短くなった髪は、ずいぶんと便利だった。シャンプーはワンプッシュで済むし、躰を洗うときにタオルで包んでおく必要も無い。
ユニットバスから出て、洗面台に置いた眼鏡を掛けた。途端にくっきりと見える世界。正面の鏡の中には、疲れた女が裸で立っている。
化粧を落としてしまうと、仮面を外したような気分になる。これが本当の自分。飾らない、隠さない、嘘をつかない真実の姿。虚勢を張る必要は無い。無理に笑わなくていい。
少しやつれた頬。目の周りはやや腫れて、短くなった毛先は顎の横で跳ねている。
「こうすると男みたいだ……ほんと」
形よく並んだ乳房を腕で覆い隠し、杏子は自嘲する。くつくつと、嫌な笑いが自分でもとめられない腹の底から湧いてくる。
「でも、これでお揃いだな」
毛先に触れる。愛おしさが込み上げる。白く反射した眼鏡の奥では、彼女の〝女〟が瞳に薄い膜を張らせていた。