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第112話 バズれ、ディ

「というわけで、本日は『四十階層、到達するまで帰れません』だ」


【お、今日もやってるねぇ!(苦行)】

【企画発表の時に猫屋敷ねこやしきが浮かべる「え!?」って顔が癖になる】

櫻子さくらこお嬢様は学習しないお方】

【幼馴染の美しい信頼関係だぞ】

【信頼関係を盾に死にそうな苦行を強いる幼馴染がいるらしい】

【なんかごめんだけど、もう俺かなり猫屋敷の置き去り事件許してるわ】

【完全に報復完了してて逆にかわいそうな領域になってきてる】

【幼馴染の絆、だね】

【ああ!(思考放棄)】


「サムネタイトルには『三十階層で七日間過ごしてみた』と書いたわけだが、嘘だ」


【騙して悪いが……】

【なんだろう、表情も声も抑揚ないから嘘つかれても「そうなんだ」としか思わない】

【もともと三十階層で一週間過ごすのも大概だし多少はね?】

【いやいやいや待て待て待て! 四十階層到達!? 世界ランクトップ層がギリ行ったことあるレベルだぞ!? 騙して悪いがとか言ってる場合じゃねぇよ!】

【何度でも言いますね。パーティ組め】


「ここまでの奈々子ななこの成長具合を見た結果、十階層でグダグダしていた時にはさして強くならなかったが、苦境に放り込むとそれなりに強くなることがわかったので、徹底的に苦境に放り込むことにした結果、四十階層を目指すというのが目標としてちょうどいいというように考えた。なので、四十階層を目指すし、着くまで帰らないこととした」

「死ぬが!?」


【櫻子お嬢様が俺たちの言いたいこと全部言ってくれた】

【人生で櫻子お嬢様に共感出来る日が来ると思ってなかった】

【(猫屋敷、頑張ってるな)】

【なんだろう、裏方執事って噛めば噛むほど「アレ? ヤバいもの解き放ってしまったのでは?」が広がっていくよな】

【スルメ執事】

【もっと冒涜的な何かだろ】

【ごめん、こいつを表に出さない猫屋敷の判断、正しかったかもしれん】


「ちなみに配信していないが、六十層までの先行攻略は終わっているので──」


【!?】

【なんでそれを配信しねぇんだよ!?】

【世界記録超えてますが!】

【ダンジョンギルド公式確認しに行ったらディのデータが七十八階層攻略って更新されてるんですがそれは】

【その模様を!!! 配信しろ!!!】

【なんで六十層って嘘ついた!?】


「いや、『攻略』が終わっているのは六十だ。それ以降はたどり着いただけで、モンスターや罠のデータベース化が終わっていない。もちろんこのデータは映像付きでダンジョンギルドに提出しているので、そのうちデータベースにデータが出るかもしれない」


【やば】

【「やば」しか出て来ない】

【あのすいません、何度でも言いますね。その様子を配信しろ!!!!!!!!!!】


「何度も言うようですまないが、ダンジョン攻略の際に『配信』は義務ではない。『撮影』が義務だ。そして撮影したデータはギルドに提出し、使用法を委ねている。そこには配信も含むので、公式をチェックしてくれれば配信されるかもしれない。まあ、編集もない、コンセプトもない、ただ一人で黙々と攻略しているだけの面白くない動画だが」


【こいつマジ?】

【確かにただ攻略されてもつまんねぇけどさあ……それは前人が踏んだことある階層の話なんだよね……】

【前人未踏初見攻略は値打ちあるに決まってんだろ!!!】


「しかし映像に奈々子がいないので配信する価値がない」


【クソ馬鹿ップルがよ!!!!!!】

【すいません、クラン「金色夜叉」の者ですが! その映像データもらえたりします!?】

【私たちは欲します。私たちは「たぬきかわいい、獰猛」です。私たちの求めるものは映像です(自動翻訳)】

【RPV!?】

【翻訳草。どうしてこうなった】


「一度ギルドに預けた映像をこちらで勝手にDMしていいかわからないので、問い合わせてみる。返事はそれからになるが構わないだろうか?」


【それでいいのでぜひ!】

【感謝、至上(自動翻訳)】

【あの、翻訳ソフトなんかオリジナルで導入してる?】

【今時ねーよこんな直訳!!!】


「まあそんなことよりも」


【そ ん な こ と】


「今日の奈々子を見てくれ。縦ロールのカツラをやめさせたんだ。視界が悪いからな。視界が悪いと死ぬので。ヴィジュアルもよくなったと思う。奈々子には金髪縦ロールより黒髪が似合う」


【この執事によそのクランから引き抜きが来ない理由が詰まってる】

【馬鹿ップルだからな……】

【有名クラン「執事は欲しいがお嬢様はいらんな……」】

【櫻子お嬢様は協調性のなさが一目でわかるお方】

【それもガチな協調性のなさなんだよなあ……】


「知っての通り、奈々子の目的は十数年前に行方不明になった猫屋敷さとし……ようするに父親の発見にある。だが奈々子は知っての通りなので、偽名を使って変装していた。これは『発見する、あるいは発見される』という目的を思えば不均一で気持ちが悪かった。ようやく変装を辞めさせられて喜ばしく思っている」


【発見って言われても、まあ、その、なあ?】

【十年前にダンジョンで行方不明になった人だろ?】

【急にコメントがもごもごしだすの好き】

【生きてないと思うんですけど】


「俺もそう思う。だが、それは奈々子が夢を追わなくなる理由にならない。とはいえ手がかりがないので、とりあえずダンジョン最奥を目指すことにしている」


【マ?】

【ダンジョン最奥って……どんぐらい?】

【前人未踏っていうか、そもそもどんぐらい深いかもわからんからな】

【地球の直径から計算した人がいたみたいだけど、五十か六十って話じゃなかった?】

【そもそも現実距離とダンジョン距離は違うので……】

【ヤード・ポンド法を滅ぼせ】

【現代にも生き残ってるからな】


「潜ってみた感覚だと百階層ぐらいがキリがいいんじゃないか?」


【そういうものじゃないと思うんですよ】

【※ここまでずっと猫屋敷が何かを叫んでいます】

【執事がスッと猫屋敷のマイクミュートにしてるの、もう慣れたけど草なんですよね】


「そういうわけで今回は奈々子が四十階層に到達出来るまでを見守る配信になる」


【お風呂とかどうしてるんでしょう】

【食事とか何か食ってるけど荷物少ないよな】


「食事はスポンサーからエネルギーバーをもらっている。あまり過剰に宣伝しなくていいと言われているが、概要欄にリンクが貼ってあるので良ければ買ってくれ」


【最近ようやくスポンサーも素人動画配信者にわざとらしい宣伝動画作らすより自然に使われてた方がいいって気付いたよな】

【動画見てると唐突に挟まる宣伝動画(広告動画ではない)クッソウザかったし白けたので助かりすぎる】


「お風呂にかんしては、奈々子が『お風呂がないなら泊りがけとかやらない』と駄々をこねるので最初に解決してある。こうする」


【なんか急にバスタブ出てきたな】

【ごめんやけどどっから生えた?????】

【あの、もしかしてアイテムボックス系の賜物ギフト持ち????】

【有能執事が過ぎる】


「少し違うが似たようなものだ。執事スキルということにしようと事前の話し合いでは決まっていたので、執事スキルだ」


【こいつらに案件宣伝動画を作れない理由が詰まっている】

【嘘とかいう概念を知らない人?】


「そういえばオープニングテーマをもらっているので流す」


【遅すぎる】

【なんか流れたな】

【え、待って待って待って、これってさあ】

【ピカりの新曲!?】


「急にもらったので驚いた。……まあ」


【執事、ちょっと笑う】

【嬉しいんだな、執事。俺も嬉しいよ】


「──向こうもこちらに注目してくれている、ということだろう。受けて立とう」


【何、決闘状???】

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