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第41話 ポーション作りとギルド


  「ルルシア、朝よ! 起きて」

 体を揺らされて、目が覚めた。小さい子供のルルシアではなくて、十六、十七歳位のきれいな女の子がベッドの横で立っていた。

 「え……。ルルシア?」


 「……めずらしい。アルシュが寝ぼけているなんて」

 少し驚いているのは現在の姿のルルシア。――どうやら私は、昔の夢を見ていたらしい。いつも私の方が早く起きるのに、今日はルルシアの方が早く起きて私を起こしてくれたらしい。

 「起こしてくれて、ありがとう。ルルシア」

 私はムクリと起き上がった。昨日アンナさんと一緒にお酒を飲んだけれど、飲みすぎたらしい。気をつけよう……。


 「そんなに寝すぎた時間じゃないわ。いつもの時間よ」

 ルルシアは、自分の方が早く起きたので嬉しかったらしい。朝ご飯を作ってくれたようだ。美味しそうな香りがした。


 「あ、今日の朝ご飯はフレンチトーストにサラダ、スープにベーコンと目玉焼きよ」

 「ありがとう。支度して行くわ」

 ベッドから降りて、歩いてクローゼットへ向かうと、ちょっとふらついた。ルルシアが寝室を出た後だったからよかった。具合が悪いと勘違いして、ベッドに寝かされてしまうところだった。


 今日は頼まれていたポーションを、作らなければならない。早く起きて作り始めたい。


 身支度してキッチンへ行くと甘い香りがした。

 「アルシュ、何を飲む? 紅茶、コーヒー、ハーブティー……」

 色々あるから悩んで決める。

 「じゃあ、紅茶で」

 ルルシアが入れてくれるらしい。

 「嬉しいわ。ありがとう」

 私は自分の席へ座った。


  「はい。どうぞ」

 「いただきます」

 目の前にルルシアの淹れてくれた紅茶は入ったティーカップがある。それを冷ましながら、いただく。熱い紅茶が眠気を覚ましてくれた。二日酔いほどでもないけど少し頭が痛い。


 フレンチトーストに甘いシロップをかけて食べる。甘くて美味しい。

 「昨日アンナさんのお家で待っていて、くれたでしょう? その……」

 ルルシアも自分の席に座って食べ始めた。

 「いただきます」


 「ええ。アンナさんと仲良くなったわ。ルルシアもお友達と仲良くなれて良かったわね」

 サラダも新鮮で瑞々しくて美味しい。朝に収穫してきてものかしら? 

 「ふうん……。アンナさんとお友達になったのね」

 「ええ」

 ルルシアはそれきり静かになった。私はおかしいなと思いながら、頭が少し痛かったので言い出せずにいた。


 朝食を食べ終わって、私はポーション作りをするために部屋へ行こうとした。

 「ギルドへ納品する予定のポーション作りをするから、しばらく部屋へ籠るわ」

 ルルシアに伝えると頷いた。だけど何だか様子が変だった。


  期限が迫っているので、急いでポーション作りを始めた。今回は前回より多い本数なので間違わないように慎重に作っていく。


 部屋中に、薬草をすりつぶす音やお湯を沸かす音が響く。大量にポーションを作り冷まして、ビンへ詰めていく。また時間を忘れてポーションを作っていた。

 「アルシュ?」

 コン! コン! とドアを叩く音とルルシアの声が聞こえた。気が付いたらもうお昼になる所だった。


 ドアを開けて顔を出すとルルシアがいた。

 「ごめんなさい。また時間を忘れて仕事をしていたわ。すぐにお昼ご飯を作るわね」

 私が部屋を出ようとしたら、ルルシアがトレイに乗ったサンドイッチなどを私の目の前に差し出した。

 「そうだと思って作ったから、食べて」

 「あり、がとう……」


 私はルルシアからトレイごと受け取った。朝とお昼までルルシアに作ってもらってしまった。

 「いいの。……頑張ってね」

 そう言ってドアを閉めて行ってしまった。


 「ん。おいし……」

 私はルルシアが作ったサンドイッチを食べてから、またポーション作りを再開した。




  「いち、にい、さん……。……よし、できた」

 テーブルの上の箱に並べられたポーションは、注文の数がそろっていた。簡単に片づけをして支度をした。

「ルルシア。注文のポーションができたから、ギルドへ行って来るわね」


 キッチンへ顔を出すとルルシアは何かを作っていた。

 「あ、出来たのね。良かった。いってらっしゃい!」

 手が離せなかったようで、顔だけこちらを向けて見送ってくれた。



 ポーションの入った箱を、両手で持ちながら町の中を歩いていく。

 「こんにちは」

 「こんにちは~!」

 途中でご近所さんに会って少し立ち話をする。危険だから一人で歩かないようにと、話をした。

 「わかったわ! 皆に話しておくわね!」

 ルルシアのことは言わず、不審者が捕まったことだけ話す。ご近所さんと別れてまたギルドへ向かった。



 「こんにちは。ポーションを納品に来ました」

 いつもギルド前にいる冒険者たちが見かけなかった。中に入ると冒険者の姿が少なかった。少し待つと奥からアンナさんが出てきた。


 「アンナさん。昨日はどうも、ありがとうございました」

 近寄ってカウンターへポーションの入った箱を置かせてもらった。

 「いえいえ! 昨日は楽しかったね! また色々話そうね!」

 アンナさんはちょっと目の下にクマがあったけれど、元気だった。


 「ええ! もしかして二日酔い……?」

 アンナさんに聞いてみるとコクンと頷いた。

 「でも回復ポーションを飲んだから平気よ!」

 アンナさんが笑って言うと隣にいたギルド職員が「ポーション高いのに、そんな使い方をして……」と言った。アンナさんは「ほっといて」と返していた。


 「じゃ、二階ギルマスへ行こうか」

 「はい」

 ポーションの入った箱を持ってくれてアンナさんと私は二階へ向かった。


 コンコン! とアンナさんがドアを叩いて声をかけた。

 「ギルマス、アルシュさんがいらっしゃいました」

 「入れ」

 変わらず渋い声だ。私とアンナさんはギルマスの部屋へ入った。


 「こんにちは」

 私はギルマスに挨拶をした。重たそうな机には、たくさんの書類が積み重なっていた。ギルマスはどっしりと大きな椅子に座っていた。

 「ああ。よく来てくれた」

 厳しい顔をしていた。


 昨日は尋問をしていたはずだ。何かギルマスから聞けるだろうか。

 「まず、注文していたポーションの数を確認するね」

 アンナさんがポーションの入った箱を確認していた。すると奥からもう一人、女性のギルド職員がお茶を淹れて持ってきてくれた。


 「どうぞ」

 「ありがとうございます」

 私は淹れてもらったお茶を飲んで待っていた。アンナさんは紙に数を記入してサインをしていた。


 「ギルマス。確かに注文の品数を確認しました!」

 「ご苦労」

 アンナさんはギルマスに記入済みの紙を渡した。その紙にギルマスは目を通してサインをした。


 「確かに受けとった。ギルドの個人金庫へ、入金する手配をする」

 「はい」

 間に合って良かった。私はホッとした。お茶を飲んで体の力を抜いた。


 「……昨日のことだが」

 ギルマスが、絶妙なタイミングで話しかけてきた。私はソファーに座りなおしてギルマスの方へ向きなおした。

「はい」

 尋問のことだろう。私はギルマスの話を待った。


 「……どうやら。人探しの組織と人さらいの組織というものがあって、昨日捕まえたのは人さらいの組織の方だったようだ」

 私はギルマスからその話を聞いて、鳥肌が立った。人さらいの組織? そんな組織が、ルルシアをさらおうとしたの?


 「下っ端のだったみたいで、若い女性をさらおうとしたが失敗した。それ以上はわからなかった」

 ギルマスは、はあ……とため息をついた。

 「ただ金のために引き受けたらしい。ただそういう組織があるってことだけは、わかった」


 私はそういう組織が、あるのが信じられなかった。そんな組織にルルシアがさらわれそうになるなんて。

 「今、ギルドの冒険者たちに協力してもらって、町の見回りをしてもらっている。町の皆にも注意してもらうように声掛けをする」

 ギルマスは厳つい顔をさらに厳つくして言った。


 「そうですね。皆で気をつけないと……」

 私は膝の上に置いていた両手を、きつく握りしめた。























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