゃ全然足りない。あいつら今日の稼ぎがなくなるまではダンジョンに行かないとか言うから、俺はもっと今日の取り分を増やせって言っただけなんだ」


 なるほど孤児か……。


 子供をダンジョンにいかせるなんてとんでもない親が居るものだと思っていたが、そんな親は存在しないと言う事だ。


 それならこの孤児に俺たちと行くか? と言うのは簡単だけど現状子供を養う甲斐性が我々にはない。


 さらに妹も居ると言っているから、急に子供が2人も出来ても養う事などできる訳もない。


 だいたい今日この子が稼いだ銀貨1枚稼ぐことすら俺たちでは怪しい。3人でいけば銀貨3枚稼いでやっと1人銀貨1枚の稼ぎになる。芋虫30匹だ。


「私たちと一緒に行きましょう! 明日芋虫100匹倒せば妹さんに美味しいもの食べさせてあげれますよ!」


 ブタちゃんが先走った! これはマズイ。


 そもそもこの子を信用できるかも解らないのに、最悪さっきのやつらとグルだという事も考えられる。


「いやいや、俺たちと一緒にダンジョンに潜ってもたいして稼げないぞ。そもそも少年のパーティーは今日いくら稼いだんだ?」


「今日はアイテムも出てついていたから金貨3~4枚にはなったと思うぜ」


 金貨! そんなに強そうな奴らには見えなかったが、もしかして凄腕探索者なのか?


「もし、あんた達が俺を雇うと言うなら、銀貨2枚であんた達に金貨1枚以上は稼がせてやるよ」


 とても良い話で渡りに船なのだけど、さっき騙されそうになったばかりだから慎重になってしまう。


 そもそも少年の顔をみると最初と違ってなんか悪い顔になった様にみえる。きっと金の匂いを嗅ぎつけたのだろう。


 このまま素直にお願いしても情報のない我々は子供にすら簡単に騙されてしまう。


「そういうことなら我々のパーティーにメンバーとして迎えよう。報酬は銀貨2枚と言わずに稼いだ分をメンバーで均等に分ける。パーティーが儲けた分だけ少年も儲かるからその方が良いだろう?」


「兄ちゃん良いのかよ。俺みたいな子供をパーティーにいれて? あんまり強くないぞ」


「ああ、戦うのはこのブタちゃんが主にやるから大丈夫だ。俺は後ろからチクチク攻撃するだけだし、少年は我々に色々教えてくれれば戦わなくて良い。うちのパーティーが気に入ったならずっといてくれても良いぞ」


「そうです! 戦いは私にお任せください!」


 そういうとブタちゃんが胸を張る。腹が揺れる。


「確かにオークの姉ちゃんは強そうだな。じゃあ明日は俺と一緒にダンジョンに潜ってくれよ。約束だぜ」


「解った。俺たちはダンジョンの前で野営しているから、明日の朝に声を掛けてくれ」


「了解。じゃあまた明日な!」 少年は元気よく走り去っていった。


 少年が我々を裏切って小金を稼ぐより、パーティーメンバーになって長期的に稼ぐ方を選んだと思いたい。


 そんなに頭が悪そうには見えなかったので大丈夫だろう。


「これで明日はダンジョンで少しは稼げるかもね。さあダンジョン前に移動してテントを張ろう」


「はい!」――――。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?