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第50話 踊る会議

 ディが呼び出されて参加した『会議』は──


「こういった場合、新参のBランクに活躍の機会を譲ってやるのが、古参の務めというものだろう」

「いかにも。我々はすでに上り詰めて久しい。活躍も、多い。であれば、手柄は新しい者に譲るべきだろう」


 ──『責任のなすりつけ合い』だった。


 薄暗い会議室。

 円卓を囲むBランク市民たち。

 彼らの顔は影になって見えない。『他のBランクの顔』を閲覧するには権利が必要であり、どうやらそれは、クレジットを積み上げて買うものらしい。


(なるほど。こうしてランクを維持してきたのか)


 Bランクどもが口々に言う言葉は、『自分に責任が向かないように、どうにか人に押し付けよう』という意思が隠れてもないほど滲んでいるものばかりだった。


 そのくせ恩着せがましいというか──


(手柄が生じたらよこせ、と言わんばかりだな)


 譲ってやる。そういう言い回しが非常に多い。


 ディは、影のかかった顔の者たちを見回した。

 ……この会議にはAランクも存在するはずなのだが、どうにも、Aランク以上にのみ許される藍色の衣服を身にまとった者は一人もいない。


 いるのは青い服のBランクのみであり、どうにも、Aランクには『会議に顔を出さない権利』というのもある様子だった。


 ディは、考える。


(別に、押し付けられるのはいいが、手柄を後から奪われるのは納得いかない)


 挑戦した者は報われるべきだとディは思っている。

 それは、挑戦していない者が、本来、挑戦した者が得るはずの『報い』を奪うべきではないという考え方と表裏一体だ。


 だから、ディがすることは──


「ではここにいらっしゃるすべてBランクのみなさま、そして、ここをご覧になっているAランクの方々に申し上げる」


 責任回避のための言葉が飛び交っていた会議場が、静まり返る。

 はねっ返りの新参が、何かとんでもなく無鉄砲な発言をしようとしている──そういう気配を感じて、ニヤニヤしながら成り行きを見守る、そういう沈黙だ。


 だからディは、笑った。


「すべて、俺が責任を負おう。だから、みなさまにおかれましては──この件に一切の口出しをしないでいただきたい。責任も、手柄も、すべて俺がもらう。異論があるならば、俺とともに戦場に立ち、戦い、怪物フランケンを、俺と同じ数だけ倒せ」


 忍び笑い。

 嘲笑。


 ……ここにいるのはBランクだ。


 Bランクは、Bランクとして生まれつく者──これも当然いる。

 だが、現場からたたき上げられてBランクになった者も、少数ながら、いる。


 彼らには実力があるはずなのだ。

 だが、上に『上り詰めて』、責任回避の手段ばかり磨くようになってしまっている。

 ……あるいは。


 この世界における『昇進』というのは、『うまく責任を回避し続けること』によってのみ成るものであり、実力で上り詰める者など、いないのかもしれない。


 そいつらをどうこうするつもりは、ディにはない。

 この世界の文化がはぐくんだ、この世界の人だ。異物かつ旅行者である自分が、世界の在り方を変革してしまおうだなんて野望はない。


 ただ、ディがすることは。


「俺は、俺が納得できないことはしない。それに、俺が納得できないやり方で、俺や他の人から成果を剽窃するような真似を許す気もない。だから──見ているのだろう、コンピューター様。神に誓う。すべて俺が取り仕切る。手伝いはいらない。邪魔もさせない。だから、すべての責任と手柄を、俺がもらう。後からくだらない物言いをすることは絶対に認めない。これは、神への誓願だ」


 その瞬間、会議場内にいる者、そして、なんらかの手段でここを監視しているであろうAランクまでもが、ざわめいた気配がした。


 コンピューターはすべてを監視している──と、言われている。

 だからこそ、コンピューターの名を呼び、何かを誓う行為は、恐れを生むのだ。


 ……実際、ディが発言した直後。


 会議場全体に、少女をベースにして幾重にも様々な声を重ねた合成音声が響く。


『Bランク市民ディ、その誓願を受理します。この世界を見守る神の存在に懸けて、あなたの働きをあなたのものと認めましょう』


「後からこの働きの成果を横取りしようとしたり、あるいは俺の挙げた成果についてなんらかの手伝いを不当に要求した者は、同格や格上であっても、処刑する許可をいただきたい。俺が認めるのは、『俺とともに戦い、俺とともに怪物を倒した者』だけだ。この条件にあてはまらずそれでも成果を主張する一切合切を、俺は認めない」


『全面的にあなたの主張を支持します。Bランク市民ディ、あなたに、この大規模グニズドー攻略にかんする特権を約束しましょう』


「話が早くて助かる。……コンピューター様、万歳」


 それはこの世界において誰もが言葉の最後に付けるようなものではあった。

 だが、これまで『話のわからない神様』にさんざん苦い気持ちにさせられてきたディとしては、話のわかる神というのは、万歳と言いたくなる存在だ。だから、自然と、その言い回しが出てきた。


 ……かくして。

 すべての責任と、すべての成果をその一身に引き受けたディの、『大規模グニズドー攻略』が、開始した。

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