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第13話:帰還

「カザンなんてルジーラと同類でしょ!? あんた騙されてるのよ!」

「違う! カザンは仲間思いのいい奴なんだ! 噂はソレイシアの陰謀だ! そうだろフラウ!?」

「え!? は、はい!!」


 オルちゃんの迫力に、つい国の非を認めてしまった。いや、まぁ……確かに非はあるけど。



「あー分かった! オルちゃん、そのカザン団長の事が好きなんだね!?」

「────ッ!!」


 ティナに指摘された瞬間、オルちゃんの耳が真っ赤になってしまった。



「べッ、別にカザンの事なんかッ……まぁ嫌いではないけど────」

「ガキかあんたは。はーん、なるほど。そういうことね」


「だ、誰にも言うなッ……誰にも言うなよ!?」

「オルちゃん分かりやすーい! 多分みんな気付いてると思うよ!」


「まぁいいわ。妹が好きになった男なんだし、一度顔を拝んでやろうじゃないの」

「祝辞を考えとかないと! あっ、お義兄さんて呼んだ方がいいかな!?」

「やめろ!!」


 ふふ、本当に賑やかな姉妹だ。次女のルリニアさんと合流して、四人揃ったらどうなっちゃうんだろう。

 まぁそれはさておき、何とか話がまとまりそうでよかった。


 カザン団長は、オルちゃんが好きになった人なんだ。きっと噂のような人ではないはず。それになにより、オウガ様の仲間なんだしね。


 私がカザン団長を想像していると、手を振るオウガ様の姿が見えた。



「オウガ様!」

「やぁ、盛り上がってるな」


「リリィもティナも、オウガ様と共に行くことで決まりました」

「そうか、これで姉妹四人が再会できるな。フラウも初陣ご苦労様。改めて治癒士の重要性を思い知ったよ」


「そ、そんな……お役に立てたなら、私も嬉しいです」

「ふふ。おーい、そろそろ戻ろうか!」


 オウガ様の呼びかけに、オルちゃんが慌てた様子で駆け寄ってくる。



「オウガ様! も、申し訳ありません、気付かなくて! 地獄炉はもう?」

「あぁ、破壊した。『ゲヘナ城塞』への供給はこれで断たれた。いよいよ城塞攻略に乗り出す時がきたな」



 【ゲヘナ城塞】────ライヴィア王国とライザールの国境沿いにある、ライザールの大拠点。厄災の一人であるルジーラが参戦していた報告がある為に、私達ソレイシアの医師団はそこへは派遣されていない。

 かなり苛烈な戦いが繰り広げられていて、ライヴィア側の戦死者の数は計り知れない……と聞いたことがある。



「では、これからゲヘナ城塞に?」

「いや、その前に一度帰還する。ルリニアにお前達が無事なことを見せてやらないとな」

「オウガ様……ありがとうございますッ」


 感極まって涙を滲ませるオルちゃん。でも、すぐにその顔は怒りの形相へと変貌した。



「聞いてくださいよオウガ様! カザンの悪名、ソレイシアが流してるらしいんですよ!!」

「へぇ。まぁ大体合ってるし、本人も気に入ってるからいいんじゃないか? 『全滅のカザン』って自分から名乗ってるしな」


 えッ、大体合ってるんですか!?

 味方を殺したり、使者の首を刎ねたりしたと聞いたことがあるんですが……。



「ちょ、ちょっとオウガ様ッ。私が今否定したところなのに……」

「ふふ。噂より直接見た方が早いだろう。まぁ、すぐに会えるさ」


「あとオウガ様────ごにょごにょごにょ」

「そうなのか? 分かった。俺から説明しよう」


 オウガ様から何か説明があるみたいだ。オルちゃんの目が少し泳いでるし、言いにくいことなのかな?



「リリシア、フルティナ。俺たちは、今から本拠地パラディオンに帰還する。ルリニアもそこで待っているよ」

「そう。オルメンタがどうしてもって言うから付いて行ってあげるわよ」

「ルリ姉様に会える! やったー!!」


「で、そのパラディオンってのはどこにあるわけ?」

「ここから北東にあたる港町だ。二日程度で到着するだろう」

「ボク知ってる! 水の都って言われてるんだよね?」



 水の都パラディオン────衰退するライヴィア王国において、このパラディオンだけは発展を続けている。

 トップの人がすごく優秀なんだろうなぁ。



「そうだ。街中に張り巡らせた水路からそう呼ばれている。【殲血のラヴニール】が治める独立都市だ」

「ふーん、あのラヴニールがねぇ……って、は?」

「や、厄災の一人……」

「世間は狭いですなぁ」


「ラヴニールは俺の仲間だ。今は戦線を離れて、パラディオンの都市長として俺たちを支えてくれている」

「ちょっと、オルメンタ。あんたの仲間はどうなってんのよ」

「ま、まぁまぁ。むしろ心強いだろ?」



 確かに心強くはある。でも、祖国ソレイシアが絶対に関わるなと勧告している三人の厄災……その内の二人が仲間だという事に戦慄している。パラディオンに行くのが少し怖くなってきた。



「俺とラヴニール、そしてカザンは昔からの付き合いだ。カザンはともかく、ラヴニールは傷つきやすい。あまり怖がらないであげてくれ」

「わ、分かりました」

「もう何でもいいわ。さっさと行きましょ」

異名持ちノムトールの厄災……会うのが楽しみだね!」



 変にビクビクしてたら確かに失礼だよね。オウガ様もこう言ってるし、失礼の無い様に接することを心がけよう。そしてティナが暴走しないよう見張っておこう。



「それと最後にもう一つ。セルミア教団に監視されている君達には酷なお願いなのだが、教団の悪事については公言しないで欲しい」

「なんでよ。喋っちゃった方があいつらも動きにくいんじゃないの?」


「君達も知ってるだろうが、セルミア教はライヴィア王国の国教だ」

「あ、そうですよね? 私も気になってたんですそれ。何でセルミア教団の人達が敵に協力してるんですか?」


「簡単なことだ。セルミア教団が既にライザールに乗っ取られているからだ」

「乗っ取られて……そんな、一体いつからなんですか?」


「とっくの昔にだ。無論、そんなことは一般の信者達は知らない。この戦争にセルミア教団が関与しているなんて思いもしないだろう。ディセント計画や執行者の存在などもってのほかだ」

「じゃあ尚更教えてあげたほうがいいんじゃないの? ルジーラみたいなバケモンがいるって分かったら、みんな離れていくんじゃない?」


 リリィの提案に私も賛成だ。セルミア教団が敵なのは確定しているのだし、真実を打ち明ければ信者が減って国内での影響力は減ると思う。

 でも、オウガ様は静かに首を横に振った。



「さっきも言ったが、セルミア教はライヴィア王国の国教で、国民のほとんどがセルミア教信者だ。俺達の本拠地パラディオンにも教会がある。信者は上層部が行っている悪事など知らず、純粋に女神セルミアを信仰している。そんな彼らを煽動すれば、新たな反乱を招くことになる」

「ライヴィアは内乱で疲弊している。今は、これ以上争いのタネを撒くわけにはいかないんだ」


 確かに……もしセルミア教の悪事を公表しても、敬虔な信者はそれを信じたりしないだろう。それどころか、パラディオンを目の敵にするかもしれない。

 それに、セルミア教には揺るぎない広告塔が存在する。



「そして何よりも、『聖女アラテア』が存在する限り信仰を止めることはできないだろう。セルミアよりもアラテアを信仰対象としている者もいる。俺達が何を言おうと、焼け石に水ということだ」


「分かったわ。教団に関しては何も言わない……フルティナもそれでいいわね?」

「うん。お姉様が黙ってるなら、ボクもお口チャックだね!」


「フラウも構わないかな?」

「はい。私も構いません」


「ありがとう。それじゃあ行こうか。きっとガウロン達が待ちかねてる」


 そういえばリリィはガウロンさんのこと知らないみたいだし、を伝えておこうかな。



「ガウロンさんも異名持ちで、アリアス大全に載ってたよ」

「それほんと?」


「ガウロンは【ティエンタの英雄】と呼ばれている。英雄の称号は、異名の中でも最高位と言って差し支えない。実力、人格共に正当評価されたって事なんだろう」


 オウガ様の言う通り、英雄の称号を付けられた異名持ちは数える程度しかいない。ソレイシアの思惑が絡んだりすることもあるけど、異名は本当に凄い人たちにしか与えられない。その点に関しては、【異名認定機関アリアス】はとても誠実だと思う。


 そんな異名持ちが三人もいるパラディオン。国に三人いるなら分かるけど、街に三人いるっていうのは本当に凄いことだと思う。



「もう何がきても驚かないわ」

「いやー、あのティエンタの英雄だったんだ! どうりでボクなんか手も足も出ないわけだ!」


 二人ともすっかり耐性が付いたみたいで、あまり驚いていない。

 さっさと歩き出したリリィに続いて、私たちはガウロンさん達の元へ歩き出した────



 ☆



 ────団員のみんなも、すっかり元気になったみたいで撤退の準備を進めていた。


 リリィとティナが同行することを聞いたみんなは、ガッツポーズをしながら歓喜の声を上げていた。二人とも、すごく可愛い女の子だしね。

 リリィは少し嫌そうな顔をしてる。ティナは誰が相手でも笑顔だ。


 オルちゃんに、姉妹と再会できたことへの祝福の声が相次いでいる。それを照れ臭そうに聞くオルちゃんも、すごく可愛かった。


 その様子をオウガ様とガウロンさんが眺めている。兜と仮面で二人とも表情は分からない。でも、きっと喜んでる。

 だって、二人から感じる魔力が……とても暖かいから。



「それじゃあ帰ろうか。俺達の家────パラディオンに」

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