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第42話 ルルシアのベイクドチーズケーキと買い出し




  結局、人探しと人さらいの組織があると分かっただけだった。たまたまルルシアが通りかかっただけで狙われたらしい。悔しい気持ちを隠しながら家へ帰ってきた。


 「ただいま」

 私が扉から家へ入ってくると甘いいい香りがした。

 「お帰りなさい! 早かったのね」

 ルルシアが走って迎えに来てくれた。姿を見てホッとした。


 「遅くなるのかなと、思った」

 ぎゅうううう……と、私に抱きついてきた。なかなか離れなかった。どうしたのだろう。一人だと怖かったのかしら……。

 「え、なぜ?」

 「……アンナさんと、お話ししてくるのかなと思った」


 「仕事でギルドに行ったのよ」

 私もルルシアに腕をまわして抱きしめた。お互いの体温が感じられて安心する。

 「さ、離してくれる? 上着を脱ぎたいわ」

 「もう少し……」

 何だかルルシアは甘えたいみたいだった。減るものでもないので、私はルルシアが離れるまでそのままでいた。



 「ベイクドチーズケーキを作ったの。一緒に食べよう? アルシュ」

 上目使いで私に、おやつの時間へ誘ってきた。……可愛いわ、ルルシア。

 「ええ! 喜んで!」

 お店がお休みなので、ゆっくりルルシアと一緒におやつの時間を楽しんだ。


  今日もルルシアは、ベイクドチーズケーキを上手に作っていた。焼き加減、見た目、味&香り。すべてが最高だ。

 「ん! 美味しい。ベイクドチーズケーキ、大好き」

 私が一切れ、口に入れて感想を言うとルルシアは喜んだ。

 「ルルシアの作るものが一番おいしいわ!」

 お世辞ではなく、本当に美味しい。味わって食べていた。


 「良かった! 一番アルシュに言われるのが嬉しい!」

 ニッコリと微笑んで、ルルシアもベイクドチーズケーキを食べた。ニコニコして可愛い。


 「……そうだわ。今度、お友達を家へ呼んでみたらどうかしら? 一緒にお菓子作りをしても良いし、お茶会をしてもいいわよ」

 ふと思いついたことをルルシアに話してみた。自分たちで作っていただくのも楽しいはず。

 「それ、楽しそうね。いいの?」

 「ええ」


 このくらいの年の子にはお友達は必要だ。悩みを相談したり、一緒に悩んだりしてお互いに成長していくものだ。


 「ありがとう、アルシュ。休みの日と皆の都合のいい時を聞いてみるね!」

 良かった。きっと楽しく過ごせるだろう。……その時、私はどうしようかしら。家にいるか、どこかへ出かけるか……。


「アルシュも一緒に」

 「え」

 私も一緒に? 

 「うん。ダメかな?」


 ルルシアに言われてどうしようかと思ったけれど、挨拶くらいはしないといけないわね。

 「わかったわ」

 「ありがとう!」

 女の子が集まってお茶会……。盛り上がるでしょうね。この間の誕生日パーティーも、かなり盛り上がって親交を深められたからいいと思う。私もご近所の方を招いて、お茶会をするのも考えようか。


 「どんな感じにしようかな~?」

 もうルルシアはお友達を呼んでどんな風に、もてなすか考えていた。

 「アフタヌーンティーは、どうかしら?」

 それだと色々楽しめるわね、と言ってみた。


 「それにしましょう!」

「わ……、驚いた」

 急に大きな声を出したので驚いた。ルルシアは立ち上がって「ごめん」と私に言った。


 「次のお休みに、買い出しへ行きたいな」

 ルルシアはカレンダーを見て、休みの日を確認していた。気が早い。

 「そうね……。そろそろ色々な材料の在庫がなくなるから、買い出しに行きましょう」

 家の材料の在庫を調べて、足りないものを買わないといけない。


  重いものは配達してもらえるし、まとめて買うと割引になるので良い。

 「ルルシアはお菓子の材料よね。小麦粉やバター、その他の買い物リストを書いてね」

 「は――い」

 また座ってルルシアはベイクドチーズケーキを食べた。


 「あら? ルルシア、ベイクドチーズケーキを何切れ食べたの?」

 ホールで作っているから残りの数で、食べた個数がわかるけど……。私は二切れを食べた。

 「えっと……」

 「三切れね。さすがにもう、おしまいね」

 美味しいけれど、食べすぎはいけない。




  数日後――。私とルルシアは町へ買い出しに出かけた。毎月一日に、町へたくさんの商人が来てバザーが開かれる。

 この間のこと誘拐未遂もあるから警戒をしたけれど、ギルドの雇った人が防犯パトロールをしていたので安心した。


 「ルルシア、何を買うか調べてきた?」

 今日のルルシアの服装は、ちょっと地味な色の服を着ていた。やっぱり怖い気持ちがあるのだと思う。

 「ええ! 小麦粉にバター、卵に……色々!」

 メモを取り出して、私に教えてくれた。

 「普段の料理に使う、調味料も買いたいわ」

 お砂糖も少なくなっていたし、スパイスも補充したい。二人では持って帰れないと思うから、配達をお願いする予定。


 「アルシュ、ここ小麦粉が売っているわ!」

 ルルシアは小麦粉を売っているテントのお店を見つけた。

「いらっしゃい――! 小麦粉、安いよ!」

 露店のおじさんが隣国で育った小麦と教えてくれた。確かその国の小麦粉は、いい小麦粉だと聞いたことがある。


 値段も見ても、安いようだ。

 「ルルシア。お買い得だと思うから、買いましょうか」

 私はルルシアに聞いた。

 「そうね……。普段使っている小麦粉より安いわ」


 「豊作だったから、安いよ」

 おじさんは小麦の袋を開けて、小麦粉を見せてくれた。たしかに良さそうな小麦粉だった。私とルルシアは顔を見て頷いた。

 「では、その小麦粉をください」

 「ありがとう!」

 おじさんへお金を払って、配達してくれるようにお願いした。持ち帰らなくていい。


 「あっ! 砂糖が売っているわ。えっ……。砂糖にも種類がある」

 好奇心いっぱいだ。


 他の国から商人が来ているからこの国にない物もあって、見ていて楽しい。

 「あら? あのお店、スパイスが売っているわ。次はあそこのお店に行きましょう」

 私も目移りしてしまう。たくさんのお店があって、取り扱っている物が多い。


  砂糖はいつも使っているものと、はちみつも売っていたのでそれを買った。はちみつはパンにつけたりヨーグルトにかけたり、料理に使ったりと用途が多いから大き目の入れ物に入ったものを購入した。

「アルシュ、楽しいわね!」

 「そうね」

 まだ買うものがあるので、バザーを見て回らなければならない。でもルルシアと買い物できるのは楽しい。


  必要な物は購入して、配達してもらうようにしたので手ぶらで歩いている。

 「あっ! 今度はアクセサリーを売っているお店!」

 やはりルルシアも、アクセサリーが好きだ。走ってお店の前へ行ってしまった。私は急いで、ルルシアの後を追った。


 「ダメじゃない。ルルシア」

 追いついてルルシアの肩を掴んだ。

 「あっ……! ごめんなさい! つい……」

 しかたがない。好きなアクセサリーのお店だから走ってしまったのだろう。


  「……色々あるわね」

 ルルシアは機嫌よく、アクセサリーを見ていた。おもちゃのようなものから、良い値段のものまであって面白い。でも装飾が繊細で、宝石はお守りとして扱われていた。

 「この宝石きれいね……」

 ルルシアが見つけたのは、緑色の宝石のネックレス。宝石は小さいけれど、お花の形をしていて可愛い。ルルシアはジッ……っと、見つめていた。

  「この宝石も、きれいよ」

 私の目に留まったのは、青い宝石の指輪。こちらは草木のデザインだ。二人ともそれぞれ気に入ってしまった。


 ギルドで得た、賃金が良かったから買ってしまおうか……。

 「ルルシア、そのネックレス。欲しい? 私はこの指輪が欲しいわ」

 クスっと笑って、ルルシアに聞いてみた。

  「アルシュに似合うわよ。その青い指輪! 私もこのネックレスが欲しい」

 ルルシアが私の耳へ近づいてこそっと話しかけた。

 「お互いの瞳の色だものね」

 「ええ」


 二人の意見が一致して、購入した。

 「ありがとう! また来てね!」

 お店の人に笑顔で見送られて、私達はそれぞれ買ったアクセサリーを身に着けた。


  「可愛いわね。そのお花の形のネックレス。緑の宝石が真ん中にあって、お花の形になっている」

 ルルシアの胸元に下がっている、ネックレスを見て言った。可愛らしくてルルシアに似合っていた。

 「アルシュもその指輪。青い宝石を草木が囲んだデザイン。大人っぽくて似合っているわ」


 「「ありがとう」」

 同時にお礼を言ったので、二人で吹き出してしまった。


























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