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第39話 アルシュの回想② ルルシアのお菓子作りとサーカスの思い出




 ルルシアが色々やってみたいと言ったので、基本的なお料理を教えることにした。

 『まずは基本的なことを教えてあげるわね』

『うん』


 包丁の使い方、野菜の切り方、調味料の使い方などをルルシアに教えた。


  ルルシアはなかなか呑み込みが早くて、教えるのも楽しかった。まだ包丁を握る手が震えているけれど、慎重に扱うのは良い傾向だ。一人で一品を作れるようになれば上出来だ。料理はだ。


 私は薬屋さんのお母さんからごちそうになった、ハーブティーが気になって調べた。育てることもできるし、加工してお茶や色々出来そうなので本格的に研究することにした。

 ハーブは育てて加工して、お茶やその他のこともできるし飲んで美味しいし。私はハーブにのめり込んでいった。そして、もともとエルフに伝わる薬草の知識があるので、私は薬屋をやることを決意した。



『そういえばルルシアは、お料理とか習わなかったの?』

 平民ならこのぐらいの年の子は、母親からお料理など教わると聞いた。ルルシアに何気なく聞いてみた。

『……習ってない』

 生クリームをかき混ぜながらルルシアは答えた。それ以上は答えなかった。

『そう』


 お料理を手伝えるようになったら、今度はお菓子作りを教えた。ルルシアはお菓子作りの方が楽しいらしい。

『だって甘いから好き』

 確かに……。お菓子作りは面白いと思う。粉やバターなど形のない物がケーキになったり、クッキーになったりする。


『たくさん、色々なお菓子を作りたい』

 ルルシアはスポンジに生クリームを上手に塗っている。

『良いわね。私に試食させてね』

 ニッコリとルルシアは笑った。

『……うん』


 最近よく笑うようになったルルシア。お料理やお菓子作りは、ルルシアにとっていいことなのかもしれない。


『魔法も教えてあげるわ』

『えっ本当?』

 魔法の座学の時間が長かったから早く覚えたかったようだ。ただすぐに魔法を教えても、うまくできると限らない。やはり基本的な仕組みなど知らなければ使えないのだ。


『少しずつね』

『うん!』


 私はルルシアが可愛い、と思っている。外見もだけど中身も可愛い。不思議な気持ちで一緒にいる。


『今度、サーカスを見に行きましょうか?』

『ええっ!?』

 思ってもなかったことだから、ルルシアは驚いていた。ただ宿屋にいるばかりじゃなく、観光もして楽しまなくちゃ。


 ルルシアは本当? と言いたそうだった。言葉にしなくても表情でわかった。

『行きたくないの?』

『ううん! 行きたいです!』

 瞳をキラキラさせていた。


『じゃあチケットが取れたら、行きましょうね』

『ええ!』

 嬉しそうなルルシアが飛び跳ねて、ケーキをテーブルから落としそうになった。私が押さえたので落ちずにすんだ。ガタッと大きな音がした。


『ごめんなさい……』

『気をつけてね』

 危なかった。せっかく作っているのに、仕上げ寸前で落としたら台無しだった。


  イチゴのホールケーキが仕上がって、きれいに飾りつけできた。ルルシアにお菓子作りの才能があると思った。

  『上手ね! 大きくなったらお菓子屋さんパティスリーになるのも良いわね』

  私はお世辞じゃなく、正直な気持ちで言った。

 『え、本当? 大きくなったらパティスリーになろうかしら』

 ルルシアは、うふふと微笑んだ。


 ルルシアとお店をやるのも良いわね。そんなことをなんとなく考えた。


 それからルルシアは時々お菓子を作った。だんだん上手になっていって、庶民的なお店の一角にクッキーなど置かせてもらえるようになった。


『ルルシアちゃんのお菓子、美味しいね』

お菓子を買ってくれたおばあさんは、ルルシアを褒めてくれた。硬くないクッキーは、小さい子供からお年寄りまで好まれてよく売れた。ルルシアは自信が持てたようだった。


  町を転々としてもルルシアは、作れる場所と材料があればお菓子を色々作った。それが美味しくてまだ幼いのになかなかの出来映えだった。

 私はある町の薬屋さんのお母さんに淹れてもらった、ブレンドしたハーブティーが忘れなくて自分でも美味しいハーブティーを研究していた。旅をしている身だと育てるのは無理だったけれど、市場で新鮮な葉や乾燥した葉が手に入ったので色々試していた。


 大きな街に近づくにつれて、物の値段が高くなっていった。


 庶民の娯楽の一つ、サーカス。行こうと約束したものの、サーカスが来ている町がなかなか無くて大きな街に来てやっと巡り合えた。たまたま市場にルルシアと行ってみつけた。

 大きなテントににぎやかな音楽が流れていた。子供達が集まってピエロからお知らせの紙をもらっていた。私達も、お知らせの紙を配っているピエロに近づいてお知らせの紙をもらった。


『明日からですって。ルルシア、見に来ましょうか』

 約束してけれどまだサーカスを見てないのでルルシアを誘ってみた。

『いいの?』

 子供ながら観覧料が高いと思ったのだろう。たしかに高いけれど。

『たまにはいいのよ』

 私はルルシアにウインクをした。ルルシアは輝くような笑顔を見せた。



 次の日。私とルルシアはサーカスを観に来た。親子連れが多く、賑わっていた。楽しそうな音楽が流れていて、気分が盛り上がってくる。

『大人一枚と、子供一枚をお願いします』

 私は入り口で自分の分とルルシアのチケットを買った。


 テントの中へ入ると中は広く、天井が高かった。

 『あ! あれ、あんなところに人がいる!』

 安全点検をしている最中なのだろうか? ルルシアが指さした方を見ると、天井が近くて高い場所の、柱の足場が狭い所にサーカスの団員さんが登っていた。

『すごいわね……』

 あんなに高い場所へ登れるなんてすごいわ。


『もうすぐ始まりますので、お席へお座りになってお待ちください』

 場内アナウンスがされた。私とルルシアは空いている席へ座った。中はサーカスを観に来た人で満員だった。


 ざわざわと始まりを待つ観客たち。私とルルシアはサーカスを観るのが初めてだったので楽しみにしていた。


『あ、始まる……?』

 ルルシアは立ち上がりそうになったけれど私がとめた。賑やかな音楽が鳴り響いて、ピエロが先頭で行進しながらステージに入ってきた。ステージは明るく照らされて、そこだけがまるで別の世界みたいだった。


『レディース&ジェントルマン! ようこそ我がサーカスへ!』

 赤い鼻のピエロが場を盛り上げた。子供達も大人も皆、夢中になった。


『わあ……!』

 一輪車や三輪車に乗って円形のステージを走る、キラキラな衣装のお姉さんや動物たち。ルルシアの目が動物たちを見入っていた。


 次はライオンの火の輪くぐり。猛獣を初めてみてルルシアは怖がっていた。

『大丈夫よ。繋がれているわ』

 その大きな猛獣のライオンが調教師の言うことを聞いて炎の輪を飛び越えた。周りのお客さんから大きな拍手が送られた。

『すごいねぇ……らいおん』

 ルルシアはライオンから目を離さずに言った。


  今度は急に会場の電気が消された。お客さんは騒めいた。でも軽快な音楽が流れて、スポットライトがある二か所につくと人々の視線が上に向いた。

 先ほど点検作業をしていた場所だ。そこへ、体にぴったりとした衣装を着た女性が立っていた。

 あんな高い所へ登っていて平気なのだろうか?


『ねえ、アルシュ! あんな高い所にいて大丈夫なの?』

 ルルシアが心配して、私にしがみついてきた。たしか案内の紙には安全に注意して行いますと書いてあった。

『たくさん練習して、安全にも気をつけているって書いてあったから大丈夫よ』

 大丈夫であって欲しい……。


 ルルシアが怖がりつつ、私にしがみついて見ていた。

『何が始まるの……?』


 そのとき、天井から吊るされた二本の綱の間にある棒を掴んで、その場所からトンッ! とジャンプして飛び出した。

 キャア――――!

 それを見た観客が悲鳴をあげた。そこから落ちたのかと誰もが思った。


 しかし、サーカスの女性は天井から吊るされた二本の綱の間の棒を掴んだまま緩やかに半分の弧を描いた。

『おお!』

 空中を、手だけで棒を掴んで移動した演技は、空中ブランコ というものらしい。アナウンスで説明していたけれど、空中の女性の演技へ釘付けになった。


『すごいねえ!』

 ルルシアはそればかり言っていた。サーカスを楽しめたみたいだ。




























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