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静かな配膳

店の扉が開くたび

すべる影が行き交う

「ご注文の品です」

誰の目も見ず、誰にも触れず


カフェにも、ラーメン屋にも

光るトレイが 音もなく進む

一列に並び、ぶつからず

間違えず、運び去る


「お待たせしました!」の声はない

「すみません、お水を—」

誰も応えず、誰も振り向かず

機械はただ 目的地へ


気遣う手も、戸惑う笑顔も

こぼしたスープを拭う仕草も

「今日は寒いですね」と交わす言葉も

店から 少しずつ 消えていく


世界は正確に運ばれる

皿は迷わず、料理は冷めず

人は座り、食べ、また頼む

そして 静かに 支払いをする


こんなにスムーズになったのに

なぜか、耳が寂しい

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