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第34話 町で買い物をした帰りでの事件


  「これがいいかしら?」

 ルルシアと私は、生地屋さんに来ていた。町の生地屋さんは布から細かいボタンまで扱っていたので、ルルシアは手作りをして渡そうと考えた。リボンと布と材料を買って嬉しそうだ。


 「残念だけど、時間がないからもう帰りましょうか?」

 お友達が迎えに来るといっていたので、それまでに作らないと。

 「そうね。またお茶にでも来たい」


  町の商店街から離れて帰ろうとしていた。ルルシアと二人並んで、道の端を歩いて話をしていた。

 「えっ……?」

 突然、ルルシアが腕をガッ! と掴まれて建物と建物の間に引き込まれた。

 「ルルシア!」


  さらに奥に連れていこうとした。

  「アル……っ」

 とっさのことでルルシアは何もできないだろう。私はルルシアの手を掴んで、炎の魔法を相手の顔へ放った。

 「うわあ!」

 炎の魔法が、相手の顔に当たってルルシアの腕を離した。相手の眉が軽く焦げていた。


 「ルルシア!」

 私はルルシアの手を引き寄せて、建物の間から走って抜け出した。道に人がたまたま、通っていなかった。

 「誰か! ……助けて!」

 私はルルシアを連れて、建物の間から離れた。


 「どうした!?」

 すぐ近くのパン屋のおじさんとおばさんが、お店から出てきてくれた。私はルルシアを連れてパン屋さんへ駆け込んだ。

 「人さらいです! この子の腕を掴んで、建物の間に連れこもうとして……!」

 「なんだって!?」

 パン屋のおじさんはお店から出て、様子を見に行った。おばさんは私達をお店の奥の部屋に案内してくれて「隠れているように」と言ってくれた。


 おばさんはお隣さんやお向かいのお店に急いでいって、今あったことの話をしてギルドへ伝えてくれることになった。近所の方たちが協力して動いているようだった。

 「ルルシア、大丈夫?」

 パン屋のおばさんに案内された奥の部屋で私はルルシアを抱きしめていた。少し震えてはいるが落ち着いてきたみたいだ。


 「うん……。とっさに魔法を出せなかった……悔しい」

 私はルルシアをギュッと抱きしめた。

 「あれは無理よ。……他にも仲間がいたかもしれないし」

 奥の方に、まだ誰かがいたように思えた。仲間がいたら連れていかれたかもしれない。ルルシアを連れていくなんて私は許さない。


 「ルルシアさん! アルシュさん! 無事ですか!?」

 パン屋さんのドアを勢いよく開けて奥の部屋に入って来たのは、ギルド職員のアンナさんだった。急いできてくれたのか汗をかいていた。

 「ええ、大丈夫です。連れていこうとした人は、どうなりました?」

 私はアンナさんへ状況を聞いた。私がやけどを負わした人が逃げたなら危険だ。


 「ああ。不審な男は顔にやけどをしていて、建物の間でうずくまっていたよ。町の防犯組織のやつらがその男を捕まえた」

 私は男が捕まったと聞いてホッとした。

 「これから詳しく聞きたいけど、ギルドへ来られる?」

 アンナさんは遠慮がちに言ったけれど、なぜルルシアを狙ったか知りたい。


 「納品が遅れますけど、それでもいいなら」

 「ええ。あなた達の安全が最優先だからかまわないわ」

 アンナさんは笑った。私達を守ってギルドへ連れていってくれた。



 ギルドの二階、ボス部屋というかギルマスの部屋で休ませてもらった。

 「温かいお茶をどうぞ。落ち着くよ」

 アンナさんがお茶を淹れて持ってきてくれた。「よかったら食べて」と言って、テーブルの上へカゴに入ったお菓子を置いた。

 「ありがとう御座います」

 黙っていたルルシアがティーカップを手に取って、「いただきます」とお茶を飲んだ。


  二人掛けのソファーへ一緒に座っていて、私の体にピタッとくっつけている。早く家で休ませてあげたい。


 「さっそく悪いけれど、教えてもらってもいい?」

 私はチラッとルルシアを見た。視線に気が付いてルルシアは頷いた。

 「町へ買い物に来ていて……。帰りに二人で歩いていたら突然、ルルシアの腕を掴んで建物の間へ引きずり込もうとしました」

 ルルシアは下を向いたまま、黙って頷いた。


 「私はとっさに、ルルシアの手を掴んで引きました。それから夢中で建物の間から二人で逃げて、助けを呼びました」

 炎の魔法のことはなんて言おうか……。


 「そう。とにかく無事でよかった。怖かったでしょうけれど……。男は捕まえて、ギルマスに尋問されているわ」

 アンナさんは男がどうしているか話してくれた。

 「仲間が奥にいたようです。身の危険を感じたので逃げました」

 私は奥に仲間の姿が見えたので、アンナさんへ報告をした。


 「ええ。仲間らしき怪しい者達も、捕まえたと聞いたわ。詳細がわかると思う」

 それは良かった。町の防犯組織に感謝しないといけない。それにしてもルルシアが狙われるなんて……。たまたま近かったからかしら? 油断していて、ルルシアがさらわれるところだった。私はくちびるを噛んだ。


 「アンナさん、男は誰かに頼まれたのでしょうか? それとも誘拐してお金目的でさらおうとしたのでしょうか?」

 アンナさんへ聞いてみると腕組みして答えた。

 「先日も、同じような事件があって……。その時は犯人が逃げたのよ。まだ動機などはわかってないので、尋問でその辺を聞ければいい」


 お金目的の誘拐なのか。あの感じじゃ、人探しにしてはずいぶん荒っぽい。とにかく。この町で起きている人さらいの事件を早く、解決して欲しいと思った。















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