「はぎゃ……はは、あひん」
観客席の防御結界にヒビが入り、ガラスが叩き割られるようにバリバリと音を立てて粉々になる。
『いやぁギリギリでしたねぇ。シビルさんの剣技が予想以上にしっかりしてたので危なく結界ごと吹き飛ばされる所でしたよ』
腰の入った一撃はカンストステータスの上乗せによって一流の魔法師が張った結界を粉々にしてしまう。
爆風だけで会場の半分近くの面積が吹き飛ばされたようにえぐり取られ、半月型のクレーターを形成していた。
審判をしていた講師は咄嗟に俺の後ろ側に逃れており、巻き込まれずに済んだようだ。
一撃を加える瞬間に前に飛び出し、俺はアルフレッドに攻撃が当たらないようにインパクトの位置を調整しておいた。
そのおかげで俺の上段の振り下ろしを真横で受けてしまい、風圧で髪の毛と制服が半分ほど吹き飛んでいた。
あれだ。前世のテレビで大昔にやってたバラエティで見た奴。
『セ〇ターマンですな☆』
わざわざボカしたのにハッキリいうなや。
アルフレッドは恐怖が振り切れてそのまま気を失った。
「審判、勝負の判定を」
「え……? ぁ、ああっ、勝者ッ! シビル・ルインハルド!」
シィ――――――――――――――ン……
「きゃぁああ♡ シビルちゃん素敵ぃ~♡」
静寂が支配する会場の中で、エミーの黄色い声だけが大きく響き渡る。
俺は勝負の終わりと共にエミーの元へと向かい、客席に飛び上がって手を差し出す。
「シビルちゃん…」
「皆の前で俺の女だって宣言しちまったからな。堂々とイチャつこうぜ」
「うん♡」
差し出した手を取ったエミーの腰を抱き寄せ、闘技場の真ん中に戻って拳を突き上げる。
【この女は俺のだから手を出すな】
そういう意味を込めた勝利宣言だ。
「これから大変だぞ。上流貴族全部に喧嘩売ったようなもんだからな」
多くの生徒がこの決闘を見ていたからな。サウザンドブライン公爵の耳にも必ず入ってしまうだろう。
「大丈夫だよ。お父様は私が説得するから。それに、国王様のお墨付きっていうのも、多分嘘だと思うから。そんなのルルナ様が許すはずないもん」
やっぱりハッタリだったか。
それにしてもルルナ姫が許さないとはどういう事だろうか。この段階ではまだ国政に口出しはしていない筈だが……。
まあいいや。段々と勝利の実感というものが湧き上がり、俺の中には別の感情が生まれつつあった。
「今日も屋敷にお邪魔していいか? エミーのご褒美がほしい」
「え? ご褒美? うん♡ いっぱいご褒美あげちゃう♡」
その日の夜、俺は再びスキル【エロ同人】を発動させることに成功した。
◇◇◇
「はぁ、はぁ、はぁ……わふぅ……くぅん♡ シビルちゃぁん♡ もっとぉ、もっと可愛がってぇ♡」
その日の夜。ミルメットがスキルの発動を宣言し、俺とエミリアは再び情熱的な求め合いの時間を過ごした。
『【バトルの熱は女で癒やせ♡ 勝利のおっぱい挟み撃ち☆】で~す♡』という宣言と共に、スキル『エロ同人』を発動させたのだ。
前もそうだったが、その名前のセンスはどうなんだ?
神様的な存在が与えたスキルだとしたら、そのネーミングセンスを非常に疑いたいところだ。
だがそのタイトル通り、バトルで昂揚した俺の情熱はエミーの魅惑的な女の体に根こそぎ注ぎ込まれ、既に彼女の胎内で白い情熱液として
「くぅん♡ くぅん♡」
理性が吹き飛ぶほどの熱情を交わし合った結果、完全にフニャフニャになったエミーが仔犬のように甘えてくる。
俺はベッドの上で彼女を抱き寄せながら、ピコピコと動く耳の裏をこちょこちょと撫でてやる。
「ひゃうん♡ シビルちゃんくすぐったい♡」
可憐なソプラノボイスで心地良く揺れる鼓膜の振動を楽しみながら、やがてその撫で撫では尻尾の方へと移行していく。
汗で肌はベタベタになっており、流石のフワフワの毛並みも湿気で若干ごわついている。
だけどそれがエミーから流れ出た汗によって甘いフェロモンとして籠もり、俺の熱情を再び隆起させてくれた。
「わふぅん♡」
再びの色めく愛らしい声に欲望は高まりその行為は深夜にまで及んだ。
「なあエミー」
「わきゅぅん♡ なぁにぃ?」
尻尾をモフモフしながらピロートークを楽しんでいたが、アルフレッドの言動が気になったので確かめて見ることにする。
「アルフレッドの奴がああまで自信満々に言い切るには何か根拠がありそうなんだよ。もしも変な裏工作でもしてたら面倒になるかも」
「そうだね。じゃあルルナ姫に頼んで何かないか調べてもらうね。もしもの時は姫から国王様に進言してもらうから心配しないで」
「それなら心配ないか」
「うん。シビルちゃんは何にも心配しなくていいから」
「分かった。エミーがそう言うなら俺からは何も言わないでおくよ」
「えへへ、任せて。ねえそれより、もう一回、お願いシビルちゃん♡」
「すっかり快楽の虜だなエミー」
「ちがうもん♡ シビルちゃんの虜なの♡」
この誘惑に抗う術は無い。俺だってエミーの虜なのだ。
考えるべきことはあれど、エミーを信じると決めた以上は余計なことは考えまい。
俺は再びこの世の天国を二人で味わうのだった。
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
天国から地獄とは、まさに今のような状況を言うのだろう。
次の日、俺はサウザンドブライン家の当主であるエミーの父親に呼び出しを受けた。
「よく来たな小僧」
「ご無沙汰しておりますガイスト公爵閣下」
ガイスト・サウザンドブライン。
エミーの父親にしてこの国有数の貴族の一人だ。
武勇に優れ、内政の腕も確かなことから国王からの信頼も厚い。
一時は国王を排してクーデターを起こすのではないかと心配されていたという噂も聞くほど実力の高いお人だ。
実際は現国王陛下随一の忠臣で、学生時代からの親友だったらしい。
野心家ではあるが、基準値はあくまでこのフェアリール王国の繁栄であり、自身の支配ではないし、ゲームの歴史においてもそんな事実はない。
そのため忠義に厚く、国民からも臣下からも頼りにされている。
が、俺はめちゃくちゃ嫌われていた。
昔から三流貴族の三男である俺とエミーの仲が良いのを疎ましく思っており、今に至るまで付き合いを辞めていないことに、絶対に良い感情をもっていない。
ちなみに彼は獣人ではなく人間族だ。
ケモミミの血は彼の奥さんであるエミーのお母さんから来ている。
『娘さんは俺が女にしましたので今日からお義父さんと呼びますねって宣言してみては?』
煽ってどうすんだアホ。そんな事口にしたら速攻で斬りかかってくるぞ。
しばらく黙っててくれ。
さて、ここから彼との一世一代の問答が始まるのだが、彼の開口一番の言葉に、その難易度の高さが伺い知れた。
「結論から言おう。この国から出て行け」
強烈な殺気が籠もった厳しい視線を送る歴戦の戦士の威圧に、俺は拳に力が入るのを自覚した。