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第35話 ルルシアとお友達の家へ


  「思ったより尋問に時間がかかりそうだから、私が家へ送っていくわ」

 詳しい話がわかったら教えると言ってくれた。


 「ルルシア帰りましょうか」

 「うん」


 誕生日会はどうしようか……。

 「どうしたの? 何かあるのかしら」

 私が悩んでいたらアンナさんが、気が付いたようだ。初めてのお友達の誕生会、行かせてあげたい。私が送っていってもいいけれど、また狙われたら相手に手加減ができないかもしれない。


 「ルルシアのお友達の、誕生日会があるのですが……。できれば行かせてあげたくて」

 ルルシアは私の手をギュッと握った。

 「どの子のお家?」

 アンナさんはお友達の家を聞いてきた。ルルシアは「メリーさんのお家、です」とアンナさんに言った。


 「メリーって、髪の毛をおさげにしている子?」

 アンナさんが具体的に女の子の髪型を言った。

 「ええ、そうですが……」

 ルルシアも困惑していた。


 「ああ! ごめんなさいね! メリーさんなら私が借りている家のオーナーの娘さんなの。隣の家だから送り迎えしていいわよ。ついでに気をつけるようにお話をしたいから、ちょうどいいわ」

 アンナさんはウインクして私達に話してくれた。


 「お言葉に甘えていいでしょうか? もちろん私も行きます」

 参加しなくても送り迎えはしたい。過保護かもしれないけれど……。

 「ええ。多いほうが良いわ」

  話がまとまって、私とルルシアはアンナさんに送ってもらって帰ることにした。



  部屋から出て階段を降りていくと、冒険者さん達が心配そうにこちらを見ていた。

 「ルルシアさん! クッキー旨かったよ! また買いに行くから!」

 この間お店に来てくれた冒険者の一人がルルシアに声をかけてくれた。もう一人の大剣持ちの冒険者もこちらに来て私の目の前にきた。

 「俺達の領域テリトリーなのに、すまねえ!」

 ガバッと頭を下げてきた。他にいる冒険者たちも頭を下げた。


 ギルドでも冒険者たちの領域テリトリーがある。お互いにギルドのテリトリー内で仕事をするのが鉄則だ。それは依頼品の取り合いにならないように決められた掟。

 冒険者のテリトリー内でよそ者は、勝手な行動は認められない。それは犯罪者にも当てはまる。つまり、このテリトリーの管理不足だったと謝罪をしているわけだ。


 「そうだね。あたしらの管理不足だった」

 アンナさんも私とルルシアの頭を下げた。ルルシアは皆に頭を下げられて、動揺していた。

 「今後は目を光らせるよ。いいね? みんな!」

 「……おう!」



  それから一度、家に帰った。

 ルルシアは急いでお友達の髪飾りを手作りした。それでも丁寧に仕上げた。

 「じょうずね」

 青い布でお花を二個、手縫いで作ってからレースを飾りつけて髪留めを作った。それを箱に入れてリボンを結んだ。


 「他のお友達に、個別にクッキーをプレゼントするわ」

 こちらのクッキーの袋詰めもリボンで袋の口を結んで可愛く仕上げた。


 「では行きましょうか」

 そんなに時間がかからなかったので、余裕で誕生日会に間に合いそうだ。

 「迎えに来ると聞いたので、危ないから迎えに来ないように……と、伝言を頼んだわ」とアンナさんが気を利かせてくれた。

 「あっ、ありがとう御座います」

 ルルシアだけじゃない。他の子達も気をつけなければいけないだろう。お友達の家に向かって三人で話をしていた。


 「ルルシア、大丈夫?」

 怖い目に合って、昔のことを思い出さないか心配になった。お友達のプレゼントを作って少しは気が紛れたのか、震えはとまったようだ。

 「大丈夫……じゃないけれど、お友達に会いたい」

 ルルシアは手作りした物が入っている箱をキュッと握った。


 アンナさんは周囲に目を光らせていた。気が付くと見知った冒険者が、後ろからついてきてくれていた。私が見ると、手をそっと振ってきた。

 「冒険者たちの方が悪人顔だけど、心強いわね」

 私が笑いながら言うと、ルルシアは振り返って冒険者たちの方に向かって軽く会釈した。

 「あいつらの方が悪人顔……か! アルシュさんは意外と毒舌だな」

 くっくっ……! とアンナさんは笑った。少し緊張した空気が和んだ。


 しばらく歩いていくと、アンナさんが私達の顔を見て笑った。

 「あそこがメリーの家で、隣があたしの住んでいる家だよ」

 赤い屋根のこじんまりした家がアンナさんの家で、隣の青い屋根の大きな家がルルシアのお友達のメリーさんの家だった。


 「アルシュさん、ルルシアさんがお友達の所へ行っている間は、あたしの家でルルシアさんを待っていたらどう?」

 思いがけない申し出だった。一度家へ帰ってまた来るよりも、隣のアンナさんの家で待たせてもらった方がいい。

 「いいのかしら? ご迷惑じゃ……?」

 「いいのよ! あたししかいないし、遠慮しないで!」

 そのときルルシアが、私の方を向いて口をとがらせていた。


 「その前にご挨拶を……」

 トントンとメリーさんの家のドアを叩いた。


 「はーい! あっ! ルルシアさん、大丈夫!?」

 お友達のメリーさんが出迎えてくれた。心配そうにルルシアの手を取って握った。

 「うん……。アルシュが助けてくれたから、大丈夫だった」

 ルルシアは手をキュッと握り返していた。


 「ルルシアさん! 心配したわ!」

 「話は聞きました! 怖かったね……!」

 お友達のマリアンさんと、ケイトさんがルルシアに駆け寄ってきた。話を聞いて心配したのだろう。女の子が四人、涙目でなぐさめあっていた。私とアンナさんはメリーさんのご両親に、ルルシアがさらわれそうになったことを説明した。

 メリーさんのご両親は「なんてことだ!」と言って心配し、私達に優しくしてくれた。


 お誕生日パーティーの間、私はルルシアと別れてアンナさんの家で待たせてもらいことにした。













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