店の隅を すべる影
丸い目 光る液晶の瞳
「ご注文の品ですニャ」
愛らしい声が、冷たい
ラーメン屋でも、カフェでも
居酒屋の熱気の中でも
すれ違うのは いつも猫
黙々と ただ運ぶ
「熱い」「重い」「急いで!」
誰も言わなくなった
誰も 走らなくなった
誰も 運ばなくなった
ホールのざわめきは消え
「お待たせしました」の声もない
こぼれた水を拭う手も
戸惑い 笑う顔も
猫が運び、猫が回り
猫が じっと 見つめている
人はただ、座っている
注文し、食べ、また頼む
「すみません、お水を—」
呼びかけた声は 空を切る
耳も、尻尾も、動かない
彼は ただの器を運ぶだけ
運ばぬ心、触れぬ温もり
店にいるのは、客と機械と料理だけ
猫の形をした 静かな未来
静かなままの 未来