アフタヌーンティーを始めてから二時間ほど経った。会話が盛り上がっていたので、あっという間だっただろう。
「じゃあ、この辺でお開きにしましょうか」
ルルシアの声が聞こえてきて、お茶会の終わりを知った。私は立ち上がって、キッチンに置いてあるカゴを持ってルルシアとお友達がいる庭へ向かった。
「あ! アルシュさん! ごちそう様でした。とても美味しかったです!」
私に挨拶してくれたのは、誕生日パーティーにルルシアを招いてくれたメリーさんだった。私は微笑んでお土産のハーブのティーバッグとルルシアが作ったクッキーの入った袋を渡した。リボンをつけたのはルルシア。
「こちらこそ。先日はお誕生日パーティーに、ルルシアを招いて下さってありがとう御座います。こちらはルルシアの手作りクッキーとハーブティーのティーバッグが入っているお土産です。どうぞ」
「わあ! お土産まで!」
「嬉しい!」「家族のお土産にしてもいいわね! ありがとう御座います!」
お友達は喜んでくれたようだ。一人ずつ手渡してあげた。
「またお茶会をしましょうね」
「また!」
ルルシアと私はお友達を見送って、アフタヌーンティーは終わりになった。
「あ――! 楽しかったわ!」
皆の姿が見えなくなるとルルシアは、
「お友達、アフタヌーンティーを気に入ってくれたみたいで良かったわね」
ティースタンドにあった食べ物は残さず、全部なくなっていた。
「そうみたい。作ってよかったわ」
ルルシアは片付けを始めたので、私も手伝うことにした。食器類が壊れないよう慎重に運んでキッチンまで運ぶ。
ゴミを片づけて、汚れた所を拭いてからテーブルクロスを外せば庭の片づけは終わり。あとは洗い物だ。
紙ナプキンでお皿の汚れを拭いてから、きれいにする。枚数が多いから大変だった。ルルシアが洗い物をしてくれて、私は洗ったものを乾いた布で拭いていた。チャプン……、チャプンと、水の音とお皿を洗う音が耳に聞こえて落ち着く。何枚かお皿を洗い終わって、ティーカップなどを洗っていたルルシアが話しかけてきた。
「ねえ。アルシュと私の関係のことだけど……。親戚同士以外で、何か言い方がないかな」
「え?」
どうやらお友達へ『親戚』と言ったのが、あまり気にいってなかったらしい。私は「そうね……」と言ってお皿を拭きながら言った。
「姉妹……だと似ていないし。親子とは言いたくないし、親戚なら色々都合がいいわ。……だめかしら?
横で洗い物をしているルルシアを見た。
洗い物をしている手がとまって、下を向いていた。
「ルルシア?」
「そうね。それが一番、都合がいい」
そう言ってまた、洗い物をしている手を動かした。
「ル……「はい! 洗い終わったから拭いてくれる? 私は拭き終わったお皿を片づけるわね」」
ルルシアは拭き終わったお皿を持って、食器棚に片付けへいった。話しかけようとしたけれど、さえぎられてしまったので聞けなかった。
最近、ルルシアとコミュニケーションが難しいと感じる。ルルシアはもう大きくなって、一人の人間として成長している。精神的なものはまだみたいだけど話の
「アルシュもお茶会を開くの?」
考え事をしていたらルルシアに話しかけられた。お茶会……。ルルシアは食器棚にお皿を入れ終わって扉を閉めていた。
「そうね……。お茶会というより、親睦会のようなものにしたいかなって」
ただ楽しくおしゃべりもいいけれど、町の安全のためのような話し合いの会にしたい。
「
目的は情報収集……。皆で意見を交換したい。
「私はお友達と楽しくお茶を飲みながらお話ししたいけれど、アルシュはちょっと違うのね」
私はちょっと違う……。確かにその通りだけど。
ルルシアは、今度はフォークなどを片づけていた。テキパキと動いて片付けは早く終わりそうだ。
「アンナさんとお茶をするの?」
突然、アンナさんの名前が出てきたから驚いた。なぜアンナさんの名前が? 振り向くと引き出しへ、きれいにしたフォークやスプーンをしまっていた。
「たぶんね。だけどアンナさんだけじゃなく、色々な人を招くと思うわ」
「そう」
場所はどこがいいかしら……? ギルマスさんに相談してみよう。
「アルシュ、片付けはこれでおしまいよ。今日は楽しかった。ありがとう」
ルルシアは私にお礼を言ってくれた。でも少し元気の無いような気がする。そのまま部屋に行こうとしたので、ルルシアの手を掴んだ。
「待って。疲れたの? それとも私、何か気に障ることを言ってしまったかしら?」
怒らせた感じじゃないけれど、ちょっと機嫌が悪い感じ? 疲れたようにも見えるけれど……。
「何でもない。……ちょっと疲れただけ。部屋で休む」
ルルシアに言われて、手を離した。私はルルシアの背中を見ていただけで、何も言えなかった。何となく……。アンナさんの話が出ると表情の曇るような気がした。
とにかく今日は、ルルシアとお友達が楽しくアフタヌーンティーをしたのだからそれでいい。私は自分の部屋で、ポーション作りをすることにした。
自分の部屋へ入って、ポーション作りの準備をしていたら材料の一つが足りないことを知った。足りないのはハーブだったので、裏庭で育てているものを採ってこようと外へ出た。
育てているハーブ畑に行くと、ハーブの前でしゃがんでいる人影が見えた。
「ルルシア?」
声をかけるとルルシアは、しゃがんだまま振り向いた。
「アルシュ……」
「何をしていたの?」
部屋で休んでいるはずのルルシアがいて、どうしてここにいるのか気になった。また「別に……」とか言われるのだろうか。歩いてルルシアの側までいった。返事を待っていたら、ルルシアは立ち上がった。
「ケーキの飾りに使う、ミントを採りに来たの。いい?」
手にはハサミを持っていた。
「どうぞ」
私が返事をすると、ルルシアはミントの葉を採ってカゴに集めていった。私も必要なハーブを採っていった。
「今度、遠くへお出かけしましょうか? この間は海の方へ行ったけれど、行きたいところはあるかしら?」
「えっ! いいの?」
ルルシアが嬉しそうに返事をしてきた。気分転換に良いかと思って言ったけれど、そんなに喜んでくれると思わなかった。
「寒くなる前に行きたいわね。行きたい場所を考えていてくれる?」
行きたい場所をルルシアに決めてもらう。遠ければ宿泊も考える。
「すぐには考えつかないでしょうから、ゆっくり決めてね。もし決められないのなら、私が考えた場所にするから大丈夫よ」
私がルルシアに話かけると、コクコクと顔を上下に振った。
「私はもう中へ入るけれど、ルルシアはまだ摘んでいく?」
目当てのハーブは採れたので家の中へ戻ろうとした。
「使う分は採ったから、中へ戻る」
ふわりと、ミントの葉の香りがした。新鮮な摘みたてのミントは爽やか。飲み物に浮かべたり、飾りとしてゼリーの上に飾ったりすると香りだけじゃなく見栄えもいい。
「また新作のお菓子を作るわ」
ルルシアはにっこりと微笑んで私に教えてくれた。
「まあ! 楽しみにしているわ」
新作のお菓子の試食は私が一番初めにさせてくれる。嬉しくもあるけれど、キチンと味や見た目などをルルシアに伝えなければならない。ただ美味しいという感想だけじゃなく『商品として大丈夫か?』という問いに真面目に答えなくてはならない。
「楽しみにしていてね」
二人で家の中へ、会話しながら入った。